教授のおはなし
俺は厚志だ!
涼子と結婚する男だ!
今、涼子似の直子さんと一緒に居るが、乗り換えた訳じゃない!
どんなに直子さんが美人だと言っても涼子が一番だ!
サツキさんちの稲刈りは終わって解放された。稲刈り中は獣は出なかったから、『また初雪の頃においでよ』とサツキさん言われてる。一度、虎縞熊狩りに連れていってくれると言われた。虎縞熊と聞いたときの直子さんのテンションはヤバかった!
因みに虎縞熊は熊だ。虎ではない。白黒の縞模様の大熊で最高級の毛皮だ!
大型獣なので毛はゴワついてるが、縞模様が美しいし、男物のコートも継ぎ目無しで作れるデカくて凄い奴!
虎縞熊は狂暴だ!
奴の熊パンチで人間はイチコロだ。それをどうやって倒すのかと聞けば、耕平さんは関節技で仕留めると!
毛皮に傷をつけない、毒も使わないから肉も安全!
凄すぎるぜ耕平さん!
今日は碧邪魔学院にお邪魔している。
スキルの歴史の教授に会いたいからだ。
無関係な俺が碧邪魔学院に立ち入れたのは在学している直子さんのお陰だ。
てなことで、直子さんと一緒。
「はて、お得な剣士ねえ」
教授はこの国に現れたスキルを研究記録しているそうで、俺のスキルをどうすれば有効に使えるか教わりに来た。
物語はズルい裏技で強くなるのは定番だからな。
凡人の俺が『俺ツエー!』になる方法もある筈だ!
教授はご老人で引退してもいい歳だが、ホンモンの生き字引と化していて、未だに仕事をしていらっしゃる。
「同じものは無いが『お得な魔法使い』を持っていた人がいたのう。もう随分昔に亡くなったがな。生きてる頃の彼女の話を聞かせてもらったが、それほど大それた事は出来ないが、他の魔法使いなら10の魔力が必要な法術でも6や7の魔力で出来るのだそうだ。あくまでも実力以上の事は出来ないが、その分スタミナが保つのだそうだ。だが、人生で2、3度凄いのができた事があると。恐らくはたまには火事場の馬鹿力的なこともあるのだろう」
「たまにですか。自由に出来たらいいのに」
「そうは上手くいかんだろう。そういえば、似てるものに数年前『五割増し剣姫』と言うのが居たのう。君のスキルが力を節約出来るのに対して持った剣の能力の五割増しの威力を出せるスキルじゃ。この学園の卒業生だが今は何しとるかのう。この者だったら能力係数スキルの効果的な使い方や裏技を知っとるかもしれん」
「凄いですね。お名前は?」
「少し待て」
そういうと教授は部屋を出て行った。別の場所に資料が有るのだろう。
「『五割増しの剣姫』か。聖剣とか持ったら聖剣が強くなるんだろうか?」
「厚志さん、それは無いでしょう。ハイスキルに付随する剣は使用者が決まってますし。勇者の剣は勇者にしか使えませんから」
「『お得な』よりも『五割増し』の方が強そうでいいんだが交換できんかな?」
「スキル交換なんて聞いたこと無いですよ。夢見すぎです!」
などと直子さんと話してると教授がファイルを持って戻ってきた。
「君達、スキル交換なんて聞いたことが無いぞ、ただ『スキル封印』『スキル強奪』は過去にあったらしいぞ」
「スキル強奪って反則!」
「でも俺、それ欲しい!」
「それよりさっきの話だ。あったあった、五割増し剣士。5年前の卒業生だが、名前を今日子と言う。」
「その方は強かったんでしょうか?」
「うむ、卒業時の記録では良かったように書いて有る。優秀な女性でスキルのお陰か本人の努力か戦闘でも校内ランクは良かった様だ。態度も真面目だったらしい。おお、写真だ、思い出した。可愛い子だったのう。真っすぐで良い子だった」
俺と直子さんは今日子という人の写真を見た。
真面目そうな顔にショートヘアで、服装も真面目すぎぐらいに真面目。可愛いしスタイルも良い。
なーんか見た事あるわ、誰だっけ?
この守ってあげたくなる様な女性。この写真から5年後・・・
あ!
メロンだ!
ギルドのメロンだ!
今日子と言う名前だったのか!
すっかりケバくなって真面目とはほど遠い女になったな。
「この人ギルドのカウンターに居る人です!」
「そうなの?厚志君」
「ギルドに? 本当か!真面目だったのに何故・・・・」
教授は今日子と言う人がギルドに務めてると聞いてがっくりしていた。
可愛い真面目な優等生が卒業後ギルドに居ると知ったらそうなるわ。
うむ、メロンの今の姿は教授には見せられんな。
新人冒険者ハメようとしたり、男に乳揉ませてワイロ代わりにしたり。もっとなんかヤバいのあるんだろうし。
ああ、なんか教授の落ち込みっぷりが凄い。
実はメロンに惚れてたんじゃね?
それがギルド勤務じゃなあ。
噂でしか知らないけど、ギルドの女は接待もあるし、戦略的美人局もすると言うしな。
俺も涼子がギルド嬢になったら失神するわ。冒険者の俺が言うのも酷いが。
「大丈夫ですか教授」
「すまん直子君。聞きたく無かったよ」
「残念です・・・」
教授、落ち込んでるとこ悪いがもうひとつ聞かねばならんのだ!
