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Angel Bullet  作者: 司馬田アンデルセン
決意
28/32

6カートリッジ

 ジュンがちよこと同じ学校に通い、学校生活を送り始めて一年が経った。

 あの日以来、ジュンは組織には顔は出していなかった。それでも度々ではあるが、ジュンは黒鵜から大方の進み具合を聞かされていた。そしてつい昨日、朗報とも言える話を聞かされた。なんでも組織が、遂にダストストリート全体を統治に近い形で治めることができたらしい。だからと言ってすぐには行動に起こすわけではなく、黒鵜はもう少し体制がしっかりとしてから行動に起こすとのことであった。ジュンとしては嬉しいことであった。しかし、胸の奥にはどこかやるせない気持ちがあった。自分で決めて、自分で決断したのにもかかわらず、今でも本当に良かったのかと考えてしまう。

「ジュンくん、どしたの?そんな気負っちゃった顔して?」

 帰路を歩く中、突如と横からちよこの友人である千恵(ちえ)であった。そしてその横からちよこもジュンの顔を覗き込むようにして言った。

「確かに、どうしたのジュン?」

「ん?そんな風に見えたか。ちょっと、考えごとをしていたからさ」

 気にかけてくるちよこにジュンは、そっけなく返した。そして、ジュンは自分の考えに曇った顔を隠すため、少しだけ小走りをし、ちよこたちより少し前に歩いた。ちよこは別にただそれだけのことかと思い、深追いはしなかった。しかし、それでも千恵の方はそんなジュンの事が気になったのか、ジュンにと近づいて行って言った。

「それだけ?なんだったら私が相談に乗ろうか?例えばちよこちゃんに対する恋の相談とか?」

 そう千恵はジュンの耳元で、小声でからかうようにして言った。それでもジュンは冷静とした態度で、慌てることなく手を振るい言った。

「大丈夫だよ。それに、僕はちよこに対して恋愛的感情は持ち合わせていないよ」

「ははは、はっきり言うねジュンくん。でもさ、そんなこと言うなんてちよこちゃんが悲しんじゃうよ?ねえ?」

 そう千恵はちよこの方に顔を向け、ちよこの様子を伺った。一方のちよこはと言うと、ジュンと知恵の会話をしっかりと聞いていたのか苦笑いを浮かべた。

「まあ、昔からジュンはそんな感じだったからね。それに、ジュンと私は姉弟みたいな感じだからね」

「姉弟ねぇ~。でもさ、実際のところはどうなのよ?ジュンはともなくちよこはジュンのことをどう思ってるの?」

「うーん、さっきも言った通り姉弟って感じで思ってるよ。それに、ジュンには言ってあるんだけど私には、もう恋をしてる人はいるから・・・」

 ちよこの言う、恋をしている相手の事についてジュンは知っている、正確にはつい最近聞いたことであった。なんでも、ちよこがいじめられ、生きることさえ嫌になって自暴自棄になっていたところを励ましてくれ、生きる希望を教えてくれた男であるらしい。

 あの時のことは今でもちよこは覚えている。今では、今だからこそ分かる。あの人に対する想いは恋、ちよこにとって初恋の相手であった。そして今でもその想いは変わらない。それでもちよこはその彼に想いを告げることはできていない、正確には告げることができないでいた。なぜなら、自分が中学に上がってから一度も彼の姿を、顔を見ていないのであった。最初はただのクラスの違いかそれだけのことかと思っていた。だが、こうも顔を合わさないとなると彼を探す手段もやむなかった。そのため自身の想いを告げられずにいた。

「ふう~ん。その男の子ってさ、もしかして小学生くらいによく一緒にいた物信くんのこと?」

「そ、そうだけど・・・どうして知ってるの?」

 千恵が知っていることに驚きながらも、ちよこは平然を保とうと装い千恵の方にと顔を近づけた。

「まあね、だって雰囲気でなんとなくは分かってたよ。でも、残念だけの物信くん転校しちゃったみたいだよ。小学校の時でも彼、結構いじめられていたみたいでさ、中学でもそれが続いちゃって・・・・・あとは、言わなくても、分かるよね?」

