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任期終了前に交代

 ここは港の集会場。


 今、手の空いている近所の人達20人ほどが居る。

 近所の人といえば、普通はホントに近所の人の事を指すが、ここの場合は違う。何て言うんだろう、家族? 彼らはそう言っているがイマイチ違う。ハーレム? それとも違う。


 コロニー?


 そうかもしれない。

 ()()()()()を持つコロニーかも。

 今、康夫さんも奥さんも居るし私も部外者だが居る。優子は外で何人かと警戒にあたっている。



 そして康夫さんの奥さんが立って丁寧にお辞儀をして話し始めた。


「みなさん、お話が有ります。私、今年で康夫の妻を引退しようと思います」



 ぶっ!


 妻を『引退?』

 言葉がおかしい。

 普通は『離婚』とか『家を出る』とか『別れる』とかいうもんじゃないの!

 この港はつくづくオカシイ!



「私も疲れたわ。今のゴタゴタが片付くまでは続けるけれど、その後引退します。子供も4人成人したしあと3人くらいは大丈夫。みんなが居るしね」


 奥さん凄いわ。

 7人も生んだの?

 そのうち康夫さんの種は何人だろう・・


「それで、任期が2年残ってるけれど引退したいの。次は順番で行けばサユリ。サユリにはもう話してあるけれど、他のみんなはどうかしら?」


 妻に任期?

 妻の順番?

 それを他の人にお伺いたてる?

 あー、私はこの町には住めないわ。無理!


 場から声がする。


「椿は頑張ったわ」

「椿、お疲れ様」

「サユリはいいの?」

「サユリの次は誰だっけ?」

「任期はまた5年?」

「いや、残った2年の代わりだけじゃない?その後は次の人じゃない?」

「前は繰り上げそのまんまだったぞ」

「2年と5年で7年じゃないのか?」

「いや、癒着が増えるから5年以上はやめよう」




 なにこの会話。

 私の中の『妻』の定義がオカシイの?

 私間違ってないわよね?

 妻ってトラブルがなければ生涯を伴にするもんだと思うけど。夫婦の癒着は当然なんだけど。


 この町では結婚というものが無い。だが、社長や町長といった要職には『妻』という『役職』がある。



 そうこうしていたら優子に飛び火した。


「おお、そういえば優子君はどうなるのだね」

「いや、いい子だが研修と修行に来てるだけだしなあ」

「だが今や船主だぞ」

「いや、経営と運航は任せると言われてるし」

「優子君も船主だし仲間に数えてもいいんじゃないか?」

「いい子だし、この港の嫁に欲しいのう。頑張りやさんで真面目で」

「スタイルもなかなかだし、男並みに働くし」

「あ、イツキは貧乳好きだったな。美佳に一番入れ込んでるのはお前だしな」

「うむ、美佳に優子君に素晴らしい逸材(つるぺた)だ」

「きっといい子を産むぞ」

「え、もし仲間になったら妻の順番は美佳の上?下?」

「それはまだまだ先の話だよ。でも上かなあ」

「前例では女の歳より子供の年齢順の方が多いわよ?」





 この変な会話を私ごしに優子は聞いていた。


『ちょっと・・やめてよ・・』

『どうする? すんごいモテてるわよ優子』

『生涯処女を誓った私にどうしろっての!』

『シロ乗れないなら馬車引いて貰えば? 娘が出来たら娘に乗って貰ったら?』

『そうじゃない!』

『もう、この港に関わっちゃったんだし』

『そう仕向けたのは涼子でしょ!』

『住所移す?』

『移さないわよ!』

『ここの人たち好い人ばっかりよ。流石、嫌な人を排除してるだけあるわ。毎日代わる代わるヤりっぱなしになるわね。倦怠期とかとは無縁ね。どう?』

『嫌!』



『しっかし』

『何?』

『だーれも私を誘わないわ』

『そりゃあ、部外者だし』

『清信ですら誘われそうになったのに・・』

『いや、あれは・・』

『よく、性格悪そうとかキツそうとか言われるのよね。ここの人達、ナチュラルに私を避けてるのかも』

『考えすぎ!』

『冷静に考えれば本気で迫ってきたのって厚志一人ね私』

『・・・・』

『はあ』

『・・・・良いじゃない。私なんかおんなじ布団で寝ても手を出されないんだから!』



 あ、地雷踏んだ。



『いやその・・』


『ふーんだ』


 あ、優子いじけた。

 自身のファンクラブが二つ(農村と学園)あるのにいじけないで欲しい。

 私なんて週刊オリハルコンで嫌いな女ランキングで二回も一位取ったんだぞ。(二回中二回)






『あ、何か来た!』


『なに?』



 優子ごしに周りの声が聞こえる。「優子くん下がって」と優子が匿われている、何かヤバい奴等が来て女の優子を安全のために下がらせたようだ。やはりここの男達は女に優しい。


 そして・・・・






「ノブゥゥーーーッ!」






 とんでもない大声で怒鳴るアイツの声がした!

