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優子、海運業界参入?

 現れた船を埠頭から眺めて私はニヤけた。




 まさか大型船のオーナーになる日が来ようとは!

 この港に不釣り合いな豪華な貨物船(中古です)が佇む。他所の大型船がくることはあったが、この港の関係者で持つ人は居なかった。いや、持てる人が居なかった。


 康夫さんと中古の中型貨物船を探したが、近所には希望に添う船は無かった。

 これははっきり言って売れ残りの船。デカ過ぎて買い手が付かなかったもの。長さだけでも五割増し。じゃあ、積載量も五割増し? いえ三倍です。デカい。

 はっきり言って康夫さんの商売規模からみて大きすぎ。そして、こんなに大きい船だと借金の返済は厳しいと、康夫さんは首を横に振った。しかし、即納できる船はこれしかない。更に遠くの業者も探せばいい物件も有るのだろうが、すぐに手に入るのはこれだけ。今日は諦めるかあ、そう思った。



 そこに涼子が割り込んだ。


「大きいくらい何よ。優子、買いなさいよ。康夫さんに運航を委託しなさい。優子、優子が船主になるのよ」



 確かにデカ過ぎて不人気物件で値引きがきくといっても高いわよ、涼子!

 確かに仕事が止まって倉庫に貯まった荷物を捌くにはデカいのは都合がいい。

 だが、今貯まってる荷物が捌けたらキャパが余りそうだ。

 しかも、康夫さんの船着き場は中型船の甲板の高さに合わせてあるので、船着き場をかさ上げしないと積み降ろしが辛い。そう考えると決して喜べる船ではない。



「なら、そのうちもう一艘大型船買えば良いじゃない。両方大型なら大型用の港に遠慮なく作り直せるし」

 少しは悩むとか遠慮するとかしてよ涼子! それ、ぜーんぶ私の金じゃない!


 そして様々な懸念も涼子に論破されて、その日の夕方には船は康夫さんの元にやって来た。既に積み込みが始まっている。

 

 今日は半金を現金で支払ったが用意してきたのは涼子。後で私の口座から落とすという。売り主と康夫さんには私の金という説明がされた。

 そう、私の口座情報も涼子には筒抜けなんだった。それどころか厚志のパンツ(たからもの)の在りかも筒抜け。

 そして半分は後払いでそれまでの担保は康夫さんの資産。でも、後日私が支払う。

 なんのことはない、全部私が払う。




 かくして、買う気もなかったのに買ってしまった大型船を眺める。


 今日はどうなってるんだか!

 朝起きたら火災騒動、涼子を大急ぎで連れてきたら、何故か船を買いに走り、夕方には港に船が届いて私がオーナー?

 実際の運営は康夫さんがしてくれるけれど、オーナーは私。

 荷物を運ぶ度に康夫さんが船の使用料を私に払うことになっている。

 犯人を特定したら、犯人から損害を回収するのは当然だが、そいつに支払い能力が有るとは限らない。へたすりゃ、この体制が定着するかもしれない。






 でも、なんかニヤけた。

 まさか大型船のオーナーになる日が来ようとは。

 一戸建て住宅すら買ってないのに船のオーナーになっちゃったよ・・・・

 自分の物になった船を見てたらだんだんカッコよく見えて来るようになった! なんかかっっこ良い飾りつけたい!

 一応予定ではしばらく使って見て、不満が出たところを暇を見て改装しようということになってるが、なんか飾りたくなってきた! 怒られるかなあ? でも私はオーナーだよね!


 貨物船のオーナーってことは、私も『社長』だあ! 涼子や直子さんと同じ社長仲間だ!


 船室には『優子様』とお祝いの花や記念品。そして壁には私の名前で船の登録票が打たれている。普通登録票発行は2日は掛かるのだが、()()()即日発行された。

 甲板に立つと高いマストが壮観だ。


 優しく二本のマストを交互に蹴りながら頂上に昇る。

 眼下には船と港。

 丘から私を見上げる康夫さんと涼子。

 積み込みをする作業員さん達。

 上から見下ろすって気分いい!

