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Angel Bullet  作者: 司馬田アンデルセン
勇気ある邂逅
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3カートリッジ

 アムブロシウスの指示のもと、アムブロシウスの訓練は実に大変なもので厳しいものであった。それでもジュンはその環境に少しでもなれる、又は強くなるために自己訓練などをしてジュンは僅か三年と言う月日で組織の中でも指折りの強さにまでと成りあがっていた。そのためジュンの名前、キャンサーと言う名前を知らない者は組織もちろん、ダストストリートにはいなかった。

 しかし、そんな強さの地位を手にしたジュンは、今の状態に満足のいくものでなかった。なぜなら、ジュンの目的でもあり、父である黒鵜の目的、ダストストリートの開放がまだできていないのだ。

 ジュンはいつの日かのために、いつも通りに狙撃の特訓をしようとしていたときであった。アムブロシウスがこちらにと一人の少年を連れてやってきた。

「アムブロシウスさん、お疲れ様です。そちらの子は、一体?」

「うん、お疲れ様っす。こっちの子はね、新人のペンタくん。ほら、挨拶しろ」

 そう言い、ジュンの前へと立ったペンタと言う少年は手を差し出し、握手を求めるかのようにして言った。

「どうも、ペンタです。今後はよろしくお願いします」

 ペンタからの握手を心地よくジュンは受け取り、ぎゅっと彼の手を握った。するとアムブロシウスはペンタの頭を軽く殴り、軽い口調でありながらどことなくしかりつけているような口調で言った。

「ペンタ、こいつはな、お前と歳は近いが大の付く大先輩だぞ。それに、こいつがキャンサーだ」

 アムブロシウスの言葉を聞くと、ペンタは慌てた口調になり、ペコペコと頭を下げて「すいません」と言い何回もジュンへと謝ってきた。

「別に構わないよ。それで、アムブロシウスさん、この子は?」

「あぁ、この子はさっきも言った通りペンタくんです。ダストストリートで半殺しのところを僕が拾って、黒鵜さんの事を語ったら、自分も手伝いたいと言ったので連れてきたんですよ。それで、ですね。ジュンくん、キャンサーならこの子をうまい具合に育てられるんじゃないかなって、歳も一、二歳くらい下ですからいい具合に可愛がって欲しいんですが・・・」

 アムブロシウスの申し建ては、新しく入った新入りの指導役をジュンにとやってほしいとのことであった。ジュンとしては自分の強さの力量、実力が認めてもらえると言う嬉しさと同時に自分にできるかどうかの不安もあり二律背反な思いであった。それでも無邪気な顔、期待の顔を見せるペンタの顔を見てジュンは思わず二つ返事で「はい」と言ってしまった。

 早速ジュンはペンタを連れて建物の奥にとある、組手用の部屋にとやってきた。

「それで、ペンタ。お前はどれくらいの体力の自信がある?」

「そうですね、ダストストリートを半日ほど走り回っても息切れはしない程度にはあると思います。実際にやったこともありますし」

「なら、体力付けに関しては後回しでもよさそうだな。じゃあ、さっそくだけど実技をやってもらうよ」

 そう言いジュンは壁にと立てかけてあった刃先が硬いゴム製のナイフを二本取り、一本をペンタにと渡した。ゴム製のナイフを受け取ったペンタはそれを受け取り、何やら自信ありげな表情で、鼻の付くような声で言った。

「いいんですか?俺こう見えてもナイフ等の扱いは得意ですよ。もしもこれで勝っちゃったら名誉と言うか地位を汚しちゃうかもしれませんが」

 そこまで言うほどにペンタは自信があるのか、様々なナイフアクションをやって見せて言った。それでもジュンは、むしろその自信の基である技力が気になり「構わない」と返事を返した。

「で、勝敗はどうやって付けるんですか?」

「相手が降参をするか、相手にナイフを突き付ける、相手を地面にと倒す。殴るが蹴ろうが構わない、準備ができたらそっちから来い」

 するとペンタはさっそくとも言わんばかりにナイフをジュンの胸部にと突き刺してきた。

 シンプルながらいい動きだと思ったジュンは、いともたやすくナイフを持っている方のペンタの右腕を掴み、こちら側にと引っ張ろうとした。しかしペンタはその動きを読んでいたのか、別段と驚いた表情は見せず、引っ張られる勢いに合わせるように左手を強く握りジュンへとパンチを喰らわせようと殴り掛かる。そうした動きにジュンはすぐさま掴んでいたペンタの右腕を離し、しゃがみ込んでペンタの殴りを軽く避ける。しかしペンタの攻撃はそれで終わるものでは無かった。殴りを避けると言う行動が分かった瞬間ペンタは右足を上げるように蹴りをジュンへと喰らわせた。

