表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/108

嵐の跡

 知らせを聞いた私は王宮に駆けつけた。

 すでにさとるは居ない。



「涼子君すまない・・」



 王は憔悴しきった顔で私に謝った。王が謝るというのは特別なことだ。


 壁に投げつけられて破壊された机、落ちたドア。割れたガラス。壁が抜けた所も。まるで怪獣が暴れたようだ。

 勇者さとるに強奪された5000万Z。

 月初めの支払いの為に用意された現金がごっそり無くなった。国は景気がいいが王宮は財政が火の車だ。原因は勇者さとる。ヤツが金を湯水のように使うからだ!


 腕を骨折しながらも片付けをしていた出納課の職員に今月の支払いリストを貰う。なんて痛々しい。私の財団から直接支払うことにした。ここに現金を一括で持ってくるのは大変だし、さとるがまた来たら面倒だ。それに、ここの復旧作業で職員は疲れきっている。骨折した彼は休んで欲しい。




「君の提案を無視せずに聞いておけば良かったよ。あれは間違いだった」


 私が王宮に来た日。

 スキルを授かった日。


 勇者を横に、そして王を前に私はいい放った。

『私を王の養子にして下さい。そして次期王に』

 と、言った。

 田舎から出てきた初対面の小娘の言うことではない。

 今なら王宮の誰もが認める私。あの言葉を今言ったならば認めてもらえるだろう。

 だが、あの日の私はただの小娘。




 あの日、全てを見て私は確信した。




 さとるが王になったなら国は滅ぶ。勇者とはいえ、さとるはあくまで王より一歩引いた立場にしなければ。

 あの頃のさとるはまだマトモだった。無能だったがまだマトモ。だから王は油断したのだろう。

 そして私には実績がなく信頼はない。王にしろと言うのは身の程知らずもいいとこだと思われただろう。だが、私は自信があった。勇者さとるの起こすトラブルの大部分は金の問題だ。止めれるのは、補填できるのは私しかいない!



 ならば私が得られる最高の立場は何か?

 その質問の答は勇者さとるの婚約者と言われた。

 自分の結婚をこんなところで決断?

 愛しても居ない男と婚約?

 未来の可能性を捨てる?



 そして厚志と別の道を選ぶ。



 このままでは国が滅ぶ。

 国が滅ぶのに比べれば私の結婚が決められるくらい安いものだ。不幸になると決まった訳じゃない。さとるは悪いやつじゃないし、馬鹿なところが厚志を思い出させる。

 人は好きな人と結ばれるとは限らない。

 私もそのひとりに加わるだけだ。


 国にこの身を捧げよう。

 勇者が損害を出す代わりに私が稼ぐ。勇者の尻拭いだ。

 なんなら国を繁栄させてみせる! 故郷の皆んなにも国の皆んなにも住みよい国を作ってみせる!

 それから2年・・・







「涼子君すまない・・」


 王が謝ったのは、金のことだけでは無い。

 2年前の私の願いを聞かなかったこと。


「お金の事は任せて下さい。その為の私です。しかし勇者さとるをなんとかしなければこの先も思いやられます」


「君にはすまないと思っている。あんな男と婚約させて。かといって養子縁組も解消は出来ない」


「今解消すれば勇者さとるは債権者団体の所有物になります。それは恐ろしいのはご存知でしょう」


 そうなのだ。

 さとるは将来王になることで借金を帳消しにしたいと思って居るだろう。放り出されたら借金は全て自分にかかって来る。さとるの実家は庶民の家。無理だ。

 億の借金持ちのさとるを放流すれば、債権者の奴隷だ。それは駄目だ。

 いざというときの『勇者』を失う訳にはいかないし、敵にくれてやる訳にもいかない。

 さとるは努力家ではない。

 今のところ優子に勝てない。

 だが、なにかが切欠で強くなることもあり得る。他の能力者の加護を受けるとか。そう、優子が私の加護を受けて強くなったように。




「スキルを強奪する方法が欲しい・・・・」

 出来もしないことを願った。




 ()()は私達だけではなかった。





 町中で同じようなことが起こって居た。

 息子が家の金を持ち出す、金を出せと家族に暴力を振るう。

 勇者さとるだけでは無かった!


 しかも、会社の金を横領した、返す見込みのない借金をした。


 町がおかしくなり始めた。

 今まで真面目で大人しい人間が金の亡者になる。

 とにかくおかしい!

 その者達は金の使い道を頑なに隠す。

 金はどこへ?

 そして結構な人数が失踪した。



 金は出てこなかった。

 だが、持ち逃げした人たちの何人かは帰ってきた。



 死体として。



 ある者は水死体として。

 ある者は首を吊った姿で。

 またある者は他殺体で。

 何故死なねばならなかったのか?

 全て他殺なんだろうか?

 本当に自殺だった者も居るのだろうか?

 理由が判らない。

 そして、死んだ者と生き続ける者の違いはなんだ?




 そして数日が経ち、また歌姫が殺された。



 歌姫は性的暴行をされ斬り殺された。

 死体は早朝通りに晒されて居た。

 無残に、いや、グロく切り開かれて。

 生前の美しさからは想像もできないほどグロい。

 全ての内臓が出され、消化物と汚物も出された。

 見た人の記憶はこの光景が彼女のイメージになったに違いない。




 いったいこの街に何が起こって居る?

 誰が何をしようとして居る?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