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Angel Bullet  作者: 司馬田アンデルセン
決意
29/32

7カートリッジ

 集まった人たちは数えるほどでしかなかった。アムブロシウスは丁寧なことに、ダストストリート維持派の方にと人を多く割いており、解放派の人はほとんどおらず、数える程度であった。だが、それでも遂行しなければならない。ダストストリートを解放するためにもアムブロシウスと維持派は取り除かねばならない。

 ジュン、そして今いる解放派たちはペンタを筆頭にアムブロシウスが率いる維持派を殲滅するための会議と言う名目の作戦を立てていた。

「では、アムブロシウスと維持派の者たちがいる所ですが・・・御猟が活動していた時に基地として使っていたバーです」

 そう、ペンタが地図で指を差したところはジュンも知っている場所であり、かつてアムブロシウスとペンタたちで御猟を説得、御猟を潰したところであった。だからこそそこはペンタとジュンにとってもよく知りえり、どんな場所かも理解しているつもりである。

「場所が分かっているなら、後はどうやって突撃するかだな。ペンタ、いい方法でもあるのか?」

「真正面からの突撃は大して意味はないですからね。それに、数では明らかにあちらの方が有利、なのでできるだけ殲滅するのではなくアムブロシウスを殺す、捕縛する方向性で。何か案、質問や意見は?」

 ペンタはジュンを含め、組織の仲間たちを見渡して言った。すると一人の男が手を上げ、腕を組んでジュンの様子を伺いながら口を開けた。

「キャンサーの実力について俺らは知っている。だからこそそれに賭けるべきではないか?」

 男はジュンの力を評価し、そしてその力を信用するに足りると判断した結果での言葉であった。

「大方の戦力を真正面にぶつける、それもただの攻撃じゃねえ、奇襲だ。大きな攻撃を当てればそちらの方に目が向くだろう。その隙に裏からでも、ひっそりとでもアムブロシウスの奴を殺すなりすりゃあいい。と言うか、これが今できる最大限の手だろう」

 男のその案に他の者たちも納得なのか、頷きを見せた。その頷きにペンタはただ不も可もなくその頷きに応えるように周りの者たちを見回して言った。

「分かった。とりあえずはその方針で行こう。作戦実行までは各自準備をしておいてくれ。作戦の詳細は実行時に詳しく告げる」

 そうペンタは「解散」と号令を放った。その言葉にジュンを除く皆が「了解」と強張った声、あるいは自信に満ちた声などの様々な、個々それぞれの感情がこもった返事が基地内を木霊した。それは確かに団結力のあるものだった。いま考えれば、なぜこの組織に入り、この組織を抜けていった者がいたのかも分かる。それは、アムブロシウスが二つの勢力、派閥に別れさせるように仕向けたからだ。そうすることにより自然と、そうならないように努力しても内部のどこかで分断、歪みが生まれる。そんな歪みから組織を辞める者、アムブロシウスにと下る者が出た。少なくともジュンはそう理解、解釈した。それでも、それでもジュンは理解できなかった、分からなかった。アムブロシウスと言う者の目的が、彼の思惑が。


 準備を着々と進めるペンタ。その様子を後ろから眺めるようにジュンはペンタの様子を伺っていた。

「それにしても、まさかお前が今ではみんなをまとめる者になっているとはな」

 先の皆をまとめ上げていた様子、過去のペンタと比べ、体格的にも、雰囲気からかもちだすオーラも昔とは違う、上に立ち、皆を導くそれそのものであった。その姿をジュンは素直に認め、素直に賞賛の声を送った。だが、彼からは、ペンタからは喜びや満ち満ちた返答では無かった。

