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屋根の上の老婆

「嬢ちゃん、いいこと教えてあげよう」




「なんだあ?テメエは!」

 私より先に冒険者たかしが反応した。

 攻撃が止まった! 正直助かった!

 冒険者たかしは私の相手をするのに本気を出さなくなっていた。

 そう、弱いものを甚振る様に攻撃してくる、私にとっては屈辱的な笑みすら浮かべていた。



「なあに、もうちょっと戦いが面白くなる様にお節介さ」

 屋根の上から話し掛ける、老婆。

 私は息を切らせながら老婆を見た。




 フルパワーで初めて使う『斬撃の女王様』


 おかしい。こんなに弱いものなのだろうか? 不慣れなのは確かだ。

 スキルフルパワーでは私の衣装が変わる。

 そう、この破廉恥な露出の多い格好はスキルフルパワーの効果だ。この姿は恥ずかしくてとても人には見せられない! 外で見せたのはこれが初めてだ恥ずかしい! アイマスクは優子の愛用品を貸してもらって着けている。 優子が2枚持っていて助かった! 優子も変身した後の恥ずかしさ対策でアイマスクをすることが有るそうで持ち歩いていてくれてよかった。

 そして、私の正体を隠すことにより、冒険者たかしの行動に遠慮なく手出しできるので一石二鳥だ! 

 これなら冒険者たかしに勝ったからと言っても勇者の婚約者の立場にも影響しない!

 果たして私は勇者さとるの婚約者に成ったことが正しいのか間違いなのかは判らないが、『謎のブラッククイーンマスク』ならば問題先送りできる!

 このこっぱずかしい格好さえ我慢すれば問題に縛られることは無い!

 なにより厚志の命が第一。



 だが、まさかのフルパワー状態で劣勢。



 そこに老婆が現れた。




『聞こえるかい』


 頭の中に声が響く。

 耳から聞こえる声ではなく、私の記憶の中の声でもない。

 目の前の冒険者たかしは反応してない。やはり私にだけ?


『今私は嬢ちゃんの頭に直接声を送っているのだよ。よく聞きな。スキルを勘違いしてないかい?』


 老婆は私にそう伝えた。



『斬撃の女王様』

 初めてスキル放出した時は驚いた!

 あまりの恥ずかしい格好に死にたくなった。

 あの時は側にメイドが居たが、見たことを必死に口止めした。

 たとえ王族相手だろうがこのことをバラしたら末代まで呪ってやると! そしてメイドにこれより恥ずかしい格好をさせると圧力をかけた(おどした)

 あまり言いたくは無いが『これはきっとSMの女王様的な使い方が効果的』と推測した。あまり人前でやりたく無い・・だが、厚志の為!

 この剣もムチに変形すればあるいはもっと効果が有るのかもしれない。でも果たして今の状態で剣よりムチがいいのか? 剣は意思で形状変化できる、だけど・・・



『嬢ちゃんは女王様なんだよ。どーんと構えてりゃいいのさ。だからね・・・・・・・・・・・・』

 さらに続く老婆の言う内容に驚いた!

 いいんだろうか?


 それから老婆は優子の方を見る。


「え?私?」


 何かに驚いている。

 私には聞こえない。


「本当に私が?」


 老婆は優子の方に向いたままだ。

 優子に送信しているんだろうか?

 何を送っているかは私には判らないけど、さっきの老婆の教えてくれたことが本当なら!


 私は冒険者たかしが気を抜いてるのをいいことに跳躍力を強化して後ろの屋根に飛び乗った!


「ブラックウイザード(優子!)マスク!」


 私は私の『剣』を優子に投げた!


「え!うそ!本当に?」

 まだ踏ん切りがつかない優子!

 放物線を画いて飛ぶ剣が優子の目の前で静止する!まるで意思を持っているかのよう!

 それをゆっくり手に取る優子。

 突如優子が青く光り異変が起きる!

 優子の体格が一回り大きくなり、身につけて居た痴女衣装に金色の金属の装飾が追加され、剣には法力が込められると言われてる水晶が柄に込められた!


 そこに立つのは美しく逞しく強い魔法剣士!これが優子?





 そして私はこう言うのがきっと正しい、いや言うのだ!


「ブラックウイザードマスクよ!その冒険者たかしを倒しなさい」


「御意」


 優子の返事は低く落ち着いた声だ!

 まるで歴戦の猛者のよう。

 そうか、私のスキルは斬撃能力を部下に与えられるのか。そのための女王か・・・

『女王様』ならば、ひょっとしてこの能力を複数人に与えられる? いや、今は考えまい。


『その通りだよ、お嬢ちゃん。だがその人数はお嬢ちゃんの能力で変わるからね。あんたはまだまだひよっこだよ』


 頭の中を読まれている!


