戦いの後 王の見舞い
あの事件から3日。私は王宮のベッドに寝かされている。財団ではなく王宮の部屋。
ハイスキル持ちで体の表面にバリアー幕があるとはいえ、勇者の聖剣の打撃だけでも私は重症だ。
さとるが気絶した状態の時に殺しておけば良かっただろうか。気絶中ならバリアーは無かったろう。
さとるは王族だ。
殺せば色々問題になる。
それでも、後々の事を考えれば居なくなってもらった方が良い。生きてる限りろくなことをしないだろう。
でも殺せなかった。
その後自分が罪に問われる可能性を恐れたのではない。
怖くて人を殺す事が出来ない。
ただそれだけだ。
「涼子様、王がおみえです」
沙羅が私を『ボス』と言わずに『涼子様』と呼ぶ。多分、すぐそこに王が居るのだろう。
ぞろぞろと部屋に入ってくる王達五人。沙羅が慌てて追い越して私のベッド脇につく。体を起こそうにもあちこち痛いし動かない。ついでに病人衣装。沙羅に少し枕を増やして貰って上半身を少し上げる。揺れると頭の怪我が痛い。
「お見苦しい姿で申し訳ありません」
「良い。起きられないんだろう。そのままで構わん」
王はソファーに掛ける。
つまり、話が長いということだ。
「勇者さとるはどうなりましたか?」
「眠っておる。まさか君が勇者に勝つとは思わなかったぞ。勇者とは世界最強の存在の筈なのにどうやったのだ? 特殊なスキルでも持っているのか?」
姫剣の事は言う気は無い。
姫剣は勇者の抑止力の為に魔族から渡された魔族側の聖剣。いや、魔剣?
表沙汰にはしない方が良いだろう。歴代の主もそうしてきた。
それに、姫剣以外は私の努力だ。
「王様。簡単に言えばさとるは弱かったのです。本来勇者スキルなら無敵になるのでしょう。でもさとるはあの通りです。ひょっとしたら、さとるより強い者は10人位居るのではないかしら」
王は薄々分かっていたけれど、やはり受け入れがたい勇者の実力の低さに顔を暗くする。そんなものの為に金を使わされ、我が儘を許したのだから。
「優姫か・・・・」
王は勇者を圧倒的実力で負かした者の中で、思い付く名前を呟く。
「いえ、優姫だけではありませんよ。名を上げてないだけで沢山居ます。農民すら勇者より上かもしれません。彼らは日々大地の上で働き、自分の腕で害獣や魔獣を倒します」
「農民もか・・・・」
「それより、さとるはどうするんです? まさかこのまま王族に囲い続けるのですか? さとるに特権は危険です。私の護衛を殺したことも罪にはならないのでしょう?」
悔しいことに、旅館前の護衛二人殺したことも、放火もさとるは罪にならない。
現状ではさとるを血祭りにあげた私の方が罪人。
ただ、さとるの行動があまりにもアレなので色々保留となっている。
悪法も法。
さとるには『勇者特権』と『王族特権』がついている。
王族特権は王の養子になったことで、この国に与えられたこの国の中で有効な特権。
『勇者特権』は世界から与えられる特権。勇者を大事に大事にしましょうという法。外国でも同じように通用する。いや、そもそも全人類から与えられた特権。
「さとるには困り果てておる。既に三か国からさとるを引き取りたいと申し出が来ている。勇者をこの地に縛れるのは養子縁組みだけだ。勇者の奴隷扱いは勇者協定で認められてはおらんし、民間におろせば他国からのスカウトにやられるだろう。それでなくともギルドなんぞに囲われたら悲惨なことになる。洗脳次第では無能も超兵器にかわるやもしれん。正直、今回の勇者は良い子で扱いやすいと思っておったが間違いだった」
確かに過去、女を連続暴行する勇者、金の亡者の勇者、殺人鬼な勇者、権力を振り回す勇者、戦争おっぱじめる勇者・・・・
それに比べれば勇者さとるはマシな方かも。
萌え狂いな勇者は初だろう。
さとるを引き取りたいという国はさとるを洗脳して鍛え直すつもりだろう。
『強い勇者』が手に入れば、国防、貿易でも強気になれる。私の貿易商としての利益は勇者保有国としての強みが効いている。
「いっそ、さとるを手放しますか? 今代の勇者なら外国にとられても驚異にならないかもしれません」
この国には姫剣保有者がいる。それは口に出さない。
「各国もさとるは無能だが、扱いやすいと踏んでいるのだろう。どうするべきか・・・・」
過去、勇者は扱いにくく、恩恵よりも損の方が多いのが常だった。
しかし、ここのところ勇者さとるが事件を起こす度に勇者の無能が世界中に宣伝されてるような物だ。
そして、馬鹿なので扱いやすいかもしれないと。
今まで面倒事は御免だと勇者を敬遠していた国が次々と勇者をくれと寄ってきた。
私は勇者さとるはいらない。
投獄できないなら、くれてしまえ!
そう思う。
顔も見たくない。
「それはそうと、さとるを操っていたのはやはり牧子なんですか?」
「ああ、間違いない。さとるに小説書き換えと引き換えに君を殺せといったらしい。鉄哉という男が全て話した。牧子は『オタサーの姫』というスキルを使ってさとるをコントロールしたらしい。だがスキルはそれほど強くないので、小説の書き換えをされたく無い鉄哉には効かなかった。小説狂いの犯行を止めたのが同じ小説狂いだったとはな。『オタサーの姫』は雑魚スキルかと思っていたのにまさかこんなことになろうとは」
「鉄哉という男、簡単に喋ったんですか?」
「ああ。彼にとっては何よりも小説を書き換えない事が重要だったらしい。私には理解出来んが。それに、過去の犯罪は全て王族特権で無罪確定している。本人が、与えられた無罪を拒否すれば有罪に出来るが、恐らくはしないだろう。最後に殺した二人は犯罪者だ。極刑にはならないだろう。
今、勇者の発言は私を通してから出すことになるので、変な特権は私が握りつぶすつもりだ。まあ、さとるはまだ寝たままだがな」
「で、牧子は?」
「行方をくらませておる。牧子のオタサー館に警察が行ったが既に居なかった。残っていた男達に聞き込みをしたが、牧子と『社員』と呼ばれる男達が居なくなってるそうだ。それと金もな。重要なものが綺麗さっぱり無くなってるというのは、前もって運んだからだろう。計画していたんだろう」
「きっと、まだ何か仕掛けて来ますね」
「そうか? それはわからん」
これは勘だ。
また何か仕掛けてくる。
「それから人質にされたという君の知り合いの男についてだが・・」
「彼は私の財団で保護します。ここですら安心出来ませんから」
嘘だ。
財団でなく、直子社長に預けてある。
直子社長の所なら優子も出入りしてるし、クロちゃんも居る。
厚志を闇間に運びきってくれた沙羅に感謝している。
彼女のステルス機能が役にたった。
「そうか」
「彼は私にとって命よりも大事な人ですから!」
そうきつく言って、王が言おうとした言葉を先回りして潰した。




