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第三章 19 作戦会議

 わたし達が妖精図書館に帰ると、既にみんなが起きていて、わたし達を待っていた。ユーリだけめちゃくちゃ眠そうだけど。


 わたしとセイは「ただいま」と言いながら急いで自分の席に着いた。


「おかえり。ちゃんと結晶は渡せたかい?」

「もちろん。さらに、マツさんから有力な情報をたくさんもらってきた」


 わたしはマツさんから貰った地図をテーブルに広げ、セイと二人で説明する。セイに「意外と記憶力良いんですね」と褒められた。意外とは何だ。


 一通り説明し終わると、話を聞いていたナオがふう、と息をついた。眉間を指でほぐしながらわたしとセイを見る。


「情報が多すぎて整理が追いつかないから、ひとまず私達の方の話もするわね。今朝、ようやく魔法陣の発動の方法がわかったのよ」

「え、今朝わかったの!?」


 ナオの言葉に、セイが身を乗り出した。わたしはセイとナオを交互にみて首を傾げる。


「魔法陣? 何それ、わたし初耳なんだけど」

「多分この場で知らないのはアヤ君だけだろうね。君はずっと外で動いてくれていたから。始めから説明すると、ボクたちは結晶の力を獣人界全土に広げるためにはどうすればいいのかを考えていたんだ。そして辿りついたのが魔法陣さ。魔法陣にも種類があるんだけど、今回ボクたちが利用しようと考えているのは『効果を拡散させる』魔法陣。この魔法陣と結晶を使って、獣人界の洗脳を解こうと考えているんだ」


 リンはテーブルの上に置かれた数冊かの本を手で示し、にっこりと笑う。

 魔法陣。ファンタジー小説とかゲームに親しんできたわたしとしては、結構聞き馴染みのある言葉だ。それで結晶の力を拡散させる……って。


「難しいことは聞かないけど、それって可能なの?」

「……可能か不可能かなんて、やってみなければわからないんじゃないかな」

「つまり、現状厳しいってことよ。リンの態度から察してもらえると嬉しいけど」


 ぎこちない様子のリンをバッサリと切り捨て、ナオはため息をつく。


「この中で魔法を主力として使えるのは、私とセイとリン。彩は魔法特化じゃないし、ユーリなんてそもそも魔力がないでしょ」

「そして、ボクたちが発動させようとしている魔法陣は獣人界全土に干渉する大掛かりなものだ。三人だけの魔力で発動できるかどうか、かなり危ない感じではあって……」


 事実を認めたリンが、歯切れ悪く続けた。そりゃそうだ。いくら魔法が使えるとはいえ、三人だけで一つの世界に干渉できるような魔法陣をポンポン使われたら、クロスが暴れまわる前にこの世界は終わっていただろう。


 身を乗り出していたセイが、落ち込んだ様子で椅子に座りなおす。


「じゃあ、この案は考え直しってことですか……」

「いや、その必要はないかもしれない」


 セイの呟きを遮ったのは、今までずっと居眠りしていたユーリだった。いや、ここで会話に参加してくるってことは、居眠りはしてなかったのか。ただ単に目を閉じてただけで。

  

「それはどういうことだい?」

「さっき彩とセイが言ってただろ。使われていないエネルギーが大量に保管されてる、って。それを使えばいい」


 リンの問いに、ユーリはさらりとそう答えた。


「あたしと彩の二人で研究所に潜入して、エネルギーをリンたちに渡す。そのエネルギーを使えば確実に魔法陣は作動するだろうよ。結晶の力もあるし、そんなに量も使わないだろうと推測する」


