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物欲炸裂

 剣探し二日目。




 涼子と優子は打ち合わせ通りに朝の同時刻に能力を発動。当然顔を合わせる事はない。剣は優子に預けっぱなしだ。涼子の所にはダミーの安物の剣があるだけだ。



『おはよう』

『おはよう。今日も頼むわ』


『涼子、アレが届いたんだって?』

『ええ、昨日の夕方着いたわ』


『どう?』

『これ足の感触が堪らないわ。癖になりそう』


『直子さんの発想は凄いわね』

『まさか家具に手を出すとは思わなかったわ。早速自室に敷いたわ』



 ファッション業で生きていくと宣言していた直子さん。

 春の新作はまさかの家具だった。


 田舎暮らしを始めたが、まだまだ仕事は軌道に乗ってはいない。

 人気の大型獣は滅多に手に入らない。そして直子さん自身がまだまだ弱くて狩りが下手。

 直子さんファンクラブの面々と山に狩りに出れば、皆、直子さんを口説くのに必死で時間ばかり無駄にした。この冬の収穫は耕平さんとさつきさんが狩ってきた虎縞熊一頭だけ。今のところ直子さんはこの虎縞熊の皮を使わずに干している状態だ。冬に冬物作る訳にはいかない。

 焦って裁断して無駄にしたくないし、既に春。デザイン決定は晩夏まで待ちたい。そのあと製作に入り、秋後半に御披露目出来れば最善。ただこの時期は畑も忙しい。

 結婚するなら米農家がいいと思い始めていた。米の方が野菜より早い時期に終る。


 そして、

『耕平はあげないわよ』

 と、さつきさんに釘を刺されていた。


 さて、直子さんの新作はグレープウサギの絨毯だ。


 グレープウサギというのはこの国のでは安価な肉として扱われる。一度の出産で5~8匹の子供を産む。とにかく増える。

 食用の家畜としては都合がいい。ただ、小型なので調理人は捌くのがめんどくさい。それと出回り過ぎて消費者から若干飽きられてる。

 たまにトマトウルフの肉が入荷すると主婦はそっちに殺到する。



 つまりグレープウサギは安い。




 直子さんは安く手にはいるグレープウサギの毛皮を四角い板に貼り、床用毛皮パネルを制作した。仕事の無い冬場には丁度良い作業だったそうだ。

 一枚物でなく、パネルにすることで色んな形の部屋に使え、踏む頻度の高い場所と少ない場所を入れ換えながら使えば寿命も伸ばせる。一枚一枚は軽いので男手無しでも敷いたり剥いだり出来る。

 そしてこの国の常識では部屋であっても靴を履く(田舎を除く)

 素足で踏む毛皮は新鮮だった。気持ちいい。




『ベッド脇の左エリアだけ敷いてみたわ。なかなか気持ちいいわ』

『そんなに!』


『ええ、優子には秘密にできないから言うけど、メイドが見てない隙に裸で寝転んでみたわ。最高だったわ』

『私もやりたーい!』


『そのうち評価が上がると値段つり上がるから今のうちに買った方がいいわよ』

『欲しいけど、下宿暮らしだしなあ。物増やせないのよ』


『それは仕方ないわね。実際、掃除と管理は大変ね。私はメイドが居るから良いけど』

『それ羨ましいわー』


『早速直子さんに家具業者を向かわせたわ』

『なんで直子さんに作らせないの?』


『それはね、これに取り掛かると直子さんが経営者になっちゃって本業のファッション業が出来なくなるから。経営の中核に居ると自由時間が無くなるものよ。恐らくはこの商品はアタリよ。でもそのうち価格競争で悩む事になるわね。権料貰って早く次に取り掛かったほうがいいわ』

『そういうもん?』


『そういうもんよ。ほっといたらファッション業しないで終わっちゃうわ。デザイナーって凝り性だから経営したら今度は数字に懲りすぎるわ』

『ああ、それは駄目だわ』


『チーフデザイナーの役職は用意してあるわ。恐らくはそこが落とし所ね。あと染め業者にも声をかけてあるわ』

『染めねえ。色増えれば面白そうではあるけれど』


『面白いわよ。染め業者から向かう子もデザインの天才らしいから。天才とぶつかった時に直子さんがどうするか興味津々よ! 反発しあうのか競争するのか取り込むのか取り込まれるのか。これは今後の参考にするわ』