 蹴りをもらったジュンは後ろにと一歩引きさがりペンタとの距離を取った。しかしペンタはすぐさまに距離を取ったジュンのもとへと近付き、ナイフを逆手に持ち襲い掛かろうとしていた。ジュンはペンタが採った行動のように自分も自らペンタの方にと近づき、ナイフをペンタの顔にと突き刺そうとした。

 ペンタはジュンの突き刺すナイフを、顔を横にと少し倒すようにとして避けた。しかし、次の瞬間に待っていたペンタの光景は上空、天井であった。どうやらジュンは、ナイフをペンタの顔にと突き刺すことによってペンタの気をナイフにと向け、その間に足払いをしてペンタの体制を崩したのだ。

 これにはペンタもあまりのことに狐にでもつままれたかのような顔を見せ「ふえ?」と情けない声を出した。

「確かに、それなりの腕はあるようだな。だが、ナイフにと注意を向け過ぎだ。最初に言っただろ、殴ろうが蹴ろうが構わないって」

「そうでしたね。おっとと」

 立ち上がろうとするペンタにジュンは手を指し伸ばし、ペンタが立ち上がるのを補助した。

「これは、どうも。にしても流石ですね、キャンサーさんは。もしかしたらハードさんを超えれるんじゃないですか?」

「ハードさんを知っているのか!?それに、越えられるって・・・」

 ダストストリートにと捨てられて右も左も分からなかった自分にと様々な事を教えてもらったジュンにとっての大の恩人だ。その者を知っているとなると彼の事について深く知りたいのがジュンであり、ジュンはペンタにと迫っていた。

「簡単に言えばダストストリート最強の男ですね。ダストストリート最強の称号『ダーティ』をその名にしていますからね。それに、ダストストリートを一時的に一つにとまとめていた誠一の傍でいざこざとか問題を解決してきた古参の人ですからね。そもそも、キャンサーさんってダストストリ出身ですよね?このことくらいは有名ですよ」

 ペンタの言うそれは、今まで自分の耳には届かなかった情報であった。何故自分の下に来なかったのかが不安で仕方ないジュンはさりげなくいつ頃の情報なのかを聞いた。

「いつ頃、ですか。そうですね、この情報が出回ったのはつい去年頃ですね。なんでもハードさんと一緒に行動し始めた情報屋が情報の開放を条件にかなりの量の情報を与えたらしいですよ」

 つい去年、その言葉を聞きジュンは思わず安堵のため息を吐いた。去年であればダストストリートにはおらず、正確にはダストストリートにあるこの建物はいたが訓練のため情報などは一切耳にと入れてなかった。

「そうか、なら耳に入らないわけだ。その間僕は特訓ばかりだったからね」

 するとペンタは苦笑いをしてジュンを嘲笑うかのような笑みを浮かべて言った。

「キャンサーさん、いくら何でもそれはやめておいた方がいいですよ。いくら特訓が大事でも情報の入手は大事ですよ」

「そうか。でも、生憎とこちらは情報を入手するのが苦手でね、代わりにやってくれないか?ペンタ」

「キャンサーさんの頼みであれば受けますよ」

 ペンタは指を鳴らして自信ありげな表情を浮かべて喜々としていた。その表情がジュンには親近的なものにと感じ、一人の友人として見るかのようにして接した。

「ペンタ、僕と友達にならないか?それに、僕のことをさん付けで呼ぶんじゃなくて君の好きなように呼んでくれないか?」

「友達、ですか。それは構いませんよ、ですがまた何で友達なんですか?」

「僕と同じくらいの年頃の男の友達がいないんだよ。だから、お前と友達になりたいって思って」

 ジュンは自分にと指を指し、その後にペンタにと指を指して言った。それを聞きペンタは腕を組んで言った。

「男、ってことは女性の方の方ではいるんですね?言わなくてはいいですよ、なんとなくは分かりますから。組織の親分の娘さん、ちよこさんの事ですよね」

「!?どうしてその事を」

 ジュンはさっきまでの開ききっていた心を警戒心にと変え、貌を強張らせて言った。

 ちよこは黒鵜の娘であり、このことを知っている者は組織内ではいないと黒鵜本人は言っており、その事事態を隠すようにとジュンは黒鵜にと言われていた。理由は恐らく、それに付き込んでの企みを避けること、もしくはちよこの身を案じての事だろう。もしもペンタがそのような事を考えているのであればジュンはこの場でペンタを捕まえ、口を割らさなければならない。

