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教授と調べ物

 教授に会いに碧邪魔学院に来た。


 軽い偽装。

 私のメイドのひとりのスキルだ。


『嘘は女の武器』


 変わったスキルだが、これが役に立つ。彼女と一緒に行動すれば私と気付かれずに行動するくらい造作もない。頼りにしている。

 自分の能力を工夫したりすれば仮装も出来るが、彼女の方が応用が効く。

 そもそも立場的に一人で出歩くのは控えたい。


 彼女が私に嘘をふっかけないのか? 害を成さないか?


 実は私は彼女のスキルを自力で打ち破った唯一の人間。

 以来、彼女との関係は良好だ。人の中を泳ぐ彼女はとても有能。情報収集に特別手当てを払うこともある。

 私の事を書き殴る『週刊オリハルコン』には絶対渡せない人材。


 二人で学生の振りをして校内を歩く。部外者だからすぐバレて目立つ筈だがするっといくのが彼女のスキルの凄いところ。

 中庭では三人組バンドユニットが練習していた。

 男性ボーカルは貧困と権力者に夢を潰された弱者をメロディで語る。権力者って、名指しはされてないがモロに私の事。



「上手いわね。売れそうね」


「怒らないんですか?」

「構わないわ」


「あれ、私だったら怒鳴りこむわ」

「今更私の評価は変わらないわよ」


「相変わらず冷めてるわー」

「そうかしら」



 所詮は他人だ。

 いちいち突っかかってもしょうがない。

 週刊オリハルコンにネタを与えるだけだ。


 ああ、音楽界にも私のバッシングブームが来たか。

 うんざりする。

 だが、経済を回してくれるなら歓迎する。恨まれ役なら幾らでもするわ。


「なんかしてやろうかしら!」

「いいのよ。ほおっておきなさい」


「いくらなんでもウチのボスをあれだけコケにされたら頭にくるわ」

「そう言ってくれるだけで嬉しいわ」


「ボスは何もしなさすぎよ」

「貴方は私の秘密兵器のひとつなんだから、こんなことで使うわけにはいかないわ」


「Go!してくれれば私が全力で潰すのに」

「一番敵にしてはいけないのは貴方ね」


「分かってるなら帰りに拉麺奢ってね」

「わかったわ。店を決めておいてね」

 一人で拉麺屋に行くのは辛い。それは私も。彼女は自分の欲求を言ったようで私に気を使ってるのかも。



 そう。

 このメイドが本気になれば私の悪い噂を払拭出来るかもしれない。しないけど。

 それどころかこのメイドに私の加護を与えれば国すらコントロール下に出来るだろう。私すらコントロールされそうだからしないけど。

 物理攻撃では無力だがとんでもない戦力だ。


 だが、彼女はむやみには力を使わない。

 昔、憧れの男をスキルで手中にしたことがある。暫くして後悔したという。操作して造った関係が作り物に見えたんだそうだ。あんなに恋い焦がれた男が作り物に見えて・・・・別れた。


 ちょっとしたものなら簡単に手に入る。

 そして彼女は欲求がなくなった。

 今、彼女は私のメイド。

 私と行動を共にすると面白いものが見れて飽きないのだそうだ。





「お久しぶりです」


「おお、待っておったよ」


 久しぶりに会う教授は眼鏡の度が強くなっていた。


 簡単な挨拶と世間話のあと本題に入る。ある事を調べてもらったのだ。


「涼子殿の言うとおり、魔王軍は210年前を最後に進軍していない。それ以前はおよそ30年周期で戦って居たようだが」


「やはり」


「どうやら涼子殿の仮説は当たってるようだ」


 本当のことなんだがな。

 一応、魔族の聖剣のことは伏せてある。これだけは言うわけにはいかない。


「真実通りに記録されてるかは解らないが、当時、魔国を滅ぼしたと書かれておる。だからもう襲っては来ないと。当時は受け入れられたようだが、この話は無理が有る。どんなに優勢でも遠征軍だけで国ひとつ全域は滅ぼせない。やはり、休戦協定を交わしたというほうがしっくりくる。ただ、その時の権力者の都合なのか、休戦ではなく勝利に書き換えられたのだろう」


