風呂!
俺は厚志だ!
涼子と結婚する男だ!
ここの所、女二人に囲まれてるがハーレムじゃない!
この村に来て随分経った。ほぼ毎日野菜の収穫だ。
害獣はサツキさんがほぼすべて倒している。
ある日。
「今日は午前中の収穫が終わったら休みにしよう。今日は風呂を焚くぞ!」
「やったー!」
大喜びの優子。
そりゃそうだ、今までは冷たい水で拭いてただけだしな。
「厚志、桶を持って付いて来い!」
と、俺をこき使うサツキさん。
川と何度も往復して漸く風呂に水が溜まった。
この家には風呂は有ったが、デカ過ぎて普段使えないんだそうだ。
今と違い、昔は水源が近くに有ったんだろうと。
そして多分、昔は大家族だったんだろうと言ってた。
そう、ここはサツキさんの生家ではない。
「お お お おおおおおあああっ!」
風呂場からサツキさんの声がするぞ!
一番風呂はサツキさん!
湯が気持ちいいんだろうが、スゲエ声出すな。
「は あ あああああああああ、たまんねえ!」
色気ねえなサツキさん!
俺は台所で追加の為の熱湯を焚いてる。適温の湯を足しても温度は低いからな。
ほぼ熱湯を運ぶから注意な!
「おーい!厚志!お湯もってこーい!」
「へい!」
俺はぐつぐつ煮込んだ熱湯を風呂場にはこぶ。
と、そこには裸族!
風呂の横で仁王立ちしてやがる!
「次の優子の為に熱くしとくぞ。厚志、裸見せたから報酬値引きな!」
「勝手に見せて勝手に値引くな!」
「頭の固い奴だな。おや?何故前屈みになる。はっはっは!」
くっ、反応しちまった!
とうが立った顔だが身体は御立派なサツキさん。
乳が立派だし、なにより鍛えられた筋肉とクビれた関節が凄い!
サツキさんと致したら凄い圧でモガれるんじゃ?
「厚志!全部入れろ!」
命令通りに熱湯を足す。
「よし、熱々で良い感じだ」
湯をかき回すサツキさん。
ケツを見せるな!ケツを!
丸見えじゃねーか!
片足を風呂に乗せるな! ぱっくりしてるぞ!
「おーい!優子ー!次ー!こーい!」
「はーい!」
返事来た!
俺も風呂に手を突っ込んでみる。熱い!
「サツキさん、ちと熱い!って!」
「いいんだよ。こういうのは熱い!水!っていいながら苦労して入るのがいいんだよ!さ、出ろ」
そうして俺はまた台所で継ぎ湯を煮始めた。
そして、
「熱ー!水ー!」
と、優子の声が聞こえた。
やっぱりな。
多分今頃は必死に汲み置きの水を足してるな。
「厚志、一緒に入ってこいよ。今日はヤっても怒らないぞ。風呂でヤるのも良いもんだぞ」
「サツキさん、俺と優子は夫婦でも恋人でもないっす。俺は涼子と結婚する男だ!」
「涼子?誰だそりゃ」
「勇者パーティーの涼子だ」
「知らん。都会の事はよくわからん」
勇者パーティーを知らないサツキさん!
流石田舎者!
「勇者パーティー知らないすか?」
「そんなもん覚えていても野菜は育たんし、獣は自分で倒さなきゃならんし。獣どころか魔獣が来ても自分で倒さなきゃならんからな」
「勇者パーティーが来ない?」
「絶対こねーよ。信じられるのは自分の腕だけだ」
「そうすか」
魔獣すら自分で倒すのか。
農家恐るべし!
そもそも、依頼する金は無いだろうし、村全体でお金出しあっても強い冒険者すら雇えないだろう。そう言えばこの依頼ヤケに安かったし、誰も手を出さない残り物だった。
強くなければ農家はやっていけない。サツキさんの強さがそれを物語ってる。いや、村の者全員がそうだ。
「次どうぞ」
優子が上がってきた。
「ほら、厚志入ってこいよ。お湯も持ってけ」
「へいへい」
「優子にいっしょに入って貰うか?」
「いいですってば!」
「優子はまんざらでもないぞ?」
「え?いや!その、あはは」
真っ赤になる優子!
「だから俺は涼子と!」
「風呂くらい黙ってりゃわからん!」
「え」
「ごくっ!」
「冗談だ、さっさと行ってこい!」
そして俺が風呂に入ってる間、きゃーとかだめーとか優子が叫んでた。なにしてんだ?
風呂の後、俺達は昼間から酒を飲んでいた。
サツキさんは奮発して普段食べない魚を買ってくれたし、鶏や辛い料理も作ってくれた。
それをつまみながらダラダラ飲んでいる。
俺が風呂に入ってる間にサツキさんは優子を裸にして遊んでいたらしい。
優子が裸の状態で変身したらどうなるかとかやってみたと。不思議なことに裸の状態からでもあのエロい衣装になるのだそうで、『つまらん!』と言ってサツキさんはその衣装を剥ぎ取ってしまった。そして変身が解けると剥ぎ取った服もしゅっと消えたそうだ。
不思議だ。
「優子、エロかったぞ!厚志にも見せたかったぞ!」
「恥ずかしいから駄目ですってば!まだ昼なのに!」
「夜ならいいそうだ厚志」
また赤くなる優子。
なにやってんだ、サツキさん。
飲み疲れてきた頃、サツキさんが切り出した。
「厚志、優子と結婚してここに住む気はないか?」
何を!
優子が俺とサツキさんを交互に見る!
俺の答えは一つだ。
「俺はー 」
「じゃあ、私と結婚してここに住む気はないか?」
言いかけた俺を超えて話すサツキさん。何かおかしい。
「どうしたんですか?サツキさん!」
「道の下の二件目な、出てった旦那の実家なんだよ。この間言われたんだ。旦那は別の町で浮気相手と所帯持って子供が産まれたとな。もう、帰っては来ないだろうってな。
流石にショックだったよ。あんなんでも旦那だったしな、夫婦仲が良い時代もあったんだよ。向こうの女は子供出来たんだな。私には出来なかったのに。敗北者の気分だよ。
私はこの家を出ようと決めた。茄子とキュウリが終わったら畑を本家に返す。この家もな。一人で管理出来なかった土地はとっくに本家に返してあったし、これで全部お返しだ」
サツキさんはコップの酒を煽った。
いつも明るいサツキさんらしくない。
「決めたんですか?」
「ああ、農家は一人じゃ無理だ。二人でもキツい。若いうちに子供一杯作って労働力増やしながらやるものだ。農家は金がない。外部の人間雇うのは無理がある。お前達を雇ったのは特別だ。旦那と縁が切れれば実家の手伝いも頼みにくい。実家にしてみれば私は他人だからな。
元々私はよそ者。アイツらは幼馴染だ。私が出ていったら案外アイツらもしれっと帰ってくるかもしれんな。ちょうど良い空き家だ、好きにすればいいさ」
今季が最後の収穫のサツキさん。明るく振る舞っていたが、どんな想いだったんだろう。
旦那との思い出の土地でたった一人。
「お前達と一緒の毎日は楽しかったぞ。飯は一人で食っても旨くない。久しぶりに楽しい毎日だったぞ。有り難う」
「いえ、サツキさんには世話になりっぱなしです」
涙目の優子が答える。
「飲んでくださいサツキさん!」
酒を持つ。
最後の宴会だった。