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Angel Bullet  作者: 司馬田アンデルセン
勇気ある邂逅
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4カートリッジ

 アムブロシウスの案内のもと、ジュンとペンタは御猟との対談場所である御猟が根城にとしている、かつて夜のたまり場として運営されていたバーにとやって来た。他の者たちは全員外で待機しており、三人での対談が条件であった。

「それで、お前らがウチらを取り組みたいとか言う頭が狂った連中か?」

 アムブロシウスと対峙するようテーブル越しに座り、アムブロシウスたちにとガンを飛ばしている男、この男が御猟のボスであるゼオである。

「まあ、そう言うことですね。どうですか?ゼオさん、僕とは結構前からの仲なんだから考えてくれないですかね?」

 相変わらずと言っていいのか、ガンを飛ばしてくるゼオに対しアムブロシウスは臆することなく、それどころかひょろっと態度で余裕を見せるかのようにして言った。

 その対談の様子をアムブロシウスのすぐ後ろで見ているジュンはアムブロシウスと違い、常に緊張、そしてゼオの後ろにといる数人のゼオの取り巻きらが何かしないかを監視すると言う気の抜けない重圧にと押されて顔を強張らせて。そんな状況でも顔を変えず、自身の余裕を保っていられるアムブロシウスには感心するばかりであった。

「はあ、アムブロシウス。俺はな、お前に返しきれないほどの恩がある、現にこうして勢力を維持、この『御猟』を作ることができたのもあんたのおかげだ」

 ゼオの言うアムブロシウスに対する評価、アムブロシウスにと救われたことを淡々と語りだした。その言葉に嘘があろうがなかろうがアムブロシウスにと向けている感謝は間違いないものであった。一方のアムブロシウスは笑顔でゼオの顔をただ見て「それじゃあ?」と言った。その言葉に返すようにゼオは立ち上がり、懐から黒く鉄色に輝くオートマチック式の銃を手にして言った。

「だけどよ、ウチらはウチらなりにやらせてもらう。それがあんたから教えてもらった言葉だったな?」

 そう言い、ゼオが拳銃をアムブロシウスにと構えたと同時にゼオの取り巻きたちも拳銃を取り出し、ジュンたちの方にと向けた。

「最近こちらも新しい玩具を手に入れてな。今更お前たちなんぞ怖くねえんだよ」

「・・・フッ、そう言う事か。どうやら交渉は決裂のようだな!!」

 アムブロシウスはテーブルをゼオのいる方にと蹴り上げ、ゼオの視界を奪った。そしてそのままアムブロシウスはテーブルごとゼオを壁にと押し付け、ゼオが姿勢を正す前にアムブロシウスも懐からリボルバー式の銃を取り出し、テーブルの向こうにいるゼオにと向けて三発発砲した。しばらくの間呆然としていたゼオの取り巻きたちも、その場で何が起こったのかをやっとの思いで理解したのか、慌てて銃をアムブロシウスやジュンたちへと向けた。その行動を阻止しまいとジュンは、ゼオの取り巻きであった一人の男にと向け、アムブロシウスから渡されたリボルバーを抜き、すぐさまに構えて引き金を引いた。弾丸は男の頭にと当たり、一発で絶命した。しかし、その直後にもう一人の男がジュンに銃口を向けて銃を撃とうとしていた。その事に気付いたジュンは横にと転がり、こちらにと向けられた銃から放たれた弾丸を避けた。

 ペンタは男が銃弾を放ったと同時に、銃を持っている彼の右手首をナイフで刻んだ。相手は切られた右手首にと左手を当て、手から銃を滑り落してしまった。ペンタは滑り落ちた銃を拾い、右手首にと手を当てている男にと銃弾を二発放った。

「アムブロシウス、増援が来る前にこっちも外で待機させている人たちを呼びましょう」

「そうだな、ペンタ。ジュン、外にいる奴らを呼んできてくれないか?ある程度は僕とペンタくんでなんとかできるっすけど増援が呼ばれるとキツそうです」

「了解です。それと、任務中ですからコードネームで呼んでください」

 ジュンは何げなく自分の本名を言ったアムブロシウスにと注意を促し、駆け足でその場を離れるかのように急いで外にと出た。外で待機している仲間たちにと声を掛けようと「皆さん」と最後まで言わずにジュンは目の前にと広がる光景、状況にと目を疑わせた。

