才能ナシの異世界コント
賢者の弟子の部屋に、人間世界で購入した60インチのテレビとBlu-rayのデッキが運びこまれる。
そして、山積みにされたDVDのケースの山。
エルフの賢者は、人間世界でCDショップに入り、
大人買いし、命の大精霊に頼んでこの世界に運んでみせた。
12畳ほどしかない部屋に、60インチのテレビはあまりにでかい。
これは間違いなく、目を悪くする環境だ。
賢者の屋敷には、人間世界で利用される電気を発電する仕組みもあり、
小人の賢者の協力を得て、テレビを組み立てる。
テレビとデッキの接続は説明書を読める賢者の弟子がおこなう。
その間、エルフの賢者はポットにコーヒーを入れてもらい。
ベッドの上でどのDVD最初に観るかを決めてもらう。
「このテレビって、どこにおけばいいんですか?」
テレビはあってもテレビを置く台がない。
今は小人の賢者が1人でずっと持ち上げてくれている状態だ。
「そこにいい台があるじゃない?」
エルフの賢者はコーヒーを片手に、空いた手で小人の賢者を指さす。
「いや、だからそれ戦争になるって」
ドワーフ族の長にテレビをずっと持たせてました。
なんてドワーフ族に言ったら速攻アウトだ。
というか、テレビって伝わるのか?って話だが。
「仕方ないわね」
エルフの賢者は目をつむり、瞑想を始める。
この目をつむって瞑想している間は、遠くの誰かと話をしている間だと、小人の賢者が教えてくれた。
「少ししたら、台が来るわ。
台が来る前に部屋をもう少し大きくしておこうかしら」
エルフの賢者がそういうと、ベッドの上から立ち上がり扉の近くに歩みよる。
・・・部屋を大きく?そんな事まで魔法でできるの?
小人の賢者に視線を送るが、小人の賢者は頭を横にぶんぶん振っている。
小人の賢者に視線を送って、エルフの賢者から目を外した一瞬だった。
壁と床や天井との間に火が走り、一瞬にして壁が燃え落ち、となりの部屋とつながった。
・・・
・・・・
・・・・・
魔法とか、、、科学とか、、、この世界って色々あるよね?
何、物理的に壁破壊?
確かに部屋の大きさは2倍になったけど・・・
小人の賢者に視線を送ると、小人の賢者も驚きを隠せていない。
そうだよね。
普通はそうだよね。
驚くよね。
賢者なんて言われている人が、最も原始的な方法をやるなんて思わないよね。
「魔法使ったでしょ?」
「いや、魔法使ったって、壁破壊しただけじゃん!
この世界は、もっと科学とか色々あるじゃん。
なにこのギャグ漫画みたいな展開。
そんな魔法とか使って古典的なギャグやめて。
それじゃあ、お客さんも喜ばないよ」
自分たちの世界では存在しない、魔法を使ったギャグのような行動を目のあたりにして、自分でも何を言っているのかわからない。
ただ...
「この屋敷って火災警報器とかないの?
今の普通に警報器なるレベルの火だったでしょ」
・・・何を言っているんだ俺は。
「君、 馬鹿なの?」
エルフの賢者はもの凄く見下した目で自分を見ている。
「なんで?」
「火がついたら、水の精霊で消せば済む話じゃない」
・・・
・・・・
・・・・・
ほんっと魔法って、自分の常識を破壊してくれる。
そうだよね。そうだよね。そうですとも。
火をおこす事も、水を作る事も可能ですもんね。
んっ?
「なら、この世界で火事ってあんまりないの?」
そう、水の精霊の力を使えば、火は簡単に消せてしまう。
火事がおきてもすぐに消せてしまうんだったら、火事でなくなる人はほとんどいないだろう。
「火事はあるよぉ。
水の精霊を使える人は街にはほとんどいないからね」
テレビを持ち上げている小人の賢者いう。
「なんでっ?っていうか、とりあえずテレビはその辺の床に置いてくれ」
テレビをずっと持ったままだった小人の賢者に質問をする。
「水の精霊使いは、回復に重宝されるから、
軍隊にいれられちゃう人が多いんだぁ」
小人の賢者はテレビをいったん床に置く。
「回復系統の魔法ができるのは少ないのよ。
特に、水の精霊との道が太い人なんて、
世界線のすぐそばでたいっ」
「お待たせしました。賢者様」
白衣を着た長身の男と白衣を着た優しい顔の男が扉を開けて入ってきた。主任とタイラだ。
彼らは木の板を何枚も持っている。
扉で頭を打ったエルフの賢者は、打った場所を手で確認している。
「早かったわね!
