男装の麗人涼子
私と涼子は能力発動、つまり変身して強化しなくてもお互いを頭のなかで呼び出せるようになった。
能力に慣れてきたのと、鍛えてベースが強くなったからかも知れない。まあ、変身強化した方が情報量が多く通信距離も長いんだけれど。
王宮の外の街路樹の下でシロを撫でながら、さっき呼び出した涼子を待つ。シロに頬擦りしてるとシロに魅惑されてしまいそうだ。ユニコーンに乗るようになって漸く分かったけれど、シロは馬の中ではかなりのイケメンだ。
そう、♂だ。
「待たせたわ」
走ってきた涼子。
うお!
警官の制服(男用)を纏っているが、飛び出たお胸がどうみても女。しかも顔が相変わらず良い。髪はぎゅっと絞って後ろで縛っている。沙羅の化粧でパッと見は涼子に見えない。流石、偽装の専門家沙羅。
男物制服で違和感が出る筈だが、美人は何を着ても似合う。
そんな事を思ったら涼子がニヤリとする。読まれたか!
悔しいので胸に軽くパンチ!
『ボタンがとれる!』
頭のなかで叱られた。
刺激すればボタンが取れそうなパンパンのお胸。育ったか!
『筋肉が少しついただけよ!』
そう反論してきたが、筋肉つけまくったのに私にはそんな膨らみはない!
このやろう!
二人でシロに乗って西港に向かう。後ろから涼子が私の胸にイタズラをしてくる!
こんのやろう!
あとで仕返ししてやる!
「初めまして厚子です」
武男さんに向かい、涼子は偽名で『厚子』と名乗った。『厚志』をもじりやがった! 確かに世間で涼子は評判が悪い。でも、厚子はないだろう! 悔しい!
そして隣で涼子がにやっとする。私を読みやがった。
「優子君から聞いているだろうが、私は武男。宜しく」
「話は聞きました。船主さんのところに誰か見慣れない人が来ましたか?見たこと無い借金取りの人とか」
「いや、まだらしい。もう一度康夫の所に聞いてみるけど」
「船主さんの会社乗っ取ろうとしてるなら、恐らく借金を買い取って、それを盾に迫ってくるはずです。造船所とかに借金は?」
「かなり有る筈だ」
「船主さんの借金返済はこれで絶望的だと思われて、造船所は安易にそれを誰かに売り渡すかもしれません」
「金が取れない借金なんて買って意味有るのか?」
「ありますよ。船主を堂々と脅す権利なんですから」
「そういうことか・・」
「そういう時は大体非合法ギルドが出て来ます。偽装してるでしょうけど。
逆にこの村全体を干上がらせる為ならギルドはわざわざ出て来ません。船主さんに頼ってるこの村は放っておけば全体が干上がります。倉庫業や陸の運送業も船主さん頼りなんでしょ?」
そう武男さんに説明する涼子。しかし頭のなかで、
『もし、村だけでなく国全体が目当てだと厄介ね』
そう言っているのが私だけに聞こえた。
武男さんは疑問を聞いてきた。
「厚子さんは警察? それとも探偵?」
「警察ですが、交渉人だと思ってください」
適当なこと言ってる・・・
それから涼子は康夫さんちにも行き、色々聞いていた。康夫さんちには駐在さんが来ていたが、涼子は駐在さんに裏であれこれ説明と口止めをしていた。
康夫さんの持ち船は残り一艘。予定通りで天候が順調なら二日後に戻る。国内線回り。
失った二艘は国外線に使える貿易船登録してあるもの。
こうなると、
『一番考えたくない動機かもね』
『貿易をさせたくないってこと?』
『そう。船主さんは巻き添えかもしれないわ』
『康夫さん、可哀想! 仲間も三人失ってるのに!』
『まだ決まったわけじゃないけど。もしそうだったら厄介ね。そうなると敵は大規模な存在よ』
『大規模って?』
『国レベル』
『そんな・・』
「船主さん、駐在さん、先ずは不審者や見たこと無い借金取りが来ないか動きを見ましょう。ヤバい相手なら『今迫ってくるのなら捜査対象になる』と言えば怯むでしょう。船主さん、大口の借金で一番支払いの早いのは?」
それに駐在さんが頷いた。駐在さんも康夫さんの味方、借金取りにはやんわりと待ったをかけたいのだろう。
「明日、損害出した相手の荷主の賠償の最初の支払いがあります」
「払えますか?」
「それは大丈夫だが、次はもう無理だ」
「なら、優子払ってよ」
「え? 私?」
「貴方そのくらい持ってるでしょ」
「建て替えよ。あげはしないわ。一応、予防線を張っておきましょう」
「わかったわよ・・」
康夫さんも駐在さんも武男さんも、なんで私みたいな小娘がそんな大金出せるんだと丸い目をしてる。実際、三年前と違って金には困ってない。
ダンジョンの賞金に涼子の補助金にモデルの報酬に村でたまにバイト。使う宛はないから貯まる一方だ。
康夫さんの役に立つなら構わない。
「それから国外線登録出来る規格の船を中古でいいから買ってきて。じゃなかったら借りてきて優子」
「ええ? それも私?」
「そのくらい持ってるでしょ。見立ては船主さんにしてもらえばいいわ」
「ええ・・」
「どんなことがあっても仕事は止めちゃ駄目よ。既に遅れてるんだから。そうよね、船主さん」
「あ、ああ。それはそうなんだが・・そんな大金」
「返済どうするかは優子に相談して。すぐ仕事と船の支度に掛かった方がいいわ」
「すまない、この借りはきっと返す!」
康夫さんは直ぐに動いた。
借金は苦しいが、何より荷主の依頼を叶えられないのは辛かったようだ。
社長としての立場だと、破産してもお客の仕事はやり遂げたいだろう。それは経営者の務めでプライド。
『涼子、なんで私のお金なのよ!』
『良いじゃない、使わないんだし。足りなかったら貸してあげるわよ。それに、真犯人捕まえたら絶対回収するつもりだし。もし、私の正体がバレたら嫌がられるから優子の方がいいのよ』
『そんな、涼子悪くないっていつも言ってるでしょ!』
『世間はそうは思ってないわ。新聞や雑誌に間違いは無いって思い込んでるしね』
『・・・・わかったわよ』
「それから、一応残った船の無事を確認したいけど、優子見に行ってよ。早馬ならすぐよね」
「見たこと無いからどの船かわかんない!」
「うーん、どうしよう」
シロに乗ればあっという間に遠征出来るが、船の姿がわかんない。各港の接岸歴辿ればいいっちゃいいけど、そんなに沖に居ないだろうから見てすぐわかれば一番早い。
康夫さんの奥さんが参加してきた。
「それなら美佳ちゃんに頼んでみようか?」
「美佳ちゃんって?」
「その船に乗ってる倅の友達よ」
「友達ですか・・」
シロに乗れるかな?
奥さんが連れてきた美佳ちゃんはまだ15歳で成人の儀は来月行くという。
ちっちゃくて細身で真っ黒に日焼けした美佳ちゃん。
可愛いけれど健康的な子供って感じ。
美佳ちゃんはシロに乗せてもらえなかった。
はあ。ひとりで港めぐりしましたよ。
船は無事でした。




