十五発目
変化のない高校生活程つまらないことは無い。鎖條物信はそれほどまでに退屈であった。やっとできた高校の友達も結局は自分を便利に使うだけの者だと理解したのもつい最近であった。その証拠なのか自分から話しかけなければ自分とは話さなかった。会話に入ろうとしても自分の言葉には空返事で返しが決まり返事であった。
しかしそれも数日前までの事であり、今では本当とも言うべきなのかどうかは分からないが、友達だと言うことができる者ができた。物信の過去の経験上彼は信用のできる男であり、彼女もまたその一人であった。男の方の名はジュンであり、クラスは違うがとても気の合ういい男である。そしてもう一人はちよこと言う新聞部の者である。なんでも前から物信のことを知っていたらしく、話そうと機を見ていた矢先に友人であるジュンが物信と仲良くしているのを見てその流れでちよこも友達となったのだ」
「おいジュン、さっさと帰ろうぜ。今日こそはお前に勝ってやるからよ」
SHRが終わり、下校の時間となり、物信は同じクラスのちよこを連れ、ジュンのいる教室にとやって来た。ジュンは物信の誘いに「少し待ってくれ」と言いカバンを背負い物信の下にと駆けつけた。
「悪いな、先生の話が長引いてさ。それと、今日こそはって言う事はそれなりに腕を上げたのかい物信君」
「まあな、それなりには上手くなったとは思う。それより、お前のクラスの先生って陽平先生だよな?あの先生って結構話長いのか、見た感じ真面目過ぎで口数も少なさそうだが」
物信の見た目と性格からの判断では陽平は口数の少ない真面目な先生だと言う印象が強い。するとそのことをフォローするかのようにちよこが二人の会話に入るように言った。
「陽平先生は確かに口数は少ないけど喋るときは喋るよ。それに今日は確か副担なんだよね?陽平先生が午後から出張で」
「あぁ、そうだ。僕のクラスの副担の話がいちいち長くてね、話の後半からほとんどの人が先生の話を聞いてなかったよ」
ジュンが苦笑いを浮かべ、面白そうにして言った。その苦笑いに物信とちよこはつられて三人で苦笑を浮かべた。
そうして三人は学校の玄関を出て、ゲームセンターのある繁華街にと足を運んだ。いつもであれば本を買ったりミリタリーグッズを買うだけに一人で来るが、友達と遊びに来るのも悪くはないものだと物信は思った。
少し前に誰か大切な者と来たことがある、物信はそんな気になったがそんな気はすぐに失せた。なぜなら、物信はジュンやちよこに会う前まではずっと一人であった。繁華街に来るのもただただ物を買うだけであり、こうしてゲームセンターに来ることも無かった。腑に落ちない所も少々あるがすぐに物信は目的地であるゲームセンターにとジュンとちよこと共に中にと入って行った。
その様子を上空で見ていた者が二人いた。一人は白いサマードレスを着た女性であり、もう一人は一見は女性なのか男性なのか区別がしにくい幼い者であった。
本来であれば空に人が浮かんでいるのだから誰かが気に留めるはずなのだが誰も気に留める者はおらず、むしろ認知されていないようにも思えた。
「まさか天使の力を使って『エンジェルバレットの参加者は誰一人エンジェルバレットの存在を知らなかった』なんて言う世界を作るとは、いや正確にはそうなるように過去を改変させたか。神様の僕でも予想を超えることだよこれ」
神様と名乗る者はやれやれと頭を掻きながら物信たちが入って行ったゲームセンターを見つめて言った。一方の彼女は全くもって気にしていないのか、表情を変えずその方を見て呟いた。
「そうね。私も驚いたわ、天使の力を使うと私と言う存在が無くなるなんて」
「それはちょっと違うな。天使の力を使うと人を辞めるだけで存在は消えない。だけど今回のケースで君は過去を改変させた、その代償として君は人としての存在が無くなった。まあ、もう一つの方は代償とか払わなくても叶えれたんだから良かったじゃん、エクスシア。ましてや複数人を蘇らせるなんて僕でも難しいんだから」
そうであった、エクスシアはある人物を蘇らせようとした。しかしそれは叶わなかった。そのためエクスシアは今までの出来事を変えるべく、このゲームのことを知っていた者は最初から知らなかった、と言う過去改変をしたのだ。
神様が言うエクスシアと言う彼女は目を閉じ、何か考え事をしているかのように黙り込み、再び目を開けて言った。
「私は彼が必要だった、彼も同じように。だから彼は私の代わりに正明を殺してくれた、父同然と慕っていた彼をね」
「物信の人生に幸運と祝福を、そして君の父である功成にも。よく分からないんだけどさ、なんで君は直接的に病態を良くするように行使しなかったんだい?」
神様の言うことは確かにその通りであった。直接的に病態が良くなるように力を行使すればそんな回りくどいことをしなくて済んだ。それでもエクスシアは、奏莓はそう願った。それは怖かったからだ。もしも目覚めた時に父が自分の事を覚えており困惑、悲しむ姿が怖かったからだ。そしてもう一つは、例え父が目覚め、一人ぼっちになったとしてもある程度の人生の幸運と祝福を約束してあげたかったからだ。その先はきっと自分の力で何とかするだろうと思い奏莓はそう願った。そして奏莓は神様のその質問に何を話すでもなくただ微笑みを浮かべた。その様子に神様は半分の呆れと半分の満足さに浸り言った。
「君がそれでいいならそれでいいよエクスシア、いや奏莓。僕はあくまで機会を与えただけだからね。その先はどうしようが勝手だ、君が手に入れたのは金や名誉ではない。君は賢者、上に立つ者を選んだ、僕はあくまでそれを手助けしたに過ぎない。その先のことは全部君が選ぶんだ。ガブリエルみたいにルールを独自に考えてエンジェルバレットを布教するもいいし僕みたいに傍観するもいい。僕は君たち人間の挑戦が見れただけで満足さ」
そう言うと神様と名乗る者はどこかにと消えてしまった。どうやら彼は今まで傍観していたらしい、人間たちの挑戦を。そんな挑戦に挑み、戦い、時には迷いもあったがそんな中で勝利、見事天使としての力を得たのは奏莓であった。そして奏莓は今、自分の使っていたルガーGP100に彫られていたエクスシアと言う名を得たのであった。それは彼女が求めずとも必然的に得るものであった。なぜならば彼女が今回のエンジェルバレットの勝利者なのだからだ。エンジェルバレットに勝利し、天使となると言う事は人の名ではなく天使の名を名乗る必要がある。その名がエクスシアなのだ。