 驚愕の事実であった。小学生の頃からある程度の付き合い、友人として接していた。しかし、彼からはそんなような雰囲気は感じ取れなかった、あるいは彼が気を利かせて気付かさないようにしていたのかもしれない。ちよこは少し呆然とその場に立ち止まった。その様子にジュンはちよこを心配するかのように「ちよこ?」とちよこの顔色を窺った。

「大丈夫、ちょっと面食らっちゃっただけ。それよりも、千恵は大丈夫なの?時間」

「ん・・・そう言えば今日塾だった!!ありがとうちよこ。それじゃあ、私はここで塾に行くから、また明日」

 そう言い千恵はジュンとちよこに手を振り、ジュンたちの向かう方向とは反対側の方へと足を走らせて行ってしまった。

「ちよこにとってさ、その物信って子はそんなに、想いれのある男の子なのかい、やっぱり」

「それは、もちろん。ジュンが家に来る前、私がいじめられていたのは知ってるでしょう?」

 なんとなく、本当にそれだけではあったが知っていた。ジュンはただ頷いてちよこを見た。

「それでさ、一度は自殺をしようとか考えちゃった。だけど、彼は、物信くんは私に生きる希望、生きたいって言う気持ちを教えてくれた。不器用で、それでいて明るい彼にはどんな時でも笑顔を貰っていた・・・そう、貰っていたの」

 会いたくても会えない、また彼にと出会ってあの頃のように無邪気な笑みを浮かべて喋り合いたい。そんな気持ちが心の中で行き来していた。そして、その望みが今、泡となって遠のいてしまった。転校した、それだけの事実がちよこを襲い、もう一度彼に会う機会が遠のいた、あるいは消えてしまった。それでもちよこは平常心を保とうとしていた。なぜなら、ジュンに変な気遣いをさせないためだ。だからこそちよこはジュンにと「だいじょうぶ」とだけ告げて再びいつもの笑顔を浮かべた。

 その時だった。ちよこがジュンにと笑みを向けた時、ジュンの懐にと潜ませていた携帯の着信音が鳴り渡った。ジュンはそれを取り、携帯を耳にと当てて何らかの会話をし始めた。口調は「ああ」「分かった」などの単調なものであったが、顔はとても険しく、苛立ちが少し露わになっていた。その様子をただ心配そうに眺め、ジュンの会話が終わるのを待った。

「どうしたの、ジュン。何か・・・もめごと?」

「まあね、先に帰っててよ。僕は今から、ダストストリートの方に行ってくる」

 ダストストリート、そこはかつてジュンが捨てられて育ったところであり、そこには組織の基地があったところでもあった。今でもちょくちょく顔を出しには行く。それでも半ば縁を切ろうとしていた。なぜなら、それをちよこは望んでいるからだ。ならば自分はちよこのその想いに応えなければいけないと思い、それでもかつて、あの場で共にしていた者たちのことも考えると迷いと葛藤の中で優柔不断としていた。

「本当に、本当に大丈夫なの?だって、あそこはジュンにとっても・・・」

「大丈夫だよ。それに、あの頃とはだいぶ変わっているしさ。だって、今じゃダストストリート全体を統治できかけているからさ」

 そうジュンは自信げに語り「じゃあ」とだけ言って走り出した。向かう先はただ一つ、ダストストリートにあるかつて自分が過ごしたあの基地である。

 ちよこを一人で帰らし、ジュンはただがむしゃらに走った。それどころか、ジュンの抑えていた苛立ちは有頂天に達しかけていた。その苛立ちは周囲にも伝染するほどであったのか、ジュンが基地にと入った時には周りの者たちがジュンの顔を怯えさせるほどであった。そんなジュンの前に立ちはだかり、ジュンを落ち着かせるようにして言った。

「キャンサーさん、少し落ち着いてください。感情的になり過ぎです。これでは皆さんが・・・」

「そんな事は言われなくも分かってるつもりだ。だが、どう言う事なんだよ!?アムブロシウスが裏切ったって言うのは!!」

 アムブロシウスが裏切った。それはついさっき、ペンタからの連絡で知った話であった。ただ一言、「アムブロシウスが裏切った」それだけであった。ジュンが組織に入った時にはアムブロシウスから様々な事を教わった。そして父、黒鵜ですらも彼の事を一目おいており、古くからの仲でもあって深く信用していた。そんな彼が裏切った、それはジュンにとって衝撃的であり、信頼、尊敬の意から憎むべき敵になるきっかけであった。

