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Angel Bullet  作者: 司馬田アンデルセン
目覚め
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9カートリッジ

 維持派と解放派との争いによって多くの犠牲が出た日から一年が経とうとしていた。今でもなおダストストリートを維持しようと活動し始める者たちも増え始めた。

 アムブロシウス率いる維持派の者たちによって勢力を削がれた解放派である黒鵜の組織も今ではまともな戦力も少なく、大掛かりな行動を引き起こすことが難しく、行動すらも厳しかった。

 そして、そんななかジュンはちよこと共に高校生活を送ることとなった。中学ですらまともに通っていなかったジュン、これには流石の黒鵜もまずいと見たのか、あるいはいい機会だと思ったのかジュンにと組織を一時的に忘れ、高校生活を送るようにと指示した。これにはなぜだかペンタも賛成をしており「組織のこととかを忘れればもう一人の人格とかも忘れますよ」と言い賛成の色を見せていた。

 もう一人の人格、それは突然と現れた人格であった。アレは、本来自分がなるはずであったと言っていた。組織で戦い続ければより色濃く出てくる、その通りであるのであればいい機会でもあった。その証拠か、あれ以来銃をこの手に握っていないためなのかそれは出てこなくなった。

「ジュン、ジュンてば。さっきから話しかけてるんだけど聞いてる?」

 教室で一人もの思いに浸っていた時だった。顔を上げてみるとそこにはちよこがそこに立って椅子に座るジュンを見下ろすようにしてそこにいた。どうやらジュンは考えのあまりにちよこの声が聞こえていなかったようだ。ジュンは一瞥し、椅子から立ち上がり教室を見回した。すると教室にはジュンとちよこしかおらず、伽藍としていた。

「部活の方は、どうだったちよこ?おもしろいのでもあった」

「あったけど・・・本当にジュンは部活には入る気はしないの?」

 たった今部活の見学をしてきたちよこ。その一方でジュンは元から部活に入る気はなく、教室でちよこの帰りを待っていた。それを機にかけてか、ちよこはジュンが部活に入らないことを気にして心配がった。

「大丈夫だよ。それに、あまり馴染めそうには思えないからさ」

「馴染めそうにないって、そっちの方が逆に心配よ。まあ、ジュンらしくもあっていいかもね」

 あまりの反し言葉にちよこはあきれ果てるかのように苦笑いを浮かべた。

「そう言えばなんだけどさ、ジュン。ここら辺にあまり知名度はないんだけどカレーがおいしいカフェがあるんだって」

「カレーがおいしい、それって本当にカフェなのか?それに、今からカレーなんか食べたら夜が食べれなくなるんじゃないか」

 カレーの美味しいカフェ、確かにあるとは思うがジュンにとってのカフェのイメージはどうもコーヒーや

「大丈夫だよ、少し早い夕食だと思えばさ。それに、ジュンだって少しは気になるんじゃないの?」

 期待の眼差しを向けるちよこ、それを反対するのも申し訳ない。

「それって、僕も行かなきゃだめなのかい?」

 行くだけならちよこだけでもいいはずだ。その問いにちよこは頷きを返した。仕方なさげにジュンは頭をかき「分かった」と一言だけ返した。すると、その答えを待っていたかのようにちよこは喜々とした顔を見せ、ジュンの手を引っ張るかのようにジュンの手を掴み、教室を後にして行った。

「ちよこ、今日はやけに気分がいいじゃないか。何かあったのかい」

 手を引っ張られながら、先を歩くちよこにとジュンはそことなく不思議そうにして尋ねた。その問いにちよこは笑みを浮かべてその問いに答えた。

「だって、ジュンが何だかんだ言って馴染めてるからさ。なんか、普通の学校生活を送れてるなーって」

「普通って、まあそうかもね。今の組織はギクシャクしてる。それと比べたら学校はある程度穏やかかな。でも、それも今じゃペンタがある程度何とかするって言ってたから、大丈夫だと思う」

