失踪
久し振りに優子はギルドに来た。
ギルマス、久し振りに見た。
いつもなら今日子さんのいる場所にギルマスが居る。
ギルマスは五十代の太った男でいつも奥の部屋でたいして仕事をしない。
ギルドの業務はいつも今日子さんが一人で切り盛りしてる。
「すいません。今日子さんいらっしゃいますか?」
「あんた誰だい」
なんか見る目がいやらしい。そして何となくだけど信用出来ない。一年前なら何も思わなかったわ。
この男怪しい。
「冒険者の優子といいます」
「いないよ」
「あの、いつ戻られますか?」
「知らないね!勝手に居なくなったからな。他に用がないなら帰りな!」
「し、失礼しました」
怒鳴られて慌ててギルドを出た。
おかしい。
居なくなった?
厚志の話なら今日子さんはここに住んでいる。
勝手に居なくなったと言うだけで済ませられる?
なによりあのギルマスが信用出来ない。
今日子さんを見かけたら教えてくれとも言われなかった。以前、様子がおかしくなかったか?とも聞かれない。
今日子さんどこに?
お昼に厚志の居る鍛冶屋に来た。厚志なら何か知ってるだろうか? それにこれは厚志に教えなければならないような気がする。
仕事の邪魔をするのは悪いが、お昼なら工場は休み時間だろう。
店に入る。
「ごめんください」
「いらっしゃい」
以前見たお爺さんが店番をしていた。私はお爺さんを知っているが、お爺さんは今の私を見たことは無い筈。
「お仕事中すいません。厚志さんに会いたいんですが」
お爺さんは私を暫く見て、目線を手元の帳簿に向けた。
「辞めたよ」
「辞めたっていつ!」
「三日前だ」
「今何処に?」
「さあ知らない」
「どうして辞めたのっ?」
「・・・・」
「何かあったの!」
「・・・・」
「どこに行くとか言ってなかった?」
「・・・・」
それきりお爺さんは沈黙してしまった。あとは何を聞いても答えてくれない。
仕事が辛かったのか、何かやらかしたのか、期間終了だったのか、辞めたのか辞めさせられたのか。
「帰ってくれんか」
最後はそれだけだった。
ここにいないなら下宿? ギルドには居なかった。
大急ぎで厚志の下宿に走る!
見えた!
窓に洗濯物は出てない!
下宿のおかみさんを探す。
居そうな玄関脇のエリアに呼び掛ける!
「すいません!」
「なんだい?」
昼寝中だったらしいおかみさんはダルそうに出てきた。
「厚志さん居ませんか?」
「厚志君は三日前に出ていったよ」
「どうして!何処に!」
「さあね。えらい落ち込んで帰って来たんだよ。朝なのに」
きっと仕事を辞めた後だ!
落ち込んでるって何があったの?
仕事を辞めたって次の仕事を探さずに部屋を出るってどういうこと!どこか遠くに行くの? 私に何も言わずに? 仲間よね、私達!
厚志の異変に胸が苦しい!
どうしてその時私はそこに居なかった!
悔しくてしょうがない!
「あんた、厚志君の恋人かい?」
「い、いえ。その・・仲間です・・」
おかみさんは私を見た。
素の私はどう見えるんだろう?
能力使ってない時の私は弱くて地味で小さくて。
厚志の隣に並べるような女じゃない。涼子さんの半分も魅力があればいいのに。変身すると綺麗だなんて言われるけどアレは本当の私じゃない。
「厚志君やらかしたそうじゃない」
「え?」
「私も直接見た訳じゃないけど、勇者に楯突いたって言うじゃないの。まずいよそういうの。聞いてないかい?」
おかみさんの言葉は衝撃だった!
おかみさんも聞いた話だが、牛売りと肉屋と勇者のトラブルに厚志が割って入った。結果、勇者の顔に泥を塗ったと。
厚志は間違ってないよ!
勇者がわるいんじゃん!
じゃあ、バイトもそのせいで?
私はおかみさんに礼を言って再び鍛冶屋に走った!
店にはお爺さんがさっきと同じように座っていた。
私はお爺さんに詰め寄った!
「厚志をクビにしたんですか! なんで厚志がクビになるんですか!」
私を見たあと下を向いたお爺さん。ダンマリか!
「なんか言ってください! 教えて下さい!」
お爺さんは喋らない。
「なんで厚志が辞めなきゃならないの!なんでよ!」
私らしくもなく怒鳴る!
でも、お爺さんには通じない。悔しい!
私があんまりにも煩かったのか奥から他の人が出てきた。
「お嬢さん、済まない。この通りだ」
この人はすまなそうに頭を下げる。でも何も教えてくれない!
「おしえてよ!」
大声で怒鳴ると二人はすごすごと土下座を始めた。
余計イラつく!
おしえてよ!
堪らず表に飛び出した。
泣きそうだ。
店の外には数人の野次馬が居た。ぼそりと声がする。
「脅迫されたんだ」
驚き声の方に向く。
今言ったの誰?
声の主は?
それきり誰も答えなかった。そして皆散り散りに去っていった。
店のほうを見る。
脅迫?
厚志が?
いや、内容は多分『厚志を辞めさせろ』だ。
なんでお店の人達はダンマリ?
怖い相手?
表の人達もなんでもっと詳しく教えてくれないの? 怖いから?
厚志が消えた。
勇者に楯突いた。
あれ? 今日子さんが消えたのは関係ある? 仲は悪く無い筈。関係するの?
私は路地裏に隠れてマントを落とし、魔力を解放した! 更にそこから涼子の剣を持ってもう一段変身!
『涼子!』
必死に涼子に呼び掛ける!
駄目だ返事が無い。向こうは発動してない。
なんて不便!
どうする?
そうだ、ギルドで厚志の記録!
ギルド!
走る!
バァン!
なんで戸が閉まってる!
再びギルドに来るとさっきと違って男の冒険者が五人。カウンター前にはギルマス。
なんか朝と違う。
「姉ちゃん、今日は終わりだよ。帰りな」
なんかおかしい。
いや、聞くことだけ聞こう。
「厚志という冒険者を知らないか」
「知らん。帰れ」
くっ!
「それとも遊んで行くかい?」
「おお、いいな」
この男共は!
「俺はこっちの女がいいな」
こっちの?
その時だった!
「 ぃゃぁぁぁぁぁぁっーーー」
建物の奥のほうから女性の悲鳴。
知ってる声だ。