 バーの外を出るとそこには異様な風景が広がっていたのだ。外にと待機していた仲間は全員が地面にと倒れており、一人の男がタバコを吸って仲間たちが倒れている真ん中に立っていた。まるでその者がここにいた仲間たちを一人で全員を倒してしまったかのようであった。

 ジュンはその男の正体が分かっていた、忘れるはずもなかった。歳は大体中年ぐらいか、歳をとってはいるが、威風堂々とした輪郭の顔、そして白髪交じりのうす黒い髪の毛。彼こそがジュンにとダストストリートでの生き方を教えたハードだ。

「見ないうちに立派になったな、ジュン。お前も、こいつらを片付けにきた・・・わけじゃねえよな」

「ハードさん、久しぶりです。これぜんぶ、あなたがやったんですか?」

 ハードは咥えていたタバコを地面にと捨て、地面にと落ちたタバコを靴で踏んで言った。

「まあな、それが俺の仕事だからな。どうだ、お前さんも俺のところにこないか?ちょうど席が空いててな」

「席が空いてる?どう言う事ですかハードさん。それに、僕はダストストリートの勢力争いなんて興味は無い」

「話は最後まで聞け。誠一、さすがにその名は知っているよな」

 誠一、その名はジュンがハードにと出会い、暫くしないうちに教えてくれた人物の名だ。一時的ではあるがダストストリートを一つにとまとめあげていた人物らしく、今現在のダストストリートの体制を築き上げたのも彼らしい。そしてそんな彼の隣で戦い続けたのがハード自身である。

「誠一が作った組織、レイヴンマスター。その組織はな、このダストストリートの秩序と均衡を保つ、正確にはダストストリートで大暴れしている連中らを取り締まるのを目的にとした組織だ。どうだ?お前さんも来ないか?」

 ハードの言うそれはとても魅力的なものであった。それでも今のジュンはそちらの方にとはいけなかった。なぜなら今は、今の自分は黒鵜と共に同じ夢を見ることを約束していたからだ。

「残念ですが、それはできません。今の僕は、僕の目的はダストストリートをなくすことだから。そうじゃないと僕みたいに弱い人や、社会にと見放された人が増えるだけだから」

「・・・そうか。それがお前さんの答えか。だがよ、これだけは言っておくぜ、それで本当にダストストリートにいる奴全員が救われるか?」

「どう言う、ことですか?僕たちのやり方間違っているとでも?」

「そう、かもな。確かにそのやり方をすれば多くの者を救えるが、ダストストリートを望むもの、社会に馴染めずにダストストリートで生きることを選んだ者はどうなる?」

 そうハードにと告げられた瞬間ジュンの心には「それでいいのか」と言う迷いが生まれた。確かにハードの言う通り黒鵜の志通りに事が運べば多くの者が助かる。しかし、ダストストリートを望む者はどうなる。それが分からないジュンでは無かった。その答えは単純、行き場所をなくすだけであった。それでもジュンはその事を認められず、首をうなだれてただ横にと振った。

「それでも、それでも僕は、僕はその道を行く。これだけはいくらあなたでも譲ることはできない」

「・・・それが、お前さんの答えか。だったら俺はお前さんを殺さなきゃいけないなぁ」

 そうハードが言うと、いつの間にかと抜いていた銃の銃口をジュンにと向けた。その動作に合わせるかのようにジュンも懐にと入れていた銃をハードにと狙いを定めて構えた。

「その距離で俺を撃つつもりか。それができるのか?お前さんは」

「できる、ここに来る前に一人殺した。あんたは言った、人を殺せばその先は地獄、後戻りできないって」

「言ったな。だが、お前さんは俺を殺すことはできない。根本的なところが違うからな」

 そう言うとハードは自分の足元にと倒れていたジュンたちの仲間である男をジュンへと蹴り飛ばした。ジュンはそれを抱え込むように受け止めた。しかし次の瞬間であった。ジュンが男を地面にと置いてやろうとした瞬間、目の前には既にハードがすぐそこにと走り寄っており、その瞬間ジュンはハードの回し蹴りを顔にと食らった。地面にと倒れ、手をついて立ち上がろうとした瞬間、ハードはジュンにと隙を与えまいとジュンの顔にと再び蹴りをいれて後ろにとのけぞらせた。