 ちっ、面倒な奴が!



「ノブーーー! 何処だぁ! 助けに来たぞーーー!」



「さとるーーー! ここだーー!」


 清信が返事をしたのが聞こえる!

 不味い!


 私と数人が慌てて集会場を飛び出す!

 少し離れた船小屋に詰め寄る偉そうな一団。勇者さとるとその手下か!

 強気を崩さないながらも身分の前に無力な港の男達が勇者の一団に向かって立っている!

 駐在さんと警察官数人が勇者さとるを宥めるが勇者は引かない。

 私達は慌てて船小屋の皆の所に合流する! 優子は中に逃がされた。本当なら優子が一番強いんだけれど、男達は強くても女に何かあったらと心配されて引っ込められた。 でも、今は勇者に優子を会わせないほうがいいかもしれない。優子は私の切り札。私は優子に『暫く出ないで。優子は顔を見せない方がいい』と、送った。


 皆と一緒に勇者の一団に向かって立つ!

 勇者さとるの引き連れている手下の顔に見覚えがない。軍でもないし、警察官でもない。なんだこいつら?


「どけ! 下っぱ役人!」


 あれ?

 偽装と化粧してるとはいえ、顔晒してるんだけど、さとるは私のことがわからない?

 いくら沙羅の化粧とはいえちょくちょく行動を供にした私が判らないの?

 案外さとるにとって私ってその程度なのか・・・・



 私が代表で勇者に向かう。

「勇者様お引き取り下さい。中の者は貨物船破壊の容疑者です。取り調べで警察署に移すので渡す訳にはいきません」


「黙れ! 勇者の命令だ! ノブはそんなことはしない! ノブはいい奴だ!犯罪なんか絶対しない!」



「いえ、貨物船破壊の容疑者ですし、飲み水に毒を仕込んでる所を現行犯で取り押さえたので、勇者様とはいえ引き渡す訳にはいきません!」


「うるさーーーーい! それもお前達のでっち上げだ! 警察なんて信用できない! ノブは俺が連れて帰る!」



 さとるは私の声を聞いても私と判らないのか。

 確かに清信は船の破壊については認めてないが、毒を仕込んだ所は現行犯で確保したんだ。渡すいわれはない! さとるに渡したら無罪放免で放たれるに決まってる! 以前の鉄哉のように。


 またさとるが怒鳴る。


「ノブーー! 今助けるぞ! お前は無実だから!」


 何を根拠に無実と!


「俺は無実だ!助けてくれさとるーーー!」


 こんのやろう!

 このドクズ!


「しかも、清信は覗きの常習犯です」


「うるせえ! ブス! 勇者に逆らうな! 王族だぞ俺は!」



 はああああ?

 女に言っちゃならんこと言ったなさとる!

 しかも王族名乗るならそれなりの会話しろよさとる!

 ここまでお前の性根が腐ってたとは!


『涼子落ち着いて!涼子!』

『悔しいじゃない!あんのクソさとる!』

『カっとなったら駄目、涼子!』

『ちっくしょー!』



「さとるーーー! 殺されるーー! 助けてくれーーー!」


「待ってろノブ!」


 殺すわけねーだろ!

 警察をなんだと思ってる!

 お前は毒を仕込んだ張本人じゃないか!



「よく聞けー!」


 さとるがキンキン声みたいな大声を出す!

 そして私達を睨む。


「ノブ・・清信を連れていく! これは王族特権である! わかったかドブス!」




『落ち着いて涼子!涼子!涼子!』


 ぐぐぐ・・・・



 王族特権。

 さとるはまだ王様でもなければ王子でもない。だが王の養子。王族特権が使える。それさえあれば殺人犯も無罪に出来る。まあ、極論だが。

 そして、ここで私が『涼子』だと名乗り出てもさとるの特権には無力だ・・・・


 たったこんなことで勝負ありなのか。

 悔しい・・

 私は強くなった。

 奥にいる優子はもっと強い。

 さとるなんて一撃で潰せる。




 でも、王族特権の前では無力だ。





「どけ、ブス」



 さとるとその手下が私達を押し退け、船小屋の入り口を破り、清信と共犯の二人を連れ出した。

 どや顔で出てくる三人。




 私達は遠ざかる奴等をただ見送るしか無かった。

 警察署の職員に駐在さんも何も出来ない。





 見えなくなった頃、私はただしゃがみこんでめそめそ泣いた。無力な自分に絶望した。

 町の皆は優しく慰めてくれた。ありがとう・・・・







 四日後の週刊オリハルコン。

 警察が無実の若者を誤認逮捕したのを正義の勇者さとるが助けたとデカデカと巻頭記事にした。

 貨物船は私の政策による影響で、過積載になり二艘沈んだと書かれた。港に取材なんか来ていない。

 見ないで書いた記事。いや、結果ありきで書いたのか・・・・


 そして記事の最後はいつものように、


『涼子政治を許さない!』


 で締め括られていた。





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