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ダンジョン! 新たな英雄

 今年も碧邪魔学院特設ダンジョンの季節が来た。




 世間の私へのバッシングは物凄い。あまりの酷さに政界へは余り顔を出さないようにした。それでも議決権を持つ者には私の支持者が多い。彼らのお陰で私に少し自由時間が増えた。だから今回のダンジョンに向けていくつか準備をすることが出来た。

 私へのアンチの人達は私がさとるに大差でやられる所を見て『ざまぁ』して楽しみたいらしいが、素直に負ける気は無い。ダンジョンで私はさとるに負けるだろう。


 だが、ただでは済まさない。



 最近のさとるといえば、勇者親衛隊長の助言に従い積極的に外に出ている。

 ニートが外に出るのは喜ばしい事だが、少し違う。

 はっきり言えば城から逃げてる。業務を放棄して小言を言う者たちのいる城から逃げている。

 町に出ればそれでも勇者は人気がある。勇者だから。

 さとるはチヤホヤされて喜んでいるようだ。

 私の人気と反比例してさとるの人気は上がる。

 触れ合えばさとるが無能なのは直ぐ分かるのだが『憎めない無能』『馬鹿だけど良い奴』というポジションを手にいれつつある。

 黒幕は勇者親衛隊長。

 勇者には人気だけ稼いで貰って自分達の立場を上げて仕事をしやすくしたいのだろう。


 さとるが個人的に力を注いでいる物がある。


『萌え絵』だ。


 最初見たときには頭がくらくらした。

 物理的、現実的にあり得ないスタイルの女が恥部丸出しで描かれている(全部では無い)

 更には頭の上から耳が生えて尻尾があったり、触手なるものにレイプされてる絵。それどころか【自主規制】とか【自主規制】と【自主規制】なんてことも。【自主規制】も平然と使われる。


 それはまだいい。

 個人の趣味だ。とっても気に入らないが個人の趣味だ。


 問題はそのサークルに身分を隠して所属している。いや、皆知っている。気付かれてないと思ってるのはさとるだけだ! 自分で自分のスキャンダルをばら蒔いている! 馬鹿か!


 それだけならまだいい。さとるが堕ちるだけなら。

 さとるはどういう名目で手にいれたのか知らないが、このサークルに2億Zの金を注ぎ込んでいる!

 さとるは借金持ち、小遣いは無い。

 金はきっと王様か国の予算のどちらかから引き出したのだ。


 そしてこのサークルはその萌え絵なるものは作ったり描いては居ない。全て隣国から輸入してる。

 二億も払ったんだからさぞかし大量にあるのかと思ったら、たったの350枚・・・・

 どう考えてもぼったくられている。

 だが本人達(さとるを含む)は神殿の女神像より有り難がってうっとりしながらその紙を眺めてる。


 因みに神殿の女神像は石膏だが、平均価格45万Zだ!(設置費用込)



 あんの野郎!







 碧邪魔学院特設ダンジョン開始!


 今年はいつもと違う。

 冒険者が居ない。

 だからといって農家が増える事は無い。この時期農家は忙しい。

 農家は昨年度総合二位の米農家耕平さんが出ている位だ。耕平さんも当然忙しいと言っていたが、招待選手として来てもらった。


 もう一人の有名人のさつきさんにも出てほしかったのだが、今回は欠席。

 理由は、



『妊娠❤️』



 ダンジョン会場はどよめいた!

 昨年の表彰式の主役だったし!

 さつきさんは子供の出来ない体と聞いていたが、さつきさん曰く、

『私の体質より耕平の生命力が上回った』

 だそうだ。


 私が歩いても影口だらけだというのに、耕平さんが歩くと御祝いの嵐!


 羨ましい・・・・



 碧邪魔学院特設ダンジョン途中経過。


 クリアタイム

 1位 米農家耕平 140分36秒

 2位 魔導師瑠美 280分12秒

 3位 西軍代表総一朗 281分01秒


 8位 経営コンサルタント涼子 320分42秒


 去年より私は少し上がった。もう少しトレーニングしたかったが、これが精一杯だ(変身なし)




 ポイントランキング

 1位 経営コンサルタント涼子 140071P

 2位 中央軍代表達也 68115P

 3位 西軍代表総一朗 61401P


 瑠美さんは6位。

 ここで私が負ける訳にはいかない。タイムよりポイントは評価は低いがこれは譲れない! 私の意地!




