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新たな婚約者

 春の梅祭り。



 春と言うより冬の終わりに行われる三日間の祭り。

 これが終わると農業が本格的に始まり、雪が無くなったことで今まで通れなかった山道も人が行き来し始め物流も増え、町も活気づく。


 去年は屋台の売り子の中に厚志が居た。今年は何処を見ても居ない。

 勇者さとるが厚志に話しかけたのもその時。あれからもう一年も経ってしまったのか。村を出てもうすぐ二年。村を出たときに感じた未来へのときめきはもう無い。



 勇者パーティーは祭りに来賓として呼ばれる。特に何をしてるするわけではない。歩き回って主催者や自治会長に挨拶する程度。我々は居なくても困らないのだが顔を出す。行事とはこういうものだ。


 祭り会場を回る。

 私、瑠美さん、そして新な勇者パーティーメンバーの牧子(まきこ)


 そしてここに勇者さとるは居ない。



 サボリだ。



 新メンバー牧子はさとるの代役として来ている。彼女は戦闘力の高いハイスキル持ちでは無い。かといって耕平さんやさつきさんのように素で強い訳では無い。

 彼女のスキルは『オタサーの姫』だ。


 そして彼女はさとるの非公認婚約者だ。


 王族も勇者親衛隊も反対したが、さとるは強引に婚約してしまった。

 さとるが首を突っ込んでいた大紙芝居サークルの人気の女子だった牧子を口説いて婚約したという。

 まあ、人気と言っても女性は彼女しか居なかったという。男は20人も居たが。

 閉鎖された人間関係のなかで女ひとり。私だったらなんか嫌だ。

 そして、大紙芝居サークルの姫で勇者の婚約者。既にサークルは彼女の物だろう。


 それで、何故さとるがサボっているのか。

 それは数日前に遡る。


 やけに甘い声を出して私にすり寄ってきた。仲良くしよう、涼子は綺麗だ、これから頑張るぞ。


 そしてさんざん明るく話して最後に言ったのは、


『ちょっとお金を工面してくれないか』


 やっぱりか。

 さとる個人の借金は三億Zを越え、王様からも数億Z出させた。勇者パーティー予算からもつまんでる筈だ。

 いよいよ金が手に入らなくなって私にせびりに来たか。そしてやはりさとるは働く気は無い。


 勇者には悪いが断った。

 私にとって家族以上に大事な厚志にしたことは忘れない、直接手を下してないとしてもだ。それに無駄に消えるだけの金、大紙芝居を大量に作り始めたのにひとつも完成しなくてほおり投げたのは知ってるぞ。誰が金を渡すか。



 そしたら業務ボイコットしやがった!

 以後、公務は全て牧子が代理として出席している。平和なこの国、勇者代理に戦闘力は要らない。しかもさとるは何も出来なかったから代理も当然なにも出来なくていい、居るだけでいいのだ。




「用も済んだし帰りましょう」


 私はそう提案する。

 挨拶するべき所は皆回った。


「見ていかなくていいの?」


 瑠美さんが私に気を使う。

 もうすぐ床太鼓と太鼓の演奏の時間だ。

 今日の為にメンバーは血のにじむような練習をした。本来ならスポンサーの私は観るべきだろう。私も最前列で応援しながら見たい。

 だが、嫌われ者の私が彼等の近くに居ると迷惑になる。関係者だと言うことは伏せておくことにしてる。


「瑠美さんは見たいの?」

「見たいわ。新しいものは好きよ」

「なら、私は運営本部で待ってるわ」

「素直になればいいのに」

「あら、素直よ」



「私も疲れたので座りたいです」

 後ろの牧子が言う。

 彼女は太鼓に興味無いようだ。歩いているだけなのに疲れたというのは嘘だろう。


「でも折角だから遠くからでもいいから見ていきましょう。涼子はいろいろ遠慮してるけれど、牧子は好かれてるかもよ」


「瑠美さん。そもそも私のことなんて誰も知りませんから」


 結局瑠美さんの言うとおりにして少し遠い所から太鼓を眺めた。

 瑠美さんは私に気を使ってるのかもしれない。



 床太鼓と太鼓の演奏は圧巻だった。今回の為に設営した仮設会場。随分金が掛かった。成る程、床と壁と屋根が有ると音が凄い。圧が来る! きっと発案者は近くでドヤ顔してるに違いない。発案者の男、こんなに凄いものを作ったのに音楽には興味が無いとは不思議だ。



 床太鼓を鳴らしながら踊り狂う女三人。長い袖と裾を振り回しながら踊る姿は時に天女を思わせる。それに床太鼓の物凄い重低音。大太鼓も低音が凄いが更に凄い。全身に響く。メロディーラインは小太鼓。

 一曲目、沙羅がセンターに立ち床を突く為の杖も使い踊る。三人同時に杖で床を突くとなんだか引き締まる!

 二曲目、直子社長がセンター、直子社長だけ小太鼓を持つ。多分一番歓声が多いかも。三人のなかでは彼女が一番男性からの人気がある。

 三曲目、私の教えた祈祷の舞い。優子が踊り、左右の二人はバックダンスに。

 この三人のなかでは優子が一番身体能力が高い。そんな優子の舞いは地味なのに大きくて雄大だ。ここに見に来てる人達は優子が優姫だなんて知らないだろう。


 祈祷。

 きっと優子も私と同じ事を祈り踊っている。

 厚志に会いたいと。

 帰って来て欲しいと。





 終わった。

 観客は大喜びだ!

 ステージ代わりの床太鼓の上に全員乗り終演の挨拶をすると会場は歓声と拍手に包まれた。

 大成功だ。

 良かったよ皆!

 毎日練習したかいがあったね。私も嬉しい。


 演目の後は子供達が床太鼓に登ってばたばた踏み鳴らして遊んだり、太鼓を叩いてみたりして賑やかだった。ひょっとしたらこの子供達のなかから将来の音楽家が生まれるんだろうか?

 そんな先のことは知らない。

 だけど今日だけでも楽しんで貰えたなら嬉しい。

 なにより私が楽しかった。有り難う。



 瑠美さんが棒を拾ってそこらへんの物を叩き、こんこんとリズムを刻む。影響されたようだ。

 ふふっ。












「ふーん」



 ただ牧子だけが冷めていた。

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