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勇者、目を醒ます

 相変わらず王宮での軟禁生活。

 私の巻き添えで沙羅まで軟禁に近い生活させて、すまないと思う。

 私と沙羅の周りに居るのは王宮の兵士だけ。この兵士は私の部下ではない。

 後、面会者。

 面会するにも兵士の見張りの中で、書類や物品の受け渡しは出来ない。

 財団の資料も受け取れない。


 犯罪者扱いだな。

 実際、勇者さとるに逆らう者は犯罪者になる。




 王達五人が面会に来た。

 王と側近、専属事務官と護衛二人。



「勇者さとるが意識を取り戻したぞ」


 王の言葉は泥沼の世界に私の意識を引き摺りこむ。

 心臓だけ動いていて目を覚まさなければいいのに。

 そんな事を願っていたが、目を覚ましやがった。


「それで?」


「今は黙秘・・いや、ただ寝ているだけだ。現状が判らずに居るからだろう。何も聞いてこないのが不気味だ。最も、マトモに喋れないが」


「そうですか」


「どのみち手足が動かせないから何も出来はしないしな。勇者の怪我は常人よりは治るのが早いと思われてるが、どのくらい早いかは過去の記録が無い。私も勇者の骨折は初めて見るしな」


「そうですか。私は常人並みですけどね」


 私は大きい怪我は鎖骨と膝。額から頭に掛けて怪我もしてるが、骨はなんともない。頭の怪我の痕は残るんだろうか? もう、結婚願望は無いから構わないが。


「今日は君を私の第一王妃にと話をしに来た」


「ですから私はーー」


「聞きたまえ。時間は余り無い。昨晩私の食事に毒が盛られた。毒味と検査で見つかったが、かなり巧妙な仕込みだった。発覚は4分の1の確率だったが、運良く見つかった」


「毒・・」


「牧子の手の者かもしれん。犯人は特定出来ていない。職員は確かな者ばかりの筈だが、敵はその上を行くようだ。今後、警戒を強めるが、もしもの事も考えねばならん」


「もしもの事・・」


 ああ、それは最悪のストーリー。


「今私が死ねば勇者さとるが王になる。そうなれば勇者に害をなした君はどうなるかは解らん。そして君の財団もな。なによりあの勇者さとるが国王などとは私は認められん。今のうちに君を王妃にすれば、私が死んでも君に王座を渡すことが出来る。悔しいが王家は勇者さとるのせいで財政難で力が無い。権力とは武力と資金力で成り立つ。正直、君と君のの財団が目当てだ。そしてこの国の経済を君に支えて欲しい」


「随分と都合の良い事を。私はもう結婚はしません。政略結婚だろうが偽装結婚だろうが。それに、庶民の王なんて聞いた事がありません」


王政なんてやってるからだ!


「私は他に道は無いと思っている。確かに君は歴代王族に縁はない。だが、君が一時的に王になり、将来は次の王の摂政となって貰うのが私のシナリオだ」


「私の次の王?」




「君に私の子を産んで貰いたい。王の血をひく真の王となる子を」




「・・・・馬鹿馬鹿しい」


「他の者は皆退いた。いや、正直に逃げたと言った方がいいな。王になってこの絶望的な王家を面倒見たくないのだ。勇者の為に滅茶苦茶になって、しかも、まだあやつは何をするかわからん。誰も王になりたくないと言いおった」


 皮肉だ。

 国は割と好景気だが、王家は財政が火の車で、勇者さとるという腐ったミカンを抱えている。


 偽装結婚なら話に乗らないこともないが、子供を産めと来た。自分の過ちに気が付いて厚志以外にはこの身を渡さないと決めたのだ。それは厚志が別の女と結婚しても変わらない。そうすると決めたのだ。


 もう間違いは犯さないと決めたのだ。

 だいたい聞いていれば都合の良いことばかり。

 若い女を手に入れ、その財産も手に入れる。


 腹が立つ!

 さとるなんぞ、外国にくれてしまえ!




 だが、現実は無情だ。

 次の王の言葉が私を地獄に突き落とす。



「勇者さとるを他国に譲渡する場合、勇者独法によって、君も勇者さとると一緒に行かねばならん。勇者さとるが婚約解消を言い出さない限りそうなる。その後の君の処遇は勇者次第だ。結婚も処刑も勇者次第だ」


「くっ・・」


「それに、勇者と結婚しようがしまいが他国に渡れば、君は立派な人質だ。その時は私は君を見限らねばならん。だが、君の財団の者や商売仲間はその国の言いなりになるかもしれん。それ以前にこの国の景気の牽引役を失う」


 この王はそうなれば私を見捨てる。私の意思を考えず子供を産めと言う男だ。

 庶民の考え方とは違う。

 私の財団は?

