初仕事!
俺は厚志!
男子たるもの稼がなければならん!
早速ギルドの短期バイトを物色中だ!
【薬草採取】
おおう、新人冒険者っぽい仕事発見!
冒険者の物語は薬草採取で始まるものだ!
そしてその後見知らぬ若い女と知り合ってパーティーに誘われるのが定番だ!
いざゆかん!
そう言えば、メロンの名前はなんて言うんだ?
『受付さん』じゃあんまりだ。『お姉さん』じゃなんかの怪しい店の様だ。
カウンターに居てくれれば良かったのに、奥に居る。なんて呼び出せばいいんだ!
『おーい!』でいいのか?
「たのもー」
「あら、さっきの涼子様の知り合い君」
「厚志だ。この仕事を受けたいのだが」
「駄目です」
「何故だ!薬草採取は無資格でもできるのだろう?強さは関係無い筈だし」
「駄目ったら駄目です!」
「何か必要なのか?」
「駄目なものは駄目ですってば!」
くっ、何故だ!
俺の冒険者デビューを阻むメロン。
そこに俺と同じくらいの歳の女の子が現れた。
「よいしょっと」
女の子は如何にも真面目地味子。
地味子はカウンターに背負っていたデカイ荷物を乗せた。うむ、顔は若いがまるで山菜つみのおばちゃんだな。
「依頼の薬草です」
おおう、薬草採取の先輩か!
しかしながらメロンは冷たい。
「こんなところに持って来てもらっても困ります。依頼主の『田痛商店』に行ってください」
「え?ギルドで受け渡しではないの?」
「都会育ちの私達が見分けつくわけ無いじゃないの。しかもカウンターいっぱいに広げて確認してたら私の本来の仕事が出来ないわよ」
「ギルドじゃないのお・・」
「当たり前じゃない、田痛行け!」
メロン冷てえ!
女の裏表を見たぞ。
すごすごと荷物を背負い直して、それでも丁寧にお辞儀をしてとぼとぼ立ち去る女の子。
なんか可哀想。
もっと優しくしてやれよメロン。
しかし、あの娘と俺にどのような差があるのだ?彼女が特殊な技能持ちには見えないが。
よし、話しを聞いてみよう。
俺は真面目地味子がギルドを出てしばらくした所で声をかけた。
「しょこのおにょいさん」
しまった!
噛んだ!
ジェントルメンが台無しだ!
「は、はい」
「しゅ、しゅういません。やややくそうおおお」
更に噛んだ!
なんで地味子に向かって緊張してるのだ、俺!
お前が照れて赤くなるからだぞ、地味子!
それとも俺がタイプなのか?そうなのか?
前髪を弄るな!
襟を開くな!
あ、胸も地味子だな。
すまん、俺は涼子一筋だ!
「あの、約束はしていませんが」
「しゅみません。約束じゃなくて薬草・・」
あ、また!
「ぷっ!緊張しなくていいですよ。この薬草はあげられません。これから納めに行くんです」
「いや、そうじゃなくて、薬草採取のクエスト受けたんですよね。薬草採取って特別なスキルが必要なの?」
そうだ。
ひょっとしたらこの地味子はスキル『薬草採取』とか持ってるのかもしれない。
それなら俺がメロンに断られたのも判るわ。
「いえ、薬草採取は誰でもできる筈です。私のスキルも関係ないものですし」
え?
技能関係なし?
「因みに・・」
「私のスキルは『カッコいい魔法使い』です・・恥ずかしい・・わ」
「ええっ!」
「その、恥ずかしくてなかなか使えないんですよね」
「お、おう・・」
なんだよ、カッコいい魔法使いって。
カッコいいのか?この真面目地味子が。
この真面目地味子、見た目からだと、『押しに弱くて騙されやすい真面目地味子』だぞ?
「あ、貴方は?」
「お、俺は『お得な剣士』だ。さっき冒険者登録終わったところだ」
ぶっ!
地味子がフいた!
お前も涼子と同じ反応かよ。
「くっくっくっ!
あの、ぶっ!
すびません、わ、笑いが、くっくっくっ!
失礼しました。
良かったら組みませんか?私もまだ無所属で受けれる仕事が殆んど無いんです、ソロだと貴方も辛いと思いますよ」
笑いを封じ込めた地味子がそう言った。必死に笑いを抑えてるのか真っ赤な顔で青筋が出てる。
この申し出は悪い話じゃない。
成り上がりの定番『最初の仲間』来たぜ! しかも若い女の子だ。
魔法使いだぜ?
都合良すぎだろ!
