第二章 28 魔法特訓2
「わからない?」
エドワルドさんの言葉に、わたしは聞き間違いだろうと思ってもう一度尋ねる。
「あの、わたしの適性は……」
「順当に考えれば補助・強化系だ」
エドワルドさんは眉間に皺を寄せながら話す。ナオもわたしを心配そうに見てきた。
「状態異常系だと、自分もその効果を受ける可能性がある。それを考えると、補助は効果を受けても問題がないし、強化なら耐性がない分効きやすいだろう。だから、補助・強化系が合っていると思うんだが……」
おお、なるほど。補助・強化系がわたしに合ってるのか。でも、順当にってどういうことだ。
話を聞いていたセイが、ふむふむと頷く。
「つまり、サポートに回るってことですね」
「そう! そこなんだ!」
「うわっ」
セイの一言に、エドワルドさんが大声を上げた。その声に驚き、セイはツインテールを揺らす。エドワルドさんはセイを見て大きく頷いた。
「そこなんだよ。儂には、この子がサポート系には到底見えないんだ。得意な魔法系統はその人の性格によっても変わるからな」
「あー……なるほどです」
「確かに、サポート系ではないわよね」
「否定できないのが悔しいところ」
ナオとセイが「理解した」と言いたげな目でわたしを見てくる。反論したいけど、自分でもサポート系ではないことはわかるのでその視線を気まずく思いながら受け止めた。
「えーっと、じゃあ、わたしは攻撃系の魔法は使えるんでしょうか?」
「反動がキツイかもしれないが、出来ないことはない。まあ、強化魔法でガンガンに自分を強化して棒で殴るのが一番手っ取り早いんじゃないか」
「わたしをなんだと思ってるんですか」
そこまで戦闘民族じゃないんですけど。棒で殴るって……ついこの間まで女子中学生やってたやつに言うことじゃないし。
少し傷ついたので、わたしはナオにこっそりと聞く。
「わたしって、そんなにこっちに馴染んでる?」
「結構馴染んでるわよ。確かに彩には棒が似合うし。槍とか剣じゃなくて、そこらへんに落ちてる長めの木の枝が」
「わんぱくかよ」
本当に、どんな印象を持たれているんだろうか。別に棒を振り回した記憶はないんだけど。唸ってしまう。しかも、馴染んでるのそっちかよ。
話題を元に戻すため、エドワルドさんが咳ばらいをした。
「まあ、そんなわけでおすすめは強化魔法だ。そこを重点的にやれば伸びるだろう。儂に言えるのはそれくらいだよ」
「はい、わかりました。棒で殴る選択肢も考えておきます」
真面目に答えて、わたしはエドワルドさんから本を受け取った。一応サポート系の魔法が集められた本だけど、やる気があるならセイに貸してもらえということだった。妖精図書館にもあるだろうし、教科書には困らない。
「よし、それぞれの適性もわかったところで」
エドワルドさんは演台の前に立つと、胸を張って高らかに宣言した。
「待ちに待ったであろう、実技練習を始める!」
いえーい、とセイが歓声をあげ、わたしとナオは拍手を送った。
**************************
「『我の肉体に一時の神の力を授けたまえ。フォルターグ』」
何度目だろうか、わたしは身体強化の呪文を唱え、何の変化もないことにため息をついた。
「やっぱ、わたしって才能ないのかな……」
「そんなことないですよ! 大丈夫です、彩先輩ならできます!」
セイはぐっと両こぶしを固めてわたしを激励し、何やらぶつぶつと唱え始める。
「『戦い抜く覚悟を決めた者に、抗う力を与えん』。はい、どうですかっ?」
「どうって……おお」
セイが詠唱を終えた途端、少し元気が出たように感じた。わたしはぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる。
「すごい。なんか元気出た」
「そうです! これは体力回復の魔法なんです。さあ、頑張りましょう。今日の特訓ももうすぐ終わっちゃうんですから!」
「うん、そうだね!」
と言いつつ、励ましに使われた魔法で才能の差を実感するわたしだ。やっぱ、世の中才能だよなあ。そうやって諦めるのが一番手っ取り早くて楽な方法。でも……まあ、できないんですけどね。
わたしは気合いを入れ直し、もう一度呪文を唱える。
「よし。『我の肉体に、一時の神の力を授けたまえ。フォルターグ』!」
…………できない。
肩を落としていると、様子を見て回っていたエドワルドさんが声をかけてきた。よっぽど見かねたらしい。
「まあ、強化系は感覚が掴みづらいから仕方ないのだよ。そう落ち込むことはない」
「セイは出来てましたけど……」