 私を人質にされれば、もう駄目かもしれない。

 どの国かは知らないが、勇者を手懐ける事に成功したら?

 勇者を鍛える事に成功したら?

 そこに人質の私。


 この国はどうなるか。

 きっとその国の奴隷のになる。


 でも、国民は喜ぶだろうな。

 王都日報や週刊オリハルコンで『悪』と宣伝されてる私が居なくなるのだから。





 誰か助けてよ・・・・






 ーーーーーーーーーー





 王宮にある勇者の部屋。

 重症で寝たきりの勇者さとる。手足が動かないのでは暴れようにも暴れられず、逃走も出来ない。顎が折れていて満足に喋れない。

 なにより、あれから何がどうなったのか?全く判らず何をすればいいかも解らない。

 今は介護されるしかない。

 でなければ生きていけない。



 今は夜。



 勇者のベッドの脇に男が立つ。

 居るべきでは無い男が、介護や護衛の目を掻い潜って入ってきた。


 男の名は鉄哉。

 勇者の親友。

 オタサーでの仲間。

 今まで幼女強姦を20人近くやり、10人以上殺して、逮捕されたが勇者さとるの特権により無罪になった男。

 誰よりも勇者さとるの恩恵を受けた男。



「よう、さとる」


 勇者は鉄哉を見る。

 勇者は起きていた。


「さとる、酷い姿だな。あの女か」


 涼子のことだ。


「さとる、お別れを言いに来た。協力者が居て俺を逃がしてくれるとよ。逃げる前にどうしても言いたい事があったんだ」


 喋れない勇者はただ鉄哉を見つめた。鉄哉も捕まっていたのか。そして逃げると。

 勇者は外がどうなってるか知らないし、自分以外の事を知らない。

 何を話してくれるのか興味深い。


「さとるには本当の事を言っておきたかった。さとるは庇ってくれたけど、俺、人殺しなんだ。10人以上殺してる。警察が正しいんだ。悪かったよ嘘ついてて。でもさとるのお陰で()()()()出来たしな」


 さとるの見ている前で、何かを掴んで腰を打ち付けるフリをした。


「!!」


 漸く勇者も悟ったようだ。

 鉄哉の真の姿に。


「さとる、俺だけじゃ無い。他の奴等も確信犯だ、捕まってもお前に無罪にしてもらえるからってな。さとる、疑うことを知らないから最後に教えといてやるよ。お前、俺達に散々利用されてたんだ。悪かったな。

 でもな、本当はそこまで皆は悪い奴じゃないんだ。牧子のスキルのせいで気分が大きくなって欲求を止められなくなってやりまくったんだ」


 勇者の目から力が抜けた。

 無罪だと信じてた仲間が実は有罪で自分が特権でみんな無罪にした。

 信じたくないことだった。

 信じていた牧子が悪い奴だったと。皆もそれに乗ったと。


「お前も牧子に操られてたんだよ。お前は本当は良い奴だ。人なんか殺すような奴じゃない。牧子にそうされたんだ」


 確かにあの時の自分は変だった。人殺しを迷わすやった。平気で涼子(おんな)を殺そうとした。嫌いな相手とはいえ、殺そうとするなんて・・


「まあ、俺は操られてるフリしていたがな。都合良かったし。それからな」


 そう言って鉄哉はさとるの耳に口を近付け、小声で忠告した。


「牧子はオタじゃない。利用されんなよ。あいつは『薬草採取して300年。気が付いたら無敵になってました』を読んだことなんて無いんだからな。タイトルすら覚えちゃいないぞ。牧子とケンに気をつけろ」



 勇者は目を見開いた!

 オタサーの代表がオタじゃない?

ミンミンの小説も読んでない!

 牧子はオタを利用するだけの存在。



「じゃあな。元気でな」



 鉄哉は天井裏に消えた。

 天井からは二人分の足音が聞こえ・・・・居なくなった。



 勇者は宙を見つめていた。

 勇者はお人好しでずっと人に利用されていた。今まで人を疑うことを知らなかった。お陰で人殺しまでするはめになった。

 鉄哉の最後の告白でやっとそれを知った。



 色んな思いが頭を廻った。





 しかし、今はただベッドに横たわるしか出来ない。

 そしてこの夜のことは誰にも言わなかった。




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