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Angel Bullet  作者: 司馬田アンデルセン
目覚め
30/32

8カートリッジ

 アムブロシウスとの戦いにジュンたち、ダストストリート解放派は戦いに勝利こそはした。だが、それでも多くの犠牲を出してしまった。そのためか、黒鵜の方針によって事柄が少しでも落ちつくまではしばらくは活動を控えるとの方向にと決まった。

 組織の基地内の一室、そこでジュンは一つの銃、それはアムブロシウスから渡され、アムブロシウスの命を奪った黒鉄色のリボルバーを静かにと眺めていた。

 確かに自分は、この手で銃を持ち、その手で引き金を引いた。そして、アムブロシウスを撃ち殺した。それなのにジュンにはその感覚が分からなかった、正確にはその感覚を覚えていないのだ。ストロングはそれを証明してくれた。だが、それでもジュン自身はそれが分からなかった。

『分からない、か。ならば、それを教えてやろうか?』

 男の声。その声はどこかで聞いたことがある、いや、普段から、自ら発している。そう、ソレは自分と全くの同じ声だ。

 姿はない。それでも声だけはする。ジュンは姿なき声にと手を振り払い、どこか虚無でも睨みつけるようにして言った。

「誰だい、君は?ここは僕だけのはずだ。それに、その声は僕の真似のつもりかい?」

『真似なんかじゃないよ。俺は俺、僕は僕だ。つまり、お前は俺なんだよ。分かるか、ジュン』

「そんなことが信じれるとでも思ってるのか?それに、この声は何処からしてるんだ?」

『それは、君の、頭からさ。それに、感謝してほしいよ。今の君がいるのは、俺のおかげでもあるんだからね。君はそう願っただろう?』

 願った、その意味が分からなかった。そして、自分の声は未だにどこかに、この部屋の、ジュンの近くにいるように耳にと入ってくる。そしてそれはやがて自分の耳元で囁くほどに近くで喋るように聞こえてきた。

『君は組織の者、ダストストリートを開放するために闘い続けていれば今の君は存在していなかった。だが、ちよこのために君は人らしい生き方を選んだ。そして、その結果今の君が生まれたんだよ』

「だったら、だったらなんで今になって殺しに親しんだお前が、僕が出てきたんだ!?」

 ただ叫んだ。何かに怒るのでもなく、何かにあたるでもなく。ジュンはただ自分にとあたったのだ。声は細く微笑む。まるで何かを見下し、蔑むかのようにして。そして声はやがてジュンの目の前にやって来て言った。

『決まっているだろう。お前が、自ら銃を手にして、何度も引き金を引いたからさ。そのおかげで俺は表にと出る、正確には目覚めたが、そこはどうでもいいだろう。つまり、お前は銃を手にし、引き金を引くたびに俺と言う性格を表に出すんだよ。つまり、お前が俺になるのも時間の問題だ』

 嘲笑った。その声はそうするだけで特に害は成してこなかった。それでもジュンは苛立ちをあらわにし、何もないただの虚無に手を振るい、何かを振り払おうと必死にそうしていった。そして遂には大声で「黙れ」「いなくなれ」「離れろ」となどの言葉を並べて怒鳴り始めた。

 その事柄に気が付き、駆け付けたのか、慌てた様子で勢いよく部屋の扉を開けてペンタが入って来た。そして、無作為に暴れるジュンを止めに入るようにしてジュンの前にと立った。

「キャンサーさん、どうしちゃったんですか!?大声で怒鳴ったりして・・・」

 ペンタが入ってきたことにジュンは気付かず、なおも何かに対して暴れ続けていた。そして、ペンタが大きく「キャンサーさん」と声を張るとジュンはついにペンタがそこにいることに気付いたのか、彼にと縋りつくようにし、その場に頭を抱え込むようにして倒れて言った。

「僕は、僕なのか?分からない・・・本当に僕はここにいるのか?僕は、なんなんだ・・・・・」

 いつものキャンサー、自分にと見せる力を持つ者が見せる様子ではないこと、そしてあまりにも壊れかけているジュンを見てペンタはただ唖然としているだけであった。それでも自分を頼ってくるジュンを前にしてペンタはすぐに我にと戻り、ジュンと同じ目線にと合わせた。そして彼に手を貸して椅子にと運ばせて言った。

「一体、どうしたって言うんですか?そんなにして、まるで自分を見失ったかの、それそのものみたいにして」

「分からない、僕にも分からないさ。だけど、頭の中から僕と同じ声がするんだ。そして、僕に言うんだ『引き金を引くたびに俺が表に出る』って。あいつは、僕で、僕はあいつなんだって。だから、僕は、僕は・・・」

 その続きをジュンに言わせてはならない。そう思いペンタは強くジュンの両肩を両手で掴み、大きな声で彼の名を呼び意識を保たせようとした。

「とにかく今は落ち着いてください。ある程度の事情は、察して理解したつもりです。キャンサーさんの言うことがもしそうであれば、それは二重人格、あるいは多重人格と言うものだと思います。でも、本来そう言うのは先天的、生まれながらだと聞きます」