「実力・・・ただそれだけだよ。それに、キャンサーがこのままここにいれば俺じゃなくて、君がリーダーになっていた」

 ペンタはジュンの顔を捉えず、メンテナスを行っている銃を視界にととらえており、その一つにと集中しながら不貞腐れた声で言った。それでもジュンの言葉、想いはしっかりと伝わっていた。だからこそペンタには辛かったし、悔しかった。今まで、ジュンが辞めてしまい自分だけが取り残されたことに。友達にとなってくれた、誘ってくれた者が離れていくことは心寂しい。そして、ジュンに組織を辞めるように説得した者がいることが悔しかった。手を差し伸ばせてくれる者がいるジュンと、そうでない自分を比べるたびに惨めになり悔しくなる。

「俺は、今でもキャンサーさんの事を友人だと思ってますよ。少なくとも俺はですけどね。じゃなきゃ、辞めても組織に顔を出す人なんてそうそういませんからね」

 そうペンタはジュンの方にと、ジュンにと顔を合わせた。そして、一つの机の引き出しから布で覆われた物をジュンにと渡した。ペンタにと渡された物を受け取り、布を覆い外すとそこには何時しかの、アムブロシウスにと渡されたリボルバーが露わになった。それは組織を辞めた際に置いてきた決別の品、別れを示した物。

「ペンタ、お前が持っていたのか。なんで、今になって僕になんだい?」

「帰ってくるんでしょう?組織に、我々の家に。そう言う意味の決意じゃないんですか」

 それをポケットにと仕舞えばもう後戻りはできない。そう言いたい、聞き返しているのだろう。迷い、それは当然ある。あの時は皆の前、切羽詰まっていたからと言う理由でその場限りの勢いと一時の覚悟で言ってしまった感じもある。だからこそ、いま改めて問われるとどうしても迷ってしまう。

「はっきり言えば、迷いはある。だけど僕は、それでも選ばなきゃいけないんだよな」

 ジュンはそのリボルバー、銃を静かにポケットの中にと仕舞った。迷いはある、先ほど確かにそう述べた。だけどいつかは心に決めなければならない。それは今だ、今決めねばならない。だから、だからこそジュンは腹をくくるように、半場無理やりではあるが焦る気持ちと迷いを心の奥底にと封じてペンタにと告げた。

「まあ、そうだね。きっと僕は帰ってくる、ここにいるべきなんだと思う。それでも、迷いはあるよ。だから、その時はさ、友達であるペンタが支えてくれ。覚悟がしっかりと固まるまでは、頼む」

 ペンタにと深々と頭を下げ、確かにと自らの想いをぶち明けた。

「身勝手ですね、ほんとに」

 身勝手、そう言われても仕方なかった。今のジュンはその言葉を真正面から受け止めなければいけなかった。それでも、だからこそ今の自分には誰か、共に闘ってくれ、支えになってくれる者が必要であった。そのためならペンタにどう思われようがジュンにはどうでもよかった。

「顔、上げてくださいよ。さっきも言いましたよね、俺は今でもあなたの事を友人だと思っているって。だから、友人の頼みである、あなたのお願いを断る理由なんてどこにもありませんよ。おかえりなさい、キャンサーさん」

 彼は、ペンタは、友人はジュンにと手を差し伸ばした。それは、再開、再び共に歩き出す道の始まりであった。少なくともジュンはそうであろうと思い、願った。ちよこに対する罪悪感はあった、あるのかもしれない。だって、なぜなら、この先を歩く道は人らしい、常識が待っているわけが無かった。それでも、今の自分には成すべきことがある。それを成さなければ、そうしなければ自分はこのダストストリートからは、この連鎖の流れからは抜け出すことはできないだろう。そして、姉すらも救うことができない。それがジュンの、ジュンなりの解だ。

 そのために、成すべきことを成すためには、今の状況を作ったアムブロシウスを排除しなければいけない。その決意を胸にジュンはペンタにと一つの願いをした。

「ペンタ、もしも僕がこの戦いで死ぬようなことがあったら、僕の代わりに姉を、メイを探してくれ。そして、彼女を救ってくれ」

 その言葉を聞き、ペンタはそれを鼻で笑い、あざけるようにして言った。

「バカですね、あなたが死ぬわけがないじゃないですか。さあ、行きましょう、みんなが待ってます」

 ペンタの目は、ジュンが初めてペンタと会った時のようなあどけなさと、無邪気さのこもった瞳であった。それがつい嬉しく、ジュンは「ああ」と応えて共に歩き出した。


 あの時のバー、今回はバーの中ではなくバーの外だ。真正面からの奇襲はほぼすべての勢力を持っての攻撃、そのため裏からの攻撃はジュンと、この作戦を提案したストロングと言う男と共に行うこととなった。