「それは願ってもない。組むぞ!」
「わあ、嬉しい! ところでなんで薬草採取の事を聞くんです?」
「ああ、俺がギルドで薬草採取受けようとしたら、断られたんだ」
「へえ、そうなんですか。不思議ですね。でもなんか理由が有るんでしょう」
「ああ困ってるんだ。薬草採取出来ないと新人ソロの仕事の大部分が無くなるから、チームを組んでくれるのは有難い」
「私の名前は優子」
「俺は厚志だ宜しく頼む」
そして俺たちは田痛商店に一緒に行った。チームだからな。
「待ってたよ優子君」
なんかガラ悪そうな親父が出てきたぞ。本当に薬関係の人か?
「依頼の薬草です」
そういうと優子は背中のデカイ荷物を店の中の台に置いた。
「はいよ」
店の親父は中身も見ずに優子に手形を渡した。
「これをギルドのねーちゃんに渡しな。報酬が出るし報告書にもなる」
「はい。有り難うございます」
優子は手形を大事に懐に仕舞い、丁寧なお辞儀をして店を出た。俺も続く。
さて、またギルドに来た。
カウンターでメロンに田痛商店の手形を出す優子。
だが、どうもメロンの様子が変だ。
「あの、どうして厚志さんが居るんですか?」
「はい。厚志さんとは今日からパーティーを組むことになりました」
途端に目を剥くメロン!
「本当ですか厚志さん!」
「本当だ」
「お待ちを!」
そういうとメロンはカウンターから奥の部屋に入ってわーわー何かしら言って戻ってきた。そしてメロンをゆさゆささせながら外に走って行ってしまった。
「なに?」
「わからん」
暫くするとメロンはぜいぜいしながらカウンターに戻ってきた。
なんだなんだ?
「優子さん、口座と現金のどちらが宜しいですか?」
汗だくながらも事務的に接してきたメロン。
なんなんだ一体。
「現金で」
「は、はい」
慌ただしくメロンは代金を用意してカウンターに出した。それを受けとる優子。
「これで依頼は終了です。それから!」
大慌てでカウンターから出てきたメロンは俺の手を乱暴に掴み、俺を引きずって奥のエリアに走った。
ギルドの奥の階段を登り、廊下を走り、とある部屋に連れていかれる。
ん?
ここはメロンの自室か?私物だらけだ。
部屋では俺とメロンの二人っきり。そして迷いなく何も言わずにメロンは俺の手を掴み、自分の服に入れた!
しかも両手!
どわー! 生メロンすげえ!
でけえ!
やわらけえ!
あったけえ!
しかも、メロンからだぞ!
「厚志さん、この事は他言しないでください」
「言いませーん!」
当然だ、こんなこと知れたら涼子にも優子にも嫌われてしまう!
「それと、厚志さんと優子さんは今後薬草採取禁止です!田痛商店にも近寄らないでください!」
「それは何故だ?」
手をもにょもにょしながらメロンに聞く。
「駄目ったら駄目です!」
「教えて」
更にもにょもにょ。しかも摘まむ。
「うっ! 駄目です!優子さんにも駄目って、ううっ!説明しておいてください!」
「えーそんなー」
わざと話を伸ばす。ふっふっふ。もにょ。
「ばらしたら涼子様にこの事ばらします!」
!
しまった!
快楽に酔って罠に掛かってしまった!
慌ててメロンのメロンから離れる!
「約束、いえ、取引です」
「くっ!」
「戻りましょう」
「ああ」
もっと時間稼げばよかった・・
しかし一体なんなんだ?
そんなに俺に薬草触らせたくないのか。
「遅かったですね」
「ちょっと用事がありまして」
「逢い引きしてるのかと思いましたよ。でも、それにしちゃ短いし」
ぎくっ!
「いや、ちょっとね、さあ帰ろう優子さん」
「あら、優子でいいですよ」
「あ、はい」
表を二人歩く。
「さっきは何してたんですか?」
げ、冷や汗が出る。
あ、思い付いた!
「サインを頼まれていたんだ」
「サイン?」
「優子さん、あ、優子。内緒にして欲しいんだが、俺は勇者パーティーの涼子と結婚する男だ。ギルド嬢には涼子のサインを頼まれた。内緒だがな」
「え!涼子様!凄い!」
そうだろそうだろ!
「でも、涼子様は勇者さとるの婚約者・・」
「あれは一時の気の迷いに違いない!真実の愛は俺に有る!赤ん坊の頃からの付き合いだからな」
「あー」
「うむ」
「まー」
「はっはっは!」
「ドンマイ!」
俺と涼子が結婚できないと思っているな優子よ!
だが愛は勝つ!
「そして優子よ、明日からは冒険者らしい仕事をするぞ!パーティー組んだんだからな!」
「あ、そ、そうね」
これでいい。
薬草にはもう関わらん!
繰り返す、これでいい!
さあ、明日から頑張ろう!