牧子
私は牧子。
スキルは『オタサーの姫』だ。
このスキルを授かったときは絶望した。死にたくなった。強力なスキルか使えるスキルを夢見てたのに。
誰にも話したことは無いが私の父親は冒険者だ。
たけど、父親と話した事はない。
母さんが出入りするギルドによく居る冒険者が私の父だろう。
きっとあの人だ。
逞しくイケメンな中年冒険者。
『あの人がお父さん?』
そうお母さんに尋ねたが返事は曖昧だった。でも私はあの人がお父さんだと思うことにした。
お父さんは私の憧れ。
お父さんは私の目標。
15歳になったら戦闘系スキルを貰って冒険者になってお父さんの横に立つ!
それを目標に生きていた。
だが『オタサーの姫』、このスキルはあんまりだ。
私の夢は叶わなかった。
人に言えないスキル。
スキルを尋ねられれば笑って誤魔化すしかなかった。人はそれ以上聞いてこない。世の中、言えないスキル持ちは沢山居る。
それでも冒険者になりたかった。一度お母さんに冒険者になりたいと言ったら猛反対された。私は冒険者の子なのに何故反対するの?
私に怒鳴り散らすお母さん!
私は家をとびたした。
どうにでもなれ!
いや、堕ちてしまいたい!
感情の高ぶった私の足は私をとあるオタサーに運んだ。
スキルが発動してたのだろう。
スキルに導かれるままドアをくぐる。もうひとつドアをくぐる。
そこは異世界だった。
変な匂いがたちこめている。溢れるほどの萌え絵に囲まれた大勢の男達がこっちを見る。
さあ、襲えよ!
美人ではないけど無抵抗の若い女だぞ!
めちゃくちゃにしろよ!
もう私はどうなってもいい!
だが、暫くして私はその部屋のなかでお姫様に祭り上げられていた。
は?
は?
口説いた訳でもなければ、交渉したわけでもない。
こいつらの趣味はさっぱりわからないから、それを誉めた訳でもない。
誰にも襲われてない。
なのにここでは私は姫。
彼等は私の言いなりだ。
まるで私が王様。どうしてこうなった!
私の人生は変わった!もう家には帰らない。
ここで暮らす。
むさい事を我慢すれば良いことだらけだ。
まず、働く必要がない。
これだけ下僕がいれば私ひとりくらい簡単に養える。
女を磨かなくても彼等は私を敬う。一応それなりにはしてるが。部屋であれがほしいなと独り言を呟けば次の日には誰かが買ってくる。なにこれ最高なんだけど。
だが私のスキルが通用するのはこの人達を相手にしたときだけ。部屋の中だけでなく、外でも私は姫。
ただ通用するのがこの人達だけ。
町の男には私は見向きもされない。そういうものか。
私も年頃の女だ。セックスをしてみたかった私は町で色男を何度も買った。あいつらはいつまで経っても襲ってこないから。
金はあいつらの金だ。
あいつら滑稽だな。
そして今でも私が処女だと信じてる。
そして、暫くして色んな事を覚えた。下僕を下僕として維持するためには生身の女を味会わせないことだ。彼等は萌え絵が大好きだ。現実の女より好きだ。
しかし、生身に敵わない物がある。
それは『感触』
女に触れさせてはいけない。それは私を含めて。
以前、ちょっと顔がいいオタと寝た。
当然そいつも姫である私に惚れている。事は簡単に運んだ。
だが、彼の呪縛が段々弱くなり、数日後には我々の元を去った。
オタク状態でしか私は惚れられない存在。そいつが生身の女を抱いたせいで萌え絵の興味が段々薄くなり、遂には私の魅了や呪縛が解けてしまった。
そしたら、生身の私にも興味を持たなくなった。その程度の女なのか、私は。
以後、寝る相手はホストだけにした。
そしてその間に世の中は変わった。ギルドは無くなり、冒険者は居なくなった。
お父さんは何処に行ったのだろうか? 旅に出たのだろうか? 逮捕されたのだろうか? 行方はわからなかった。
その後、ギルドの裏側が世間に晒され・・・・・・
私の父親が誰だか判らない事を知った。
お母さんはギルドの言いなりで、ギルドが金に困ったときに冒険者に抱かせる女のひとり。お母さんはギルドに借金が有った訳では無い。暴力で脅されていた。
そうして生まれたのが私。
だから冒険者になりたいと言った時にあんなに怒鳴られたのか。
だけど、
どこかで私はあのイケメンが私の父親だと信じている。あの美しい人の血を引き継いでいるのだと。
確かめる方法はない。
そんな頃だった。
勇者さとるがが来たのは。
国一番の有名人。
国一番の戦士。
次期王様。
そして新な私の下僕。
涼子という絶世の美人を婚約者に持つ勇者さとる。
まさかと思ったが、私のスキルの支配下になった!
ついに来た私の春!
勇者が私の下僕!
『オタサーの姫』はハズレスキルなんかじゃない!
超アタリのスキルだ!
涼子の言うことを聞かない勇者さとるが私の言いなりだ!
萌え絵に見境無く金を注ぎ込む勇者。
勇者が持ち込んだ金は私が管理した。いや、私が貰った。勇者には適当に仕入れた萌え絵を渡す。
ここの人達は勇者を含めて私に逆らわない!
働かずにこんなに金が手に入るとは!
億の金が私のものに!
一応、金を引き出すには名目をつける。
大紙芝居への予算。これが新なネタ。
資材買い付け先には私の愛しい男の持ち会社をあてがった。
作品なんて完成しなくても構わない。どうでもいい。更に勇者がのめり込むように、勇者を総監督にした。
これで上手くいく!
ある日、勇者が金を持ってこなかった。
私の前に立ちはだかった存在。
勇者の形だけの婚約者。
涼子。
私の金の障害。
お父さんの敵。
どうしてくれよう、この女。
ズタズタにしてやる!
私は勇者に命令した。
私と婚約しろと。




