捜査はふりだしに
【警察が無実の青年を不当に逮捕!】
警察は連続少女殺人事件の捜査中、無実の青年を逮捕。
青年は全くの無実で歩く少女の側にたまたま居合わせただけ。少女と青年には面識はなく、無関係。
二日後、その少女は他殺体で発見され、その時青年は勾留中で無実な事は明らか。
<中略>
青年の家族は警察に謝罪と賠償を請求すると語る。
<中略>
結果を求めすぎる警察の捜査は政界に君臨する涼子の方針であり、この国の警察の腐敗の根源である。
<中略>
涼子政治を許さない!
「どうしてここで私の名前が出てくるのかしら」
王都日報にデカデカと書かれた誤認逮捕の記事。
王都日報は紙一枚の新聞。
今日はこの記事で大部分埋まっている。
捜査に私は関係ないんだが、なんで私まで非難されるのか?
どう見ても誹謗中傷だ。
そして、週刊オリハルコンも同じような記事で続くのは分かりきっている。警察は動きにくくなるな。
「苦情でも入れますか?」
メイドの沙羅がコーヒーを入れてくれる。
いつもの通り砂糖は二つ。
「相手にしないわ。ややこしくなるもの」
「ボスも雑誌社持ったらいいのに。そしたら協力するわよ」
「あなた強力過ぎるからヤメておくわ。下手したら情報操作だって責められそう」
「それはありそうね」
しかし、王都日報まで私のバッシングを始めたのか。
今まではのほほんとした記事ばかりだったのに。
「しかしまあ、王都日報まで元ギルドに買収されたのかしら? そんな情報は入ってないのだけどなあ」
「週刊オリハルコンに買収されたとかは?」
「それも聞いてないわ。オリハルコンにもうんざりよ。チャーハンに餃子追加しただけで贅沢だとか言われるのはびっくりよ」
「それに同調してる市民にもびっくりよ。ボス可哀想」
「今年は碧琊魔学院ダンジョンにも呼ばれなかったしね」
「勇者様も出ないんでしょう?」
「そう、勇者はサボり。今年は留美さんの初優勝かもね」
「あら、優姫は?」
「出ないって。私に気を使ったらしいわ」
「耕平さんも子供に手がかかって来られないだろうし、寂しいわね」
そう、もう夏で碧琊魔学園ダンジョンの製作はほぼ終わり。
学園前を通ると巨大な施設が目立つ。ひょっとしたら瑠美さんも出ないかも。面倒くさがりだし。
頭の中を事件捜査に戻す。
「これで警察もやりにくくなったわね」
「そうでしょうね。これで事件が起こってからしか動けなくなったのですから」
「今まで決定的な証拠は無いから、五人目の被害者が出ないと捜査は進まないでしょうね。そこで証拠が残ってなければ、証拠が残るまで少女に犠牲になってもらうしか。もう、怪しいってだけで仮逮捕は出来ないわね」
「で、少女が殺される度にボスが新聞に叩かれると」
「そういうこと」
「ボス、剛士くん借りていいかしら?」
「どうするの?」
「ちょっと王都日報の周りを散歩しようかと思ってね」
「私が軍の訓練行ってる間はいいわよ」
「OK」
『剛士くん』は私の財団の営業のひとり。
学業の成績は母校を主席卒業。営業成績も抜群。女性に優しく、顔もスタイルもいい22歳のエリート。家柄も良く金に困ってないので悪い買収にも応じない凄い奴。
しかも、スキルは『寝技の魔術師』
別に剛士に営業でも戦闘でも私は負けないが、敵対したくはない。うっかり取り付かれて寝技は御免だ。冗談の遊び半分で寝技を掛けてもらった奴の感想では、
『ヤバい』
どの意味だよ。
まあ、剛士も私に敵対しないようにしている。それが平和でいい。
「沙羅、剛士くん狙い?」
「味見だけにしておくわ。剛士と付き合ったら周りの女が一斉に敵になりそう」
「味見も大して変わらないわよ」
「じゃあ、行ってくるわ」
翌日、沙羅が私に報告に来た。
「確かにあれはヤバいわ」
処女の私にそんなことを報告しないでほしい。
どんな報告かと思ったら、まずは任務の慰労会の感想だった。
「イケメンで優しくて上手で金持ちで仕事も出来る男って、居るのね」
「付き合うの?」
「幸せ過ぎて退屈しそうだから止めておくわ。実は朝起きたとき求婚されたんだけどね」
「勿体無い」
「でも、手放すのも勿体無いから『一年後の今日にもう一回ヤりましょう』って、言っておいたわ。私、縛られたくないのよ」
「・・・・」
キープか。
聞かなかった事にしよう。
王都日報。
沙羅は職員を観察し、剛士は業務内容を調査した。
二人は一日でかなりの事を調べあげてきた。
まず、王都日報の記者兼ライターは五人しか居ない。
王都日報と言えば、国内の民衆の思想をコントロール出来る存在。それの根元はたったの五人。印刷所は含まない。
言い換えれば五人で民衆をコントロール出来る。
その五人のうち、二人がスキルによる呪縛を受けている。沙羅はそう言った。
そのうち一人は編集長だと。先月、今まで編集長だった男が心臓発作で亡くなった。その後釜になった新編集長は呪縛されていた男。なくなった編集長の遺体はもう埋葬されて確めようがない。
さて、その呪縛だが、それほどハイスキルな呪縛ではないらしい。沙羅の感覚ではそうだ。
掛かった本人の思想に共感している呪縛で結びつきが強いと言うことらしい。
何がキーワードなのかは分からなかったと。
剛士の捜査では、王都日報に資金面で不味い所は無いらしい。資金に困ってないと。ただ、先日大きな入金が有った。仮逮捕された鉄哉の母親が大金を振り込んだのだと。これも違法ではない。王都日報はあくまで民間の会社だ。個人から金を受けとるのは気に入らないが。
あと、王都日報には直接影響無いが、王都日報の販売網の各商店に小説の問屋から業務提携の申し入れがあり、受け入れられた。
小説は全て輸入品。
隣国の製品を取り扱い、国内の小説は扱わない契約。
細々とあった国内の小説を全て閉め出した。
今、小説ブーム。
流行れば流行るほど金が隣国に流れて不景気になる。
その小説は挿し絵もバンバン使われていて、単価が高い。扱うネタも男の興味をそそるものばかり。これは売れる。マトモなのもあるっちゃあるけれど。
そして、その小説輸入問屋の経営者はホスト。剛士の調べではホストは真の経営者ではない。本当の経営者は・・・・
「牧子・・・・かもよ」
「沙羅、どうしてそう思うの?」
「剛士の勘だって」
剛士の勘か。
『勘』はバカにしたもんじゃない。その『勘』に至るまで数々の経験を重ね、知識を使っている。
「それと、デートついでに週刊オリハルコンも見てきたわ。あっちは誰も呪縛されてないわよ」
「つまり、根っからの私の敵ということね」
「そ」
デートって言うな!




