血塗れ厚志
厚志!
ぼろぼろ血塗れで横たわる厚志。
何をするべき、
何を警戒するべき、
何を考えるべき、
何を言うべき、
何を・・・・
そう思うより先に体が走り出す!
厚志を取り戻す!
二人組は厚志に重そうな剣を向けているが刺しては居ない。厚志は間違いなく私を封じる人質。
殺せば価値がないから刺せなくなるとか思った訳じゃない、奴らから厚志を取り戻して怪我を確かめて何とかしたかった!
最大限の蹴りで一歩二歩三歩!
厚志!
ドン!
「うぐぉ!」
走り始めた私の背中にとんでもない痛みが来た、そのまま地面に落とし込まれ、後ろに魔力圧を感じた!
さとるかっ!
ガァン!
うつ伏せから、胴を回して必死に上を向いて姫剣を構えると、丁度さとるの聖剣が振り落とされた!
剣圧に負けて姫剣が自分の額に当たる!
姫剣は主を切らないが、ぶつかった勢いが強すぎて、きっと怪我になってる筈!
足でさとるの腹を押そうとしたら逃げられた! そして置き土産とばかりに膝を真横から蹴りあげられる!
「ぎいいっ!」
痛い!
左膝を壊された!
こんの野郎!
立てないまま勇者さとるを睨む。
奴はさっきと違い、私を見下して来た。
拉致誘拐暴行もするようになったのか勇者さとるは!
頭がおかしくなりそうな怒りが沸く!
しかも、よりによって厚志に!
また勇者さとるが力任せに聖剣を打ち下ろしてくる。姫剣で必死に受けるが立ってないから力が半分も出ない! 反動で姫剣が自分に戻ってくる、鎖骨がっ!
そして奴はまた私の足を楽しそうに蹴った!今度は右腿!
「完全に形勢逆転だな、涼子」
「人質まで使うクソ野郎だとは思わなかったぞ、落ちたもんだな」
「クソやろうはお前だ涼子。俺が居ながら愛人囲うとはな。やはりお前は殺すべきだ」
奴は台詞の終わりと同時にまた壊れた左膝を蹴り飛ばす!
うぐっ!
厚志とはずっと会えなかったというのに、囲っていたと言う。どうせこいつには何を言っても通じない。
「さっき殺しておけば良かったな」
「残念だったな。滅多に無いチャンスだったのにな。隙を突かれたのは驚いた」
「何処が! 隙だらけだったぞ」
「それはお前だ」
こんの、クソ野郎!
無自覚か!
そして、それと同時に私は優子に助けを求めていた。
必死に送るが返事が無い。遠い海の上か。厚志さえ取り戻せばまだ・・・・
クロちゃんは沙羅達の護衛で使えない。まだ奴等の仲間が居るかもしれないから。
厚志の居る方から声がする。二人組の声。
「さとる! やっちまえ!」
「そうだ、さとる。ミンミン救えるのはお前しか居ない!」
またミンミン?
勇者を使うための人質?
「ミンミン?人質か?」
どういうこと?
「お前には関係ない。まあ、涼子とちがってミンミンは清らかで素晴らしい女の子だ。ミンミンの為に死ね!」
勇者が聖剣を両手で構える。しっかりとした安定した構え。
地面から立ち上がれない私を逃すことは無いだろう。右鎖骨が折れて右手が上がらない。左手一本じゃ姫剣を支えきれない。身体強化があっても聖剣の全力は防げないだろう。
ここまでか・・
せめて厚志が生き残れます様に。それしか祈れなかった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
「待て、鉄哉! いだだだだっ!」
何が?
