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Angel Bullet  作者: 司馬田アンデルセン
勇気ある邂逅
19/32

十二発目

 喫茶店のOPENという看板からCLOSEへ、客を寄せ付けないための最低限の行為を行い喫茶店内は物信と奏莓とちよこの三人だけの空間となった。ちよこの「大事な話があります」との言葉に物信と奏莓は最低限の注意を払い、丸い三人用のテーブルにと移りちよこを囲むように座った。

「まずお二人に謝らないといけません。私が、お二人の情報を流していたことを。本当にすいませんでした」

 急な謝りに頭が追い付かず、なぜ謝られているのかが分からない物信は手を振り、顔を上げるように促した。一方の奏莓は落ち着いているのか、動じずちよこを見ていた。それよりも何かに気付いたかのように口を出した。

「あなたなのね、黒鵜に私と物信がエンジェルバレットに参加していることを教えたのは。あるいは、探るように命令されたのは。普通に考えればおかしかったもの。学生である私と物信がエンジェルバレットに参加しているなんてそうそう思わないもの」

「確かに、子供が命を懸けた戦い、ましてや銃を使ったゲームに参加しているなんて大人からしたら考えられるものではないしな」

「い、いえ、奏莓さんがエンジェルバレットの参加者だと言う事は黒鵜は知っていました。なんでもパーシェと言う者からキャロルの育てた者がいる、とかでパーシェが奏莓さんの情報を流したんです」

 ちよこは奏莓の答えに指摘するようにして言った。そして新たな者の名前、パーシェと言う名の人物が浮かんだ。どうやらこのパーシェと言う者が奏莓の情報を黒鵜にと流したらしい。となると、相手にしなければならない相手が一人から二人にとなったわけだ。だからと言って今更引き返す気は物信と奏莓には無く二人の頭にはただ、どう相手するかのことが頭にあった。

「なあ奏莓、俺らは黒鵜とパーシェと言う奴を相手にする、でいいんだよな?」

「奇遇ね、私も同じことを考えてたわ。それで、なんであなたは私たちにこのことを教えてくれたのかしら?」

「そ、それは。ケリを付けて欲しいからです。黒鵜はエンジェルバレットに勝つために様々な手口で勝ってきました。それにキャンサー、ジュンの事もあります」

 彼女の口からジュンと言う言葉が出てきた瞬間、物信と奏莓はその名に反応するように眉をぴくつかせ、物信は「ジュンだと?」と呟いた。その反応にちよこは「どうかしましたか?」と物信にと聞いた。

「いや、ジュンとは友達だからな。まさかそのジュンがエンジェルバレットに参加しているとはな」

「ジュンはエンジェルバレットには参加していません、ただ黒鵜を手伝っている形だけで直接的なエンジェルバレットに関わっているとは思えません」

「いいえ、手伝っている時点で既に関わっているわ。それに、銃の腕も高いはずよ。でも、物信と友達なら戦わなくても済むかも」

 奏莓のその考えにちよこは気まずいような、言いにくいような雰囲気で顔を曇らせて言った。

「残念ながらそれは不可能です。黒鵜はジュンの父でありジュンは深く黒鵜を慕っています。それに、ジュンは物信さんのことを深く恨んでいます」

「はあ!?それはどう言うことだよちよこ!?俺があいつに恨みを持たれるようなことしたか!?」

 物信は奏莓とちよこたちの顔を見まわして言った。ちよこは物信にと頭を下げて「すいません」と言い顔を俯かせて言った。

「ジュンが私を泣かした奴は許さないって言ったんです。私が泣き虫だからいけないんです」

 ちよこの言う「泣かした奴」と言うのが物信は始め何を言っているのかが分からなかったが、次第に何のことかが分かり「あっ」との声を出し、ため息を吐いて言った。

「まさか、お前のことを覚えてないって言うあれでお前泣いたのか?」

 そう言うとその通りだと言い表す代わりにちよこはコクリと頷いた。その通りだと言う事に物信は呆れと気付けなかった己の愚かさに頭に手を置いて「まじかよ」と嘆いた。

「女を泣かせるなんて最低ね、物信」

「いやいや、ただ単に覚えてないだけで泣くって意味わかんねーよ」

「冗談よ。それで、あなたは覚えていて物信が覚えてない記憶ってどんなものなの?別に私はあなたに興味があるわけじゃない、私の知らない物信がどんなものなのかを知りたいだけ?」