 しかしペンタは無邪気な顔を変えず、緊張感の抜けたような声で言った。

「安心してください。俺はキャンサーさんが考えているようなことはしませんよ。それと、キャンサーさんの事は兄貴って呼ばせてください」

「・・・本当なんだろうな。そもそもどこからそんな情報を取り入れているんだお前は?」

 ジュンは自身の頭をかきながらあきれ返った表情とため息を吐いて言った。

 ペンタ自身が信用できるかどうかはジュンにとっても分からない。しかし、彼自身の情報網は凄いことが分かった。信用、自分自身に対する信頼は後々と得ればいい、そう考えながらジュンは今後どうするべきか、彼を警戒するべきかどうかを見定めることとした。

「お二人さーん、特訓中に申し訳ないんだけど、黒鵜の大親分さんから命令が来たっすよ」

 するといつの間にかアムブロシウスが片手をあげ、姿を現した。

 黒鵜からの命令。今まで自分の下には来ず、命令に関した話が舞い込んでこなかった。しかし今回はアムブロシウス自らが話に来ると言うことは自分の下にと命令が来たと言うことだと察したジュンは気を引き締めてペンタの方にと体を向けた。一方のペンタはオウム返しをするように「命令?」と呆けた声で言った。

「そう、命令。ダストストリートの勢力争いをしてる『御猟(ごりょう)』、平和的に行くようであれば取り込め、まあ平和的にはいかないと思うから対談するさなかで攻撃しようとしてきたら潰せとのことだって。キャンサーは知っているよね?『御猟』のこと」

 アムブロシウスのその問いにジュンは重々しく「はい」と言った。

 御猟、ダストストリートの勢力争いをしている団体の一つであり、勢力争いをしている団体の中で一番暴力的だと言われている団体である。そんな者たちと対談するとなると今からでも身震いがする。しかしジュンが身震いをしている中でペンタは頭の後ろで腕を組み、呑気にあくびをかき言った。

「対談、なんてできるの?相手は暴力大好き、クスリも大好きな『御猟』だよ?」

「できる。なにせうちの大親分は優秀でね、対談できるようにと交渉をしてくれたんだ。それと、ペンタにはさっそくで悪いんだけど今回の任務にキャンサーと一緒に出てもらうからね」

 アムブロシウスのジュン一緒に任務に出ろ、とのことを聞き、ペンタは「はぁ?」と大きな声を出し、組んでいた腕をほどきアムブロシウスにと近づいて「どうして俺もなんだ?」と聞いた。ジュンからすれば全くの話であった。今日ここに来たばかりの者を連れて行くなどの大きなリスクを冒す理由などないからだ。

「仕方ないんだよ。なにせ最近組織を離れる輩が多くてね、自分から入ってきたクセにな」

「そのせいで、人数が足りてないと?あんまり減ってないように思えますが」

 初耳であった。まさか組織から離れている者が多いとは。しかしながらジュンはあまり減っていないように思え、ついつい言葉にとしてしまった。

「そうでしょうね。キャンサーには話していませんでしたかね?うちらの組織はいくつかに基地を分けていますから、ここではそうでも他の方に行くと目前ですよ」

 するとペンタは不思議そうな顔を浮かべ、腕を組んで言った。

「?あれ、俺の知っている話と少し違うな。俺の知っている話では基地、または集会場は一つしかなくてやろうと思えば基地だけを破壊すれば容易に組織を壊滅できるって聞いたんですけど?それよりも、さっきから組織、組織って名前はないんですかね?」

 ペンタの疑問に対してアムブロシウスは小者を見るような目をし、呆れ返った声で言った。

 確かにペンタの疑問はジュンにとっても基地のことは別として気になることであった。今までジュンは組織の名を聞いていなかった、それどころか耳にしたこともなかった。

「そりゃあ情報隠蔽のために偽の情報を流してるんだよ。それに、組織に名前なんてない。名前があると特定することが容易になるからの理由だそうだ」

 情報の隠蔽、そう言われれば納得できるような気がした。

「さて、さっさと仕事、任務に掛かるぞ。それと、最悪な事態を考えて・・・キャンサー、これ持っていけ」

 そう言われアムブロシウスから手渡された物は一つの銃、黒く鉄の色が輝くリボルバーであった。それをジュンは大事そうに持ち「これは?」とアムブロシウスにと聞いた。

「あくまで護身用だ。銃と弾丸の入手経路が安定していない今は一発一発を大事にしろ」

 そう言うとアムブロシウスは背中で「付いてこい」と伝えるように歩き出した。ジュンとペンタはそれを追うように彼の後を付いていった。

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