牧子の下地準備
勇者さとるを下僕にできた。
私の未来は大いに開けた。
勇者さとるの婚約者にもなった。
王族や役員から公認は得られなかったが勇者にゴリ推しさせた。
『面倒のない公務なら私が代理をする』
と言ったら勇者は喜んだ。
これで公認されてなくてもあちこち顔を突っ込める。
まだ口は出せないが、行くことは出来るようになった。
私にとって今の『婚約者』と言う立場は都合がいい。
婚約者はセックスしない関係とされている。
勿論、隠れてする者は多い。私は勇者とはヤる気は無い。
別に勇者とセックスするのが嫌な訳じゃ無い。
それは勇者に『生の女の感触』を教えない為。萌え絵より現実の女に靡いたら勇者への魅了と呪縛が解けてしまう。そうなれば私は勇者に捨てられる。女としての魅力なら涼子の方が圧倒的に上だし、私は中の下だ。勇者が涼子と寝てないのは助かった。それどころか仲が悪いのは好都合。
勇者が外に出ずに引きこもるのは大歓迎だ! 外で出会いなんてしてもらっては都合が悪い。その為なら公務代行くらい平気だ。
王宮にはたまにしか入れないが、役所などに顔を出すようになって気付いた事がある。
涼子は世間では嫌われているが、政界・経済界ではとてつもなく信頼されている。
世間での涼子の支持率は1割と言ったところだが、政界・経済界では9割だ!
財務委員の説明を聞いて驚いた。
涼子が勇者の婚約者になり、活躍しだしたら、国内の資産が1.7倍になったという。
あまりの資産増加に、外国は悲鳴を上げている。そりゃそうだ、その金は外国からゲットした金だから。
国内は近年稀に見る好景気。金に溢れ、失業者と貧困者が少なくなった。人々の暮らしは良くなり、外交でも強気になれるようになった。
確かに私が支配してるオタサーの数々も皆富裕層の人間。
働かずに小遣いだけで裕福な生活をしている者も多い。
確かに好景気だ。
ああ、週刊オリハルコンはデマを書いていたのか。
散々不景気だと言ってたのは嘘か。
不景気だと書いてあったのを信じて居た。
ずっと週刊オリハルコンの書くことを信じていた。
私と同じように信じてる人は多い。
『じゃあ何故人々に週刊オリハルコンの書く嘘だらけの事が信じられてるのか?』
私は聞いた。
『人は先生よりも雑誌に書いてあることを信じるのさ。人間は不幸が大好きなのさ』
役員はそう言った。
納得はいかなかったが、現実そうなってる。
『何故、週刊オリハルコンは涼子を攻撃するの?』
『その雑誌社は元ギルドで涼子様が嫌いだからだよ。それに不幸記事は売れる』
なんだ、それは。
国を考えるならば、どう考えても私が涼子を恨んで攻撃するのは間違ってる。
だが、私は私の為に行動する!
私怨だが涼子が憎い。
そして涼子は強すぎる、天才だ。
何日も考えた。
あらゆる面で考えた。
残念ながら、私は涼子のような天才では無い。
それでも考えたのだ!
やりたいことは幾つも有る。
だが、先ずは味方を増やすこと。それと下僕を増やそう!
敵がでかすぎる。
そして目標が遠すぎる。
それを考えれば私の軍資金は余裕がない。
遊ぶだけなら余るほどだが、何かを成そうとするならば億の金でも心もとない。
私は先ずホスト達を味方につけた。
判っている、彼らは私を愛してなど居ない。金の関係だ。
いいのさ、私にとっても下半身のみの関係だったし。
出世のために好きでもない勇者の婚約者になった涼子と私はどれほど違うのだろう?
私は廃屋や橋の下にタダ同然の萌え絵を捨てた。
案外こういうのも人に拾われる。
子供は簡単に食いつく。大人も食いつく。
拾ってこっそり持ち帰る男を何度も見た。
次の日来ると無くなってるのもしばしばだ。
その度にばらまいた。
週刊オリハルコンに広告を出させた。
外国の大紙芝居の広告。それに萌え絵集の通販。それの仲介業と転売業はホストに頼んだ。利益は半分渡すと決めた。多少くすねられても構わない。
地道に活動し続けて、少しずつ効果は出てきた。
町を歩くと、たまに私のスキルに反応する男が居る。
そう、隠れオタが増え始めたのだ。
この国の常識では萌え絵は下劣な趣味とされている。
皆、面に出ない隠れオタ。
だが、私には筒抜けだ。
更に活動を続ける。
遂に役所の中にも隠れオタが現れ始めた!
オタになってしまえばそいつらは全て私の下僕に出来る!
笑いが止まらない!
15歳になった時、『オタサーの姫』というスキルに絶望した。
だが、今やどうだ!
私の下僕だらけだ!
しかも、本人達はその状態を隠して居る。
なんて理想的なんだ!
私はホストの一人に雑誌社を作るように命じた!
週刊オリハルコンとは違い、内容は男性向け小説だ。大説は扱わない。
そして挿絵にばんばん萌え絵を入れた。絵師は外国に発注した。その方が安いからだ。なんなら原作も外国のものを買った。
それを闇で売る。
表立って売ってないのに飛ぶように売れた。儲かった!
そして私の下僕は町のどこでも手に入るようになった。
協力してもらった絵師と原作者のいる国から密かにVIP待遇も得られた。
あちらの国にも会社を秘密裏に作った!
笑いが、笑いが止まらないよ!
待ってろよ涼子!
お前に地獄を味あわせてやる!
お父さんを苦しめた報いだ!




