闇ギルド
真昼の炎天下でのトレーニング。
今シーズン私は暇さえ有ればトレーニングに勤しんでいる。少し前と違い、今は時間に余裕がある。
私の財団に優秀な部下も入った。私も人間だ、いつどうなるかわからない。もしもの時の為に備えは必要だ。
私は経済界で最強。
私の代わりは居ない。
だが、数人で分担しながらなら代わりはいくらでもいるといえる。更にその補佐も居れば万全だ。
人材のスペア。組織では当たり前の備え。
部下には備えをするようにいつも言っていたが、自分自身については何もしてなかった。遅ればせながら漸く体制を整えた。
そもそもこの指摘をしたのは瑠美さん。
暑い。
この後軍の訓練に加わる。まだまた彼等のレベルには及ばない。素の状態だと一番弱い、女性隊員と比べても弱い。あの強さにはどれだけの訓練をすれば追い付けるのだろう・・・・
私の本来の仕事は勇者パーティー。もっと優先するのは世界の番人としての役割。
どちらにしても体が基本。
以前、早朝トレーニングをしていたが、
「爽やかなトレーニングは強くならないですよ」
中央軍所属の達也がそう言った。
もっともだ。
辛さを耐えられなければ事は成せない。強くならなければ!
以前、優子に手合わせして貰った事がある。結果は散々だった。
変身状態で素の優子に負けた! 手も足も出ない。私は己が未熟さを思い知った。そして優子がどれ程の努力をしてきたか身をもって知った!
彼女こそ厚志の守護神に相応しい。
わたしはもっと自分を追い込む事にした。軍に鍛えてもらおうと思ったのもこの頃だ。
ふう。
休憩中、斬擊剣を変形させて遊んでいた。剣を弓に変形させて使い物になるかどうか試していたのだ。弓は加護の力がある。だが放たれる矢はただの矢だ。
何かいい使い道がないかあれこれ考える。
そこに合同訓練に来ていた警察官が話しかけてきた。
「涼子殿。最近の変わった強盗のことをご存知ですか?」
「変わった強盗?」
「挿し絵の絵師が次々と襲われてます。家の中の絵が強奪され、絵師が怪我をさせられてます」
「聞いたことがあるわ。なに考えてるのかしら。強盗して絵師に怪我をさせるなんて。萌え絵は大事なのに絵師は大事でないなんて理解に苦しむわ」
「全くです」
「それでそれを何故私に?」
「昨日、有名な歌姫が襲われました。その女性と友人の女性が拐われ・・・・その」
「何をされたかは言わなくていいわ。生きているの?」
「残念ながら歌姫は・・友人の方は重症ですが生きてました。酷い有り様でした。被害者や周辺の聞き込みをして色々見えてきたんです。ここからは私の仮説ですが聞きますか?」
「聞きたいわ」
「恐らくは全ての犯人は冒険者です。目撃者の話を集めると、犯人は複数で冒険者崩れのゴロツキが混じってたとのことです。その男を知るものによれば、萌え絵に興味は無い筈だと。恐らくは依頼者が存在する。歌姫が襲われた本当の理由は分かりませんが、その冒険者が襲ってるのを見たと証言がありました。冒険者相手で恐ろしくて近寄れなかったと。
それと、現在何処かに裏ギルドが有ると思われることです。町では裏ギルドが有るらしいという噂が立ってます。全ての証拠を説明すると長くなるのでしませんが、働いてなかった元冒険者が集まりつつあります。誰かが何かをしようとしてると警戒してます」
「ギルド・・」
「どこを探しても仕事の受付はしてない様です。恐らくは明確なパトロンが居るのでしょう。誰かの私兵として使われてると思った方がいいでしょう。これから更に探りますが、どんな事実が出るか怖いです」
「つまり、大物か金持ちが私兵にしてると。それは何かの目的で作られたと。私に話すと言うことは経済にも関係するかもしれないと」
「可能性のひとつです」
「情報を有り難う。新しい情報が入ったら教えて頂戴」
「ええ」
翌朝、昨日の警察官は川で水死体となって発見された。手掛かりもダイイングメッセージも無かった。
発見された川は殺された警察官の行動範囲とは離れている。自殺の理由もない。酒も飲んでない。
それは明確な敵が居て、とても強い存在という証拠。そして警察内にも敵が潜んでいるという証拠。
彼は私と会った後に殺された。私と会って話をしたのを見れる位置に居れる者。
これは私に対する宣戦布告。
そして、事件の衝撃も冷めないうちに新な事件が起きた。
勇者さとるが暴れたのだ。
王様に小遣いを要求して断られた勇者さとるは、恥も外聞なく暴れた。王宮をメチャクチャにし、物を投げつけ怪我人も出た。
何に使う金かは想像できる。
最後は王宮出納課に押し入りその日に有った5000万を奪って出ていった。
「これは私の金だ!」
メチャクチャだ!
だが、怪力勇者に誰が逆らえよう。しかも一応王族。
「何に使うのだ! それは国の大事な金だ!」
怒鳴る王様の声に
「うるせえジジイ!」
そう言った勇者さとる。
悠々と去っていく勇者さとるに王宮の者は絶望していた・・・・




