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繋がる心 離れる心

 こんな強い(ひと)が泣くなんて。




 全てが終わった後、なに食わぬ顔と平時の姿で厚志を保護した。冒険者たかし達を倒したのは『通りすがりの剣士ふたり』だ。私達ではない。


 冒険者たかし達は最期は住民達に殺された。

 厚志が目立つのもマズいし、涼子さんがそれに関わったとバレるのはもっとマズい。あの町の人たちは私達の事は知らないはず。

 私達はダンマリを決め込む事にした。



 厚志は何ヵ所か打たれた所が痛いが骨は無事で流血も少しだけで、身に起きたことから考えれば軽症だ。水と食料をとってなくて弱って居たが回復するはず。


 帰りは割高だが馬を借り涼子さんと厚志さんが乗った。私はユニコーンに一人で乗った。正直ユニコーンには乗れるが普通の馬は乗ったことが無いし手綱をさばけない。シロは手綱をさばけない私でも私の意のままに走る。

 厚志は乗馬は出来ないので涼子さんに乗せて貰っている。


 王都に後少しと言うところで厚志は『降りる』と言った。馬の脇を歩く厚志。

 暫く進んだ後、『もう部屋が近いから大丈夫』と、厚志が別れを言い出した。こんなことの後だから一人にしたくないと思ったが、厚志は拒否した。


『涼子。勇者の婚約者なんだから俺と一緒にいたら良くないよ。もう平気だから行ってくれ。もう涼子に迷惑はかけないし結婚してくれなんて言わないから。俺が彷徨くと迷惑になるから。でも涼子のことは応援してる。いろいろ巧く行くことを俺も願ってるよ。じゃあね』



 厚志は町に消えていった。



 追って厚志を慰めるべきなのだろうが、そうしなかった。


 もっと心配な人がここに居たから。

 涼子さんの斬撃剣を持っていたとき、私と涼子さんの心は繋がっている。お互い全てが筒抜けだ。

 感じたのは涼子さんの厚志への想い。

 しかもこんなに手遅れになってから気付いた。気付かなかった方が苦しまずにすんだかもしれない。

 何度も割りきろうとしてたのに出来なかった。自分のいる世界に厚志は耐えられない。遠ざけようとした。勇者との婚約は振り返らない決意・・・・

 本当は側にいてほしいが割りきった。


 でもきっと少しずつ心の奥で壊れはじめていたのだろう。

 厚志が強姦されそうになって心が割れた。普段なら理屈で行動する涼子さんが感情で動いた。



『勇者の婚約者なんだから』



 心臓を鈍器で殴られたような衝撃。

 私と涼子さんの心はまだ繋がっていたのだろうか。彼女の痛みが手に取るように分かったから。

 才女で美人でハイスキル持ち。間違いなど犯さない人が犯した最大の過ち。



 厚志を選ばなかったこと。



 本来なら簡単に手に入った、いや、そもそも持っていた。

 厚志が強姦されそうになって初めて自分が勇者と婚約した時の厚志の苦しみを知った。才女のくせにこんな簡単な事を解らなかった。


 涼子さんを愚かだと思う。

 涼子さんを汚いと思う。

 涼子さんを哀れに思う。


 誰も居ない池のほとりで座り泣き続ける涼子さんを抱きしめる。


 今は泣いていいよ、私の同士さん。



 そしてこう語りかけた。

 壊れた彼女がこれ以上壊れないように。


「涼子さん、ふたりで厚志を守りましょう。何があっても」





 泣きながら彼女は頷いた。

 お互いの本心を知るもの同士の誓い。

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