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第二章 27 魔法特訓

 昼食を終えたわたし達は、そのまま魔法の特訓に移った。


「それじゃあ、儂についてきなさい。特訓にもってこいの場所がある」


 頼もしいことを言ってくれたエドワルドさんについていくと、案内されたのはいつかの広間だった。足を踏み入れ、ナオとセイと顔を見合わせる。


「ここって……」

「ここは、子供たちを集めて魔法の基礎知識を教える場所だ。最近はあまり使っていなかったが、広い上に魔法にも強い造りになっているから思う存分暴れられるんだよ。どうだ、驚いただろう」


 案内された場所、そこは初めて館に来た時に入った広間だった。


 胸を張るエドワルドさんには申し訳ないけど、実は初めて通された場所がここなのでそこまでの驚きはない。それどころか、魔法界でのゴタゴタはここから始まったと言っても過言ではないこの場所に、少し感慨を覚えているほどだ。セイが「久しぶりに来た気がしますね」としみじみ呟いた。


 エドワルドさんはいつか奥さんが演説していた演台に手をつき、わたし達を見回した。白いひげが先生っぽさを演出している。わたしは思わず姿勢を正した。


「それで、君たちはどこまで魔法のことを知っているんだ?」

「まったく知りません!」

「その元気はとても良いが、状況はよろしくないな! その年で魔法を全く知らないとは……一体君たちはどこから来たんだ」


 その質問には三人揃って笑顔でノーコメント。エドワルドさんも答えは特に求めていないらしく、一人で何かブツブツ呟きながら考え込んでいた。


「何も知らないというなら基礎から……いや、そこの元気な子は魔法の素質があったし……よし」


 エドワルドさんは咳払いをしてから、もう一度わたし達を見た。


「それなら、軽く適正調査をしよう。それぞれ使える魔法の系統が違ったりするから、まずはそれを知ることから始めなければならない。見たところ、三人とも魔力は持っているから魔法を使うことは出来そうだよ。魔法の威力に関しては個人差があるだろうが」


 その威力が魔力量に繋がってくるのかな。とりあえず、それには期待はしない方が良さそうだ。人間でも魔法が使えるってことを喜ばないとね。


「どうしたらその適正はわかるんですか?」

「簡単だ。まずは魔法耐性から調べるとしよう。少し痺れるかもしれんが、これが一番判断しやすいものだから我慢してくれ。『雷よ、この地に――」


 魔法耐性、という言葉を聞いた瞬間から嫌な予感はしていた。そしてその予感は、エドワルドさんが呪文の詠唱を始めた瞬間に確信に変わる。


 これ、普通にやられるんじゃないか?


 能力・魔法耐性がゼロに等しいわたしだ。少し痺れる程度で済むはずがない。やばいやばい、今すぐやめてもらわないと!


「待って――」

「――天を割れ!』」


 声を張り上げるも、時すでに遅し。エドワルドさんの詠唱はあっけなく終わってしまい、絶望に突き落とされるわたし、ハッとして振り向くナオセイ姉妹、不思議そうな顔のエドワルドさん。


 三人の視線がわたしに集まったところで、全身を電流が貫き、視界が真っ暗になった。



「……と、あや。大丈夫よね……?」

 

 冷たい手が額に当たった感触で、わたしは目を覚ました。ナオが心配そうにわたしの顔を覗き込んでいる。ナオはわたしが目を覚ましたのを見てほっとしたのか、ふっと表情を和らげた。


