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第三章 23 作戦開始

「それではまず、研究所に行かせてくれませんか」


 ほとんどの兵士が玉座の間を出ていき、だいぶすっきりとした玉座の間で、わたしはそう言った。


「研究所? 何故だ?」

「研究所は、最もクロスの息がかかっている施設と言っても過言ではありません。そこを壊せば、奴等にもかなりの打撃を与えることができる。そう考えてのことです」


 リンがスラスラと理由を答えた。さらに、心配そうな表情を見せる大臣に先手を打つように語り掛ける。


「ご心配には及びません。研究所にはまだ膨大な量のエネルギーが蓄えられています。すぐに生活が困難になることはないでしょう」

「そうか……そういうことならいいだろう。研究所の権限は私が持っているのでね。王、よろしいでしょうか」

「ああ、構わん。好きにしろ」


 投げやりなライオネルの返事に、大臣が首をすくめる。そのお茶目な仕草が、ピリピリした空気とミスマッチだった。


「では、全員研究所に行くということでよろしいかな?」

「いや、わたしとユーリの二人だけです。後の三人は別行動で」

「え、あなたたちが!?」


 大臣はわたしとユーリを交互に見て、また心配そうに眉を下げる。


「正直、あなたたちが行くとなると、身の安全は保障できませんよ……? 私の指示が研究所の隅々まで行き渡るわけではないので……」

「覚悟の上ですよ」


 ユーリが仕方なさそうに答えた。このメンツの中でも、指名手配が出されているのがわたしとユーリ。よりにもよってその二人が研究所に乗り込むわけだから、大臣が困惑するのも無理はないだろう。わたしも内心で苦笑する。


「それでは、今から通達をしましょう。ついてきなさい。ああ、一応あなたたち三人も来るだけでいいから」


 そう言われ、わたし達は揃って玉座の間を出た。階段を下り、一階の端まで移動し、そこにあった別の階段をまた上る。その先にはいくつかの部屋が並んでおり、大臣はその一番奥の部屋のドアを開けた。


「ここが研究所との通信機器が置いてある部屋だ。ええと、どこだったかな。確かこの辺りの箱がそうだったような……待たせてしまって悪いね、どうにも機械に疎いもので……」

「いえ、お気になさらず」


 小さな部屋の中は、いろいろな機械っぽいもので埋め尽くされていた。大臣は近くの大きな箱をこうでもないああでもないと呟きながら、いじくりまわしている。

 確かに、これだけ種類があればわからなくなるだろう。どうして担当者をこの人にしてしまったのか。わたし達は棒立ちで大臣の奮闘を見守る。


「あ、ああ! これだこれ。これに、このボタンを押して……」


 ようやく目的のものを見つけ出したらしい大臣が、嬉しそうに声を上げた。わたしは大臣の隣に近寄って、自然な感じで箱を覗き込む。ルーナが持ってきたものよりもう一回りか二回りくらい大きいサイズだ。


「これで向こうと連絡が取れるんですか?」

「ええ。ついでに向こうの様子も見れるんだが………………?」


 しかし、箱はうんともすんとも言わなかった。大臣はまた箱を少しいじって、すぐに顔を真っ青にする。


「なんということだ……」

「……え、何か起こったんですか」


 嫌な予感がして、わたしは思わず顔を歪める。みんなも同じものを感じ取ったのだろう。部屋には不穏な空気が流れ始めた。大臣が箱に縋りついて叫ぶ。


「研究所からの通信が途絶えた! いや、接続が切られた!!」


 …………なんとなく、予想していた結果ではあったけど。

 物事上手くいかないなあ、とわたしは腕を組んで遠くを見つめる。


「城と接続を切ったってことは、ここの人たちの洗脳が解けたことに気がついたんでしょうか?」

「とりあえず、研究所の様子を見ないことには状況は変わらないでしょ。彩」

「おっけー。わたし達、外に出て研究所の様子見てきます。わざわざありがとうございました」


 ナオに促され、わたしは大臣に向かってぺこりと頭を下げた。それから、ドアを開けて部屋の外へと飛び出した。



**********************



 研究所の前まで走って来たわたしとナオは、研究所の近くまで来ていた。他の人たちはマツさんの家のところで待機だ。幻惑を使うのは、二人までが限界だからね。

 わたしは息を整えながら、研究所を見上げる。


「閉鎖されてる、ねえ……」


 研究所は、門ががっちりと閉められていた。ずらりと鎧を着た門番たちが並び、なんだかただ事ではない雰囲気をビシビシと感じる。


「このままじゃ、正面突破は厳しいでしょうね」

「だよね。ちょっと様子窺ってこようか?」

「私も行く?」

「いやいや、いいよ。わたしだけで余裕」


 心配そうなナオに、わたしはウインクして親指を立てた。なかなかこれも慣れてきたしね。ここでヘマするような彩さんじゃないですよ。


「じゃ、ちょっと行ってくるよ」


 わたしはいつものネコ少女の姿で、研究所へふらりと歩いていく。そして、研究所の数十メートル前まで来たところで、「止まれ!」と門番に叫ばれた。うわっ、と思わず後ずさってしまう。