「こういうのは感覚を掴むところから始めるんだ。魔力の変換が簡単な攻撃系の魔法からやってみるか」
ほお、わたしに向いているのは強化魔法だけど、コツを掴みやすいのは攻撃魔法なのか。なんかよくわからないけど、直々に教えてもらえるのはありがたい。
わたしは「はい」と返事をして、エドワルドさんと向かい合った。
「うん、じゃあ炎の魔法を使ってみるか。呪文はわかるか?」
「えーっと……あ、これですね。わかりました」
わたしはセイのところに積んであった本をパラパラとめくり、炎系の魔法を見つけた。なんか難しくて覚えるのに苦労する。横文字がいっぱいあるなあ……。
エドワルドさんは大きくゆっくり頷くと、「やってみなさい」と促してきた。息を吸って、今までよりも気合を入れて唱える。
「『炎火よすべてを焼き尽くせ。インモルター・イグニート』!」
……やっぱり何も起こらない。
風、氷は能力で補えるわけだから、やっぱり炎は使えるようになっておきたい。しかし、現実はそううまくはいかない。本当に、生まれ持った才能の差っていうのは無常だ。両親がすぐれた魔法使いとかだったら、また違うのかなあ。
バッチリ人間の両親に思いを馳せていると、エドワルドさんは自分のひげを撫でながら唸った。
「魔力の波動は感じるから、あと少しだと思うぞ。こういうのは想像が大事だ」
「想像ですね」
能力も同じだから、イメージには慣れてるはずなんだけど。やっぱり風や氷と炎とは違うか。わたしは火が燃え盛るさまを思い浮かべてみる。
エドワルドさんはわたしに白い紙を握らせ、「これを燃やすつもりで」と言った。
「この紙を黒焦げにしてみなさい」
「黒焦げ……。『炎火よすべてを焼き尽くせ。インモルタ―・イグニート』!」
やっぱり何も変化はない。なんかマンツーマンで指導してもらってるのに全然できないか恥ずかしい。ナオやセイは出来てるのに。
しかし、エドワルドさんは何かを感じ取ってくれたらしく、「もうすぐだ」と激励してくれた。
「今、かなり魔力が動いたぞ。もう少し、もう少しで使えるようになる」
「は、はいっ」
「指先に力を込めて。意識を紙、それに触れている指、それらを取り巻く空間に向ける。そして、そこに想像を重ねる」
「はい!」
難しいことを言われているけど、これを出来るようになれば魔法も使えるってことだ。わたしは目を閉じ、意識を集中させる。
紙、指、そしてわたしを包む空間。そこに魔力を放出するようなイメージで、とにかく燃やす!
わたしは目を開いて叫んだ。
「『炎火よすべてを焼き尽くせ。インモルター・イグニート』!!」
その瞬間、確かな手ごたえがあった。いけた、という確信。わたしは、イメージから現実へと視線を引き戻す。
そして、
「おー……?」
わたしが持っていた紙の、左上が少し燃えて黒くなっていた。触れていた部分が熱く、わたしは思わず手を放してしまう。
「あっつ!」
「やりましたね、彩先輩っ!」
それと同時に飛びついてきたのはセイだ。セイはわたしの肩に両手をかけて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「今のちょっとカッコよかったですよ! 目をカッと見開いて、すべてを焼き尽くせーって!」
「ま、その割には威力が残念すぎるけど」
「うるさいっ。これでもわたしにはハッピーなの!」
ナオの一言に噛みつく。正直、今まで使った魔法が転移だけで、しかも突飛な場所に迷い込んじゃったものだから自信がなかったんだよね。いやあ、嬉しい。すごく嬉しい。マッチよりも火力が弱い残念な魔法でも、わたしには嬉しいことなのです。
「良かった良かった。感覚は掴めたか?」
「はい。なんとなくですが」
「それじゃあ、それを忘れぬように。次は……君だな」
エドワルドさんはナオのところへ行き、魔法のコツを教え始める。コツと言っても、ナオはもうすでに魔法をそこそこ使えるから、よりよくするためのポイントだ。
わたしは魔法の練習をしながら、ナオの方もチラチラと見る。ナオはエドワルドさんの話を頷きながら聞いていた。わたしの前では滅多に見せることのない真剣な表情だ。
指導が終わって、いざ実践。ナオは真剣な表情で呪文を唱える。聞く感じ眠りの魔法だけど……あ。待って、ナオとそんなに距離が開いてない。これじゃさっきの二の舞に……!
「――優しい夢へと誘う』」
ナオの静かな声で、わたしもその優しい夢とやらに誘われてしまった。意識が問答無用で引っ張られ、体がふらつく。
倒れる直前、耐性がなさすぎるのは考え物だなと今更ながら思ったのだった。




