ニート勇者、引き出される
「さとる!さとる!さとる! 出なさい! すぐ来い! 戦え! すぐ来いさとる!」
うるせえ、くそ牧子。
俺の部屋の外で騒ぐんじゃねえ!
「命令よ! あいつら殺せ!」
くそ牧子が俺の部屋に入って来やがった!
聖地に足を踏み込みやがって! 俺は忙しいんだ!
だが牧子のスキルは強力だ。逆らおうとすると苦しくなるから仕方なく立ち上がる。
開けたくない戸を開け、出たくない外に出る。聖剣を握れば少し気持ち悪さが和らぐ。全くクソスキルめ!
家の外に出る。
太陽が眩しい。
やはり外は嫌いだ。
クソ牧子が俺の背中につく。うぜえ。
玄関から少し離れた場所に二人の女。
知らない少女と・・・・
優 姫 !
着てる服は違うが優姫!
以前は多くの剣をジャラジャラ腰に付けていたが今は一本。だが、あの恐ろしい目付きは変わらない。
不味い!
こいつは強い!
勝てない!
優姫が口を開く。
「私の留守の間に好き勝手してくれたようだな。ああ?」
「うるさい!黙れ!私は王だぞ! 平民が偉そうにするんじゃねえ! さとる、あいつを殺せ!」
うるせえ、喋るなクソ牧子!
王は俺だ。
俺が何したってんだ、俺が!
だいたい俺は悪くない!
「高崎王国を破壊しつくし、私の大事な友人達を殺したな」
しらねーよ。
破壊したのは涼子だ。
新聞にそう書いてある。
友人?知らねーよ。
俺は正しい!
「早く、早く殺せ!」
うるせえ、クソ牧子。
見ると優姫と一緒に居たはずの少女が居なくなっている。逃げたか。
あ、居た。随分遠くに逃げたな。逃げた先に何人もの男が居る。軍人か貴族か、そんな身なりの男達に何か説明してるが聞こえない。こちらに攻めてきたり投げてくる様子はない。ほおっておこう。
「貴様、王に向かってその口のききかたはなんだ!」
「無能が偉そうに。ならばその『国王』を頂こう、貴様の命とな」
不味い!
殺される!
俺は優姫には勝てない。力の差は明らかだ!
ダンジョンで俺は奴の横に構えただけの剣を叩き落とすことすら出来なかった!
クソ牧子を置いて逃げるか?
勇者の脚力なら逃げ切れるか?
「お前が勝ったならこれをやろう」
俺は絶句した!
優姫が俺に掲げて見せたのは『悪役令嬢賢者は実はレベル999999で、元婚約者にざまぁして田舎に隠ってスローライフします』の最終巻! それに、『転生イケメン勇者は前世の記憶で無双します』の最終巻込みの五冊!
他にも何冊も!
「 よ ー こ ー せ ー ! 」
手を伸ばして駆ける俺をさっとかわす優姫。
ちくしょう!
偶然手に入った小説は続刊がことごとく無かった! 欲求不満でしょうがなかった!
それを寄越せ! 殺すぞ!
もう一度優姫に飛び掛かるが避けられる。
そして優姫は本を布にくるんで遥か後ろの少女に投げる! 少女は一発でキャッチ。
くっ!
「言っておくがあの子も強いぞ。まあ、見てるだけだがな。どうだ、王位を賭けるか? 賭けるなら私もあの本全部を賭けよう」
「貴様を殺して本を貰う!」
「よかろう」
勇者なめんな!
人生最大の魔力をこの身に纏う!
風が吹き、石が舞う。聖剣を力一杯握る。
殺す!
目の前の優姫。
腰の剣に手をかけ・・・・ずに、地面に右手をつく。
ドオン!
どでかい地鳴り。
優姫が地面から手を持ち上げるとその手には岩で出来たゴツい剣がついてきた。地面から生えた岩剣。
地中の岩から作ったのか?
どうやって?
「さとる!殺せ!」
バジャァン!
煩かったクソ牧子に砂利が大量に叩きつけられる!
見苦しい悲鳴を上げて地面に転がり、痛みに悶える牧子。
優姫の左手から出されたのか・・・・
なんて恐ろしい。
だが牧子が静かになって良かった。
「お前相手になら岩で充分」
随分余裕じゃねーか。
強力そうな腰のものを抜かなかったのは俺にはチャンス。舐めた真似だが後悔させてやる!
「おおおおおおお!」
ガァン!
聖剣を力一杯叩き付ける!
優姫の岩剣に当たる!
優姫はびくともしないが、岩剣は結構欠けて刃が薄くなる。馬鹿め、所詮は岩だ。聖剣の敵ではない!
もう一撃!
ガァン!
いてえええ!
吹っ飛ばされた!
野郎も打って来やがった!
仁王立ちしたままの優姫。
尻餅を無様につく俺。
だが、岩剣の先端がない。
折れたか!
聖剣は無傷!
岩剣さえ砕けきれば!
俺は立ち上がりながら聖剣を叩き込む!
ガァン!
優姫、避けずに俺に打ち返す! イテエ!
聖剣が俺の頭に跳ね返ってきた!
顔が気持ち悪い、血、血か!
「私の大事な友人達の恨み!」
ガァン!ガァン!ガァン!
ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!
岩剣で身体中を打ち込まれる!
痛みで聖剣は手から落ちた。
ゴッゴッゴッ!
ゴッゴッゴッ!
ゴッゴッゴッ!
止まらない岩剣!
止めてくれない岩剣!
魔力全部を防御に回す!
耐えてくれバリアー!
