魔導師瑠美という傍観者
「魔法を教えて欲しい? 嫌よ、めんどくさいわ」
瑠美はそう答えた。
諸事情により月刊勇者が遂に廃刊。お陰で魔導師瑠美の『魔導師瑠美の恋愛相談コーナー』も終わった。なのに今でも魔導師瑠美宛の手紙は途絶えない。
瑠美は手紙に必ず返信をした。そして返信封筒には必ず瑠美の著作『魔導師瑠美の恋愛相談集』『現実にあった恋愛エピソード集』『恋人たちの名言・迷言』の注文書を同封している。この注文書を使った場合は割引販売になる。
そして今でも来る恋愛相談も本のネタにされてしまう。そしてこの本は女子の間でよく売れた。
現在の瑠美の小遣い稼ぎ。
「魔法を教えて欲しい? 嫌よ、めんどくさいわ」
涼子の紹介状をもって魔導師瑠美の別宅を訪れた優子。
忘れてはいけない。優子のスキルは魔法使いだ。体を鍛えるのは重要だが、魔法を鍛える事も重要。
優子の使える魔法はあまり多くない。せいぜい魔弾を撃つくらいだ。変身強化は自在に出来るようになった。魔力は引き出せるが使い道がいまいち解ってない。涼子と同調している時は涼子の威圧命令が少し使える。涼子の斬擊剣を自由自在に変形させて使えるが、あれはあくまで剣の力。あと使い道の判らない魔力は肉体強化に使っている。するとついでにシロがハッスルする。
瑠美はめんどくさいだけなのだ。
涼子のことは好きだし、優子もまあ嫌いじゃない。
瑠美は確かにこの国でトップクラスの魔導師だ。勇者パーティーに入る実力は有る。
だが、瑠美が勇者パーティーに入ったのは生活の安定が目的だ。魔王はここ200年現れて無い。この先も会わないと願う。魔王関係なく国がピンチになったなら戦わず亡命するつもりだ。人間同士の争いには付き合う気はない。
まあ、勇者パーティーだから魔王軍が現れたなら運が悪かったと思って出陣するつもりだ。
「どうしても魔法を覚えたいんです。無理を承知でお願いします!決して御迷惑をお掛けしません! 」
「得が無いわー」
「なるべく御礼も!」
「お金は別に困って無いのよねえ」
「じ、じゃ、身の回りのお世話を!」
「使用人いるし、部下もいるし」
「そ、それでも私は!」
必死な優子。
瑠美は後ろの棚から梨のワインのビンをごとんと出した。グラスも。
「私に勝てるかしら?」
優子はひきつった。
まさか勝負を仕掛けてくるとは。しかも酒。
きっと瑠美さんは酒豪に違いない。酒に弱い自分は不利な筈。
だが、これは絶対教えないという訳ではないと言うこと。
こちらはお願いする立場だ。受けるのは当然!
きっと勝てない。
だが、優子は1%の可能性に掛けた!
「頂きます」
悪い顔の瑠美からグラスを受け取った。
二時間後、酔って椅子からずるりと落ちる優子。
「寝かせてあげて」
まるで素面の瑠美がメイドに指示する。
メイドの手でソファーに優子は寝かされた。
因みにテーブルの端でメイドも飲んでいた。梨のワインでなく、赤ワインだったが。このメイドも酒豪。
梨のワインから赤ワインに変える瑠美。まだ飲む。
「どう思う?」
「うぶ過ぎてあきれ返りましたわ」
「やっぱり? まあ、ヒヨッコにしては意思は強いわね」
「どうせ受けると決めてらっしゃるのでしょう?」
「涼子にもお願いされたしね」
瑠美は最初から受けるつもりだった。これはちょっとしたイジワル。勝った負けたでどうするとは言ってない。
魔導師とは貰ったスキル以外の魔法の使い方を会得する人達、出来る人達。
魔法の方向付けをスキルによってされていない存在の魔法使い。優子はそれにあたる。魔力を色んな使い方出来る代わりにスキルによる自動発動は無い。技術を全て会得しなければいけない。ひとつひとつ全て。
かつて若い頃の瑠美も修行した。何人もの師を訪ね、ひとつひとつ修行した。
瑠美にもそんな時代が有ったのだ。頭で理解してもすぐ出来る訳では無い。修行はとてつもなく辛く時間も要した。今のだらりとした瑠美しか知らない人には想像もつかないだろう。
瑠美のスキルは
『ぶちかまし魔法使い』
瑠美は圧倒的な魔力量を持って居た。だが、『魔法使い』となってる者は自動発動魔法を持たない。それは優子も同じ。
その代わり『魔法使い』はどの分野の魔法も会得出来る可能性がある。
耕平さんは『魂の画家』だが、魔法が発動するのは絵や書き物に限定される。ジャンルを越えて発動はしない。代わりに絵や字を書く時には何も考えなくても自動発動出来る。訓練も暗記も必要ない。
さて、優子は飲み始めて二時間で潰れたが、本来なら三十分ももたないはずだ。
優子が頑張ったのもあるが、実際は瑠美がスローペースに持ち込み、二時間優子に喋らせ続けた。
酔った優子は初恋から厚志に至るまでの恋愛歴を全て瑠美に引き出された。
それはもう、幼い頃からの失恋歴をこと細かく。人生初ひとりもぞもぞの話に、現在のひとりもぞもぞの回数にオカズにしてる厚志のパンツの事まで全て聞き出されてしまった。厚志と結ばれない事を受け入れて尚も愛してること、涼子にもバレてること。
その話を全て瑠美に美味しくいただかれてしまった。
青春をほぼ修行に捧げた瑠美。現在の趣味は、人の恋愛話を酒の肴に飲む事である。




