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第三章 12 ユーリの能力

 ひとまず妖精図書館に帰って来たわたしは、ユーリに能力の使い方を教えてもらうことにした。いつものテーブルを囲んで座り、ユーリと対面する。興味があるのか、他の三人も一緒だ。

 ユーリは慣れない様子で話す。


「内容はさっきも話した通りだよ。物を動かせる能力。例えばこんな風に」


 ユーリが指をすいっと上に動かすと、わたしの前にあった空のコップが宙に浮いた。わたしの顔の正面まで上がって、くるりと回って静かにまたテーブルの上に戻る。それを見ていたセイは大はしゃぎだった。


「すごいですね、ユーリ! これなら道化師とかになれるんじゃないですか?」

「いや、ならないならない。動かしたいものに対して、こう、動かす感じ。これでわかったか?」

「説明下手か。どうだろ、とりあえず動かせばいいんだよね?」

 

 わたしが出会った能力者の中で一番説明が下手と言っても過言ではないほどの説明力。一回試してみないことにはわたしもわからないし、ひとまず次の段階に進むことにする。


「何となくわかったんじゃないかな。じゃあユーリ、わたしに対して能力を使ってよ」

「彩に対しては能力使えないんだが」

「そうだった」


 人に対しては使用不可なんだっけ、この能力。わたしが助けを求めるようにリンを見ると、リンはさっきのコップを指さした。


「アヤ君がそれを持って、ユーリ君にそのコップを動かしてもらえば、間接的にだけど能力の効果を受けたことになるんじゃないかい?」

「なるほど。オーケーそれで行こう。ユーリ、お願い」


 わたしはコップを右手で持つと、左手でコップを指した。ユーリが頷いてじっとコップを見つめる。


「わかった。いくぞ。3、2、1」


 カウントダウンが終わると同時に、わたしの持っていたコップがぐいっと上に引っ張られた。わたしはコップを引き戻すように力を入れながら唱える。


「『コピー』」


 いつもの焼き付くような痛みが走り、わたしはコップから手を放した。同じように能力を使おうとして気づく。


「ユーリ、この能力の名前って何? 切り替えのために、名前を呼ばないと使えなくてさ」

「名前なんてないから、彩が決めていいよ。なんか呼びやすい名前」


 ユーリが適当にひらひらと手を振る。そんなテキトーな……。他にカッコいい名前も思いつかないし、念動力でいっか。


「よっし、『念動力』!」


 わたしはテーブルの上に戻って来たコップに向かって能力を使った。動かす、とにかく動かす……!


 全力でコップに向けて叫ぶと、コップは少しだけ浮いて、ノロノロとテーブルの上をスライドした。


「……できない。ねえユーリ、出来ないよ! やっぱり理解が足りないのかなー……」

「コピーは出来たんだから、もう少しのところだと思うけど。もっとコツみたいなものはないの?」

「コツか……」


 ユーリはしばらくブツブツと呟きながら、コップを動かしたりしていたけど、やがてコップを指で弾いた。


「こう、対象に力を与える感じだな。力を与えて動かすのを意識する。たぶん」

「力を与える」


 わたしはユーリのアドバイスを復唱して、もう一度コップに向かって手のひらを向けた。コップに力を与えて、持ち上げる……。


「『念動力』!」


 そう唱えると、今度こそ、ゆっくりとコップが浮き上がった。ただ、小刻みに震えながらナオの方へ移動して、すぐに落ちる。ゴトン!と大きな音を立てて落ちて、ナオが「うわ」と後ろに身を引いた。


「ぷはっ。疲れた、なんか無意識に息止めてた……」

「うーん、やっぱり難しいんですね。コップが割れない素材で良かったです」


 セイが手を伸ばして転がるコップを掴み、わたしの前にまた置き直す。力尽きて机に突っ伏しているわたしに、ユーリの声が降って来た。


「どうする? やっぱり無理そうか?」

「いや! やるよ。魔法の絨毯チャレンジ……!」

「絨毯は固定なのね」


 だって、わたしだって一回空を飛んでみたいし。わたしはぶんっと顔を上げて叫んだ。


「これから練習するから! 毎日毎朝毎晩、ちゃんと練習するから、ね?」

「ね、って言われても……。まあ、それ以外方法はないしな。頑張るか」

「頑張る」


 ということで、わたしは空の守護者の祠に行くため、『念動力』の練習を始めたのだった。



*******************


 