ゴッゴッゴッゴッ!
ゴッゴッゴッゴッ!
ゴッゴッゴッゴッ!
ゴッゴッゴッゴッ!
ザク!
「うわあああああああ!
うぎゃああああああ!
あああああああああ!」
腕があ!
腕があ!
俺の腕!
俺の右手が無い!
右手が無い!
バリアーが切れた!
俺の魔力、勇者の魔力が無い!
俺を守る魔力が無い!
殺される!
なんでだあ!
うがあああ!
いてえええ!
「勝負あったな。鍛えれば強くなれたのに何故鍛えん。私は聖剣なぞ使って無いぞ」
「うわあああああああ!いてえええ!」
痛い!死にたくない!
寄るなあ!
「終わったわね」
「ああ」
余裕かまして少女まで来やがった!
知らない男共まで。
少女が男共に向かって話す。
「ご覧のように王位は優姫に移りました。勇者さとる王との正規の決闘によるもの。皆様、見届け人をしてくださり有り難う御座います」
なに?
見届け人?
どういうことだ?
「さとるよ、この方々は高崎を囲む5か国の外務大臣の皆さんだ。
松本、新井、大洗、小田原、田宮の代表の皆さんだ」
なんだ!
俺を晒し者にしたのか!
このクソガキ!
クソガキがまた喋る。
「さあ、皆さん。この前国王と前王妃、欲しい方はいらっしゃいますか? こいつらを鍛えて優姫にぶつけて高崎の王位奪還して自治権を得るという事も出来ますよ。希望があれば差し上げます」
ふざけた事を!
人をなんだと思ってる!
男達は誰も俺達を引き取ると言わない。冷めた目をしてやがる。
「人をなんだと思ってる!」
俺と思ったのと同じ事を牧子が言う!
途端に少女に蹴り上げられる牧子!
「お前にだけは言われたくない」
低くドスの聞いた声で牧子を脅す少女。
何処かで聞いた声・・・・
気のせいか?
「引き取る方はいらっしゃりませんね。ならば、この二人は私達で処分しておきましょう。国王優姫の最初の公務となります。
さて、先程の提案の通り皆さんには高崎の復興の協力をお願いしたく、現高崎を連邦国として共同運営していただく提案を受け入れて頂き感謝しております。王の優姫は高崎連邦の運営には殆んど口を出しません。最後に面白い物をご覧にいれましょう。少し離れてから見てください」
そう言うと少女は俺の聖剣を拾い上げた。
優姫は砕けた岩剣を捨て腰の剣を抜く。その剣は禍々しい強力な気配をもつ。なんだあれは!
そして少女が俺の聖剣をかかげる。
「私はサンドラ。聖剣ロック強制解除。ユーザー登録0000ビジター!」
途端に光だす聖剣!
長年持っていたが、こんな光は見たこと無い! 聖剣が自身でエネルギーを出しそれを表面にどんどん溜める。
俺が使っていたのとは違う!
これが本当の聖剣のパワー?
少女が言う。
「リハビリは済んだ?」
優姫が笑顔で答える。
「充分だ。始めよう」
五人の男達は離れていき、その外で待っていた付き人や護衛とかと合流。あんなに居たのか。
俺と牧子は中途半端な位置のまま。動けん。
「王、いつでもいいぞ」
「私もだ」
「嬉しそうだな」
「お前もな」
少女の周りに泥の柱が数十本も立ち、優姫の周りには高い岩の柱が同じように数十本立つ。
なんだあれは!
男達も恐々と見ている。
何が始まる?
「いやあああああ!」
「とりゃああああ!」
ダダダダダダダダダダダダダ!
ガガガガガガガガガガガガガ!
両者の周りの柱が分割して散弾になって相手にブチ込まれる!
勢いよく発射される土と石!上がる煙のなか少女と優姫が突進!斬り合う!
弾が飛び続けるなか斬り合い蹴り殴り、体当たり!
なんだこれは!
優姫もさっき俺とやったときとは違う!なんて恐ろしい姿! その優姫と張り合う少女は何者!
少女が空に上がり、聖剣持って大地に構える優姫に特攻する!返り討ちにあい、ぶっ飛ぶ少女!
また柱を追加してぶっぱなしながら突進!
優姫が岩を追加して空爆を始める!
煙の隙間から斬り合いが見える、剣の音も!
化け物かこいつらは!
音が止まる。
砂煙が晴れてくる。
現れたのは、少女の首の真ん前に剣を構える優姫の姿。少女の聖剣は優姫に届いていない。
「勝ったな」
「負けたか」
「この戦闘狂が」
「人の事言えるか」
何事もなかったように離れる二人。
殺し合いじゃなく試合か・・・・
「次はゴーレム戦?」
「それは勘弁してくれ」
さっきの殺気は何処に?
こんなやつには勝てない。
何が勇者だ・・
男達も唖然としている。
解る。
絶対に敵わない相手が居るんだ。ははは、これだけで誰も新たな王の優姫には逆らわない。
新たな王か・・・・
俺は何だったんだ・・
勇者になった途端に華やかな世界に入り、なに不自由なく暮らし、牧子と出会い国王になった。最高権力になったと思い上がった。でもこいつらには敵わない。
数年間なにしてたっけ?
ああ、本読んで暴れただけか。人も殺したな、本のために。
もう、終わりか。
「立会人が居るうちに済ませよう」
少女の声。
「そうだな」
優姫もか。
優姫が禍々しい剣を持ってやって来た。
そして目の前で牧子が斬り殺され、俺の意識もそこで終わった。