「それ以上研究所に近づかないでください。あなたの首が飛んでも知りませんよ」


 門番が、わたしに向かって険しい表情で言う。わたしは息をついてから、門番たちを見回した。


「ビックリしたー……。一体どうしたんですか? 急に警備が厳しくなったみたいですけど」

「今、研究所では重大な実験が行われているので、研究所を徹底的に封鎖しなければならないのです。よって、部外者のあなたをそれ以上立ち入らせることは出来ません。早く引き返した方が身のためですよ」


 話し方は丁寧だけど、ドスの利いた声だ。今のは誇張なんかじゃなくて、本当のことだろう。

 ずらりと並んだ門番たちをもう一度見て、わたしはため息をつく。


 ちょっと人が多すぎる。もう少し注目を惹くものがあれば……。


 わたしは肩をすくめて笑った。


「わかりました。お仕事頑張ってください」

「ありがとうございます。おい、お前ら。ここに集まっていても仕方がないだろう。もっと散らばれ」


 はい、と野太い返事が揃い、わたしを抜かして何人かが走っていった。わたしも足早にナオの待つ場所へ向かう。


「どうだった?」


 ナオのいた場所へ戻ると、すぐにそう聞かれた。わたしは「歩きながら話すよ」と囁いて、ナオの手を引く。向かう先はもちろん、仲間たちが待つマツさんのアパートだ。


「警備はめちゃくちゃ厳重。重大な実験をしてるとか言ってたけど……」

「何それ。大丈夫なの?」

「大丈夫ではないだろうなぁ。だから、なるべく早く何とかしないと」


 ナオが目を細めて、じとっとわたしを見てくる。


「その自信、何か案があるんでしょうね?」

「もちろん。上手く行くかは知らないけどね」


 にやりと笑みを返したとき、ちょうどアパートの前に着いた。この前わたしとセイが隠れた物置の陰に入ると、みんながぎゅうぎゅうで押し合っている。


「彩先輩、おかえりなさいっ! どうでしたか?」

「なかなか警備が厳しそうだよ。だから、もう強行突破しかない」

「強行突破?」


 リンが首を傾げる。わたしは頷いて、近くに立っているユーリの腕をぐいっと引っ張った。それから、もう片方の手の親指で自分を指す。


「喜ばしいことに、わたしとユーリは見事な指名手配。ここで暴れたら、かなりの騒ぎになると思うんだよね」

「……ああ、混乱に乗じてってことか? 確か、人間と魔女を見つけたら、研究所に通報することになってたよな」

「君たちが暴れたら、住民たちは間違いなく研究所に通報するだろう。効果はあるんじゃないかな」


 ユーリとリンが、わたしの言いたかったことを上手ーく代弁してくれた。いやあ、持つべきものは理解力のある仲間だね。ほんと助かる。

 わたしは満足して頷いた後、ナオとセイを見る。


「まとめると、今からわたしとユーリ、あと転移の関係でリンの三人でちょっとゴチャゴチャやる。ナオとセイは先に魔法陣予定地に行って、準備を始めておいてほしい。もちろん、やることが終わったらリンにはそっちに戻ってもらう。リン、いい?」

「もちろん。ボクに出来ることなら何でも」


 リンが快く答えてくれる。わたしがリンに笑いかけると同時に、ナオもふっと笑った。


「わかった。研究所に侵入してからは、作戦通りってことよね? ちょっと難易度が上がるだけで」

「そうそう。あとは研究員に見つからないように、捕まらないようにしながら、能力者たちを解放してエネルギーを頂戴するだけ」

「なんだ、簡単ね……冗談よ」


 ナオの表情は、いつもの不敵な笑みだ。その隣で、セイが両手をぎゅっと握って気合を入れる。


「もうやるしかありませんね!」

「その通り。ま、まさか想定の通りに行くなんて思ってなかったしね。みんなもそうでしょ?」


 みんなを見回すと、揃って何とも言えない微妙な顔をしていた。そうでしょうそうでしょう、わたしもそうだったから。もっと綿密に作戦考えておけばよかったかもしれない。


 不安を飲みこんで、行動する勇気に変えて。わたしは高らかに叫んだ。


「それじゃ、作戦開始っ!!」



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