鉄哉仮逮捕
鉄哉は屋台で買ったトマトバーガーを食べていた。
トマトバーガーとはパンにトマトウルフの肉を挟んだもの。トマトではない。
鉄哉はこの場所に用事もないのに座ってる。不自然。
その鉄哉を離れたところから見張るケンの手下。
手下はケンがギルマスをする裏ギルドの冒険者だがただの町人に扮している。鉄哉の呪縛が解けてないか不味い行動をしないか常に見張っている。
行動を見張るのも仕事だが、鉄哉の観察が第一目的。
とある家から女の子が出てくる。お使いだろう。
立ち上がり、後をつける鉄哉。
一時間後、雑木林で満足そうな顔の鉄哉が服を整えながら立ち上がる。そして去っていった。
それを監視していたケンの手下達。
周りを見渡し、鉄哉が誰にも見つかって無いことを確かめる。
鉄哉が犯行現場で証拠を残してないか確かめる。
死体の隠滅は時間がなくて無理だ。鉄哉の証拠が残ってなければいい。これも草が生い茂ってるから、すぐには発見されないだろう。
「もう少し待てば良い女に成長しただろうに勿体ねえ」
「いや、あいつは幼い奴しか狙わねえ、本当の抱き頃の女には見向きもしねえ。しかし躊躇いなく殺すとはあの呪縛は凄いな。本当に葛藤しなくなるんだな」
「ほら見ろよ。この歳でこの乳ならもう三年すればいや一年で良い体になったのになあ。なんてことしやがる」
「おまえ、やりたいだけだろ」
「いや、俺はロリコンじゃない。しかし、あの野郎これで三人目か。これでも正気に戻らないのか」
「長居すると危険だ行こう」
「ああ」
最後に二人は少女の息が止まってることを再確認して去った。
この後、鉄哉は何食わぬ顔でオタサーに戻り、中に居た勇者と合流して何事も無かったかのようにオタ話に花を咲かせていた。
勇者がラノベの隠れキャラが他の作品のボスキャラだとか、イラスト集の販売情報の交換を楽しそうにしていた。
「三人目? マズいわね」
牧子は顔をしかめた。
部下の報告を聞いた牧子とケン。
鉄哉は夢游状態で三人も強姦殺人をした。牧子は実験で鉄哉に少女強姦殺人をさせた。夢だから構わないと。そして鉄哉は犯行をやりきった。
夢とはいえそこまで強烈な行為をしながらも、正気に戻って暴れたりしないのは嬉しいことだが、殺しすぎだ。まだやるかもしれない。このままでは誰かに見られて警察に見つけられしまう。警察も必死に捜査してるはずだ。
「鉄哉を消すか?」
「いえ、消したいけれど、鉄哉は勇者の親友よ不味いわ。鉄哉との別れで勇者を刺激したくない」
「暗示で大人しくできないか?」
「やってみる」
牧子は昼寝して虚ろな鉄哉の脇に座り、優しく言葉を掛けた。当然暗示も。
殺しの禁止、女に触れてはいけないと。なるべく刺激的な単語は使わずに。
そして鉄哉は眠そうな笑顔でこう答えた。
「そうですね」
だが二日後、鉄哉は警察に連れていかれた。仮逮捕だ。
四人目の少女の後ろを歩いていた時に警察に腕を捕まれた!
警察は必死だった!
犯罪者を野放しに出来ない。私服警官が町中に居た。これ以上被害者を出してはならない!
少女の後をつける怪しい男。少女を見る目つきが気持ち悪い男を私服警官は見逃さなかった。
決定的証拠は何もない。
怪しい男の噂こそあれ、決定的情報など無い。この逮捕はやり過ぎも良いところ。
だが、ドンピシャだった!