「この国に定期的に勇者が現れるのも当然ですね。魔王は存在してるのですから」


「涼子殿の仮説通りなら、勇者は意味もなく現れることにしておいた方が良いだろう。その方が何もなくて平和じゃからな」


「教授、これも仮定の話だから聞き流して欲しいのですが」


「前も聞き流せと言ったのに聞き流せない内容じゃったな」


「ふふ。ひょっとしたら女神はわざと無能に勇者を与えてるのかもしれませんよ? 何らかの理由でどうしても勇者は作らなければならない。でも、休戦を女神は容認している・・」


「聞き流した方が良さそうじゃな。無能勇者と言えんわ。ワシの首が飛ぶ」


「私が止めますわ」


「頼むよ本当に。老後くらいは穏やかにすごしたいからの。

 それで、どうするのだね?」


「どうもしませんわ。調べただけです。もう満足しました」


「そんなもんかのう。さてと、この四半期の報告じゃ」


 教授はとあるファイルを私に見せる。受け取ってチェックする。


 私は今季から教授に働きかけて、卒業が近い者と卒業生のなかから自営業を始めたがっている人に融資してもらっている。今季は2億Z預けてある。惰性で続く自営業は萎むだけだが、やる気に溢れる若者は大事だ。

 選考と融資金額はすべて教授に任せてる。

 教授には、遠慮しないように言ってある。これは投資だが、博打か散財だと思ってもらっていいと。

 ざっと30件の申し込みがあったが、教授がピックアップしたのは8件。

 私としては10人に投資しても生き残るのは1人だと思っている。でもいいのだ。はっきり言えば、ばら蒔きだ。しかし、その過程で色々なものに金を使い世の中に金が回る。それ自体に価値がある。

 ひょっとしたら成功者が出るかも知れない。会社設立でも屋台でも構わない。

 ふらりと寄った屋台でちょっと珍しいものが食べられたらそれだけで価値がある。



 リストに目を通す。



「教授、予算まだ余裕ある?」


「半分も使っとらんよ」


「四行目のボツの奴、投資していいわよ」


 ファイルを教授に返す。

 それを開く教授。



【バンド活動資金の申請】



「この者は流石に・・」

「中庭に居る人達でしょ?」


「見たのかい?」

「ええ」


「いいのかい? あの曲はやめさせるが」

「いいのよ歌えばいいわ。ヘイトのパワーが消えたら彼らの勢いも無くなるから」


「しかし・・」

「いつも言ってるじゃない。悪役なら私が引き受けるからって。私の名前も出さないでね」


「わかった。涼子殿がそう言うなら」


「ボス、いいの?」

「いいのよ。曲はいい曲だもの、あれは売れるから怒らないわ」


「嘘ばっかり。ホントはムカついたんでしょ」

「実はちょっとね」


「涼子殿は太っ腹だのう。ならもうひとつ」

「なに?」


「回収率はゼロなんじゃが、楽器を作って鳴らしたいと言ってる者がおる」

「あら、いいんじゃない?」


「それがのう、楽器が問題でのう。大きさがこの部屋程の大きさがある太鼓なのだが、屋外では使えず、屋内でのみ。しかも本人は演奏する気がない、つまり作りたいだけじゃ」

「誰か演者はいないの?」


「居ない。それどころか試作品すらないから音も判らず作曲が出来ん」

「なんとまあ」


 教授は別のファイルを取り出しめくって、イラストを見せてくれた。

 これはステージの形をした太鼓、いや、鳴らし台。

 それが音質別に四基。

 その上に大太鼓。これはよく有りそうな発想。

 そう、問題は台の方。足で鳴らす太鼓と思っていい。正面に大穴が開いていて、その形と長さで音を決めるらしい。でかいし他に使い道が無い。

 置きっぱなしで、普段ステージにと言うわけにはいかない。




「面白そうね、儲からなくてもいいんでしょ? ボス」



 食いついたのはメイドだった。

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