 興味あり気な奏莓にちよこは苦笑を浮かべてあの時の事を思い出すように、繊細に一つ一つ正確に物語った。

「物信さんは私が自殺しようとしたのを止めてくれました。それで、苦しみの先には幸せがある、って教えてくれたんです。本当に覚えていないんですか?」

 その話で物信は思い出したかのように「あぁー」と大声を上げた。

「そう言えばあったな。確かカッターで喉を刺そうとして自殺しようとしていたバカが。カッターで喉刺しても完全には死に至らないのにな」

「えぇ、あの時も同じようなこと言われました。そしてそれが私の初恋になりました、でもそれは叶わなかったんですけどね」

 ちよこは物信と奏莓の二人の顔を見て言った。

 物信は自然とどこからか罪悪感が沸いた。自分のせいでもなく、悪くないはずなのにどことなく愛されていた者からの愛を棒に振ってしまったことを悪く感じてしまった。するとそんな物信を見かねたのか、奏莓が物信の手を自然的に握りちよこに向かって言った。

「あなたの愛を知らずに物信を取ってしまったことを責められて悪くないわ。だけど私は物信を離すつもりは無いわ、だって私は彼を求めているもの。それに、キャロルに約束をしたもの、物信を大切にしなさいって」

「元からそのつもりです。私は、何よりも物信さんの幸せを願ってますから」

「悪かったな、ちよこ。お前にとっては大事な記憶なんだからな。それどころかお前の愛に気付けずに棒に振ってて悪かった」

 物信は改めてちよこに頭を下げて謝った。

「と、とんでもないです。ですけど、こうして謝ってもらうと心の靄が晴れた気がします。ですから、顔を上げてください。私はもう大丈夫です」

 物信に謝ってもらえたことで心の靄が消えたと報告し、顔を上げるようにと促した。物信もちよこが許してくれた、大丈夫だと言う事を聞き、心を安心しきって顔を上げた。

 一方の奏莓は昔の話を思い浮かべながら喋る物信とちよこにヤキモチを妬いたのか、それともただ単にそろそろ本題に戻りたいのか咳払いをして言った。

「それで、ちよこさんは知っているの?黒鵜とジュンの居場所を。ケリを付けるにしても居場所が分からなきゃ意味が無いわ」

「分かってます、そのために今日はやって来ました」

 するとちよこはポケットから何回にわたって折られた地図をテーブルに置き、折られていた地図を見えるようにと開き、赤い線で記された所を指で指して「ここです」と言った。その場所を奏莓はまじまじと見て言った。

「ここには黒鵜だけがいるの?それとも部下たちもいる?」

「いいえ、ここは基地ではなく家です、言うなれば自宅です。他に居るとしてもジュンだけです」

 自宅、その言葉に奏莓は少しばかりの迷いの間に「そう」とだけ言って赤い線で記された所を眺めていた。

 物信は完全に自分の世界に入ってしまっている奏莓を置いてちよこにと質問した。

「なあ、黒鵜の部下はどうなんだ?例え黒鵜の自宅を襲ったとしてもそれがばれたら部下が応援に駆け付けるんじゃないか?」

「それは、多分大丈夫です。前に黒鵜とその部下が活動拠点としていた場所が謎の女性に襲われほぼ全壊してしまい、再び建て直すまでは動けないそうです」

 謎の女性、それがすぐにキャロルだと言う事が分かった物信は「キャロルさん」ともうこの世にはいないキャロルを思い浮かべて呟いた。

 動けない、だとすれば黒鵜とケリを付けるならば本当に今しかない。もしもこのチャンスを逃せば次はもう無いだろう。それどころかより一層に警備が強化され黒鵜を倒すことすらもままならぬ事態になるだろう。物信はキャロルが作ってくれたであるこのチャンスを活かして勝たなければならないと思い、迷うまでもなく、全てを決意して言った。

「なあ、奏莓、それにちよこ。俺は誰にも利用されたくない、誰にも利用される気は無い。だから俺は奏莓の為に共に戦うって決めた。だけど今回はちっと無理そうだ」

 そう言うと物信はちよこにと「スマホ貸してくれ」と言いちよこからスマホを借り受け、ジュンの連絡先を探しジュンへと電話を掛け始めた。

「よお、ジュン。ちよこは俺が預かってる、後で場所と時間を指定するから銃を持ってこい。それと、シルバーバレットも持っているならそれも持ってこい」

 そう言うと物信はジュンの言葉を聞かずに通話を切りスマホをちよこにと返した。

 その様子を見ていた奏莓は何を言うでもなくただ物信の事を見ていた。それに対して物信は申し訳なさそうな顔で奏莓にと謝った。

「悪いな、ジュンとの戦いは俺がしたくてな。でも、絶対に生きて帰ってくる」

「分かってるわよ。それに、ジュンとの戦いは私の為でもあるんでしょ、黒鵜との戦いでジュンと鉢合わせにならないように」

 物信の意を汲み取るように説明し、気にしていないとのことを告げた。その事が嬉しかったのか物信は自然と「ありがとう」と言っていた。

 一方のちよこは困惑しており、物信にと「どう言うことですか」と言い寄っていた。物信は手を前に出して落ち着くようにして言った。

「ちよこは別に何もしなくていい。要はちよこのことを大事、大切だと想っているんだろジュンは。だったら俺がちよこを人質に取れば必ずやって来る。奏莓、人通りが少なくて一対一で戦うのにもってこいな場所とかないか?」