「教授、勇者以外でも魔王を倒す事は可能でしょうか!」
「何故、そんな事を聞くのだ。それは可能とも無理とも言える。歴史上、勇者無しで倒した事は有る。
ただ、魔王は毎回違うし、勇者も違うし、比較など出来ないぞ。それよりも、君が倒そうというのか?それはちょっと無理があるぞ」
「教授。俺はやらねばならないかもしれません。その為に強くなりたいんです。いい方法があればそれも知りたいです。俺は本気です!」
教授は椅子に深く沈んだ。
いい方法なんてなかなか無い。そんなのは当たり前だ。だが、俺は涼子の為に強くなりたい!
「今更いい方法など・・都合のいい道具か武器でもあればな。君は魔力は有るかね?」
「無いです」
「それじゃあ、手詰まりだ。しいて言えば良い仲間を集める事だ」
正解を求めるならば耕平さんとサツキさんに助けてもらい、優子も仲間にして戦えば、ひょっとしたら直子さんも強いかもしれないし仲間になってくれれば・・・
でも、俺は俺の力で強くなって成し遂げたい!
仲間は必要かもしれない。
だが、まず自分!
それが涼子の夫になる男!
ガラガラガラ!
そこに男子学生が現れこう言った。
「教授、お客様です」
男子学生の後ろに『お客様』が居る。
青と白の綺麗な衣装。
腰に豪華な剣。
そこに居たのは未来の俺の妻!
「涼子!俺に会いに来たのか!」
「厚志、何してるのよ、こんなとこで」
「会いたかったよ、涼子!」
「悪いけど出てって頂戴。教授とお話がしたいの」
「判った!俺も大事な話が!」
すぱあああああん!
ハリセンが俺の頭に!
「いいから、出てって!」
「厚志君出ようよ。教授、またお願いします。ほら、厚志君」
直子さんが俺を部屋から引きずる。
直子さんは相手が勇者パーティーの涼子だから遠慮して引いたのか。俺にとっては涼子は涼子だ!
しかし、今は引こう。
そして。
俺と直子さんは隣の教授の部屋の資料庫に忍び込む。
壁は厚いが、部屋を繋ぐドアの部分は薄い!
ちょっと聞き耳を〜〜〜!
教授と涼子はありきたりな挨拶と世間話をした。
そして、涼子が切り出した。
「教授、勇者以外でも魔王を倒す事は可能でしょうか!」
直子さんがびっくりしたように俺の顔を見た。
涼子、同じ事聞いてやがる・・・・
「何故、そんな事を聞くのだ。それは可能とも無理とも言える。歴史上、勇者無しで倒した事は有る。
ただ、魔王は毎回違うし、勇者も違うし、比較など出来ないぞ。それよりも、君が倒そうというのか?」
「教授。私ははやらねばならないかもしれません。その為に強くなりたいんです。いい方法があればそれも知りたいです。私は本気です!」
直子さんが俺の顔を見る。超見る!
俺だってびっくりだよ!
実は双子か?俺達。
「ふう・・」
教授のため息が聞こえる。
教授、すまん俺の涼子が我が儘言って。
うーん、さっきのパターンだと、今頃椅子に深く沈んでるな。
「涼子殿。勇者と協力して魔王を倒す事が最善だろう。君は勇者の婚約者だ、何の問題が有るんだね?」
問題ありありだよ!
涼子とさとるが結婚なんて許すまじ!
でも、涼子もさとるの事嫌いなのか。よしよし!
「この話は内密にして欲しいのですが。私と勇者との結婚は問題ではありません。問題はあの無能さとるが国王になる事です。あれでは魔王の危機を脱してもこの国が滅んでしまいます。それなら魔王を倒す意味すら無くなります。それなら私は婚約者も勇者パーティーもやめます。現国王にもさとるの無能は伝えてありますが、『考えておく』と言ったっきりそのままです」
「勇者はそんなに無の・・・頼りないのかね?」
無能と言いかけたな教授!
涼子!さとる捨てろ!
とっとと捨てろ!
「さとるは勇者スキル持ちなので戦闘では優秀なのかもしれません。ですが、この間の学園ダンジョンではスキル無しの農家の男に少し勝ったに過ぎません。訓練はしない、戦闘技術も学ばない。とんだ無能です!」
「・・・」
「それにさとるは、2桁の足し算が出来ません! 字も間違いだらけです。サインを求められれば内容も見ずに書きまくります!
知ってますか?さとるは億の借金が有ります。国王になる事でチャラにするつもりです」
「それは本当かね!」
「本当です。現国王は『優秀な側近をつけるから』と言い訳してますが、それがどれ程の抑止力になりましょうか。このままでは国が滅びます!」
「まさか勇者がそんな男だったとは・・・」
ほうほう、凄い話だな。
さとるが無能だと聞くと気分良いわ!
心臓発作でさとる死なねーかな?
しかし、魔王よりもさとるの馬鹿っぷりが国の危機を招くとはな!
よく考えると笑えねーわ。
国の危機だからな。
「教授!スキル強奪の方法とか知りませんか? 勇者スキルを強奪してしまえば!」
直子さんがまた俺を見る。
いやあ、やっぱ、俺と涼子は双子か?
結婚しないと涼子が言ったのは双子だからか?
ま、それは無いけどな!
「涼子殿、それは無理だろう・・」
おおう、ハニー。
お前まで!
「ぷぷっ!くっくっく!」
顔を真っ赤にして手で口を押さえて笑いを堪える直子さん。
がちゃ。
「あ」
目の前のドアが開き、そこには教授が。
奥にジト目の涼子。
「なにしとる、まったく」
「ええっと・・」
「厚志!聞いてたの?」
「君達も部屋に入りなさい。どうせ同じことをまた話すことになるのだろう。なら一緒に済ませよう」
俺達は教授の部屋にもどった。




