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予約無しの面会

 その男は我が王国の王宮職員の制服を纏っている。

 だが、この男を宮内で見たことはない。

 少し気品があり、強さ故の自信も見える。

 護衛と警備は一体何をしてた?



 侵入者。



 椅子に座る私と賊の間に沙羅が入るが、それは無駄だろう。ここまで侵入してくる男に沙羅が敵うとは思わない。ましてや、丸腰で包帯だらけの私でも。



「いいわ、沙羅。お茶をお出しして」


「いえ、しかし!」


「わざわざここまで来てくださったのだから用件を聞きましょう。どうせ暇だし」


 暗殺ならとっくに行動に移してるだろう。


「物分かりが良くて助かります」


「退屈してたのは本当よ」


「存じております。正直、もっと侵入に苦労するかと思ったのですが、拍子抜けです」


「そう。また職員を解雇したのかしら」


「さあ、私は普段を知りませんので」


「それもそうね。ご用件は?」


 沙羅のお茶が入る。壁際の来客用の椅子に座る賊。くつろぎすぎだ。

 警戒もせず、沙羅に出されたお茶を飲み、くつろぐ賊。しかも、身元をバラし始めた。


「私は松本国の政府を代表して涼子殿に会いに参りました。では単刀直入に。

 我が国は勇者を引き取りたいと高崎王国(この国)に申し入れております」


「そのようね。それで?」


「言葉を濁しても時間の無駄です、はっきり申し上げます。我々は無能勇者には用はありません。欲しいのは涼子殿です。貴方が欲しい」


「困ったわ。こんなところでプロポーズだなんて」


 一応、お約束なのでふざけておく。


「貴方の才能を我が国は欲しいのです。国際勇者独法がある手前、二年間服役して頂く。だが、それは建前だ。二年間の準備期間として過ごして頂き、その後は松本国の公団に協力していただきたい。貴方の経営手腕を奮ってほしい」


「私のメリットは?」


「手間は掛かりますが勇者との婚約を解消します。身分と軍資金を用意します。大いに活躍していただきたい。それは我々の利益になるように。貴方は才能がある。しかも、高崎王国の事も当然詳しい」


勇者さとるとの不仲は知っているようだが、厚志の事は知らないようだ。



「それだけじゃ私のメリットには足りないわよ。主にそちらの得しか無いじゃない」


「我々は数年間高崎王国に経済侵略をかける。貴方の力も使い、最終的に松本国が高崎王国を統合する。貴方は祖国に返り咲く。我々は国力を増やす。悪い話では無いでしょう」


「とても、この国の王宮で話す内容とは言えないわね。貴方はどうかしてる」


「『どうかしてる』なんて貴方は言われ慣れてるでしょう」


「良くわかるわね」


「突き抜けた人間はそう言われるものです」


 話を聞く限りなら悪い話じゃない。

 私だって祖国に、故郷に愛着はある。戻ってこれるなら・・・・

 だが、そのためには一度高崎王国をコケにしなければならない。さぞかし国民には恨まれる事だろう。今ですら嫌われているのに。

 直ぐに乗っていい話じゃない。かといって切り捨てられる話でもない。



「おかわりはいかが?」


「いや、そろそろおいとましよう。これ以上の長居は危険だ」


「まあ、お話は伺いました」


「即答は無理でしょう。だが我々は良い答えを待っております。それから」


「それから?」


「プロポーズはしても宜しいので? 貴方は美しい。頭も切れる。こんな素晴らしい女性はいませんから結婚できるのなら是非にでも。まあ、勇者を除けた後になりますが」


「冗談よ、それに私は婚約者を血祭り半殺しにする女よ」


「それは残念です。では」



 そう言って男は廊下に消えた。

 恐らくは追っても無駄だ。

 それどころか、暫くしても騒ぎが起こらない。

 部屋の外を普通に通りすぎる一般職員の足音。その男は異変に気付いて居ない。



「報告しますか?」


 沙羅が聞いてくる。

 本来ならそうだ。


「やめておきましょう。侵入者に気付かない者に話しても騒ぐだけで何も出来ないから。きっと今頃は勇者を口説きに行ったんじゃないかしら。『図書室あげる』とか口説いてたりして」


靡き(なびき)そうで怖いです」




 ふう。


 高崎王国(わがくに)と松本国は隣。だが、二国間には海がある。

 狭い海だ、運河に近い。季節によって海流の向きが変わる。狭いところ程、潮が荒れている。

 貿易で安全に荷物を運ぶなら海峡は通らず外海を選ぶ。優子の会社も外海を使うが、軽い荷物で速達だと海峡に突入する。従業員の死亡率が高いのはそのせい。だが、成功した場合の儲けは多い。あそこの男達は嬉々として海峡に突っ込む。あの男どもはどうかしてる。優子が胃に穴が開きそうだとよく愚痴ってる。


 この二国が統合されると、海峡がまるまる独占出来る。

 潮目が悪い季節は危険だが、殆んど凪の季節なら第三国も通りたがる。

 今までは海路や港の使用料も二国間でにらみ合いながら(安売り合戦)決めていたが、統合されれば独占になる。しかも、気に入らない国の船は弾くことが出来る。

 それは強国への道。


 松本国の会社は全て公団だ。国と会社の運命は直結している。高崎王国より体制的に優れているところもあれば足枷になってる所もある。それは一長一短だ。

松本国は王政ではない。

何年か毎に代表が人気投票(せんきょ)で入れ替わる。平和で民主的だ。

だが、デメリットもある。

大きい決定がとにかく出来ない。議会の話が長い、終わらない。戦略的政策が出来ないので政策はだいたい事後処理ばかりになる。





 私のお茶が入れ直される。


「ボス、どうするんですか?」


「沙羅はどう思ったの?」


「悪い話では無いと思います」


「そうね。もし行くことになったら沙羅はどうする?貴方は勇者独法に引っ掛からないから自由よ」


「条件次第ですね。拘束されずに自由だとは言っても海の向こうですし、そう簡単に里帰りって訳にはいかないでしょうし」


「そうなのよね」


 海の向こうではひょいっと、お忍びで厚志の様子を見に行くなんて事も出来ない。


「あの男の話は信用出来る?」


「おおむね話してることは真実ですが、嘘も混じってます」


 スキル『嘘は女の武器』の応用で嘘を見破るのが得意な沙羅。沙羅の観察眼は大いに役に立っている。



「嘘?」





「ええ、あの男、既婚です」

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