 歓声が上がった!

 勇者さとるの登場!


 手を振り声援を受けるさとる。私ではあり得ない声援の量。

 知っているよ、開催中毎日学園の萌えサークルに入り浸ってたな。仲良しさんの応援が凄い!

 まあ、それはいい。

 そのサークルメンバーからダンジョン構造の情報を聞いていたな?

 他の学生が溢してたぞ。

 全てがお前の味方ではないぞ? 不正を嫌う学生からは確実に軽蔑されたな。

 それと同時に感じたのは私にも何割かはファンが居ると言うこと。これに私は救われた。

 ありがとう。



 そして・・


 2度目の歓声が上がる。

 アタックが終わったか。


 勇者さとる

 クリアタイム 135分50秒(1位)

 ポイント 80018P(2位)



 そうか。

 クリアタイムで1位は確実だろうから、私の威厳を削る為にポイントに振ってきたか!

 アイテム探しは『前もって予習』したのだな。()()()()を持ったな。


 そのくらいでは私は抜けん。だけど世間の評価は伸びた分を誉めるだろう。落ちたタイムのことはスルーだろうな。



 ここから色んな団体の招待選手の時間。毎日最後の一人は団体の招待選手。

 最終日は私達のショータイム!


『エントリーNo.29 ファッションスタジオ直子所属 優姫さんです!』


 優姫?


 聞きなれない名前に会場が静まる。


 その中をかつんかつんと歩く長身銀髪で切れ長の目の美女。勇者さとるより若干背が高い。

 高級な虎縞熊の毛皮のマントにグラマーな身体がちらちら。腰には長短合わせて五本の剣。

 先導する直子社長とその後ろの優姫。

 美しい!


 会場は()()に釘付けだ。

 さっきまで勝利者気分だったさとるまで狼狽え始める。嫌な予感がした? いつもならこのまま表彰式でいい気分の時間だもんね。

 そうはいかない!



 優子はステージ上。私は来賓席。この距離なら楽々念話が通じる。


『優子、準備はいい?』

『勿論よ。壇上は気分良いわね』


『ぶちかまして頂戴!楽しみにしてるわ。何本で行くの?』

『2本で充分だと思う。3本使ったらダンジョン壊しそう』


『アイテム場所の情報いる?』

『自力で大丈夫だと思う。聞いちゃうとそればっかりに囚われるから』


『そう、応援してるわ』

『楽しみに待ってて』


 などと、会話してるのは周りには聞こえない。直子さんも知らない。

 側の直子さんはドヤ顔だ。



 アナウンスが響く。

「では29番スタート!」


 マントを直子社長に預けた優子が駆ける!

  向かうはダンジョン入り口!

 そしてあっという間に見えなくなった。

 そして司会者から優姫にあっという間に第一セクションが突破されたと報じられ、終わったセクションスタッフから中での優姫の勇姿が興奮気味で解説され、会場がどよめく。

 あまりにも優姫の戦闘能力と速度が凄まじかったから。それははっきりとは宣言してないが、口ぶりから勇者以上を連想させるものだった。


 そして、次々とセクション情報が報じられる。

 報告の間隔があまりにも速い、速すぎる!


 そして遂に、

「ゴーーーール!」

 アナウンスが響き渡る!

 どよめく会場!

 益々ドヤ顔の直子社長。

 どう考えても速い!

 タイムを聞かなくても判る!


 青ざめるさとる。


 再び豪華なマントを着け、会場に手を降る優子。

 会場に起こる『ユウヒメ』コール。

「ユウヒメ!ユウヒメ!ユウヒメ!

 ユウヒメ!ユウヒメ!ユウヒメ!」


 因みに、『優姫』と書いて『ゆうこ』と読ませるつもりだったのだが、いつの間にか『ユウヒメ』に定着してしまった。だいたい大会スタッフが悪い。


 鳴り止まないユウヒメコールを司会が無理やり静める。



「えー、只今のNo.29の結果が出ました。

 く、クリアタイム 49分00秒 122109P

 とんでもない記録です!」



 勇者さとるは 135分。

 優姫は 49分。しかもポイントも上回った!