「ペンタ、情報を掴んでいるなら教えてくれ。ヤツは、アムブロシウスは何処にいる」

「・・・聞いて、どうするつもりですか?」

「決まってるだろ・・・僕があいつを倒しに行く。父さんの敵は、僕の敵だから」

 そう羽黒は決意の籠った目をペンタに向けて言った。しかしペンタは呆れたかのように「今更ですか」と小声で呟くようにして吐いた。その言葉はしっかりとジュンに伝わったのか、「どう言うことだ」とペンタにと聞き返した。そして、ジュンにと待っていたのはペンタの怒号であった。

「今更過ぎるんですよ。なんなんですかあなたは!?勝手に組織を抜けて、さも仲間のようであったかのようにそれ以来も顔を出して。そして、今更出てきて組織の幹部ヅラですか。そりゃ、僕だってあなたに比べて入って来たのは浅いですよ。ですけど言わせてください、今更出てきて何様のつもりですか!?あなたがいれば、あなたが前に立って動いていれば組織だって分裂しなかったかもしれないのに・・・」

 組織の分裂、その言葉の意味が理解できない、正確には新しい言葉にジュンは戸惑いを見せて聞いた。

「組織の分裂ってどう言うことだよ・・・だって、ダストストリートは統治されたんだろう?」

「本当に、何も聞かされていないんですね。確かに、組織はダストストリートを統治しましたよ。ですが、それは表面的です。ダストストリート解放派と維持派に分かれてたんですよ気付かぬうちに。しかもそれはお互いに知らぬうちに勝手に思い込んでいたんです。我々の行動はダストストリート解放である、そしてもう片方はダストストリートで絶対的な地位を得ると」

「いまいち理解できないぞ。知らないうちってどう言うことだよ、それに思い込みって・・・」

「極端に説明します。組織の本当の目標は、ダストストリートの解放です。しかし、とある一方の方には先ほども言ったように絶対的な地位を手に入れると言う風に目的が伝わっていたんです。そして、その者の多くの者がアムブロシウスによって集められた者たちでした」

 ジュンはやっとの思いでペンタの言おうとしていることが理解できた。つまりは、一部の者には組織の目的がダストストリートの解放と伝わっており、また一部の者にはダストストリートでの絶対的な地位を手に入れると言う風に伝わっていたのだ。普段から明白な目的を掲げて動いているわけでもなく、目的は組織に入団した時のみ教えられるため確かにその手は通じるだろう。それに、定時報告は毎度アムブロシウスによって黒鵜の下にと渡っている。そのためアムブロシウスなら容易に疑似報告ができてしまう。不可能ではない話だ。だが、動機が分からない。アムブロシウスそこまでする動機がジュンには分からなかった。

「ペンタ、お前の言おうとしていることはこういう事か?父さんの、黒鵜の隣であり、息子である僕なら、例え伝わりが違ってもあるべき形に戻せた、と。そう言う事か?」

「それ、聞きますか普通?まあ、ある程度はそう言うことですよ。とは言え、俺も少し言い過ぎましたね、すいませんキャンサーさん」

「いや、父さんの隣で同じ夢を見るって言ったのにもかかわらず逃げた僕も悪い。確かに、僕はあの時父さんと約束した。それなのに、僕は一つの迷いでつまずいた」

 確かに自分はハードに会い、ハードの言葉によって再び考えさせられ、その事で迷いが生じた。だが、今考えればそんな迷いは一つの言葉で反すことができた。

「僕は、父さんの願いを叶える。そして、僕は僕の姉であるメイを救えばいい、それだけのことだ。ペンタ、やっぱり僕はここにいなきゃいけないんだ。それが、父さんの願いを叶えることであり、ちよこの言う僕の生きたいように生きる道なんだ。それでもいいかい?」

 ちよこの言う「あなたの生きたいように生きて」その言葉にジュンは悩んでいた。だけど、よくよく考えればすぐそこに答えはあった。自分は、命を救ってくれたちよこのために生きたい、自分を子供として育ててくれた黒鵜に恩返しをしたい、自分の義理の姉であるメイを救いたい。それを叶えるためには何よりもこの組織が一番近い。そして、自分らしさを表せるのはここしかなかった。だから、再びここに戻ってくることを決めた。


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