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Angel Bullet  作者: 司馬田アンデルセン
勇気ある邂逅
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5カートリッジ

 それは御猟の団体を崩壊させて直後であった。黒鵜の呼び出しはジュンにとって予想外であり、それと同時に久しぶりの対面でもあった。

 ジュンは黒鵜の前にと立ち身構えるように背筋を伸ばし、張り詰めた声を出して言った。

「今日は、一体どのような事柄で」

 その様子を見た黒鵜は、どこか寂しげな顔を向けた。

 しばらく黒鵜は雨降る外の風景を眺め、嘆息の息を吐いてジュンを見つめた。

「こんな日の雨だったな、ちよこがお前を救うように求めたのは。ジュンよ、お前は本当に今のままで満足か?」

「それは・・・どう言う意味ですか?」

 黒鵜の言うその意味が分からず、ジュンは前のめりにとなり言った。すると黒鵜はジュンの方にと顔を合わせ、二歩ジュンにと近づいた。

 ジュンの目は疑問、そして理解が追いついていないような泳いだ目のようであった。

「アムブロシウスから聞いている。技量も腕ももう教えることはないようだ、とのことだ。だが、これがお前の望んでいたことか?今からでも家族として、私の息子として生きたいとは思わないのか?」

「・・・この質問は、私の父としてですか?それとも隊のボスとしての質問ですか?」

 黒鵜の予想通りの返答。いつからだろう、ジュンがこのようになってしまったのは。拾った時から既に敬語口調だったのは元からであった。それでも多少なりともの幼さとわんぱくさがあった。しかし今では、この通り任務に充実な一人の兵隊みたいになってしまった。こんなことを望んだわけではない、一人の人間として、新しい人生を迎えてほしいと思った。それが、たった一つの自分の望み、野望によりこうなってしまったことなど望んでいない。

「・・・思ったことを申し上げます。僕は、あなたの子として、こうなった事に後悔はありません。――ですが、教えてください」

 ハードにと言われたあの言葉、その言葉が引っかかる。だからこそ思ってしまう。本当に今のペースで、今のやり方でダストストリートの者たちを救うことができるのか。

「本当に、今のやり方で上手くいくのでしょうか?」

 焦りに似たこの衝動。やきもちとしてごわごわと振り切ろうとしても中々と振り切れないこの感情。決してジュンは黒鵜を疑っているわけではない。それでも、たびたび思ってしまうのだ。本当に、これでいいのか。

「そうだな、お前の気持ちも分かる――今日はお前に見せたいものがある」

 そう黒鵜は自身のポケットを探り、白金に、銀色に輝く弾丸、そしてリボルバーと呼ぶにはあまりにも独特で芸術的とも言ってもいい形をしたリボルバーをジュンにと差し出し、見せるようにして言った。

「マテバ・6ウニカ、エンジェルバレットと言うゲームではこれをドミニオンズとも呼ぶらしい。知っているか?」

 訳の分からない単語、エンジェルバレット。その名の意味が分からないジュンは首を振り「知りません」と言うしかなかった。その反応に黒鵜は安堵、それが当たり前であるかのような表情で「そうか」と呟き語り始めた。

「エンジェルバレット、それは人と人の殺し合いだ。己の技量を使い、この銀の弾丸、シルバーバレットをめぐって戦い合う。そして、自分が手にしている天使の名を持つ銃、私であればこのマテバのシリンダー全てにシルバーバレットを入れれば天使の力を手に入れることができる」

 その眼には、確かな眼差し、明らかなる力を持つ眼であった。それでも、ジュンは事の実態が理解できなかった。シルバーバレット、天使の名を持つ銃、エンジェルバレットそれらの単語の意味が、何を指しているのか分からない。それどころか馬鹿らしくも聞こえる。そもそも、天使の力とはなんだ。天使、まるで絵空ごとのような内容ではないか。

「それで、もし天使の力を手に入れてどうするつもりですか・・・まさか、その力で!?」

「察しが良くて助かる。そうだ、その力を使ってダストストリートを救う。だが、天使の力だけでは事足りないことだって出てくるはずだ。それに、私だけではエンジェルバレットを勝ち続けることは厳しい。そのための組織だ」

 ダストストリートの者たちを救う、そのために作られた。しかし、今日ジュンは真の組織誕生の理由を知った。父と共に同じ夢を見る、夢を叶えるために行動してきた。だが、結局のところ自分は共に歩いてはいなかった。それだけが悔しかった、いや、悲しかった。だからこそ思った、もっと強くなって認められなければならないと。

「分かりました。それで、それを聞いて僕はこれからどうすれば?」

「・・・このことを知っているのは組織では今のところお前だけだ。他の奴らには、時が来たら言う。それまでは、隠しておいてくれ。今日はもう遅い、それに、たまには家で寝ていったらどうだ?」

 隠し通す理由は分からない。それでもジュンは黒鵜の言う言葉を信じて「はい」とだけ言い黒鵜のいるこの部屋を後にして歩き出した。

 久しぶりの家、とは言え基地での生活ばかりでジュンにとってはあまり家と言う感じはしなかった。だからだろうか、自分の部屋の扉の前にとやって来たにもかかわらず、中々と扉を開けることができないでいた。

