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夏が来る

 最近仕事がつまらない。



 望んだ居場所。

 最高の環境と自慢の成果。


 一番見てほしい人がここに居ない。

 何処にいったの厚志。


 動けない私の代わりに優子があちこち探してくれた。成人の儀以来、厚志と一番一緒にいたのは優子だ。

 王都内、農村、街道に、食堂。何度もまわっても居ないという。

 各所、各社の記録を漁ったが厚志の名前は何処にも無かった。厚志が何処かに就職したという報告はない。

 少なくとも王都には居ないし、周辺の集落にも居ない。


 厚志。

 私に愛想を尽かせたならそれでもいい。ストレートに愛情表現してくれてたのに振った私のせいだ。他の男の婚約者になった私に厚志の事をあれこれ言う権利はない。

 ただ無事を知りたい!


 何処にいるの?



 今、勇者さとるとの仲は最悪だ。

 こんな奴の婚約者だなんて虫酸が走る。しかし婚約解消は勇者さとるからしか出来ない。解消の権限は私にはない。


 厚志がバイトをクビになった経緯を聞いた私は勇者さとるの棟に怒鳴りこんだ!



 だが勇者には会えなかった。



 勇者は引きこもっていた。

 厚志にやり込められ、厚志の非道を周りの者に訴えたら誰も同調してくれなかった。勇者はそのまま部屋に引きこもってしまった。

 引きこもっているといっても、部屋ではなく棟なので生活のための施設は揃っている。食事は棟の入り口にワゴンに用意しておくと、勇者が持っていくのだそうだ。とんだニートだ!


 仕方なく私は勇者さとるの側近を集めてあの日の事を問い詰めた!

 側近達全員集めることが出来た。なにせ、勇者が引きこもってこの人達はやることが無い。

 話を聞いて判ったのは、勇者さとるは鍛冶屋を脅迫しては居ないということ。


 じゃあ誰が?


 人を忍ばせて鍛冶屋や周辺住民に聞き込みしたが犯人はわからなかった。


 恐らくは第三者だろうと結論づけた。

 勇者のファン。

 私に恨みを持つ人。

 厚志を恨んでる人。

 ただのイタズラ。

 思い当たる事が多すぎる。

 そしてこれはきっと迷宮入りする。


 一月後、勇者さとるが漸く棟から出てきた。

 見た目は勇者スキルのせいで変わってない。太りもしないしガリガリにもならない。やはりさとるは部屋以外では常に勇者スキルを発動している。素の姿を見せたくないらしい。見たくも無いが。


 そしてさとるは言った。


「涼子との婚約は解消しない! あんな人でなしに涼子を返さないからな!」


 厚志、相当憎まれている。



 そして、勇者が引きこもりを脱した事で勇者の腰巾着をしていた勇者親衛隊長がイキりだした。


「まさか勇者の婚約者という身分のお陰で、色々恩恵受けたのに稼ぐだけ稼いだら逃げるとかしないでしょうね? もしそうならとんだ結婚詐欺師ですな」



 この野郎!

 だが言い返す訳にはいかない。今は我慢だ。

 私は今や私利私欲でなくて国全体の利益の為に頑張っている!

 なのに『独裁』『権利欲の塊』『守銭奴』と罵る奴だらけだ!


 改めて私は敵が多い!

 悔しい。

 そして厚志に入れ込めば厚志にまた危険が及ぶ。

 厚志と結ばれないのはもう仕方無い。だが厚志の安全だけは譲れない!




 私はどうしたらいい。





 そして夏が来た。







 夏、国内のギルドへの一斉ガサ入れが行われた。

 この国のギルドは12件。

 元は13件だったが、1件優子が潰した。

 結果は酷かった。

 12件のうち、

 行政指導のち営業継続1件。

 廃業5件。

 検挙6件。


 保護された女性は30人にも登った。保護された者はまだいい。行方不明の若い娘は年15人は居る。

 皆、ギルド相手ではどうにもならなくて行方不明のままだった。売られた者、殺された者、手掛かりすら残ってない者。

 冒険者とは家業も継がず就職もせず短期の仕事で都合よく高額を稼ごうとする人達。ありもしない一攫千金の話に踊らされた人達。それを囲い混むギルド。

 腐敗は当たり前だった。


 私の経済改革の影響でギルドは不景気になり、弱体化してようやく内部に切り込めた。マトモな神経している冒険者はとっくに足を洗って就職してギルドには居ない。

 町の治安は一気に良くなった。


 厚志も既に冒険者ではない。登録していたギルドが無くなったからだ。


 ギルドへのガサ入れに私は関わって居ない。

 だが、私の幼馴染が冒険者でなくなった後に行われたギルドのガサ入れ。

『幼馴染が冒険者登録を外れるのを待って行われた』

 そう噂が流れた。

 無論、これは作り話。

 だが、噂は広がるのが早い。噂の信憑性など関係無い。


 偉人と成功者ほど叩かれる。

 勇者まで『厚志をひいきしたな!』と、罵る。

 だから私はガサ入れには関わって無い!

 だが、無能勇者には通じない。



 私の道は棘の道。

 敵がどんなに大きくても一人なら楽だ。

 だが、大衆相手には終わりがない。



 とある廃業したギルドが雑誌社を始めた。これがよく売れた。


 内容は私を責める内容ばかりだった。9割は作り話。

 情報元は不明。

 私が有力者相手に枕営業してるとは嘘も良いところだ。勇者の婚約者なのに許せんと。


 私は処女だというのに。


 政界は私の味方だったが、全員というわけでは無い。







 国の為に頑張った結果がこれ?



 慰めてよ厚志・・・・

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