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涼子の使い魔

「勿論涼子君の意思が最優先だ。だが、考えておいて欲しい」



 疲れ切って居る私に王は一つの選択肢を提示した。

 先日、勇者さとるに無残な敗北をした私にその言葉は重くのしかかった。

 戦力で優っていても身分に敗北した。




 国王の提案。


 私を第二王妃に迎えたいというのだ。

 今も現王妃は健在だ。

 だが、子供に恵まれなかった。

 この国は一夫一婦制だ。

 だが、王族はその限りではない。

 現にさとるは婚約者を二人持って居る。


 勇者さとると私の婚約は私の意思だけでは解消できない。

 さとるが解消すると言わなければ、私は束縛されたままだ。

 さとるは今のところ私との婚約は解消する気はない。だからと言って結婚もしない。

 厚志と私を結婚させない為にイヤガラセしているのだ。


 ただ、裏技もある。

 さとるを超える人物がその婚約を取り消す。

 当然、理由も必要だ。


 それは王が私を娶る(めとる)こと。

 これならば私とさとるの婚約は解消できる。

 更には、将来王妃どころか女王にしてもいいと提案された。

 王もさとるの無能っぷりには困り果てて居る。こんな人物を王にするわけにはいかない。

 かといって、王の養子から外せば他国に『勇者』を取られるかもしれない。今、無能勇者だといっても、将来バケる事もありえるのだ。不用意に放流するわけにもいかない。


 さとるは優姫より弱いといっても世間では強い方だ。

 欲しがるのは国だけではなく、いろんな団体が欲しがる。

 それこそ、今勇者を放流すれば債権者のいいなりだ。

 債権者に強力な用心棒となる。あるいは借金取り立て役に?

 私が女王を視野にした王妃になれば良い事もある。

 さとるを王にしなくていい。

 さとると結婚しなくても良い。

 正式に王族になれば週刊オリハルコンも王都日報も私相手のバッシングはできなくなる。

 さとるのデタラメな権力の行使を私が止めることができる。

 今まで以上に経営能力を国にふるえる。


 悪い事もある。

 現王妃は反対して居る。

 冷めて居ると言っても、別の女が来るのは気に入らないだろう。女とはそういうものだ。更には貴族間のパワーバランスが変わるので一悶着あるかもしれない。



 そしてこれが最大の問題。



 後継を産まなければならない。

 養子ではなく実子。

 王の血筋の子。


 なにより王が私に好意を持って居る。

 王妃が反対するわけだ。


 そして今も王妃に懐妊の兆候はない。そもそも近年致していないのかも。

 遅ればせながら他の男を養子に迎える計画も上がったが、希望者は現れなかった。

 今の勇者さとると兄弟になろうなんて人は居ない。

 さとるを封じ込めるのは並大抵な苦労ではない。苦労するのは分かり切ってる。

 私はハイスキルの持ち主(実際は皆が思ってるより更に強い)で、経営者としては申し分なく、王と議会からは信頼が厚い。





 このお話は疲れ切って居る私を更に落ち込ませた。

 せめて形式だけの王妃なら良かったのに・・・


 先日の権力が無いが故の敗北は私を弱気にさせた。



 優子の反応は、

『絶対駄目! 絶対認めない!

 もしそうなったら縁切るわよ! それだけじゃない、私何するかわからないから!』


 何をするんだろう。

 私を斬るんだろうか?

 さとるを斬るんだろうか?

 まさか王様は斬らないわよね?

 でも、全部ありえそう。


『厚志を悲しませるようなら涼子を叩っ斬る!』


 私か。

 はあ。


『厚志の大事な人ってこと忘れないでよね!』


 そうなんだけどね。


『涼子を斬って私も死ぬ!』


 なんで優子が死ぬのよ。厚志を斬らないだけいいか。


『当たり前じゃ無い!』







 数日後の夜、私は直子社長から呼び出された。

 直子社長は勇者パーティーであり財団の代表である私を遠慮なく呼ぶ。まあ、そういう扱いをされるのは嫌いじゃない。私の周りは私を恭しく接する人だらけでうんざりする。全員では無いけれどね。


 指定のファッションスタジオ直子のリフォーム専門店内の事務室。


 コートデザインから始まった直子さんの商売は絨毯や家具に派生してリフォームまでも扱うようになった。勿論衣料のほうもちゃんと別営業所としてある。

 毛皮のコートは社でも社長しかやらない。

 完全な社長のハンドメイドなのだが、数が増やせないので一般販売はしていない。購入希望者には直子社長の面接があるという徹底ぶり。この販売を非難する人も多いが、ブランド価値は大いに上がった。

 勿論フラッグシップモデルは優姫が着ている。




「直子社長、来たわよ」


「待ってたわ涼子」


「優子は営業で忙しいから今日は居ないけど構わないよね」


「それは大丈夫。一体何の用?」


「優子からの紹介なんだけどね。こちらの方からお話があるわ」


 他のスタッフとは違い、明らかに私達に同席している男性。五十代?