「あいつは、僕が組織の中で戦い続けた結果が俺だって。そして、人らしく生きようと組織を離れた結果が僕だと言っていた。だとしたら、俺は後から出てきた人格なのかもな」

 ジュンは肩をすかし、何もかも諦めるようにして下を俯いた。まるで人生そのものを諦めるようにして。組織を続けた結果、それは本来自分が歩むべきであった道、つまりはそれが本来の人格であったと言うことであるのだ。それを絶望せずにいられるだろうか。人を殺めることが得意、慣れ親しんでしまっている。そんなことはあってはならない、ならないはずだ。「人を殺すのであればその責務を負わなければならない」そうハードにジュンは教わった。それはつまり殺しを馴れ親しんでしまってはいけないと言うことだ。それなのに、もう一人の自分は勝手に慣れてしまおうとしている。そんな風には成ってはいけない。たとえそれが自分のやって来たことと矛盾してしまっていたとしても。

「キャンサーさん、あなたが恐れているのはもう一人の人格が表にと出てくることですか?それともただ自分が自分でないかもしれないことへの恐れですか?」

 その問いは簡単なものであった。しかし、今のジュンにとってはその質問の答えすら意味の分からぬものであった。そのためただジュンは顔を横にと振るだけであった。そしてその様子にペンタは驚愕の意を飲み込み、冷静さを保とうとして言った。

「分かりました。この状況で言えることは、もしかしたらですよ、銃を持ち、引き金を引くたびにもう一つの人格が表にと出てくるのであればこれを機に休んでください。組織の事も大丈夫ですよ。だって、暫くは何事もやることはありませんし。キャンサーさんはちよこさんと一緒に学校生活を送って今まで通りのことをして人格なんかのことを忘れちゃってください」

 そうペンタの励ましの言葉にジュンは気力なしげに「あぁ」とだけ言い頷くだけであった。

「それでは、キャンサーさん後のことは任せてください。それに、あなたはあなたですよ。それについては俺が一番知っていますから」

 ペンタはそうジュンにと告げ、部屋の中と外の境界線にと足を運び、ゆっくりと扉を閉めた。

 最後の最後までジュンに不安を与えないようにペンタは気を張り、自分自身が明るくいようとした。今のジュンはどこか壊れそうであった。言うのであればまるで自我がしっかりと保っているようでどこか欠落しているようなそんな感じであった。そんな風には成ってはいけない、彼が壊れてしまってはいけない。だって彼は、ジュンはペンタにとって初めて自分の事を友と呼んでくれた人であった。

「そうだ、事後処理のためにアムブロシウスさんについての情報を一度漁ってみないと。それに、今後のキャンサーさんのためにもできるだけ彼の手は汚させないようにしないとな」

 頭の中で着々と物事を考えるペンタ。そこにはもはや組織など、そのほかの仲間など優先度はなく、あるのはジュンのため、ただそれだけであった。壊れかけている彼を救うためにも。

「キャンサーさん、喜んでくれるといいんだけどな」

 とあるバーでのこと。そのバーの席の一角では異彩な雰囲気を漂わした二人の男が座っていた。一人の男は白髪交じりの年季の入った男と、もう片方はその者よりはある程度は若い。だが、それでも多くの修羅を潜り抜けて言ったかのような風貌であった。

「情報提供ありがとな、ストロング。後処理は、こちらでなんとかするよ。それにしても、アムブロシウスが死ぬとはあいつも手を抜いたんじゃねえか?」

「そんなこと言わないでくれよハード。それに、今の俺がこうやってお前さんと会話するのも少し危険な口なんだぜ」

「それは、分かってるよ。だってよ、あいつ昔は警察やってたんだろ?ダストストリートに落ちた理由は、たしかエンジェルバレットとか言うゲームから逃げてきた、本人は逃がさせられたとか言ってたけな、それが理由だろ?そもそも、エンジェルバレットってなんだ?」

 エンジェルバレット、長年様々なところを渡り歩き情報を収集してきた身でもその名は初耳であった。ストロングからの情報、それはあくまでアムブロシウスが口走っていたものではあるが、それは島で行われたであろうガチの命のやり取りの殺し合い、バトルロワイヤルだ。とても信じられぬものである。はっきり言えば到底真に受けいれるものでは無い、だがそれでも長年の勘と言うものが嘘ではないとどこかで訴えてくる。

 ハードはゆっくりと懐から小さな封筒を取り出し、それをストロングにと差し出した。そして、視線は前を見据えたまま話した。

「それで、一式の装備を揃えてくれ。足りない分の差額は後から出す」

「・・・あんたの頼みならやるが、まさかではないがあるかどうかすら怪しいエンジェルバレットってヤツに首を突っ込むんじゃないだろうな?」

「そのまさかだ。安心しろ、俺が果てるようなことはないさ。それに、こちらには腕利きの専属の情報屋がいるからな」

 腕利きの情報屋。その言葉を信じるのであればさほど問題は無いだろう。それでもストロングはエンジェルバレットと言う存在自体もあやふやで情報がただでさえ少ないものに首を突っ込むリスクが分からなかった。昔からの付き合いもある、できればこんな意味の分からないものを追ってほしくはない。