「キャンサー、どうやらあの様子だと仲直りはできたんだな」

 突入の合図を待つさなか、ストロングはジュンの様子を横目で見つめ、ペンタの顔色が変わったことに気付き、ジュンにとさりげなく聞いた。

「まあ、できたんだと思います。それに、今回の件とペンタについては僕のせいでもありますから。僕がもう少しアムブロシウスを、この組織を見れていれば、こうにもならなかったと思う節もありますから。だって、アムブロシウスは僕の傍で色々なことを教えてくれた、それなのに僕は、気付けなかった」

 ジュンは下を俯き、自身の手を絡ませて、まるで全ての責任が自分にとあるようにして言った。

 そのとたんであった。ジュンは急にストロングにと背中を叩かれた。ジュンはそれに驚かされ、驚いた表情をストロングにと見せ「なんですか!?」と、小さな声で怒号を放った。

「まあそうかっかするなって。それに、色々とバカなんだよ、キャンサー、お前は。この状況を作ったのはアムブロシウスだ、つまり、全部あいつが悪い。それなのに、なに勝手に自分のせいだとか思ってんだよ」

 彼の言うそれは励ましの言葉であった。それでもジュンはそれを素直には受け止められなかった。そのうじうじとしたジュンを見つめ、じれったくなったのか、ジュンの頭を軽くたたいて言った。

「いい加減にしましょうよ。誰も、あなたのせいだとは思ってねえんだからよ。あんたが、キャンサーがシャキッとしてくれねえと困るんだよ。今はペンタだが、キャンサー、黒鵜の息子であるあんたがいつかはこのダストストリートを最終的にはどうにかするんだからよ。分かってるな?」

 黒鵜の息子、それは大役を背負う者の跡取り、あるいはいつか近い未来で大役を背負う者の名。そうだ、自分は黒鵜の息子でもある。ならば、父の名に恥じない者にならなければならない。ジュンは改めて自身の立場を理解し、自分の顔にと一喝を入れた。そして、悩んでいた顔から凛とした顔にとなり、合図を待った。

「その顔ですよ、キャンサー。――了解だ、今から突撃する。キャンサー、どうやら突撃は成功したみたいですよ。俺らも、行きますよ」

 合図は出たようだ。ストロングはインカム越しからの合図を受け取り、ジュンにとその事を告げて言った。ジュンは頷き、ストロングと共に裏の入り口から侵入し、バーの内部にと入り込んだ。

 バーの内部は乱戦状態であったのか、既に何人もの人と人の悲鳴や雄叫び声が飛びかえっていた。そして、今ジュンとストロングの前には数人ものダストストリート維持派である、かつての仲間が立ち塞がっていた。それはまるで裏からの奇襲に気付いていた、勘づいていたかのように。

「ストロングさん、この状況、結構まずいんじゃないですか」

「ああ、そうかもな。だが、それでも押し通すぞ。腕を落ちてないことを証明してやりな」

 そうストロングは投げナイフを二本投じ、何の迷いなく二人の男の頭にと突き刺した。ジュンはストロングが作った時間を活かし、ポケットにと忍ばせていた銃を、リボルバーを構え、奥にいる男にと狙いを定めた。狙いを定められた男は、その事に気付いたのかすぐさまに物陰にと隠れようとした。しかし、時は遅く、引き金は既に引かれており、弾丸は引き寄せられるようにして男の目玉を通って頭にと当たった。そして、流れるようにしてジュンは次の引き金を引き、引き、引いた。計三発の放たれた弾丸は三人の敵にと当たり、その者たちはその場にと血を流し、ジュンの下にと近づこうと歩こうもするも、やがてはその場にと倒れて絶命していった。

