恋人寝取られた清信
犯人はあっさり捕まった。
しかし、この警察の制服は胸がキツい。
早朝夜明け前、出港時間が来たので船は初荷を積んで出港した。この時間帯の風が都合いいのだそうだ。優子は行かずに武男さんが代わりに行ってくれて助かった。
今、船小屋で賊三人組を縛って座らせている。
優子と他数人で外を警戒して、康夫さんと私と他数人で賊に向かう。
犯人は三人組で、二人は冒険者らしいが黙秘している。ひょっとしたら、冒険者仲間が取り返しに来るかもしれない。黙秘するというのは仲間がいると言うことだ。警戒のために優子に残って貰った。駐在さんは西地区警察署に連絡しに行ってくれた。
そして、清信という男。16歳らしい。
「殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!」
大声で喚いている。
剣を持った優子に睨まれた時はビクビクガタガタしてたくせに、縄で縛られたらやたら強気に怒鳴る、叫ぶ。
なんで?
ああ、縛られたらから殺されないと安心したのか。
つまらない男だ。
尋問開始だ。
「名前は清信でいいのよね?」
「気安く呼ぶな!」
清信で合ってるようだ。
「どうして貨物船を狙うの?」
「復讐だ!」
「復讐って、なんの復讐?」
「美佳を、俺の大事な美佳を奪っただろう!俺の幼馴染で恋人の美佳を汚した! だから復讐だ!」
どういう事だろう。
美佳ちゃんは昨日見た。
ちっちゃくって可愛くてまっ黒に日焼けした少女。貧乳過ぎてホントに子供に間違える。
で、見た目では分からなかったが非処女である。シロに乗馬拒否されたし。
康夫さんを見ると康夫さんは目線を部屋の隅に流した。
なんかある。
「美佳ちゃんと貴方の関係は?」
「俺と美佳は西丘町で一緒に育った幼馴染だ。大きくなったら結婚しようと誓い合った仲だ」
西丘町は王都と西港の間にある町。
幼馴染同士かあ。
厚志を思い出す。
「それから?」
「去年から美佳が就職するって西港に行っちまった。美佳は数年だけって言って言ってたんだ。最初は手紙が来てたけど、だんだん来なくなって、美佳の親に聞いたら西港が気に入ったから永住するかもって聞かされたんだ! 俺との結婚は? 町に帰ってこないのかよ! そう思ったよ」
ああ、私も村を出た日を思い出した。あの旅立ちの日、厚志の事は半分頭から消えてたな。前ばっかり見て後ろを見なかったな。
「そして、暫くして美佳の親父さんに言われたんだ。美佳の事は諦めてくれ。美佳は西港で恋人が出来たと。向こうで暮らすと。はあ?なんだよそれ!結婚の約束ってそんなに軽かったのかよ! それも、俺には知らせなくて親づたいに言うって」
聞いていて苦しくなって来た。
あの時、厚志は私の婚約発表をどんな気持ちで聞いていたのだろう。
あの頃の私は自分の体と婚姻に執着を持っていなかった。恋愛結婚できないのをなんとも思わなかった。さとるの婚約者になるのも躊躇しなかった。さとるの愚行を封じ込め尻拭いして、国の景気を持ち上げて、自分の夢もついでに叶える。
一番蔑ろにしたのは自分の婚姻。
厚志には辛い思いをさせた。
「それから?」
「俺は美佳に会いに西港に来たよ。久し振りの美佳は綺麗だった。女らしくなっていい匂いがしたよ」
美佳ちゃん、子供っぽいけど、あれでも昔に比べれば大人っぽくなったんだ。
いい匂い?
私は自分の腕の匂いを嗅いでみる。女の匂いっていいの? 何とも思わないけど。
「俺は美佳に結婚してくれってプロポーズしたんだ! でも美佳に断られた。地元に帰ってって! 美佳は勝己って男と結婚するつもりだといいやがった! 船主の息子で家柄も良くて将来性も仕事も文句無い男だって! それにいい男だってよ! 金や身分がそんなに良いのかよ!」
ぐっ!