「心配してんのか?だったら、そんなの他の誰かにしてくれ。そもそもの話、あくまで探るだけの話だ。どう参加するかも分からないゲームだ。適当に見計らって下がらせてもらうとするよ」

「そうかよ。だったら、これ以上は言わねえよ、だが、これだけは言っておくか。好きなようにやれよ。俺たちは世間の目には留まらない渡り鳥だ、せめても死に場所だけは自分で定めろよ」

「分かってるさ。それと、お前さんの席を用意しておいた。興味があったら来てくれ・・・いや、来いよ。俺らはお前みたいな強いやつを待っている。お前にはそこに入る権利と資格がある」

 一枚の手紙を置き、ハードは席から立ち上がりその場から去るようにしてバーを出て行ってしまった。

「あんたまでもが、ここを離れるとなるとさ、俺もそろそろ腹をくくるとしましょうかね」

 ストロングはグラスにと残っている飲み物を飲み干した。そしてそのグラスを哀愁のこもった瞳で眺めた。

「お客さん、そんな顔しちまってどうしたんだ?」

 気さくに、陽気のこもった男の声が聞こえてきた。

「ん?見ない顔の者だな。店の者か?」

 普段から使うバーのカウンターの奥には見知らぬ男の姿があった。年齢はおおよそ三十か四十代くらいだろうか。そしてその男はさも話を聞いていたかのような雰囲気出していたのであった。そのためストロングはにらみを利かせてその男を捉えた。

「そんなに睨むなって。安心しろ、店長からはここで聞こえてくる話は他言無用って言われているからよ。まあ、それがあたりまえなんだけどな」

 男は独自のペースと言っていいのか、どこか浮いているような雰囲気を出し、それでいてこちら側にと迫ってくるような言葉遣いと口調で距離感を縮めてこようとしていた。直感的ではあるがストロングにはそう感じたのだ、そしてこの男は近づいてはいけないとも感じ取った。悪い予感、そう言葉にすれば容易いのだがそれ以外に上手く言葉にすることはできない感じのものだ。

「まあ、店の者なのはそうだけどな、アルバイトなんだよ。短期間のバイトってことでここにはいるんだが、それも明日までだ」

「へえ、明日で終わりなのかい。でもさ、ここでバイトをするとは、いったいどんな趣味趣向のものなのかね?知ってるだろう、ここは結構ヤバイ所でもあるんだからよ」

「知ってるさ。このあたりのことやダストストリートとか言うようなものがあることだってな。そして、最近ここらで解放派と維持派との間での戦闘があり、戦力もほとんど皆無になり、その原因が内部による争いだって事もな」

 まさかの事柄までもが知っているとは。これには流石にタダで見逃すわけにはいかず、睨みだけ利かせようと懐から投げ用のナイフを取り出そうと手を入れた時だった。頭の方に何かが向けられるのが分かった。それは、銃だ。全くわからなかった、それほどまでに早く、正確にこの男は自分にと銃口を向けてきたのであった。

「そう、知ってるんだよ。お前がダストストリートの解放派だってこともな」

 さっきまでの浮かれたような雰囲気ではない。今の男は確実に多くの修羅を、戦場を潜り抜けてきたかのような気迫がそこにはある。ストロングが今までであって来た強敵とは全くの別のなにかを持ち合わせていることがこれでしっかりと分かった。

「どうしたら、その銃を仕舞ってくれるんだ?生憎こちらは命が惜しくてね」

 苦笑いを作り、彼刺激しないようにできるだけ静かなトーンで言った。すると意外なことに男は銃を下ろした。

「分かってるよ、そんなつもりじゃないことはな。ただの睨み付けだろ?ここで俺を殺しても利はないからな」

「そうだったら、なんで銃を出した?それを使えば俺を確実に殺せたはずだぞ」

「言わすなよ、そんなの利がないからに決まってるだろ。だが、暫くだが手を組まないか?」

 断ることは、難しいだろ。ここで変に断れば、下手をすれば組織の仲間が巻き込まれるかもしれない。それだけはダメだ。「構わない」それが今出せる一番の手だろ。

「エンジェルバレットの参加者の情報を探る。参加者は皆銀色の弾丸を持っている、そういう奴を探せばいい。そして、情報を手に入れたら俺に報告する」

「それだけか?どうやってお前に連絡する?」

 その返答は、一枚の二つ折りになっているメモ用紙であった。それを投げ渡されたストロングはすぐに開け、それが電話番号だと分かった。

「俺のことはパーシェとでも呼べばいい。よろしくな、ストロングさんよ」

「・・・俺は、これで帰る。できるだけのことはするつもりだ」

 そうストロングはパーシェと名乗る男に告げ、代金をカウンターのテーブルにと置いていきその場を去って行った。

「さて、この後は適当に役を揃えるだけか。そのあとは、どうやって動かすかだな」

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