 維持派と解放派との戦いで組織の雰囲気は一変した。前までの団結力は薄れ、今度もまた誰かが裏切るのではないか、あるいは解放派にいるだけで心のどこかではアムブロシウス同様に何か企んでいるのではと疑心暗鬼に囚われている。そのためジュンの言うようにギクシャクとした雰囲気が生まれる。それと比べれば学校はそう言ったこともなく、ある程度は規則やら校則などあるもふわっとした雰囲気のため今の組織と比べるとジュンとしても楽である。ペンタも「組織の方は任せてください」とどことなくとやる気のあった感じであった。その言葉を信じ、期待してジュンは二つ返事でペンタにと組織を任すことにした。

「まあ、ペンタがああ言ってくれたのも、正直助かったと思う。多分、ペンタの後押しがなければ僕もここまではしなかったと思う。ほら、いちようこれでもそれなりにと皆から期待されていたしさ。あのまま辞めるのも、忍びなかったからさ。ペンタの許しがあって、助かった」

 そう、しみじみとした雰囲気を出した途端であった。先を歩いていたちよこが急に立ち止まり、握っていた手をほどきジュンの顔を見つめた。あまりのことに「どうしたんだ」とジュンは困惑の色を見せて言った。すると、その次に待っていたのは少し強めなちよこのデコピンであった。

 ジュンはデコピンされたところを手でおさえ、ちよこの方を見た。ちよこは起こっているのか、わざとらしく頬を膨らまして不機嫌げにして言った。

「組織のことは忘れる、そう言ったでしょう。さあ、行こう」

 ちよこは再び前を歩き始め、ポカーンとするジュンを置いていくかのように気にも留めずに歩いて行っていた。ジュンもしばらくはその様子を見ていたが、少し経った後にちよこがこちらを振り向いてきたためジュンは仕方なさげにわざとらしくため息を吐いてちよこの後ろを追うように歩いて行った。

 しばらくし、目的の場所にと着いたのかちよこが足を止め「ここのはずだよ」となにやら看板を指して言った。

「ほら、ここにカフェって書いてあるでしょ」

 ちよこの指さす看板には確かにカフェと書いてあった。それを覗き込むようにジュンもその看板を見ると、確かに洒落た文字でカフェと書いてあった。

 立地としては、良くも悪くといった具合であり、ちよこの言う知名度があまりないと言うのもなんとなくではあったが分かる気がした。

 わざとらしくジュンは腕時計に目を向けた。

「じゃあ、時間も時間だし今日はここで夕食にでもしようか」

「ホントに!?ありがとう、ジュン。それにしても、急な心変わりだね」

「心変わり、正確には呆れかな。どうせ、元からその気だったんでしょ?」

 確かめるようにジュンはちよこに問うが、ちよこは当然のように「うん」と頷き返した。

 ちよこの頷きにジュンとちよこはカフェにと入って行った。カフェは静かではあったが、店内には三人おり、一人は店員なのかカウンターの奥にいた。そして、お客である二人はジュンたち同様に高校生くらいの顔立ちであり、それを裏付けるかのように制服を着ており、一人は男性で、もう一人は彼の彼女、あるいは女友達のどちらかといった具合にカウンターにと座っていた。

「お、お客さんじゃないか。どうだ、物信?俺の言った通り客が来たじゃねえか。ささ、どこにでもご自由に座ってくれ」

 店員である男性はジュンとちよこが来たことに気付き、陽気そうにジュンたちを歓迎した。その様子にジュンは少し面を食らったが、一方のちよこは開いた口が塞がらず、まっすぐとカウンターに座る男子高生を見つめ、その名を呼んだ。

「物信さん、ですよね?」

 ちよこの呼びに、物信と思われる男子高生は振り向き、ちよこの顔を見た。

「ん?そうだが、どこかで会ったか。いや、見覚えがあるな。たしか、教室で自殺しようと間違った方法でカッターを刺そうとしようとしたちよこか?」

 その言葉にちよこは頷き、ゆっくりと物信のいる方に近づくようにカウンターの方にと歩いて行った。一方ジュンはそれを見守るようにちよこよりも後ろの方に立ってその様子を眺めていた。