身分と金、そしていい男を選ぶ!
まるっきり私の事じゃない!
厚志ごめん!
厚志ごめん!
厚志ごめん!
「俺はいたたまれなくって、走ったよ。走って走って、町外れの誰も居ないところにたどり着いてから泣いたよ。泣いて泣いて美佳の心を奪った勝己って男を憎んだよ。勝己って船主康夫の息子で次期社長だってな」
うう、厚志も泣いたんだろうか。私がさとるの婚約者になったのを聞いた時、泣いたんだろうか。
勝己は次期社長。
さとるは次期王様。
この清信が厚志と重なる・・
「そして夜、腹も減った、暗くなった、寂しかった。俺は港町に向かって歩いたよ。全て失ってもう何もないのに美佳に会ったら美佳が心配してくれて一緒にご飯食べようなんて言ってくれるんじゃないか? もう一度昔に戻れるんじゃないか。フラフラと美佳の下宿に向かって歩いたよ」
うう、もう聞きたくない。
私は美佳ちゃんじゃないのに罪悪感に押し潰されそうだ。もうやめて・・・・
「行かなきゃ良かったよ。美佳の部屋から聞こえるんだよ。ヨガりまくってる美佳の声が! 嫌がってるどころか楽しそうな話し声! 俺の美佳! 俺の美佳なのに! でも、ひょっとしたら芝居の練習かもしれない、カードゲームの最中かもしれない・・・・
こっそり覗いたら・・・・」
もうダメ!
耐えられない!
これはもう一人の私だ!
これから起こる私の人生!
「このキモ親父が美佳に腰降ってやがったんだ!」
そう怒鳴って清信は康夫さんをガン見した。
は?
へ?
「え?」
か、勝己という人じゃないの?
え?
康夫さん?
息子の彼女寝取ったの?
いや、清信の彼女?
あ、いや、清信と美佳ちゃんはもう付き合ってない。じゃ、息子勝己の彼女?
いや、前、友達って言ったっけ。それって彼女という意味よね? それとも告白前?
勝己さんは今、海。
恐らくは日常的に船に乗っていて居ないんだろう。
船主で社長の康夫さんは恐らくずっと港に居る。
美佳ちゃんは貨物船で沖には行かないし、ずっと港や漁港で働いてるだろう。接点は康夫さんの方が多いかも。
何?
ワタシより年下で子供みたいなあの美佳ちゃんはそんなドロドロの世界に居るの?
私なんてまだ処女よ!
出来ればさとるとヤりたくないから処女のままでもいいって思ってるくらいなのに!
美佳ちゃんは15歳になったばかりよね!
康夫さん50歳手前よ!
何、この歳の差カップル!
いや、それどころか、康夫さん奥さん居るじゃない! 死んでなくて、病気でもなくて、ちゃんと立って歩いてるわよ! いいのこれ?
親子関係壊れない?
全て表沙汰になったら親子関係どころか夫婦関係どうなるの?
しかも、こういうトラブルから会社がズタズタになるのもあり得るのよ!
この港町は康夫さんの会社に頼りきってるところもあるから町にとっても一大事よ!
船失うくらいの大事!
今日か明日には勝己くんの船も帰ってくるわ。
修羅場?
修羅場なの?
修羅場のせいで船行方不明になったり、船員行方不明になったり、燃やされたり!
そして、部屋の隅に座っていた康夫さんの奥さんが立ち上がる。
ヤバい・・
康夫さんの奥さんは康夫さんの前に立ち・・・・
頬を一発ひっぱたいた!
「貴方、最低! 清信君の事考えなかったの!」
だよね・・・・
あと、息子君のこともね。
「なんで清信君も誘わなかったの!」
は?