「お会いできて光栄です。佐吉と申します。小さな問屋を営んでおります。あの、さつきの父と言えば分かるでしょうか?」


「さつきさんの事は存じております。さつきさんはお元気?」


「ええ。先日双子をもうけまして、私も爺になりました。男の子と女の子です」


「まあ、素晴らしい。可愛いでしょうね」


「ええ、可愛いです。なによりさつきが嬉しそうで嬉しそうで!」


「それで、用件とは?」


「おお、そうです。先日優子くんに会いましてな。以前会った時より立派になっていたので、もうひとつ使い魔はいらんかい?と言ったら、涼子様にと言われました」


 そういうと佐吉さんは丈夫そうな鞄から小さな卵を二つ出した。


「優子くんの乗るナイトユニコーンもこの卵の中から産まれました。あの時は驚いた。あんな頼りない子に立派なユニコーンが現れるとは。今になれば納得なんですが。涼子様もひとつどうですか?」


 ああ、シロは卵から産まれたと聞いたっけ。何がでるかは判らない。

 それがこの卵か。


「何が入っているのですか?」


「それは私にも判りません。魔力持ちが温めればほんの数分で産まれます」


「その・・・・危ないものではないので?」


「中には狂暴な魔物も居るそうです。ですが主には絶対服従しますのでな」


「良いのですか? 私みたいな人物に。私の評判は聞いているでしょう。とんでもない悪人だと」


「その噂は聞いております。だけれども私は優子くんの話の方を信じます。優子くんは貴方はいい人で信頼出来ると言われました」


「あら、私も言ったじゃない」

 直子社長が言い被せる。


「そうでしたな。すまんすまん」


「使い魔・・・・どうしよう・・・・直子社長どう思う?」


「あら、挑戦してみたら? たまには未知の変化も必要よ。前に自分で言ったじゃない」


「もしユニコーンが出てきたらどうしよう、生涯独身?」


「優子が喜ぶわよ。仲間が出来たって」


「それもどうかなあ・・・・」


「いやあ、こればっかりは判らんです。でも、ユニコーンなんて大物は滅多に出ないと思うんだけれどねえ。でも、まさかねえ・・」


 確かに優子のユニコーンは羨ましい。魔物の攻撃にも負けない強靭な肉体に鳥よりも速く、走れば家数件を飛び越す脚力。放し飼いオッケーで呼べば直ぐに駆けつけてくれる。国で唯一時間を気にせず行動出来るのは優子だけ。優子は今、船荷の営業で駆け回っているが、あの機動力は羨ましい。


 何よりカッコいい。



 デメリットは『処女』しか乗れないこと。



「やりなさい、涼子」


「ええ・・」


「何、柄にもなくビビってんの!」


「どうだい? 決心したなら二つのうち一つ選びなさい。何が出てくるかはお楽しみだよ」


 迷ったが、私は一つ手に取った。硬い殻だ。小鳥の卵よりは大きいが鶏程じゃない。


「早速やっちゃう?」

「え?」

「温めるのよ」

「どうやって?」

「涼子のおっぱいに挟むのよ。そう聞いたわ」

「馬とか出てきたら私潰される!」


「涼子様、使い魔は主を傷つけないから安心していい。優子君の時は服が破れてしまったが」


 そりゃ、谷間からユニコーンが出てきたら服は破れるわ。


 いや、産まれるのが蛇の魔物だったら大変だ。服の中にうにょうにょ蛇が入ってきたら・・・・


「悩まない!」

 そう言って直子社長は卵を奪って私の服の裾から手を突っ込んだ! 未だ誰にも触らせたことの無い私の胸にざっくり入ってきた直子社長の手。しかも、左右とも触りまくる! 触る必要無いのに!

 そして谷間に卵が残された。


「私とどっこいね」


「煩いし!」


「あ」


「何?」


「危ないから外でやるべきだったわ。涼子早く外に出てよ。ユニコーンなんか出たら床が抜けるわ」


「ええっ!」



 だが、遅かった。



 かりっと、谷間で殻が割れる感触が!

 何かでた!


「涼子、玄関に!」


 言われるままに玄関に向かうが、外で服が破けたら往来で胸晒すの?

 玄関のドアに手をかけたまま私は固まった!


 小さかった物がどんどん大きくなる!

 やっぱり外か!


 だが、ドアを開きかけたところで成長が止まった。

 服は破けていない。

 それは服のなかでもぞもぞ動く。たまにカリッとする。


 首もとのボタンを外して胸元を覗く。()()と目が合った。



 小さい。



「ええと・・」


 いつまでもこのままでは駄目だ。

 ()()()を出そうと裾を開けたら爪でしがみつかれた、痛い。主を傷付けないんじゃなかったの! ならばと上に押し上げる! 出てこい引きこもり!



 漸く顔を出したその子。



「涼子、それって?」


「おやおやこれは可愛らしい」






 私の使い魔はまだ小さな小さな黒猫だった。






 みゃあ。









 やだ、可愛い。

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