 港を見渡すと一杯船が有るけれど()()船がやっぱり一番大きい。ふふっ!



『降りてきて優子!』


 脳内で涼子に呼ばれた。

 下では涼子が私に向かって両手をぶんぶん振っている。

 とっ とっ とっ とマストを降りて、涼子と康夫さんの元へ。


「なんて軽い身のこなしだ!」


 猿みたいな私に康夫さんが驚いてる。だが、さよちゃんだったらもっと凄いぞ。私は今もさよちゃんには敵わない。

ひょっとして、さよちゃんに教わった事が船で役に立つ?



「君たちには感謝している。有難う」

 康夫さんが深々と頭を下げる。


「まだ終わってないわよ」

 真面目な顔で涼子が答える。


「いや、明日朝には出航できる。こんな嬉しい事はないよ」


「そうじゃなくって・・・・」


 涼子が私たち二人の顔を引く。


「敵はまた来るわよ。それを仕留めるまで終わりじゃないわ」(小声)

「今回は信頼できる船員で行くし、朝まで見張りも付けるぞ?」(小声)

「それなら敢えて一箇所だけ隙を作りましょう」(小声)

「何する気? りょ・・・厚子」(小声)

「船員の食料と水は明日朝積むことにして、船小屋に置いておきましょう。敵が馬鹿ならここに毒でも仕込みに来る筈よ」(小声)

「そう、上手く行くかい?」(小声)

「何事もなかったら、そのまま出航すれば良いわ。優子は乗ってね」(小声)

「ええ!」

「船主なんだから最初ぐらい行きなさいよ。それに護衛しなけれなね」(小声)

「そんな、優子君のようなか弱い女性に護衛ができるとは思えないが?」(小声)

「あら、優子は強いわよ、丘での戦いなら武男さんにも勝てるわよ。それに船のオーナーなんだから船のこと覚えないとね」(小声)

「武男より!?」(小声)

そうなんだよなあ。


「まずは準備しましょう」

「わかった」

「わかったわ」






 その夜、わざと無防備に食料と水を船小屋に置いた。

 そして、私たち3人は隠れて見張った。



 夜も寝静まった頃、やっぱりかという感じで怪しい3人組が現れた。

 暗くて顔は見えないが、どうやら水の樽に毒を仕込んでいる。

 一人は見張り、二人が樽に細工をしている。

 こうも簡単に現れてくれるとは!




「おとなしくしろ!警察だ!




 涼子の声を合図に私たちは一斉に族を取り囲んだ!

 見張りの男は駐在さん達が制圧しにかかる!

 樽のところの二人のうち一人が私に向かって剣を抜いて斬りかかってきた!

 女だと思ってなめて!

 そんなヘボい剣なんて効くか!


「うおりゃ!」

 私は男の剣の内側に蹴りを入れて、まるごと上に吹っ飛ばした!

 天井近くの梁に背中を強打し落ちてきた男はそれきり沈黙した。

落ちてきた剣は床に落ちる前に足先で受け止める。そしてもう一度軽く浮かせて右手に掴む。

 のこる男が呆然とする。

 立ちすくんだまま動けないで居る。

 こういう時は一人目を強烈に仕留め、二人目の戦闘意欲を削ぐ!

 まさに二人目は立ちすくんだまま動けなくなった。

 簡単だった。

 向こうでは見張り役も制圧し終わったようだ。







「清信? 清信君か?」




 康夫さんがその男を呼ぶ。

 俯いたまま答えない男。


「そうか、清信君か」


 何かを察した康夫さん。

 犯人を捉えたならば怒りで攻めまくるかと思ったのに、康夫さんは複雑な感情を纏って居た。






 誰?

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