突然の悲鳴に私もどころか勇者までそっちを向く。
優子は来てない筈、クロちゃんも。
でも確かに二人組に何か起きた。
視線の先には、
厚志の横に倒れる二人組。
剣で伐られてドクドク出血している。多分死ぬ。
厚志は何もされてない。
そこに居たのは血だらけの剣を持った鉄哉。
かつて勇者さとるの特権で、無罪釈放された連続幼女暴行殺人犯と言われた男。
オタサー内でのオタクさとるの親友。
さとるの親友が何故・・・・
「さとる、やめるんだ」
そう言いながら、二人組にザクりとトドメを刺す鉄哉。
遂にピクリとも動かなくなる二人組。
そして、厚志を縛る紐を剣で切り始める。
何故?
「てっちゃん・・・・
てっちゃん、なんでだよ・・・・
あと少しなのに・・・・」
「さとる、間違ってるよ。お前は間違ってるよ。ミンミンはあれでいいんだ」
「何を言うんだてっちゃん! 涼子を殺せばミンミンは助けて貰えるんだ! あと少しなんだ! 判るだろてっちゃん!」
「判ってないのはさとるだ。
ミンミンは凌辱死亡エンドこそ相応しい。残酷エンドでこそあの作品は価値が有るんだ。だからこそその後の展開が盛り上がるんだ。ミンミンのハッピーエンドなんて何の価値も無いんだよ。さとるは何も判っちゃいない」
「駄目だ! 書き直して貰うんだ! ミンミンは生きる! ミンミンは犯されない! ミンミンは処女だ!」
「作品は作者のものだ。お前が変えて良いものじゃない」
え?
旅館前に居た護衛が殺されて、旅館が放火されて、私を焼き殺そうとして居た。生きてるのを見たら切り殺そうとしてきた。
しかも、人質として厚志を誘拐。
それが、小説のオチを書き変えてもらうため?
私を殺せば、登場人物の最期をハッピーエンドに?
そんなことのために?
「クソ野郎ーー!」
怪我で力の入らないのもものともせず、全力で姫剣を両手で持ちさとるに振り上げる!
身体強化されてるさとるの体は切れないが、右手首辺りの骨が折れる音がした!
更に立って怒りに任せて姫剣でさとるの膝を真横からバキッと折る!
勇者のバリアで切れないが力任せに折る!
「ぐああああ!」
しゃがみながら叫ぶさとる。
生き残った足でさとるの顎を蹴りあげる!
まだまだ!
自分の全身が痛いが怒りは止まらない!
クズ野郎の左手に姫剣を盛大に振り落とす!バキッ!
腹を踏みつけ、顔もガンガン踏みつける! 蹴り飛ばす!
あんなことのために、このゴミ野郎!
そして、勇者さとるは沈黙した。どうせ、気絶しただけで生きてる。
厚志!
片足を引きながら横たわる厚志に向かう。
鉄哉は私の横を素通りしてさとるの所に歩く。
鉄哉なんてどうでもいい。
厚志の元。
厚志の左に膝をつき、恐る恐る厚志の顔を触る、首を触る。
温かい、脈がある、ああ生きてる・・・・
私はぐったりとした厚志を引き起こせず、上から覆い被さって抱き締めて泣いた。
会いたかった。
生きてて良かった。
酷い目にあわせてごめん!
私馬鹿でごめん!
大好きな厚志・・・・
「にゃーん」
「ボス警察呼びましたから!もう少しすれば医者も!」
安全を悟った沙羅がクロちゃんと一緒に来た。
ゆっくりと体を起こす。
厚志の頬を撫でる。
「警察・・・・沙羅、クロちゃんに手伝って貰って厚志をどこか内緒で安全な所に。そうね直子社長の所にでも。それからこれを優子に渡して」
「何故?」
不思議そうな顔をした沙羅に姫剣を渡す。沙羅は姫剣が何の剣なのかは知らない。もしものことがあれば、私は優子に引き継ぐつもりだ。この剣には彼女こそ相応しい。斬撃剣はクロちゃんに授けたままでいい。
「きっと、まだ終わりじゃ無いからよ」
きっとそうだ。
そして、沙羅が呼んだ警察が怪我人と死体を運び、この夜の事件は終わった。




