最終話 サンドラ旅の終わり
大洗領のとある村を一人で目指すサンドラ。
いつも一緒だった優子は居ない。
ひとり借り物の馬を駆る。
優子は『優姫』と名乗り高崎連邦の国王として毎日忙しく走り回って居る。
連邦なのに『国王』と呼ぶのは違和感しかないが、体制が整うまでは『王』なのだそうだ。
周囲五カ国には自分を王として認めさせた。あの強さを目の当たりにすれば隣国もそうそう攻め込んでは来ないだろう。
それどころか、高崎の地で五カ国の睨み合い状態でもあるから、各国は動けない筈。
今は各国から駐在員を受け入れ、国作りを始めたばかり。
なにせ、産業が壊滅して、政治形態も消え去り、通貨すら無い状態。
道のりは険しい。
何よりも『食人習慣』をやめさせなければならない。
禁止するのは簡単だ。しかし、守らせるのは容易では無い。
いろんな国の冒険者の溜まり場になってるのも問題だ。
犯罪歴があり、指名手配を免れて高崎に来た冒険者は祖国に引き渡す。その後どのような刑になるかは向こうの話。
優子は躊躇せず聖剣を振るった。甘いことを言っていては前に進めない。どんどん冒険者の血を流した。死体の山を作ったこともある。
だが、実際それで人口は減り、食料が足りるようになってきた。足りない分は借金で買うしか無い。人口を増やすのは食糧事情が落ち着いてから。
稀に悪事をやめる冒険者も居る。それはそれで構わない。良いことだ。
しかしまだかつての自分の会社のメンバーを呼ぶには早い。そこまでの治安はない。だがいずれは・・・
食人習慣を止めさせ、冒険者を一掃する。
治安さえよくなれば次に進める。そう信じて優子は日々走り回った。人任せでは追いつかない。
協力者、有志も少しずつ増えて来た。
高崎から逃げ出せずに残った普通の人々も居る。希望はある。
かつてひどい状態だった会津もかなり復興して来てる。高崎だって・・
かつて厚志や皆と過ごした平和な高崎を取り戻す為に優子は頑張って居る。
「忙しくて欠席か。顔くらい見せればいいのに」
サンドラは優子に同行して欲しかった。
サンドラと優子は同士。
厚志と結ばれなかった女という残念女仲間。
「一人だと辛いなあ。ワザとだろ、あいつ」
向かうは厚志の結婚式。
高崎連邦国王が参列するとなると大騒ぎになるし、迷惑をかけるだろう。
だが『優子』と『国王優姫』が同一人物と知る人は殆ど居ない。黙ってれば判らない。
サンドラはフラれ仲間に居て欲しかった。面と向かってフラれてないけれど。
優子からのプレゼントは預かって来た。
それは『 姫 剣 』
優子の登録を終了させ、無登録状態になった姫剣は厚志の奥さんへの贈り物となる。
厚志の持ってる聖剣と合わさって『夫婦剣』として完成する。
代わりに優子は勇者の持って居た聖剣を登録した。
お陰でサンドラはまた弱い状態に戻って居る。まあそれでも結構強いのだが。
「優子と再戦するまでなんか仕入れとかなきゃ」
アイテム無しでは優子に敵わない。
哲哉の軍用タンクをパクっておけば良かったと後悔。真面目に提出したのが悔やまれる。
そう、サンドラは結構真面目で決まりごとはだいたい守る。
対勇者戦で大人しく傍観者をしていたのをケルマとライケルに驚かれた。
戦闘狂なサンドラは、大嫌いな勇者を目の前にしたならば後先考えず飛びかかると思われて居たらしい。
サンドラは魔国民。あまり人間界に手を出してはいけない立場。その割には政治家相手にしゃしゃり出ていたが。まあ、優子一人では忙しすぎるからと言うことで・・
そう、あの日優子と戦ったのは欲求不満解消したかったのもある。
やはり本当は勇者と牧子を自分の手で倒したかった。
イラつきを優子と戦って晴らすつもりだったが負けた。
「次は勝つ!」
相手は強いぞ。
見えて来た。
天気が良い。
この村では結婚式は晴れた日に行われる。雨続きだと結構待たされる。
会場は村の集会場を使う。お陰で良いのか悪いのか、富める者も貧しい者もだいたい同じ規模の式になる。
結構人がいる。
高崎からの移住組に村の古株もいる。
サンドラが知ってるのは数人しかいないが。
サンドラは直子工房に頼んで馬を預かってもらう。
ここなら顔がきく。
「はあ」
ちょっと、気が重い。
新婦が自分でないのはキツい。優子みたいにサボりたかった。
でも、そうもいかない訳がある。
歩く。
今日は旅の服でもなければ軍服でもない。すっきりとした蒼いオシャレ着。
「ああ、きっとあそこだ」
いかにも結婚式の中心といった景色。
人の間を泳ぐ。
見えた。
中心に向かって歩く。
向こうもサンドラを見つけた。
幸せそうで心が折れそう。
「 サ ン ド ラ ! 」
美しく着飾った花嫁が駆け、サンドラに抱きつく! こいつ、笑顔が眩しすぎる!
