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厚志、田舎に帰りたがる

 また5日程経って、久し振りに優子が見舞いに来た。



「厚志、大人しくしてた?」


「ああ動けないしな。見舞いありがとう。忙しくないのか?」


「いいのよ。直子社長に配達あったし丁度いいわ」


「配達?」


「直子社長、外国から水牛の皮取り寄せたのよ。それの配達」


「水牛?」


「なんかコワゴワして毛が無い皮ね。なんに使うのかしら。でも、私がここに来やすいように理由付けしてくれてるのかも」


「なんか俺、世話になってばかりだな」


「気にしないで。それより早く良くなってね」


「ああ」



 そこに直子さんがコーヒーセットを持ってやって来た。社長自らコーヒー出すとは庶民派社長なんだろうか。以前会ったときはまだ農業研修中で会社は作ってなかったっけ。


「厚志くんはこれ」


 直子さんと優子はコーヒーだが、直子さんが俺に差し出したのはニンジン主体の野菜ジュース。

ああああ・・・・


「健康にいいのよ」


「わかってるって」


 正直、旨くはない。

 吐くほど不味くもないけど。最近、こればかり。

 でも、コーヒーはあんまり得意じゃないからいいか。


 他愛の無い話をした。

 主に優子の会社の話。

 驚きだった。

 優子の会社の本拠地の港の生活習慣。集落全員での団体婚。成人男性全員が夫で、成人女性全員が妻。

 いつ死ぬかもしれない男は特定の妻を持たず、男全員で女全員を支える。そしてどんどん子供を産んで港の人口を支える。誰の子かは関係ない。

 乱れた集落かと思えば、余所者は男も女も簡単には受け入れない。団結が凄い。


 そんな集落兼会社のトップに立ったのが、まさかの『永遠の処女(優子)

 顔から火が出そうな程赤裸々な話を毎日聞かせられながら仕事しているそうだ。

 ある意味凄いな優子。


 大型船二艘に加え、中型船も入れ替えしてまた借金が増えたと言ってる。大丈夫?



 そして俺は切り出した。


「皆には世話になりっぱなしで恩を返せなくてすまない。体が治ったら村に帰ろうかと思ってるんだ。色々頑張った。でもこの状態だ。涼子と会えないのはツライけどあいつは強い女だ、絶対負けない。それにこの街に俺が居ない方が涼子もやり易くなるだろ。俺は涼子の足を引っ張ってる」


 皆、静かだ。

 暗くなるような事言ってごめん。



 がりがりっ!

 たんっ!



 窓からクロちゃんが入ってきた。

 いつものように俺のベッドに乗り、いつものように俺の顔を見る。

 頭と背中を撫でてやるとその場に寝転んだ。



 優子が切り出す。


「厚志は悪く無いんだから、出ていくことはないわ」


 直子さんも、


「そうよ、それに私は涼子が勇者と結婚するようには見えないの。今回のことだけじゃなく、前からそう思ってたわ。少なくとも勇者を愛してなんか居なかった。事務的というかなんていうか。なんていったらいいか判らないけど、前と今はなんか違うの。上手く説明出来ない!

 それに今回の事件でまず結婚は無くなっただろうし」


「でも・・・・」


「それに、今は町だろうが田舎だろうが出歩かない方がいいわ。田舎よりはウチの建物方が守りやすいし」



 まだ俺は危険なのか・・

 益々申し訳なくなる。


「それじゃ、直子さんに迷惑がかかるし」


「駄目よ。私は涼子から厚志君を頼まれたんだから。責任もって預かるわ」


「ウチの港でも良いんだけどねー。男供、強いし。余所者すぐ判るし。まずは大人しくして体を治しなさい」


 優子まで・・





 ああ、結局俺は病人生活を続けるしかない。二人が言うのは最もだ。事件は終わっただけで解決なんかしていない。あの恐ろしい女は捕まっていない。




 優子が俺の上から、クロちゃんを掬い上げる。

 優子がクロちゃんを両手でびろーんと持ち上げ、クロちゃんと見つめあっている。


「そろそろいくわ」


 優子が席を立つ。

 何故かクロちゃん抱いたまま。まあ、外まで連れていくわけ無いからいいけど。


「じゃ次のも御願い」


 直子さんが何か言ったけど、納品の予定の話なんだろう。


「値段は同じ?」


「そうね」


「じゃあ、大人しくしててね厚志。逃げちゃ駄目だからね」


 そう言って優子は出て行った。クロちゃん抱いたまま。

 そして、テーブル片付け直子さんも出ていった。








 ー ー ー ー ー ー ー





 ここはひとつ下の階。



 優子が手のひらにクロちゃんを載せてクロちゃんと向かい合ってる。

 横には直子社長。他の人には見られてない。







 優子は腰から斬撃剣を抜いて、クロちゃんの前に差し出した。優子の腰にはまだ斬撃剣は四本ある。

 ホルダーは中剣、短剣用だが抜いた斬撃剣は長い。



「クロちゃん、もう一本いっとく?」



「にゃーん」




 クロちゃんは迷わず返事した。


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