「腕は、落ちていないってことか。いや、そうでもないな」

 ジュンの銃を使う腕は落ちてはおらず、正確に敵にと、目標にと撃ち抜いていた。そして、その際には引き金の指と感情は引き離されており、目は敵を捕らえており、標準を見ず、感覚だけで正確な射撃を行っていた。

 一方のストロングもジュンのように次々と敵を葬り、ナイフを投じながら、適度な距離を保ちながら遠距離と近距離で戦闘を繰り広げていた。それでも、ミスは起こる。前からくる敵にと気を取られ、後ろから迫る攻撃にストロングは気付かなかった。後ろからの男はナイフをストロングにと指そうと突き迫る。ストロングが気付いた頃には遅く、男はすぐそこまでだった。それをカバーするようにジュンはストロングにとナイフを刺そうとする男に弾丸を放つ。ストロングへの攻撃は防げた。だが、その次はジュンであった。ストロングの方にと向いたジュンにと、メリケンを拳に装着した男が迫っていた。咄嗟の事にジュンは反応できず、殴りがジュンの腹部にと当たる。殴られたジュンは壁にと吹き飛ばされ、その場に倒れるようにして姿勢を崩す。そんなジュンに追い打ちをかけるようにメリケンを装着した男がジュンの下にと近づいて来た。ジュンはその男に目掛けて銃を構え、引き金を引く。だが、銃からは弾丸は放たれず、金属と金属が当たる鈍い音がした。そう、玉切れであった。

 男が近づいてくる、男がジュンの顔にとメリケンの装着された拳をぶつけようとした時であった。男は突如とその場で倒れ、ジュンは殴られずに済んだ。

「すまん、キャンサー。わざわざ俺のためにカバーしてくれてよ。今のうちにリロードしておけ」

 どうやらストロングがナイフを投げ、ジュンが襲われる前に倒してくれたようだ。ジュンは再び立ち上がり、姿勢を直しながらリボルバーにと弾丸を装填していった。そして、遂に奴が来た。

「おや、随分とてこずってるじゃないの?まあ、この状況も予測はできてたけどさ」

 奥の屋上へと進む階段、そこから姿を現したのはアムブロシウスであった。相変わらずと、ひょろっとした態度は変わっておらず、ジュンとストロングを見下すかのようにして言った。やがてアムブロシウスは階段のところに座り、一人高みの見物でもするかのように、ジュンとストロングが戦っている様子を眺めて言った。

「そうそう、そうやって戦い続ければいいんだよ君たちは。わざわざこんな素敵な場所を潰そうと努力しないでさ」

「素敵だと!?なんのつもりだアムブロシウス、それに、なぜお前は裏切った!?」

 ジュンは階段にと座るアムブロシウスを睨み、一瞥した。

「なぜかって、そんなの簡単さ。僕はただ戦い足りないだけさ。ちょっと昔話をしようか。僕はさ、とある理由で一つのゲームに参加したんだよ。とは言っても、正確には正規のゲームプレイヤーじゃなくて調査として援護的な事をやってたわけ」

 なんのことを言っているのかは分からなかった。それでもジュンは耳を貸しながら周りから押し寄せてくる敵を倒していった。

「そのゲームの名は、エンジェルバレット。日本列島の少し離れた島、地図には載ってない一つの島でのバトルロワイヤル。当然僕は心躍ったさ、だってガチの殺し合いなんだよ。それなのに・・・」

 エンジェルバレット、その名がまさかアムブロシウスの口から出るとは思わず、ついジュンは「どう言うことだ」と言葉を投げてしまった。その言葉にアムブロシウスは少し驚いたような表情を見せたが、直ぐに先までの表情、不敵な笑みを浮かべた。

「あれ、もしかしてエンジェルバレットってしているのかな?まあ、どうでもいいけど。僕はそれに参加した、しようとした。だけどね、僕のことを勝手に仲間、友達だと思い込んでいたあの男は僕を逃がした、あの島からね」

