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Angel Bullet  作者: 司馬田アンデルセン
勇気ある邂逅
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2カートリッジ

 ちよこが帰り再び家はジュンと黒鵜の二人だけとなった。

 ジュンは先ほどちよこから聞いた話が未だに熱を持って心の奥に残っていた。その熱を保ったままジュンは黒鵜のいる部屋を訪れた。

「どうしたジュン、何か用でもあるのか?」

「はい。ちよこさんから聞いたのですが父さんはダストストリートを無くそうとしていると聞いたのですがそれは本当なのですか?」

 この際ジュンにとっては本当に無くそうとしているかはどうでも良かった。ジュンにとっては黒鵜がダストストリートについて考えてくれているだけで、それだけでも嬉しかったのだ。

 黒鵜は一瞬面食らった表情をしたもののすぐに落ち着いた素振りをしてありのままに「そうだ」と頷いた。そして自分の夢を実の息子に語るかのようにして柔らかに、優しい声で言った。

「私はこれ以上増やしたくないのだ。ダストストリートで苦しむ者たちや捨てられる子供たちを。だからこそ私は世間全体にダストストリートを認めさせる、そうすれば自然と国はダストストリートを救うはずだ。ジュン、お前ならこの気持ちが分かるはずだ」

「分かります、痛いほどに。僕には置いて行ってしまった人がいます、だから僕も父さんの言う夢を実前させるための手伝いをさせてください」

 黒鵜はジュンの言う申立を快く受け取れなかった。なぜなら、こんな小さな子に手を汚らせることになるからだ。例えそれが僅かな可能性であったとしても黒鵜には許せることではなかった。しかし、もしも彼が本当に心から望んでいることであったら?そう思うと断るに断れなかった。もしも、仮にそうであれば黒鵜はジュンのやりたいことを否定することとなる。それだけは避けたい、今まで自由に生きて行くことができなかったであるジュンにこれ以上不自由な思いはさせたくなかった。

 今のジュンは過去の自分であった。黒鵜はジュンを幼い頃の自分にとトレースさせていた、だからこそ分かるものがある。彼は今、自由に走りたいのだ。走って、走って自分の生きる道を見つけ出そうとしているのだ。

「・・・分かった。お前がそれでいいなら私と共に夢の隣を歩いてくれ」

「ありがとう、父さん。父さんの夢ならどこまでも付いて行くよ、例えそれがどんなに汚れた道でも」

 ジュンのその言葉は年齢とはそぐわず、誰よりも大人であろうとしたようなものであった。

 育ってきた環境が環境なのか、それともダストストリートと言う大人らしい大人が存在しない場所だったためなのか、今のジュンは自分と同等くらいの歳の者のように黒鵜は見えてしまい思わず「本当にこれで良いのか」と考えてしまった。

 やはり自分はこの人の為に、この人のやろうとしていることを手助けするために出会ったのだ。

 黒鵜は自分の事を認めてくれた、歩く道を共にしてくれと言われた瞬間ジュンは死ぬまで黒鵜に自分の命を捧げようとすらも考えた。それほどにジュンは黒鵜の目指そうとしている夢に恋焦がれ、黒鵜と言う人物が自分の父となってくれたことを心から感謝した。

「ジュン、お前にはこれから私の隣の歩く者としての力を付けてもらいたと考えている。そのためには一度ダストストリートに来てもらうが構わないな?」

「はい。それが今の僕に必要な力であれば」

 迷いは無かった。むしろ黒鵜の願いであればどんな命でも受けるつもりであった。

 真直ぐと見つめるジュンの目があまりにも眩しく黒鵜は強く胸を絞められる思いであった。これから自分はまだ十歳の子供に人を殺す方法を教えるのだからだ。

 黒鵜は静かに「付いて来い」とだけ言い、車の置いてある外にと向かった。横目で後ろを見ると当然のようにジュンは付いて来ていた。心の中では付いて来て欲しくないと思いながらも彼は自分に付いて来ていた。今からでも止めることはできる、それでも黒鵜の口からは「やめよう」「来るな」との言葉が出なかった。

 車の前まで来るとジュンは黒鵜の横にと立ち、黒鵜の車を見て呟いた。

「車で向かうんですね」

「あぁ。それとだ、今のうちに決めておこう」

「決めておくとは何ですか?」

 黒鵜はジュンにと一歩近づき、顔を近寄らせて言った。

「お前のコードネームだ。作戦を行うためにも普通の名前以外も必要だ。何がいい?」

「父さんが決めてください。僕が決めるよりも父さんから貰ったコードネームの方がいいんです」

 黒鵜は顔を俯かせ少し考えた末に「キャンサー」と言う名を口にした。

 ジュンに出会い、ジュンを拾った時の天気や月日の事を考えた末に星座のかに座からとり「キャンサー」だ。

「キャンサー、ですか。ありがとうございます、父さん」

「そうか、気に入ったようで良かった。では、行くとしよう」


 黒鵜の運転する車は、かつてジュンが暮らしていたダストストリートの近場にと駐車された。その後ジュンは黒鵜の後ろを付いて行き、一軒の建物にと案内された。

 その建物は、外見は低い建物ではあるが、中に入ると下にと続く階段があり、階段を降りて行くとその全貌は分かった。建物の中はとても広く、天井も充分と高かった。そして、下にと続く階段を降りるとそこには日本には似つかわしい光景が広がっていた。それは、様々な人々が銃の試し打ちのように様々な銃を撃っていたのだ。

「父さん、これは?」

「見ての通り、銃の特訓場だ。ダストストリートを無くす、認めさせるためには様々な勢力と戦う事となるだろう。そしてそれを確実なものとするためにも必要だ」

「確実なもの?それはどう言う事ですか――」

 そうジュンが黒鵜にと問いただそうとした瞬間であった。ジュンと黒鵜の間に一人の男性が割って入ってきた。その男は着崩したスーツを着ており、ひょろっとした態度で近づいてきた。

「おや、大親分がここに来るとは珍しいっすね。そちらの子供は一体どちら様で?」

「アムブロシウスか、丁度いいところに来た。こいつは私の息子であり、新しい仲間のキャンサーだ」

 どうやらこのアムブロシウスと言う黒鵜にと充分と信頼されているようであり、ジュンはいそいそとお辞儀をして「キャンサーです」と新しく貰ったばかりのコードネームを使って言った。

「流石は大親分の息子と言ったわけだ、社交辞令ができている。それで、新しい仲間と言う事はこんな子供でも訓練させて戦えるようにしろと?」

「そうだ。私の息子だからと言って特別扱いはするな。それと、しばらくはここで寝泊まりしながら腕を磨いてもらうが、構わないな?キャンサー」

「はい、手厳しくお願いします!!」

 ジュンはこれからお世話になるであろうアムブロシウスを前にして背筋を伸ばして言った。するとアムブロシウスはにやけ顔で気さくな笑い声でジュンの緊張感を和らげるようにして言った。

「そんな気むずかしくしなくていいっすよ。気長にやりましょう、大丈夫っすよ。大親分の息子となればすぐにでも上達しますから」

 こうしてジュンはアムブロシウスの指導のもと、銃の腕や戦闘などの腕を上げることとなった。しかしこの時ジュンはまだ黒鵜がエンジェルバレットを通して悲願を叶えようとしているとは知る由もなかった。そしてそのために銃の腕を磨かされていることに。

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