「うん、あってます。それにしても、物信さんはよくここに来るんですか?さっき店員の人が物信さんの名前を呼んでましたが」

「ん?そっか、オヤジに会うのは初めてだったよな。俺のオヤジなんだよ。店長とは言っても、ここで働いているのは俺とオヤジだけなんだけどな」

「そんなこと言うなよ物信。まあ、そういうことだ。榎枝正明(かえだまさあき)だ、よろしくな」

 苦笑いで紹介するなか正明は陽気な声で物信の苦笑いを飛ばした。一方の物信の隣に座る女子高生は他人事かのように無愛想にコーヒーを飲んでいた。それが気になるのか、ちよこは彼女を気にするような素振りを見せた。すると物信がその事に気付いたのか「どうした?」と気遣うようにして言った。

「物信、多分だと思うけどその()は私の事が気になっているんじゃない。そうでしょ?」

 今まで無愛想にしていた彼女が急に喋りだし、ちよこは少しドキッとしたもののすぐに平常心を保とうと笑顔を浮かべて「ええ」と認めた。

呱々葉(ここは)奏莓(かなめ)だ。俺が、中学の頃に転校した時に知り合ってさ。まあ、そのあと色々とあって仲が良くなったわけだ。って、なんで俺が説明してるんだよ。ほら、自己紹介したらどうだ、奏莓」

 そう物信は奏莓にと自己紹介をするよう促した。奏莓はちよこの方を向き、しばらく彼女の顔を見て言った。

「呱々葉奏莓、奏莓でいいわ。よろしく。それと、さっきからあなたの後ろに立っているその人は誰?」

 奏莓の言うその人とはジュンの事であり、ジュンは自ら前に歩き、ちよこよりも少し前にと立ち、座る彼女を見つめた。

「ジュンだ。見たところ、二人は僕たちとは別の学校の者だと見えるが・・・あっているか?」

「まあ、そうでしょうね。それよりも、立ってないで座ったら」

 その言葉にちよことジュンは立ちっぱなしだと言うことに気付き、ちよこは慌てるように空いている物信の隣にと座った。一方のジュンは平然を装うように落ち着いた素振りでちよこの隣にと座った。そして二人はカウンターの奥にいる正明にとカレーを頼んだ。それに応じるように正明は「おう」と言いカウンターの奥であるキッチンにと入って行った。

「にしても、まさかちよことこんなところで会うとはな。それで、今はどうなんだよ学校?またいじめられたりしてないか?」

「全然、そんなことないよ。特にいじめられるようなこともないし、それに、今はどちらかと充実している方だよ。物信さんのほうはどんなんですか?」

 ちよこは大げさに手を振り、自身を気にかけてくれる物信にとそっちは大丈夫なのか、とさりげなく聞いた。

「まあ、可もなく不可もなしってとこだな。転校して最初の方は友達とかできるかな~とか思ってたけど意外となるようになった。その証拠に、こうして俺は奏莓とも会えたわけだしな」

「ただの友達だけどね」

 そう無情にも奏莓はコーヒーを飲み物信の発言に付け加えるようにして言った。そうしてコーヒーを一口飲み終え、再び口を開けて言った。

「でも、今まで一人でなんとかしようとしていたとこに物信が現れて、今の関係になれたことには不満はないわ。むしろ、色々と気付かされることもあるけど」

「そんなとこだな。それよりも、俺的にはどうもそっちのジュンって奴の方が気になるんだが・・・もしかして、ちよこの彼氏か?」

 物信の何気ないその発言に対しジュンはわざとらしく咳払いをした。その様子にちよこは慌てて会話を閉じらせないようにして言った。

「そ、そんなんじゃないよ。ただ、そうただの友人。そうだよね!?」

 ちよこはジュンにと目配せをするようにして言った。合わせろとの意味合いを軽く受け、ジュンは柔軟にそれに対応して見せた。

「ああ、ちよこ言うとおりだ。ちよことは親せきで昔からの仲だったんだよ」

 その場なりの説明をした。その言葉に物信はただ「ふうーん」と流すようにして言った。そして、その二人の会話を遮るように正明がカレーを持ってきた。

「ほい、注文のカレーだ。冷めないうちにさっさと食べてくれよな」

「じゃあ、頂こうかジュン」

 目の前に出されたカレーにちよこは喜々とした顔を浮かべ、嬉しそうにスプーンを持った。ジュンもちよこの喜々とした表情に満足そうに「ああ」と言い自分の前にと出されたカレーをちよこ同様にほおばった。たしかに味はちよこの言うように上手い。むしろ、そこら辺のお店で食べるよりも美味しいと感じた。そんなノリでジュンは軽くそのカレーを平らげてしまった。その様子を見て正明は嬉しげにしてジュンを眺めた。