それじゃ、ここで組み立ててちょうだい」
エルフの賢者に言われると、持っていた木の板を床に置き、タイラが組み立てを開始する。
小人の賢者もすぐにタイラの手伝いに参加する。
小人の賢者はドワーフ族だから、こういう木製の物を組み立てるのもうまいのだろう。
エルフの賢者は自分に近づいてきて何をするかと思ったら、いきなり頭をはたいてきた。
「なんで、俺叩かれてんすか?」
「あの2人は、担当者が違うから叩けないのよ!」
マジ?それってただの八つ当たりじゃね?
手加減をして痛くないように叩いてくれているから、我慢はするけど...
エルフの賢者はそのまま、賢者の弟子が寝るベッドに飛び込む。
そこ俺の寝床だぞ。
「デッシー、この前の元の世界に戻ったんだろ?
どうだった?」
「デッシー???」
主任がすぐそばに寄ってきて話かけてきた。
「弟子だからデッシーだ。それでどうだった?」
主任は何を聞きたいんだろうか...
「普通に、過ごしただけですよ」
普通?ではなかったけど、普通にしておこう。
賢者がこちらを見て笑みをうかべてるし。
「デッシーは、こっちの世界の技術をむこうで利用して、
あんなことやこんなことしようとか思わないのか?」
「はい?」
主任。あんた間違いなくダメな人だ。
異世界の技術を自分たちの世界に持ち帰ろうとしてるダメな人だ。
「賢者様。ここに1匹、害虫がいるみたいなんですが」
「害虫扱い?」
「主任はそんな事ばかり考えているから、
記憶の許可がおりないのよ。
担当者に心を読まれている事を忘れてない?」
主任は頭をコクンと落とし、うなだれている。
「デッシーの為に、
僕のお気に入りの声優とキャラに設定したのに」
「???」
何を言っているのかわからず、頭の上にクエスチョンマークが沢山並ぶ。
「賢者様の声や口調変わっただろ。
あれは僕の大好きな声優とキャラを元に作った奴なんだ」
なんだろう。どこから突っ込んでいいんだろう。
要するに今の賢者の声や口調は主任の趣味って事?
翻訳魔法の設定をそんな個人の趣味で作っちゃったって事?
「賢者様、この人、マジダメな人です」
賢者に向かって主任を指さしていう。
「何を言っているんだデッシー。
この技術はとてもすばらしい物なんだよ。
自分の好みの女性が自分の好みの声や口調で話すようにもできる。
例えこの技術が利用できなくても、
この技術をアニメ制作会社に売り込んでみろ。
途中で声優が変わる事があたり前になり、DVDやBlu-rayなんかでは、主音声と副音声で、違う声優、違う口調のアニメが生まれるかもしれないんだぞ。
それに、デッシーだって賢者様の容姿を自分の好みに変えてるじゃないか?」
「あれ、あの人が勝手に変えただけですよ。
自分は身体変えられるなんて知りませんでしたから。
それに、主任のそのアニメの案、
ただ単に声優のコストが上がるだけだから、
きっとアニメ制作会社は喜ばないんじゃないんですかね。」
「副音声には新人声優を使えばいいんだ」
・・・ダメだこの人。完全にアウトな人だ。
「なかなか面白い男でしょ」
エルフの賢者は笑みをこぼしている。
わかっててやってんのか賢者は...
主任と自分との馬鹿話に一切参加せずにいるタイラさんは、小人の賢者の一撃を受け。穴が空いた木の板を悲しい表情で見ていた。
あのちっちゃい賢者の力をあまくみたな...