『涼子。悪魔みたいって言われない?』


『たまにね』

『やっぱり』



 そして優子(ふたり)は剣探しに町に出た。


 午後。

 今日は昨日のような事件もなく六件目に。

 そこは店舗を持つ加治屋。小さい店。


「いらっしゃい」


 八十才くらいのお爺さんが座っている。

 店先にあるのはせいぜい十本程度。


『この店って』

『ええ、厚志がバイトしてる筈』


『いないけど?』

『工場だと思うわ』



 優子は店内を見回す。

 力の有る剣の存在は感じない。

 お爺さんに声を掛ける。


「『強い剣』が欲しいんだが」


 敢えて強い剣と言う。

 丈夫とか切れる剣とは言わない。


「そんな良い剣を持ってるのにまだ欲しいのかい?」


 お爺さんは優子の腰の剣の事が判る?


「この剣の事を知ってるの?」


「うんにゃ、わからん。それでも只物では無いくらいは判る。若いのに良い剣持ってるとは何者じゃい?」


「ただのマニアよ」


「マニアのう。お前さんの求める剣はそこには無いのう」


 確かにここに並んでいるのは新品の普通の製品ばかり。


「古い物は無いかしら?」


「こっちに来なされ」


 お爺さんがおいでおいでと手を扇ぐ。

 お爺さんが座ったまま後ろを向く。

 そこには箱に詰まった古物の剣。


「業物だった物も有るが、今やただのボロじゃ。誰も買わんなら溶かして材料にするだけじゃ」


 古物置き場の奥は工場だろう。見えないがカンカンと音だけが聞こえてくる。きっと厚志も要る筈。

 仕事を頑張って居るんだろうか? 顔を見たい。でも邪魔をしてはいけない。

 心ごしで感じる涼子の心は動揺している。まるで初恋の小娘のようなドキドキが伝わってくる。

 今向こうでどんな顔をしてるんだろう? ハアハアしてるんだろうか? そう考えたら心ごしで怒鳴られた。涼子はテンパってるようだ。


 箱のなかに一本だけ灰色の剣がある。刀身だけで柄は着いてない。

 手に持つ。


「ああ、それは失敗作じゃ。また溶かすんでそこに置いてある。小僧が挑戦してみたが駄目だったんで途中で止めた奴じゃ」



 小僧。


 きっと厚志だ。


 灰色。

 焼けた鉄が冷めた色。

 厚みがない。

 折れそうだ。


「これを頂こう」


「駄目じゃ」


「 ! 」


「そんな剣を人様に出す訳にはいかん。お前さん、小僧の知り合いか? 奥ばっかり気にしおって。だとしても店としては売り物にならんものは売らん」


 見透かされている。


「これをくれてやろう」


 お爺さんは別の箱からナイフを取り出した。小刀として使うにも小さい。やはり果物ナイフ程度。


「あの小僧に研ぎ練習させたときの小刀じゃ。500Zでどうじゃ?」


「頂くわ」


 財布から500Z出して渡すとお爺さんはナイフを古布で巻いて渡してくれた。



 厚志のナイフ。




「厚志には黙っていてください」


「そうかい」


「では」





 優子は静かに店を後にした。









 優雅に静かに店を出た優子。


 周りの者には解らないが、優子の中は大騒ぎだった。


『それ私の!』

『買ったのは私!』

『そもそもそのお金も私の!』

『500くらい払うわよ!』

『私の剣あげるわよ!』

『それとこれとは別!』



 ふたりの争いは暫く続いたが最後は、


『優子は厚志のぱんつゲット出来る距離にいるんだからいいじゃない!』


 と、半泣きで涼子が言ったことで決着した。



 数日後、厚志のぱんつが一枚消えた。

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