 優姫と直子社長のハイタッチ!

 優姫と耕平さんとハイタッチ! (知ってた)


 あちこち向き直る度に美しいマントが靡く。目立ってる目立ってる!


 そして私も壇上に上がる。

 優子の前に行く。



『優子、やるわよ』

『涼子、ほんとにいいのね』

『決めた事よ』

『わかった』



 皆が見ている。


 皆は同じようなハイタッチを予想しただろう。





 私は優姫の目の前で膝をついた。

 まるで優姫を主とするがごとく。どよめく会場。


 勇者パーティーの私が勇者以外に膝をつく。

 あからさまな勇者への当て付け。

 本来なら許されない。


 だが、この圧倒的スコアが味方になった!

 以前から勇者が頼りない、いや無能という評価はあった。しかし、『勇者だから』ということで目を瞑っていた。

 新たな強者の出現で沸き立つ者。それでも勇者を推す者。

 ステージに現れた私をここぞとばかりに糾弾する者。もうカオスだ。中には優姫の靴を舐めろという訳のわからない怒号もあった。

 色々な声が飛び交っているが、どの言葉にも共通するものがある。それは『優姫が今日の勝利者であり、主役』ということ。

 納得いかないのは勇者さとる。



「何をしてる涼子! ふざけるな涼子!」


 怒鳴り散らす勇者!

 当たり前だ。顔に泥を塗られた様なもんだ!

 1位を奪われただけでなく、大差を開けられ、部下(わたし)のせいで大恥をかいた。


 真っ赤になる勇者に、




 優姫が一歩出る。

 私は喋らない。


「勇者よ。この剣を叩き落としてみよ」


 優姫は剣を片手で持ち、身体の前、水平に構える。

 子供の練習相手でよくやるポーズ。


 はっきり言って馬鹿にしている。

 頭に血が登ったさとる。

 だが、さとるもまずいかも知れないと思った。あのタイムは異常だ!

 ここで穏和に引くべきだったが、下でサークルメンバーが焚き付けた!

「勇者!頑張れ!」

「行け、勇者!」

「ゴー!勇者!」


 サークルメンバーは勇者を心から応援していた訳じゃない。面白い見せ物が見たかっただけだ。どっちが勝とうがどうでもいい。



 己が象徴の聖剣を抜き中段に構える、力を込める勇者さとる。金色の光が聖剣に集まる、本気だ!


「しねえ!」


 ガンッ!





 勇者は本気だった。理性などどこにも無かった。それこそ、剣だけでなく、それを持つ優姫ごと斬るはずだった。

 だが、優姫の剣はびくともしなかった。

 驚く人々。


 あまりのタイムとスコアに実は不正が有ったのではないかと疑う者も居た。

 だが、この一撃で全て吹き飛んだ!


「筋はいい。練習すれば大成するだろう」


 優姫のあまりにも上からの言葉。勇者のプライドはズタズタだ。

 更に涼子が追い討ちをかける。


「あなたも優姫に遣えませんか?」


「誰が!」


 さとるは泣きそうになりながら去っていった。

 勇者スキルで得た栄光は消えた。

 いや、勇者スキルがありながら一般参加の女に負ける者という汚名。しかも、3位とも僅差。



『最後の剣は心臓ばくばく!』

『涼子、大丈夫だって言ったでしょ?』


『だって、だって!』

『落ち着きなさい涼子。伊達にさつきさんに鍛えられてないわよ』


『うわあぁぁん、よかったあーーー』

『泣かないで涼子。大丈夫だから』



 そう、優子は斬撃剣を得て強くなっている。

 しかしそれだけではない。

 日々、耕平さんちで農作業をして、仕事の無い日もさつきさんをトレーナーに筋トレと訓練の日々を送った。涼子と誓いあったあの日から。厚志の守護天使になると決めたあの日から。

 厚志は居ない。

 だが、その日が来たときの為に日々鍛えていた。



 引きこもっていたさとるとは違うのだ。

 さとるが日々精進していたならば、ここまでの差はつかなかった。


 だって、勇者だから。



 今年も碧邪魔学院特設ダンジョンは物凄いフィナーレだった。





 新たな英雄が生まれた。

 その名は、


『ファッションスタジオ直子専属モデル優姫』



 職業名はまさかのモデルだった。

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