優子、三年ぶりの空気
ほぼ三年。
現世に帰還した私は涼子との涙の再会をするつもりだったが、それは叶わなかった。
涼子そっくりな声だったのに。
岩から私を掘り出した涼子そっくりな声の主はサンドラという少女。
涼子の声を聞いたときは嬉しかった。
助けが来た!
涼子が生きていた!
斬撃剣の力が消えた時に涼子の死を予感した。でも生きてた!
でも、そうじゃなかった。涼子じゃなかった。
三年も岩に閉じ込められて、体は変わり果てていた。動けない。筋肉がない。関節も動かない。生きているだけで干物のような私。光が眩しい、マトモに目を開けられない。
飲まず食わずなのに生きていたのはシロのお蔭だ。ありがとうシロ。
そして私はまた意識を失った。少し見聞きをしただけで疲れはててしまったのだ。
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「おはよう久し振りね。生きていてくれて嬉しいわ」
再び意識を取り戻すと、懐かしい師の声。どうやらここは何処かの部屋。私は布団の上に寝かされている。三年ぶりの布団。
部屋は暗くされていて目が痛くない。
「優子、ゆっくり飲みなさい」
懐かしい声の主は私の口に少しだけ何かを流し込んだ。何かの味がする。
甘い、三年ぶりの味覚。
美味しいとか嬉しいとか言いたかったが声が出なかった・・
喉と口すら自由にならない・・
ドアの開く音。
「ただいま瑠美さん。優子は?」
「お帰りサンドラ。優子、起きているわ。終わったの?」
「掘り起こしたわ、ほら」
「無傷ね」
「もう、疲れたわ」
「貴方も飲みなさい」
ことりと音がする。コップの音だろう。私が飲んだ物と同じものだろうか?
きっと瑠美さんがサンドラに差し出したんだろう。
「優子、話をしましょう」
かつての師である瑠美さんは私に向かって話をしだした。喋れない私は聞いているしかない。
内容は驚きの連続だった。
約三年経っていた。
涼子が勇者に殺された。
沙羅も勇者に殺された。
クロちゃんも死んだ。
王に王宮職員も皆殺しにされた。涼子の財団もなくなった。
牧子が実質王になり高崎王国がスラム化した。国土は三分の一になった。
厚志、直子さんは高崎を出た。生きている。
耕平さん、さつきさん家のある村は大洗領になり平和なまま。
私の会社もまだ残っている。
そして瑠美さんは人間界から魔国に移り住んだ。魔国って本当に存在したのね。
そして驚きのサンドラの存在。
死んだ涼子の複製品であり、涼子の記憶を持つ存在。
だが、あくまで涼子とは違う存在。
そして、会津。
私は戦いの最中に乗り込み型ゴーレムに閉じ込められてしまったが、私の知らない間に有志が集まり、それは数百人の大軍になり、ギルドを滅ぼしたという。
閉じ込められたとき終わったと絶望していた。またギルドの支配に戻ると絶望した。
だが、ギルドに搾取された人々、ギルドに家族を奪われた人々、ギルドに愛する人を奪われた人々、ギルドに土地を奪われた人々が立ち上がった。佐渡国の警察も協力していた。
今まで残虐な冒険者を恐れて誰も手を出せなかったが、優子の進撃を聞いて人々は立ち上がったと。
そして会津からギルドが消えた。
「貴方のやったことは無駄では無かったのよ」
瑠美さんは確かにそう言った、私の頬に涙が流れた。
私は正義感で戦ったのではない。人々の為に戦ったのでもない。自分の感情に任せて暴れてただけだ。
殺された家族。
殺された馴染みの地元民。
その後蹂躙され続けた会津の人々の恨みに私は暴れた!
冒険者を殺して殺して、ギルドを空爆して、ハイスキル冒険者部隊は乗り込み型ゴーレムで蹴散らした。
かつてギルド生まれの私は冒険者の事を恨みきれていなかった。確かに子供の頃に見ていた冒険者は優しい人ばかりだった。だが現代、冒険者にマトモな人は居ない。
皮肉。
ギルド生まれの私がギルドを恨むだなんて。
ギルドを滅ばすだなんて。
早く健康体になって歩きたい!
会津を見たい! どうなったの!
何処かに懐かしい人が居るかも知れない!
瑠美さんは続ける。
「でも今は貴方が生きてる事は公表しないわ。会津のギルドが無くなったと言っても恐らくは残党が居る。かつて涼子も牧子というギルドの協力者に殺られたようなもの。サンドラも貴方が涼子と同じ事になることを警戒してるわ」
そして黙っていたサンドラが話し始める。
涼子そっくりな少女・・
「優子、姫剣がここに有る。貴方は姫剣と契約しなさい。貴方にはまだやり残した事がある。この剣の魔力を貰えば貴方は健康体に成れる。姫剣と契約し細胞再生加速を使えば短期間で回復出来る。恐らくは二週間で復活するわ。再生加速治療は瑠美さんが教えてくれる。今、貴方はシロの魔力逆流に支えられている。シロはもう限界、ほっとくとシロが死ぬわ」
シロが死ぬ!
その言葉は私を揺り動かした!
岩越しに励ましてくれ、エネルギーをくれたシロ。
発狂せずに生きていられたのはシロのお蔭。サンドラを呼んだのもきっとシロ。
死なないでシロ!
「登録するかどうかは優子が決めなさい」
私の動かない右手が布団から引き出され、掌に何かが掴まされる。恐らくは姫剣。この状態の私に触らせると言うことは声は必要ない。きっと心の中で思うだけで登録出来るんだろう。
かつて見た涼子の姫剣登録も超適当だったし。
手にそれの感触。
私は心の中で姫剣に誓い願って求めた。
温かい・・
それはどんどん大きくなる・・
熱い・・
身体に力が戻り始める。
まだほんの少し。
でも少しずつ戻り始める。
まだ起きれない、でも、首が動く! 顎が動く!
身体中の間接がギシギシと硬いがそれを感じると言うことは少し動いたということ! 姫剣の力!
渾身の力を込めて動く!
そして今の私の全力で口を動かす。これだけは言わなくてはならない!
「涼子、助けてあげられなくてごめんなさい・・」
「貴方のせいじゃないわ」
サンドラは優しかった。