 やはり、今日はこのまま基地にと戻ろうとジュンが考え、離れようとした時だった。誰もいないはずの部屋の扉が開き、部屋の奥からはちよこが姿を現した。その事がジュンには衝撃的だったのか、暫く口を開けてちよこを見ていた。その様子にちよこはジュンが驚いていることに察し、気恥ずかしげにジュンの顔を見て言った。

「驚くよね、久しぶりだもの。三年だっけ?あっちに行っちゃって。こっちの方に戻ってくるってお父さんに聞いて。だから――待ってたの」

 そう言われればそうでもあった。ジュンは久方ぶりにちよこにと会った。あまりの久しぶりに、ちよこの成長、あるいは体の変化を前にしてジュンはどうすればいいか戸惑った。

「中に、入ろう?」

 そう促され、ジュンはおぼつかない足取りで、ちよこと共に部屋にと入って行った。

 部屋の中は、前に部屋を案内された時と変わりなく、誰かが使ったような形跡はない。それどころか、埃が無く、この部屋だけ時間が止まっているかのようなそんな感じである。

「ジュンが、あっちに行っている間は私が掃除しておいたの。模様替えとか部屋をいじったりはしなかったんだけど、嫌だったかな?」

 自分がいない間、この部屋を掃除していたのはどうやらちよこであったらしい。使わないのだから別段と構わなかったと思うジュンは「ありがとう」と率直に、素直に感謝の意をちよこにと言った。

 ベッドにと腰掛けるジュンに、その隣に座るかのようにちよこはジュンに寄り添うかのようにし、ジュンを気遣うかのようにして言った。

「ジュン、本当にこんなんでいいの?こんな、自分の命を張ってまでしても・・・」

「どう言うことだい?自分の命を張るって・・・」

 変な質問を聞くちよこ、そんなちよこの質問に戸惑いを見せ、彼女の顔を見つめるジュン。ただの質問のはず、それなのに、そのはずなのに口が強張ってしまう。それどころか、上手く言葉にとまとめることができず、声にすることができない。そんな中でもジュンは必死に、抗い声に出そうとする。

「これでいい、いいんだよ。僕はずっとまえから決めていただろ?それに、随分と前から思ってた、ダストストリートの者たちを救おうって」

「嘘つき」

 ただ、単純にちよこからの返答はその一言だけであった。その言葉、ちよこのほうにと顔を向ける、その次にきたのはちよこからのビンタであった。その意味が分からないジュンッは、ただ虚無を眺め、呆然とするだけであった。

「ジュンは、あなたは最初にメイさんを助けたいって言ってた。それなのに、それなのに今は、ダストストリートの人たち全員を救おうとしている・・・どうして?」

「それは、それは父さんに頼まれたからだ。共に、共に夢の隣を見てくれって言われたから。僕はその言葉に従って・・・」

 その瞬間、ちよこはジュンの肩を強く掴み、自分の方にとしっかりと向かい合わせ、声を絞りだして言った。

「ジュンが、ジュンはそこまでしなくてもいいの!!前に言ったよね・・・私のことを命の恩人だって」

 ジュンとちよこが初めて会ったあの日のこと。今でも思い出として鮮明に覚えている。ジュンにとってちよこが命の恩人だってことは今でも変わらない。だからこそジュンはちよこのことを何よりも大切に想っている。

「そうだ、僕は確かにそう言った。君を命の恩人だと。それは、今でも変わらないことだ」

「だったら、だったら、お父さんの言うことを聞くんじゃなくて私の言うことを聞いて!!」

 ちよこの表情は哀愁にあふれた表情で涙ぐんでおり、今にもこの場に泣き倒れそうにか弱く、ジュンの目に映ってしまった。それはダメだ、彼女が泣くことはダメだ、止めなければいけない。そんな衝動に駆られたジュンは問いを立てた。

「じゃあ、僕はどうすればいい?教えてよ、ちよこ」

 ジュンはちよこにと助けを求めるように儚い眼差しを向けた。そしてちよこはそのまなざしに応えるようにして、彼の頬にと触れて言った。

「ジュンの、あなたの生きたいように生きて。誰かを救おうなんて考えなくてもいい、自分の為に生きて。だって、だってジュンは一人の、一個人としての人間なんだから」

 一個人としての人間、その意味がジュンにはいまいちとして分からなかった。それでも、やりたいことはある。自分は、自分を救ってもらった人に身を尽くしたい。そして、自分を救ってくれた彼女が「行きたいように生きて」そういうのであれば自分は、ジュンはそう生きるのが彼女に尽くすという事なのだろう。

 頬にと触れているちよこの手を、ジュンは離すように優しく振りほどいて言った。

「分かった、分かったよ。僕は、僕なりに生きてみるよ。だから、教えてよちよこ、僕に人間らしい生き方を。君の言う、人としての生き方を」

 ちよこは、簡単に「分かった」と言ってくれた。

 そして、その次の日であった。その日にジュンはちよこと共に黒鵜の下で、ちよこの説得のもとジュンは組織を脱退することとなった。そして、ジュンは十三の歳で初めての学生生活を送ることとなるであった。

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