「そうね、だったら川沿いの倉庫はどうかしら?ほら、昔は資材などを置いてたけど今じゃ使われてないあそこ」

 奏莓の言う倉庫の場所はキャロルと戦ったあの場所であった。もちろん物信はその事は知らず、知っているのはただの使われてない川沿いの倉庫と言う事だけだ。そうとは知らず無粋に「場所は」と自然的な流れで聞いていた。奏莓は今にも震えそうな手の震えを我慢し、ちよこが持ってきた地図にある倉庫の場所を指した。

「そうか、意外と近場なんだな。それと、これはお前に渡しておく」

 そう言い、物信が取り出した物はシルバーバレットであった。突如として差し渡されたシルバーバレットを前に奏莓は「どう言うこと?」と困惑しながらシルバーバレットと物信の顔を見て言った。

 予想していた反応に物信はシルバーバレットを奏莓の手のひらに乗せて言った。

「もしも、ジュンの方が一枚上手だった時の保険さ。もちろん、負ける気は無い」

「だったら、だったら渡す意味なんてないじゃない!?」

「だからこそだよ。俺は最低限の保険を掛けておくだけだからさ。それに、銃の知識では俺の方が上なんだから負けるはずがないだろ」

 そう物信は自信たっぷりな笑みを奏莓にと向けた。それに対して奏莓は突如と物信にと抱きついてきたのであった。その行為があまりにも突拍子で的外れな行為であったためか物信は「奏莓?」と奏莓の名前を呟いた。

「絶対に生きて帰って来てね。でなきゃ、許さない」

「分かってるさ、お前こそ生きて帰ってこいよ。俺はお前が必要なんだ」

 物信は奏莓の頭を撫でながらそう言うと奏莓もそれに対抗するかのように物信を強く抱きしめて呟くように言った。

「私だって、あなたの事が必要。その想いは同じ」

「さて、最後になるがちよこ、本当にいいんだな?」

 物信は最後の確認を取るべくちよこにと真剣な眼差しで最終告知を告げた。

「はい。本音を言えば心苦しいですが、戦いともなれば気遣いは無用です。ジュンを殺してしまっても――」

 そう続きの言葉を言う前に物信が口を開いた。

「バカ、それ以上は言うな。命の保証はできない、と過去の俺だったら言うかもしれないが考え方が変わってな、できる限りの事はする。ちよこにとってジュンは掛け替えのない存在なんだろ?」

 その問いにちよこは若干の迷いはありながらも「はい」と自然的に口にしていた。

 物信の言う考え方が変わったと言うのは本心であった。しかし、その半面で自分もジュンと言う初めての友人を殺すことに若干の抵抗があり、それを言い訳に「できる限りの事はする」と言ったのだ。それでも戦い自体にはそこまでの抵抗はなく、矛盾していると言われればそうであったが手を抜く気などは無かった。

「掛け替えのない存在を失うのは辛いからな。それでも本気でやらなきゃジュンにも申し訳ない」

 物信の言う事が奏莓の事を想い、キャロルのことを示唆しているのだと分かった奏莓は物信の顔を見た。一方の物信は奏莓に見られているとは気づいていないのか、至って平常な態度を執っていた。また、物信の瞳には決意に満ちた輝きがあった。その瞳の輝きがいつしかのキャロルと同じような瞳をしていたためか、奏莓は物信のその瞳に見惚れていた。その様子に気付いた物信は「大丈夫か?」と奏莓を心配するように言った。

「大丈夫。ただ、心を決めたんだなって。今の物信、なんかキャロルみたいに輝いてたから」

「そんなわけないだろ。俺がキャロルさんみたいだったらおかしいだろ?だけど、心を決めたことはあっているかもな。俺は決めた、決意した。お前の為にジュンに勝つ、勿論ちよこの為にもできる限りの事はしてジュンを連れ戻すよ」

 物信は自分が決意した趣旨を奏莓にと話すとグーサインをして見せて笑みを浮かべた。その笑みにつられるように奏莓も笑みを浮かべた。

 勝てるかどうかは分からない。ただ、これだけは確かだった。自分は奏莓の為に、自分の為にもジュンと戦い生きて帰ってこなければならない。そのためには出し惜しみなどしない、最後まで本気を出さなければならない。それが物信の心で決意したことであったと同時に一つの覚悟が生まれた。それは、今から自分はジュンの想いを踏みにじらなければならないと言う覚悟だ。しかし今の物信にとってそれは愚問であった。なぜなら、物信は奏莓の為ならば相手がどんな者でもその者の決意と願いを踏みにじれる気がしたからだ。

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