「おはよ……」

「おはよう。セイ、彩が起きたわよ」

「ほんと!?」


 起き抜けには厳しいフルパワーな声。どたどたと騒がしい足音が近づいてきて、体の上に何かが飛び乗って来た。


「ぐふっ」

「良かったです彩先輩……っ。彩先輩、能力にも魔法にもよわよわなんですから……」

「セイ、ちょっと苦しい、どいて」

「あの雷の魔法、本当に弱かったわよ。少しピリッときたくらい。まだ完全に耐性が出来上がっていない小さな子でも、あれで気絶する子なんて滅多にいないとか」

「ダブルで苦しめないで、だからセイ、苦しいって」


 そんな微弱な電気の魔法で気絶してしまうとは……。死ななかっただけ良かったけど、それでも恥ずかしくてエドワルドさんに合わせる顔がない。

 うなだれていると、リンがひょっこりとリュックから顔を出した。


「大丈夫だよ。君の耐性がないのはずっと前からわかっていたことじゃないか。今更落ちこむことじゃない。まあ、普通に治癒の効果で弱っているのもあるとは思うけど」

「え、どういうこと?」


 わたしは起き上がりながらリンを振り返る。リンは眼鏡を押し上げる、いかにも頭が良さそうなしぐさをした。


「治癒だって万能じゃない。あまり治癒ばかり使うと、しばらく弱ってしまうんだ。体力が低下したり、こうして耐性が弱まったりね」

「マジか」


 やられても治癒で復活するゾンビ戦法は使えないらしい。いや、使う気はないんだけど、可能性としての話で。

 まあそりゃマイナス面もありますよね、と納得するわたしの隣で、ナオは何やら眉をつり上げている。


「結構大事なことよね。どうして言ってくれなかったの?」

「ごめん……。なかなかあそこまでの怪我をする場合ってないから、ボクもそういうことが起こるって伝え忘れていたんだよ。正しく使えばまったく危険はないわけだし」

「そんなわたしが乱用したみたいな言い方を」


 心外です。あれは生命の危機だったんです。心の中で弁明する。

 ナオはため息を吐くと、わたしをちらりと見た。


「彩は結構テキトーなところがあるから、ちゃんと気をつけてね。死にかねないわよ」

「わかってます。ね、セイ?」

「はい。今回で痛いほど学ばされましたもんね」


 セイが引き攣った笑みでそう答える。そう、身をもって知ったのだ。

 

 話題を切り替えるために、わたしは毛布を畳みながら聞いた。

 

「エドワルドさんはどこ行ったの?」

「ちょうどいい魔法の本を持ってきてくれるって。ちなみに、私はこの中で一番耐性があったみたいよ。魔法使い全体として見ても、かなり高い方らしいわ」

「あたしは平均レベルです。もちろん、彩先輩よりは格段に良いですけど」

「やっぱり姉妹だね。人をバカにするとき目が輝くところとかそっくり」


 見た目はあんまり似てないけど、こういう時になってこいつら血繋がってるなって感じるんだよね。知ってますよ、わたしは最弱です。


 わたしが姉妹を睨みつけリンに宥められたところで、エドワルドさんが扉を開けて入って来た。リンは光の速さでリュックに逃げ込む。


「待たせてしまったね。これが君たちにおすすめの入門書で……おお、良かった、目が覚めたか」


 エドワルドさんはわたしを見るなり、なんとも言えない表情を浮かべる。同情というか、憐れみというか、少しの笑いというか。ちょっと馬鹿にされていることは確かだなと思った。

 とりあえず愛想笑いで誤魔化す。


「すいません、軟弱なもので」

「はっきり言うが、何十年かけて多くの魔法使いと知り合った儂でも、こんなに魔法耐性がない者とは初めて会ったよ。それと――」


 エドワルドさんは何かを唱えて積み上げられた本を床に下ろす。それからじっとわたしを見つめてきた。


「魔法使いになるなら、ある程度戦いは経験することになる。その時にその耐性だと、一瞬で命を奪われることもあるかもしれない。それでも魔法使いを志すのか?」

「はい。もちろんです」


 即答する。考える必要もない。もう決まっていることだ。必要なことだ。胸を張って答えられる。


「わたしには魔法が必要なんです。わたしのために。それで死んでも自分のためなんだから後悔はないです」


 魔法使いになるわけじゃないけど、魔法は使えるようになっておきたい。欲しい能力が全部手に入れられるとは限らないから。


 きっぱりと答えると、エドワルドさんは笑った。


「わかった。そもそも、考えてみれば儂の魔力のために魔女と……うん?」


 そこまで言って、エドワルドさんは首を傾げる。


「魔法が使えないのなら、どうやって魔女と戦ったんだ?」

「そこは話し合いですよ。すべてのことは結局言葉で解決できるんです!」


 慌てて答えたけど、やっぱり無理がある。首を傾げたままのエドワルドさんに、ナオも慌てて声をかける。


「それで、その本には何が書いてあるんですか?」

「ああ。これは、君たちに適した魔法の本だ。たとえば君」


 エドワルドさんはナオを見て、本を二冊手渡す。


「君の場合、能力耐性があるから、状態異常系が良いと思う。使ってみなければわからないが、おそらくそうだろう」

「状態異常……」


 ナオは本を受け取って、なんとも言えない顔をする。

 わたしはピッタリだと思うよ。ナオ、なんか人を騙すの得意そうだし。なんて口が裂けても言えないけど。

 

 そんなことを考えていると、エドワルドさんは次にセイに向き直った。


「君は、魔力もあるし耐性もそれなりだ。きっといろいろな魔法を使えるだろう。一つと言わず果敢に挑戦した方が良い。この本は全部君のためのものだ」

「なるほど。ありがとうございます!」


 床に積み上げられた本を眺め、セイはぺこりと礼をした。魔法の才能に恵まれているらしく、羨ましい限りだ。セイの目は、いつも以上にキラキラと輝いていた。


 セイに本の説明をした後、エドワルドさんは最後にわたしを見る。その目をまっすぐ見つめて、わたしはエドワルドさんの言葉を待った。

 これまで耐性や魔力量を考慮して適性を見抜いてくれたエドワルドさんだ。わたしには、一体どんなことを言ってくれるのだろう。


 期待して次の言葉を待つ。そして、


「君は……わからない」


 匙を投げられた。


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