 淡々とアムブロシウスは話を進める。それは、かつて自分が体験した昔話を小馬鹿に、皮肉るようにして。

「でもね、僕はただガチの殺し合いがしたかった。刺激が欲しかったんだよ。それなのに、あいつは僕を逃がした。正義のヒーローでも気取っちゃったのかな。だから、僕はこのダストストリートを舞台として選んだ。結果的に、今に至った。まったく、君たちには助かったよ。こうやって殺し合える材料を用意してくれたんだからさ。ダストストリートを解放だって?そんなの勿体ない。ここは、今から殺し合いと弱肉強食の刺激ある場所になるわけ。そっちの方が面白くていいじゃないすか」

 怒りであった。今の思いを言い表すのならばその一言で充分であった。

 ジュンは今、アムブロシウスの本当の顔を見ているのだと理解した。そして、彼の言うそれが自身では到底理解できない者であるとも分かった。いま目の前に立つそれは、自分とは相いれぬ、理解できない怪物である。それでも、自分に残された手段は一つしかない。

「アムブロシウス、僕はあなたを尊敬していた。それでも、今のあなたの考えは理解できない。だから僕は、あなたの考えているその理想を、思惑を打ち壊します」

 ジュンは銃を構え、静かに銃口をアムブロシウスにと向けた。

「いいっすよ、僕も久しぶりに銃を使って戦いたかったとこですから」

 アムブロシウスはジュンにと対峙、対極するかのように黒く、鈍く光るリボルバーを構えた。

 先に銃を撃ったのはアムブロシウスの方であった。高度な位置を利用し、ジュンにと狙いを定めて弾丸を放った。そうするであろうと予測できていたジュンはすぐにその場から離れるように駆け、遠回りではあるが徐々に、徐々にではあるが段々とアムブロシウスの距離を詰めていった。

「まあ、判断はいいっすよ。そのためにも、僕もそろそろここから離れてやりますかね」

 階段を完全に降りきり、ジュンと同じ土俵にと降り立った。その瞬間を待っていたのか、ジュンは階段を降り終えた瞬間のアムブロシウスにと弾丸を放った。しかし、弾丸は運悪くもアムブロシウスには当たらず、わずかにとずれてアムブロシウスの後ろの階段にと当たった。

 弾丸が外れた、その事をすぐにカバー、あるいは誤魔化しをするためにも標準を再びアムブロシウスにと正確にと定める。だが、アムブロシウスはその場を駆け、ジュンにと迫るかと思えば、ストロングの方にと向かって駆けた。あまりの事にジュンは面を食らった。それでも銃口はしっかりとアムブロシウスにと向けていた。

 ストロングの方にと向かったアムブロシウスは糸も容易くストロングをねじ伏せ、彼の顔を掴み、地面にと叩きつけ、彼の頭にと銃口を突き付けて言った。

「さあ、どうしますか?このまま彼の脳天をぶち抜きましょうか?それとも、弄びますかね?」

 叩きつけられたストロングの頭からは既に血が出ている。それでもストロングは声を絞り上げて言った。

「俺はいいからさっさと撃て、キャンサー。そいつを撃てばとりあえずは俺らの勝利だ」

「そう、ソレが正解だね。だけどキャンサー、いや、ジュン。君にはそれはできない。そう言う人だからね」

 アムブロシウスの瞳は何もかもお見通しなのかのように、ジュンの心の中の迷いを見事に言い当てて言った。銃口はしっかりとアムブロシウスにと向けていられる。それでも迷いが生じる。やがてそれは震えとなり、明確なものにとなった。

「分かっているじゃないか。君が僕を撃てば、僕がストロングを撃つ、そして僕は死んでストロングも死ぬ。運よく生きていても寝たきりだね。要するにさ、君は僕には勝てるけど誰かを犠牲にしなきゃいけないわけだ・・・もちろん、君にはその選択はできない」