 ユーリが、地図の保管室の部分を指でトントンと叩く。わたしはそこを覗き込みながら乾いた笑みを浮かべた。


「魔法陣の問題点は魔力が足りないことだけなんだよね?」

「うん。発動方法はかなり明確に書かれているし、複雑ではないから」

「ってことは、これが一番手っ取り早い方法ってことになるのかな。いや、全然手っ取り早くないんだけど」


 それでも、時間はあまり残されていない。竜がこっちの動きに勘づき始めた以上、もう一度案を練り直す余裕なんてあるわけがないだろう。

 ということは、ゴリ押しでもこの作戦にかじりつくしかないわけだ。


「やるの?」


 覚悟を決めたわたしに、ナオが静かに聞いてきた。わたしは顔を上げて頷く。


「もちろん。ここからがラストスパートでしょ」

「結構早い段階でのスパートですね……。でも、確かにやるしかないです!」

「わかった。それじゃあ、作戦を練ろうか」


 気合を入れるセイと、微笑んで眼鏡の位置を直すリン。わたしはもう一度研究所の地図に視線を落とした。


「まず、大前提としてわたしとユーリが研究所にうまく潜入しないといけない。その方法を考えないとだけど」

「彩の幻惑で何とかならないのか? 研究所の関係者に化けるとかさ」

「写真さえあれば姿を変えることは出来ると思うけど、問題は声を変えられないところだよ。わたしの声じゃとてもじゃないけど大人には思えないでしょ」

「いやいや、どうしてわざわざ潜入するのよ。明日の昼にはライオネルと会えるわけだから、その時に何か協力を頼めばいいんじゃない? 研究所は王様の権限で動いてるんじゃないの?」

「確かに。それだったらエネルギーを手に入れることも簡単かもしれないですね」


 そうなれば、作戦は次の段階へ進む。


「アヤ君とユーリ君がエネルギーを手に入れる間に、ボクたち三人は魔法陣の下準備をしておくことにしよう。エネルギーを手に入れたら、アヤ君は転移魔法でボクたちのところへ運んで。場所は今日下見に行こうか。もしかしたら明日には決行するかもしれないからね」

「了解。少しまとめようか」


 わたしはパチンと手を叩いた。


「まずは、明日の昼に王様に謁見に行く。もちろん幻惑は使わない。全員来る?」

「そうだな。研究所に入るなら誤解は解いておかないといけないし……」

「そういえば魔女問題があったわね。忘れてたわ」


 ユーリの気の重そうな返事に、ナオもため息をつく。確かに、わたし一人で研究所の方をなんとかするのは怖いところあるしなあ……ここで主人公っぽく「俺に任せろ!」なんて言えたらカッコいいんだけど。


「じゃあ全員で城に乗り込む。そして、洗脳が解けた王様に、研究所のこと、クロスのこと、ユーリのことを話して協力してもらう……。難易度高くなってきたな?」

「でもでも、王様さえ説得すれば研究所のことはどうにかなりますよ! あとは洗脳を解くだけです!」


 王様さえ説得すれば……うん、とにかく誠心誠意込めて話すしかないよね。それ以外にどうしようもないんだから。


「その次。研究所に入った彩とユーリが保管室へ行き、エネルギーを私達のところに転移させる」

「それを受け取ったボクたちで魔法陣を発動させる。その間に、アヤ君たちは能力者の解放や竜への対処をお願いしたい。ここまで派手なことを一気にするんだ、当然クロスも勘づくだろうからね」

「わかった。わたし達だけで押さえこめる自信ないし、王様に兵士を派遣してもらいたいところだけど」

「それも頼んでみることにしましょうよ。とにかく王様に協力してもらう! それが第一です」

「うん。勝負は明日の昼――」


 これは獣人界の問題だけじゃない。人間界の奪還も、この先の魔法界の安全も絡んでくる事件だ。ここでクロスに対する対抗手段を撃っておかないと……。


 家族や友達、魔法界で出会ったルダーラさんやアラスターたちを思い浮かべてから、わたしはテーブルを叩いて立ち上がった。


「よし、みんな。早く城下町に行って、魔法陣の下見を済ませよう!」


 

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