「だから言っただろ、根本的なところが違うって。お前は組織にいるのにも関わらず仲間を思っている、それがダメなんだよ」

「何がいけない!!仲間を思って何がいけないんだ」

 啖呵を切るジュンにとハードは、ジュンの腹部を強く踏みこんで力強い言葉で言った。

「組織と言うのは、目的があって初めて組織になる。そして、組織はその目的を達するためのものだ。そのためには些細な犠牲は仕方ない」

 腹部を強く踏むハードの足を掴み、どけるようにして苦しみの混じった声をあげて言った。

「そんなんじゃ、犠牲を正当化するんだったら、どんどんと仲間が減るだけじゃないか。仲間のいない組織なんて組織じゃない」

「そうしないために組織のトップがいるのだろ、それくらいは分かるはずだ。組織のトップである者ができるだけの犠牲を払わずにする方法を考える。まさかだとは思うが、それを考えていない者ではないよな?お前さんの組織のリーダーは。だとしたらそんな奴の下で動くな」

「黙れ、父さんを侮辱するな。僕を馬鹿にするのはいい、だが僕を救ってくれたあの人だけは馬鹿にするな」

 ジュンは腰にと指していたナイフを取り出し、自分を踏みつけているハードの足にとナイフを刺した。あまりのことに、さすがのハードも驚いたのか、すぐに足をどけ、一歩後ずさりをして足にと刺さったナイフを抜き取った。その間にジュンは立ち上がり、ハードを睨みつけた。

「この俺も、少しは気を抜きすぎたようだな。そうまでしてお前さんを突き動かすものとは何なんだ?お前さんはここがそんなに嫌いか?」

「嫌いだと?今更そんな事を聞くのか。弱い者は自然と倒れ、力なき者はただ力ある者にと支配される。そんなところが好きになれるのか」

「バカ野郎がッッ!!それだけか、お前さんがダストストリートで見てきたものは本当にそれだけか」

 力強く喝を入れるようにとハードはジュンにと言う。その言葉がジュンにと響いたのか、瞬間ジュンは体に何かが響き、体を震わせ、後ずさりをして「どう言う事?」とハードにととぼけたようで、それでいてしっかりとした雰囲気で言った。

「お前さんの姉は、メイはどうだった。彼女は強かったか!?否だ、それでも彼女はお前さんを守った。だが、お前さんはどうだ!?ダストストリートにいる奴らを救う?そんな奴らより身近な奴を救え。それがなぜ分からない」

 ハードの口からは、かつて自分を本当の弟と同然に育ててくれたジュンの義理の姉の名前、メイの名前であった。その言葉を聞きジュンの頭にはメイの笑顔が浮かんだ。あの雨の日に別れ離れにとなった彼女を探そうとして行き倒れて以来会えていなかった。そもそも今でも生きているかも分からなかった。その瞬間ジュンはハードにと助けを求めるかのように手を差し伸べようとした。その時だった、誰かがジュンの名を呼び、こちらにと近づいてくる足音がした。その者はペンタであった。

「ふっ、それでもいい仲間はいるようだな。今日のところは帰る、次に会う時までには答えを出しとけよ、ジュン」

 ジュンは「待て」と言おうとするも、それよりも早くハードはその場を去るようにして逃げて行ってしまった。

 ハードが言った「身近な奴を救え」その言葉がどうしてもジュンの心を揺さぶる。確かに身近な人を守ると言うハードの考え方は正しいのかもしれない。それでも、だとしても自分は黒鵜の、父の考えに賛同しなければならない。それが、自分にできる恩返しなのだから。

「そうだ、これでいいはずなんだ。僕は、僕は・・・・・」

 ぽつぽつと降り出す雨の雫、それを受けながらジュンは空を眺めた。

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