鉄哉を抑えたのだから。
だが、証拠もなければ、自白もない。
そう、鉄哉は否認した。
全く、知らないと。
警察は頭を抱えた。巡回を減らし聞き込みに切り替えて鉄哉の行動を調べ始めた。今のところ決定的なものは無い。
待っても証拠はやはり出なかった。鉄哉の親は会社社長で金持ち。圧力もかけてくる。
そんな中、警察にひとりの女が現れた。捜査に協力したいと。
「あの男ですか」
「そうです」
拘留中の鉄哉を警官が指差す。壁に黒い網のついた覗き穴がいくつかあり、鉄哉の方からはよく見えないようになっている部屋がある。
警察に来たのは涼子のメイドの沙羅。
『嘘は女の武器』というスキルを持つ女。彼女も呪縛を使える女。いわばその道のプロ。
沙羅は覗き穴から鉄哉を観察する。
穴の向こうでは警官が鉄哉を取り調べしているが、進展はない。あらゆる方向から調べるが鉄哉は何も知らないの一点張り。
その様子をじっと見る沙羅。
観察を終え、別室で警官に沙羅が見た感想を説明している。
「洗脳はされてないわ。彼は現在正気よ」
「やはり洗脳はなしか。誤認だったのか・・普段大人しい男が事件起こすなら命令か洗脳されたと思ったんだが」
「どうかしら?過去に呪縛を受けた痕跡はあるわ。結構長い期間ね。でも今は掛かってない。解かれたのかしら?」
この連続殺人事件の情報は涼子の元にも入っていた。
鉄哉というオタが逮捕されたとき、涼子と沙羅は思った。
『牧子と何か関係するのでは?』
牧子のオタサーのメンバーが関係してる? 何かあるのか? 呪縛スキルで何かをしようとした? とにかく放ってはおけない。
それで沙羅が警察に派遣されて来たのだが。
「無関係だったかな・・」
「わからないわ。呪縛がされてないだけで、彼が犯人かどうかは別問題よ」
「ううむ」
そこに若い警官が入ってきた!
「先輩! 四人目です! 四人目の被害者が出ました!」
「なんだと!」
部屋の空気が荒れた!
ある職員は誤認逮捕だったと青ざめ、ある職員は新たな被害者に苦悩し、ある職員はまずは現場に!と、慌てた。
だが、駆け込んできた若い警官の言葉は続いた。
「それと、それと、勇者が!」
『勇者』という予想外の単語に皆が意表をつかれた。
「勇者がどうした!」
「勇者が鉄哉を返せと怒鳴りこんできました!」
「なんだと!」
それは直ぐに来た!
バァン!
「てっちゃん!」
ドアを壊して現れたのは勇者さとるだった!
部屋を見渡す勇者。
鉄哉が居ないことを確認すると部屋を出てまた隣の部屋へ!
警官と職員が追うが怪力勇者相手で無力だ。止めようと取り付いても片手で薙ぎ倒される。
そして二つ目の部屋。
そこは鉄哉の居る取調室。
バァン!
「てっちゃん!」
「さとる!」
「助けに来たぞ!」
「助けてくれ、俺は無罪だ!」
「当然だろ、てっちゃんがそんなことするわけ無い!」
「そうなんだ。いくら言っても聞いてくれないんだ!」
「本当か!あいつら許せねえ・・」
「勇者殿、容疑者を返して下さい」
警官が勇者に向かう。声が震えている。怪力勇者相手に恐怖が止まらない。しかも勇者は王族だ、鉄哉が有罪でも勇者は連れ帰る事が出来るのだ。王族特権とは面倒でちょっとやそっとでは覆せないもの。
「鉄哉にあやまれえええええええ!」
勇者が机や道具を殴ったり蹴り飛ばしたり大暴れをする! だからといって王族には手出し出来ない!
勇者さとるは来た道を逆に戻りながら今まで入った部屋を破壊しながら進む!
後ろからドヤ顔でついていく鉄哉。
さんざん暴れたあと、勇者と鉄哉は去っていった。
警察にはどうにも出来なかった。鉄哉は犯行を認めてないし証拠もない。勇者は王族。
そして、その直前に入ってきた四人目の被害者の報告。
素直に状況を並べれば、鉄哉以外の犯行で鉄哉はその前の犯行の容疑者としての可能性も減る。
後には破壊された警察署だけが残った。死人こそ出なかったが、数人怪我をした。
その中に居合わせた沙羅は思った。勇者さとるは魅惑系の呪縛が掛かっていると。だが、勇者で王族が呪縛に掛かっているなどと気軽には言えない。ここでは口を閉ざすことにした。ボスに相談だ。
ーーーーーーー
数時間前の廃屋。
鉄哉の見張り役だった冒険者が衣服を直しながら呟いた。
「やっぱギルドは最高だ。ヘローワークじゃこんな仕事は無いからな。これで金貰えるんだから最高だ」
「やっぱりお前ロリコンだったじゃねーか。俺には無理だ」
「守備範囲が広いと言ってくれ。今まで見てるだけで欲求不満だったからな。若いのはいいぞ」
「おまえ、変態だよ」
「さて行くか」
「ああ」
わざとドアを少し開けて中が見えるようにして、二人は裏から人目につかないように町に消えた。
廃屋の中にはまだ温かいが二度と動かない柔肌の少女が残された。