『もう大丈夫だね。じゃあね』

「もっと話を!」



 私は老婆の居た方を見たが、老婆の姿は消えて居た。

 屋根の上には私しか居なかった・・・

 どこへ行ってしまったの?

 もっと色々教えて欲しかったのに。



 そうだ優子!



 眼下をの広場では優子と冒険者たかしが戦って居た。


『ヤバい、楽しい!』

『優子、今、楽しいって言った?』


『え?涼子さん?え?どう言うこと?』

『優子、私達は声を使わず頭だけで会話出来るみたい』


『嘘!』

 優子はたかしを蹴り飛ばす!

 後ろに倒れるたかし。だが、また起き上がる。


『優子、今どんな状態?』


『凄いわ!この剣持ってから力が強くなったし動きのキレがいいし、意識しなくてもバリアが出てるし、それにこの剣!』



 優子は剣を横に持つと、ブン!と音がして剣が背丈よりも長く変形した!

 一見体重よりも重そうに見える剣を軽々掲げる優子!

『考えてる通りに変形できる剣って最高!』

『いい剣だろう。自慢の愛剣だ』

『本当ね』



「クソがああああ! 俺は最強冒険者だぞおおお! 殺してやるうううう!」


「あばよザコ!」


 優子はそう言うと剣を鋼鉄の棒に変形させ、剣を振りかぶり迫り来る冒険者たかしの腹を撃ち抜いた!

 華麗な優子による美しい棒術。

 ザコスキルと力任せのたかしの振りなど優子にとっては稚児の戯れ程度。

 たかしは斬られはしてないが強烈な打撃に高く飛ばされ、落ちた時にはもう動かなかった。

 たかしなど今の優子の敵ではない。

 これでもまだ『斬撃』は使っていない。



『優子、ソイツ死んだの?』

『いえ、殺してません。きっと余罪が有る筈だし、調べた方が』

『そうかもね。さてどうしようかしら』


『あら?』


 広場の脇に人影。

 若い女性。

 おそるおそる優子に近寄って来る。


「死んだ・・の?」


「生きているわ」


 若い女性は気絶してる冒険者たかしをじっとみている。

 何を考えているんだろう?

 そして女性は走ってどこかに行ってしまう。


『なに?』

『さあ』


 そしてさっきの若い女性が他の人を引き連れて戻ってきた。

 どうみても皆んな一般人。


『まさか襲ってこないでしょうね?』

『判らないけど、気をつけてね優子』



 倒れた冒険者たかしを囲む人がどんどん増える。

 待てば待つほど人は増え、1時間もすると20人以上に増えた。

 更には冒険者仲間の3人も地面を引きづられて近くに持ってこられた。

 そして囲む人の数は30人を超えた。

 そして半数以上の者が刃物や鈍器を持っている。


『涼子さんこれって・・』

『恐らくは・・』



 優子は距離を取った。

 これから起こる事は想像できたが止めようとは思わなかった。

 涼子もそれは同じだった。




 そこへ厚志が割り込んできた!




「みんな!冷静になるんだ!人を殺してはいけない!先ずは冷静に話し合おう!」


「引っ込んでてちょうだい。あんたも襲われそうだったくせに」


「まだ未遂だ! それに気持ちを入れ替えてくれれば!」






「もう遅いわよ」


「でも・・・・」


 厚志は甘い。

 力に溺れたものの末路を知らない。

 恐らくたかしは・・・


「私は乱暴されてその上、客を取らされたわ」

「私は娘を乱暴されて殺された。まだ10歳だったのに」

「俺もさんざんヤられた」

「俺の姉さんは散々弄ばれて売り飛ばされたよ」

「母さんと父さんを乱暴されて殺された」

「姉と妹・・・・」

「私は・・・」

「俺・・・・」

「・・・・」



 厚志は呆然として居た。

 自分の言葉なんて通らない悲劇の山。

 いかに今まで自分が幸せだったか。

 今回危険に晒されたが、私と優子に助けられた。

 言い返せない。


 そして、







「冒険者なんて大っ嫌い!」






 厚志は打ちのめされた。







 そして翌日、河原に身元がどうやっても調べようのない死体が4人分残された。

 その後の捜査で、衣服は燃やされて居て判らなくなっていて、集めた頭蓋骨の量で4人分だろうと言われた。そして地元警察も何故か積極的には捜査をしなかった。



 厚志は()()駆けつけた()()()()()に保護され王都に帰った・・

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