 翌日、念動力の練習をしたのち、わたしは城下町へと出かけた。もうマツさんが来ていると思ったからだ。 


「下見に来ておいたからサクサクだねー……っと、着いた」


 場所を把握しておいて良かった、すぐ着いたよ。わたしは古いアパートの前で足を止める。外についている階段を上って二階へ。不安なほどギシギシと音を立てた。抜け落ちそう。

 

 わたしはヒヤヒヤしながらも階段を上り切り、二階の部屋のドアをノックした。


「すいませーん。おはようございまーす」


 微かに声が聞こえ、足音がバタバタと近づいてくる。ドアが開けられ、マツさんが顔を出した。


「はい。あ、もしかして」

「彩です。おはようございます。久しぶりの城下町はどんな感じですか?」

「……やっぱり、何かが確実に違いますね。アレのせいだとは思いますが」


 マツさんはそう言って外を眺め、小さく息を吐く。それから思い出したようにまたわたしへと視線を戻した。


「そうだ、彩さん。明日から仕事なので、朝七時から夜の九時まで仕事なんです。なので、申し訳ないのですが、朝に来ていただきたくて……。夜は危ないでしょう?」

「ひぇ、何時間労働ですか……。わかりました、朝に来ます。マツさん、気を付けてくださいね」


 勤務時間も長いし、なにしろ研究所だ。不安な要素ばかり。真っ黒。

 わたしの言葉に、マツさんは微笑んだ。


「はい。ありがとうございます、頑張りますね」


 マツさんと別れ、わたしは図書館に帰るために歩いていた。人に見られないような場所まで移動しないといけないから、そこが大変な所だ。絶対に見られるわけにはいかないし。


 そう考えながら研究所の近くを横切った時、視界の端に何か白いものが映りこんだ。普通にそこを通り過ぎて、それから白いものの正体に気付いて、わたしは慌ててそこへと戻った。


「ちょっ、大丈夫!?」


 白いものの正体、それは、ウサギの耳だった。ウサギの耳が建物の方からぴょこっと伸びている。なんかこの前もこんな光景を見たような、と思いながら、わたしはそのウサギ耳の方へ駆け寄った。


 建物の裏に回ると、そこに倒れていたのはこの前のウサギの女の子だった。ただ、この前着ていたワンピースと違って動きやすそうな恰好をしている。

 

「あの、すいませーん。大丈夫……?」


 また城からの伝達のために来ているんだとしたら、なんでコイツいつもいるんだろうって思われてしまう……それだけは避けたい。

 そんな思いから控えめに呼びかけ、肩を揺すると、女の子は少し呻いて目を開いた。


「う……ん。あれ、私……」

「あ、起きた。大丈夫? 何かあった?」

「あなた、この前の子……?」


 女の子はゆっくりと体を起こし、わたしを見て首を傾げた。わたしは頭を掻いて苦笑いする。


「あは、は。家がちょっと近所にあるから」

「…………あなた、研究所のこと知ってたよね。今から時間、ちょっと空いてるー?」

「えっ」


 わたしは女の子の質問に硬直した。ちょっと空いてる? って、今から怪しい人物として連行されるのか? いやいや、それだったら全力ダッシュして今から逃げないといけないわけで……。


 わたしは慌てて愛想笑いを貼りつけ、答える。


「まだわからないかも……。ところで、体調はもう大丈夫? 倒れてたみたいだけど、仕事の方は問題ない?」

「今日は個人的にここに来てるから、仕事はなんにも関係ないよー。たぶん頭が痛くて倒れちゃったのかな? 最近頭痛が酷くて――」

「たった今予定が空いた」

「えっ?」


 わたしは女の子の手を取って立ち上がらせた。赤みがかった目を見つめて、大きく頷く。


「いいよ。どんな用事でもついていく。わたしもあなたに聞きたいことがあるから」

「え、えぇー……?」


 女の子は突然のわたしの食いつきに困惑している様子ながらも、首を傾げて言った。


「そ、それじゃあ、まずは喫茶店に行こっかー?」

 

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