力一杯、受け止めるサンドラ。
「おめでとう。綺麗だよニーナ」
「来ないかと思った。遅いんだもん!」
「来るに決まってる。二人っきりの姉妹じゃないか」
「ありがとうサンドラ!」
サンドラと同じ顔の少女。髪はサンドラと反対に長い。
サンドラのたった一人の姉妹。
同じ涼子の細胞サンプルから生まれた姉妹。
涼子のクローンは四体作られた。そのうち成体にまで成長したのは二体。それがニーナとサンドラ。
涼子に比べて小さな脳にシナプスの書き込み、全部は無理だった。涼子があと1日長く生きていたなら完全体クローンにシナプスの書き込みができた。そうなればほぼ別個体であるが完全体の涼子になっただろう。
体年齢の11歳程度のとこまでの記憶は綺麗に入る。問題はその後。
記憶の書き込みに無理がある。量が多すぎる。
画して二人の記憶に違いが生まれた。いや、違いを作った。
二人合わせておおよそ全ての記憶が引き継がれた。
ニーナは主に感情、サンドラは主に情報にそれぞれ偏った。あとは書けたり書けなかったり。
目覚めて意識が確立して真っ先に『厚志!』と叫んだのはニーナだ。
サンドラも厚志が好きだと言うことは知っている。情報として知っている。
サンドラは厚志への想いをあっさりニーナに譲った。知る限りの情報も教えた。それで満足な筈だった。
ニーナはなにより厚志を求めた。魔国を出て、厚志に会い、涼子の死を自らの言葉で伝え、その上で厚志に愛を唱えた。
それは想像よりハードルが高かった。
本当の涼子は死んだのだ。
それは何より大きな障害だった。死人は偉大だ。敵うはずがない。
だがニーナは諦めなかった。そして年の差十歳以上の夫婦が出来上がった。元は同い年だったのに。
最初は平気だったサンドラ。
だが、記憶が整理されるにつれ、厚志への想いは育った。
でも、これは胸にしまっておくことにした。察したのは優子だけ。
今日は精一杯の作り笑いに務める。
「ニーナ、これは優子からの贈り物」
そう言って姫剣をニーナに渡す。
優子が姫剣の柄も綺麗にしてくれた。一部金色が塗られている。縁起を担いだのだろう。
刃こぼれはそもそもない、姫剣は丈夫だ。
優子が国王になったと言ったらここの皆は腰を抜かすだろうか?
あっちには耕平さんとさつきさんも居る。
旧優子ファンクラブの残党も居るという。
姫剣、当然ニーナはこれがなんなのか知っている。当たり前。
「ありがとう、サンドラ」
「大事にしろよ。そして盗まれるなよ。登録すれば盗まれる心配はないがな」
ニーナの顔が真っ赤に染まる。
夫婦剣の特殊機能。
夜が相当盛り上がるのだ。
登録するかどうかは本人たちが決めれば良い。
それこそ、マンネリ気味になった頃にとか。
厚志への挨拶は軽く済ます。
長々見て居ると辛くなる。
人々に囲まれて新郎新婦は嬉しそうだ。
皆でお祝いの歌を歌う。
太鼓を鳴らす。
ああ、記憶にザザ村の祝いの舞が有ったな。厚志と涼子の出身村の舞。
祝いの舞。祈りの舞。感謝の舞。弔いの舞。
「結構覚えてるもんだな」
ニーナの脳には有るんだろうか。
ニーナ嬉しそうだ。
かつての涼子の分身は想いの人と結ばれ、もうひとりの分身は幸せを手放した。
「大丈夫?」
不意に声を掛けられる。
向くと直子社長。
「いや、大丈夫」
「そう? ニーナがやせ我慢してる表情によく似てるから」
一瞬驚く。
同じか・・・
「ありがとう。大丈夫」
「そう」
「あなたは?」
「あはは、介護してると情は移るけど、恋愛感情とは・・・違うかな? 下の世話もよくしたし」
「その話は皆に言えないですね」
「流石に今日はね」
「優子は来なかったのね」
「あいつ、国王だしね。忙しいんだ。でも、本当はサボりだよ。見たらあいつ泣いちゃうもん」
「優子が国王って、本当なのね。優姫ってなってたからまさかと思ったけど」
「まだ内緒ですよ。事が大き過ぎだし、落ち着いたら会いに行ってやって下さい」
「落ち着くって、いつかしら?」
「それはあいつ次第。いやあいつら次第」
そう、優子は一人じゃない。
少しずつだが仲間が増えて居る。
国を想う仲間。
「良い天気だ」
「良い天気ね」
サンドラと直子社長は空を見上げた。
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「あたらしいのよんでー」
「はやくー」
本の読み聞かせをねだる子供達。母親代わりの中年女性がやれやれと本を広げる。
子供達は孤児だ。
高崎連邦の治安が復活し、貧しいながらも平穏が戻ってきた頃、国王がとった政策がある。
周辺諸国からの孤児の受け入れである。
ワケアリの女性も引き受けた。
そして、孤児院がわりの村を作った。
国王がかつて見た西港の姿を参考にしたもの。孤児院とはちょっと違う。
そんな村が数カ所ある。
子供は国の宝で未来の力。
これは未来への投資。そして希望。
子供達がせがんでいるのは、届いたばかりの童話の新刊。
前の本も面白かったので、今回も目を輝かせている。
この童話は高崎の売り出している商品のひとつ。
童話の作者名は『ロック』
出版社の一部の者しか知らないが、『ロック』とは優姫のペンネームである。
世間の人たちは子供に大人気の童話の作者が優姫だとは知らない。
読んでいる人は、国王である優姫が童話を書くとは想像もつかないだろう。
世間では優姫は『勇者を殺した女』『無慈悲な女王』『戦闘狂』『逆らってはいけない存在』と言われている。
また、作者名を変えて長編物語も出版されている。
優姫は3年間岩の中にいた。
狂いそうな自分を慰めるために物語を考え続けた。夢を見た、希望を求めた、救われる姿を追い求めた。
3年は長かった。物語には希望がつまっている。
まだまだネタが枯渇する気配はない。
【完結】