「いい具合に食ってくれるじゃねぇか。作った俺の方も嬉しくなるなー、そうだ俺からの驕りとしてコーヒー一杯やるよ」

 そう正明はご機嫌よさげにジュンとちよこにとコーヒーの入ったカップを二人にと出した。二人は正明にとお礼を言い、ちよこは早速とそのコーヒーを一口と口に運んだ。

「それで、なんですがね物信さん。今度、一緒にお出かけとかしませんか?」

「ん?お出かけか、ちょっと難しいな。バイトとかの日程も確認しなきゃいけないし、あっちの方もあるしな・・・」

「い、いえ。こちらこそ急に申し訳ありません。そうですよね、物信さんも色々と忙しいですから」

 ちよこは慌てふためくように大げさに手を振って物信にと謝った。その様子を見て物信は何とかしようと考え、自分の懐からスマホを出してそれをちよこに見せつけるかのようにして言った。

「そうだ、連絡先を交換しておこうぜ。そうすれば後々にも連絡が取れるからよ」

 その提案にちよこは「そうですね」と告げ、自分のスマホを取り出して物信と連絡先を交換するやり取りをした。

 ちよこと物信が連絡先を交換するのをジュンは遠目で眺め、細く微笑んだ。どうやらちよこはおおかた物信とうまくやっているようだ。となると後は見守るだけだとジュンは思いながらコーヒーを一口飲む。

「帰るわ。物信、それじゃあまた明日」

 ちよこと物信が連絡を交換するさなか、奏莓は席を立ち、カウンターのテーブルにとお金を置いて去ろうとした。それを引き留めるように物信は奏莓の名前を呼んだ。すると奏莓は物信の方に振り向き「なに?」と一言告げた。

「奏莓も、女友達としてちよこと連絡交換していったらどうだ?お前、俺だけが友達だと色々と難しいだろ?」

「そうかしら?彼女とは今日会ったばかり、それに、ただ単にあなたが知り合いだけで私には関係ないから。まあ、また今度会ったらその時は考えようかしら」

 そう奏莓は無愛想に物信にと言い放ち店内から出て行ってしまった。その様子を仕方なさげ、困ったように見てちよこに謝るようにして言った。

「わるいな、あいつ普段からああなんだ。でもま、あいつはアレでいいやつだからさ気を悪くしないでくれ」

「いえ、そんなことないです。でも、あの感じだと凄い仲が良い感じなんですね、物信さんと奏莓さん」

「まあな。さっき言ったように中学での転校先で出会ってそこで友達になったわけだしな。――あの頃は、逃げるように転校したが、お前は逃げなかったからな、ちよこ。お前は、強くなったんだな」

 物信は遠目で見ながらそう言った。過去の自分の辺境を思い出しながら自分とちよこの事を比較した。昔は自分の方が上、強いと言ったような感情が無意識にあった。それでも今思えば弱いのは自分の方だった。今でもそれは変わらない。

「自分で弱いと言うのは、成長できてない証拠、なんじゃないかな物信君」

 それは突然であった。ジュンはふと物信にとそう言葉を告げていた。「え?」と物信はジュンの方を振り向き、彼の顔を眺めた。

「君は、もっと胸を張ってもいいと思う。ちよこを励まして、それでいて君は諦めないで今もこうして生きてるんだから。それに、なんていうのかな。オーラって言うか何かが他の人と違うって感じがする」

「ちょ、ちょっとジュンてば、いくら何でも少し失礼じゃない。ごめんね、ちょっとジュンてば少し口下手だからさ」

「いや、大丈夫だよ。にしても、そうなのかもしれないな、自信を持つのは大切かもな。ジュンって言ったけ?聞いてたかもしれないが、鎖條物信(さじょうもののぶ)だ。よろしくな」

 物信はそれとなく笑みを浮かべた。それに応えるようにジュンも「よろしく」と言い物信の方にと近づき、彼にと手を差し伸ばした。それに対して物信は至って平然に、自然とジュンの手を握り「おう」と答えた。

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