 アムブロシウスは更にジュンとストロングを見下すようにして言った。

「アムブロシウス、あなたの考えはやはり理解できない。自身の欲を満たすために、ダストストリートを血の色に染め上げようとするあなたは、僕は理解できない。何故、なぜそこまでして命の取り合いをしようとする」

 震えだした手でアムブロシウスにと構え、ジュンはアムブロシウスを問いただす。

「さっきも言っただろう?刺激が欲しいって。僕はさ、黒鵜さんについて行けば色々と戦える、殺し合えると思ったわけ。それなのに、やり方は平和的な対談が基本。むしろ殺し合いは避けるカタチなんだよ。殺伐、殺戮が楽しめると思ったら実際はその逆さ。だからさ、こう考えたわけ」

 アムブロシウスはストロングにと突き刺している銃口をさらに彼の頭にとぐりぐりと押し当て、ストロングとジュンを見比べてその真相を語った。

「僕はさ、作ってあげたわけ。このダストストリートが殺戮と化した舞台を。そのために、僕は組織が二つに分かれるきっかけ、君たちの言う維持派と解放派と言う感じにね。そして結果は今に至った、嬉しいだろ?平凡な日常が刺激的になるのはさ」

「イカレてるぜ、あんた」

 ストロングは強引ながらも顔を少し上げ、悪態をついて言った。それでもアムブロシウスは「そりゃどうも」と涼んだ顔で何食わぬ表情で反した。

「それに、イカレてるのは黒鵜さんと、それに付き従っている君たちの方だよ。ダストストリートを解放するだって?なに正義気取っちゃってさ。そもそも、気持ち悪いんだよ。あんな歳で変な夢なんか見ちゃってさ!!バカなのかな!?この世界の主人公にでもなったつもりかぁ?誰も喜ぶはずねぇんだよクソがぁ」

 嫌悪すらも感じるほどの笑みを浮かべた怒号。その笑みを向けられた瞬間、ジュンの心の奥にあるリミッターが切れた。ストロングと言う存在は、ただそこにあるモノにと変わり、目の前にいるアムブロシウスだけが頭の中に映った。そして、ただ一言がジュンの脳裏に染み付いた。ヤツを、アムブロシウスを殺せ。そう脳裏に出た時には、既に行動に移っていた。ジュンは的確にと銃を持つアムブロシウスの手の甲を撃ち抜いた。まさかのアムブロシウスも撃ってくるとは思わず、その行動を許してしまった。

 アムブロシウスは銃こそは手放さなかったが、あまりの突然の痛みに撃ち抜かれた甲を抑え、悲痛な声を唸らした。

 静かに、ただ無言でアムブロシウスにと近寄る。しかし、それでもアムブロシウスは抵抗をする。手は震えながらも弾丸をジュンにと放つ。

 銃口を向けられてもジュンは微動だせず、ただアムブロシウスにと近寄る。放たれた弾丸はジュンの頬を掠め、後ろの壁にと当たる。それでもジュンは驚きも退こうともしなかった。

「まさか、君が、撃ってくるとはね。意外だよ」

「どうだっていいんだよ。いま僕は、お前を殺したいんだよ。だからさ、僕に引き金を引かせてよ」

 ジュン自身も自分で何を言っているのかが分からない。それでも明白なことはある、今の自分はどこかがぶち切れており、自分と言う自分がシャットアウトされている。そして、自分であって自分ではない自分がそこに立っているような感じであった。

「いいよ、いいっすよ。だけど、僕を殺せば君はいつか、どこかで壊れますよ。その覚悟があるっすか?」

 返答はなかった。ただそこで響くのはジュンの構えていた銃から発される三発の弾丸の発射音。その三発で全てが、ジュンたちのアムブロシウスとの戦いが終わった。残る維持派の者たちは成るように成り、ペンタの率いていた突撃部隊にと殲滅、あるいは捕縛されていったのであった。

 こうして、維持派と解放派との戦いはひとまずとの形で締まった。

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