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第二章 10 幻惑と一隻眼

前回、文が途中で消えてしまい、とんでもなく不自然なところで話が終わっていました。本当にごめんなさい…。

修正致しましたので、お手数をお掛けしますが前話から読んでください…

 アラスターと名乗った少年は、手で小屋の中を示す。


「こんなところじゃなんだし、中に――」

「入れないよ。アタシは知らない奴を家に入れたくないんだ。怖いったらありゃしない」

「――ごめん、ここでもいいかな? 婆ちゃん俺より強い癖にビビりすぎ。俺の眼を信じてよ」

 

 トントンと自分の右目の横を叩くアラスターに、わたしは「ねえ」と声をかけた。


「さっきから言ってるその『眼』ってなんなの? わたしは視やすいの?」

「ああ。君、能力者だよな?」

「まあ……」

「それなら話してもいっか。俺も能力者なんだよ」


 至って軽い口調でそう話し、アラスターはわたしを指さした。


「俺の能力は『一隻眼』。大まかに言えば、俺にとって害があるかないかを見極められる能力だ。相手の目を見るとなんとなーくそれが分かるっていう」

「え、すごいじゃん」


 そんな能力があったら、今までの旅はだいぶ楽だっただろう。はえーと感嘆するわたしに代わり、セイが首を傾げる。


「疑問が解決できたのはありがたいんですけど、どうしてそんな大切なことをあたしたちに話してくれるんです? あんまり他人に話して良い内容じゃないですよね?」

「あー、確かにそうだね。じゃあ取引ってことにしよう」


 納得したらしいアラスターは、パチンと指を鳴らした。


「俺が今自分の能力について話したから、次は君たちに話してもらう。どう?」

「それ、私達が拒否したらどうするのよ」

「そうだった。そうしたら俺はただ損しただけだね」


 ……本当に、アラスターに『一隻眼』の能力があって良かったと思う。普通は、能力の扱いもあるしそんなに肯定できないけど、この場合は別だ。何の能力もなしに街に出てたら詐欺にしか遭わない気がするよ。

 

 すると、今まで黙ってわたし達のやり取りを聞いていたおばあさんが不気味に笑った。


「そんなことはアタシが許さないよ。人がこの森に足を踏み入れて無事だったことなんて一度もないんだからねえ?」

「んー……まあ、そういうことで。この取引に乗ってくれると助かるよ」


 脅しじゃねえか、と内心で毒づきながらわたしはナオとセイを見た。「どうする」と目で訴えるとナオは「好きにしろ」とでも言いたげに目を閉じ、セイは「お任せします」と言うように笑った。くそ、こういう責任を負う判断は避けていきたいのに。


 わたしはアラスターとおばあさんの方を向くと、小さく頭を下げた。


「彩って言います。よろしく」

「……ってことは!?」

「乗るよ、取引。わたしも聞きたいことあるし、おばあさん怖いし……」

「誰が婆さんだって!?」

「聞こえてた!」


 聞こえないように声を潜めたのに、それでも聞こえていた。幻を操るだけじゃなくて地獄耳とは。恐ろしいおばあさんだ。


 その後、ナオとセイも自己紹介を済ませ、本題に入ることにした。ちなみにおばあさんの名前はルダーラさんで、アラスターのおばあちゃんらしい。


「わたし達の目的は二つあって、一つは魔力泥棒を捜すこと。依頼でここを調べてくるようにって言われたんだけど……」

「魔力泥棒?」

「知らないみたいだね。それならそれで全然構わないんだけど」


 首を傾げるアラスターに、わたしはほっとしたような残念なような気分になる。状況的には早く魔力泥棒を見つけ出さないといけないんだけど、この二人が犯人じゃなくてよかったって安心もあるんだよね。


「魔力泥棒って、具体的には何が起きてるの? まずいことになってるってのはわかったんだけど」

「ベルラーナの有名な魔法使い達の魔力が盗まれてるのよ。そのせいでエドワルドさんも落ち込んじゃって……」

「エドワルド。懐かしい名前だね」


 エドワルドさんの名前を聞いた時、ルダーラさんが不愉快そうに顔を歪めた。


「お知り合いなんですか?」

「知り合いなんかじゃないさ。あいつは昔から変なものを作るんで有名だったんだよ。ほら、そのアンタたちが引きずってるそりもエドワルド産じゃないのかい?」

「おお、当たりです」


 セイが拍手する。なるほど、エドワルドさんは実力者だけど変わり者らしい。まあ、すごい人は個性的だって言うしね。


「じゃあ二つ目はなんなんだ?」

「わたしの個人的なお願いだよ」


 手をぱっと広げると、「『風魔』」と唱えてそよ風を吹かせる。その様子を見たアラスターは目を丸くし、ルダーラさんは眉を上げた。


「それは幻を払った風だね? 普通の魔法じゃ太刀打ちできないはずだったからね、能力だったなら納得だよ。まったく小賢しい真似をする」

「あはは……でも、これわたしの能力じゃないんですよ」


 わたしはひらひらと手を振って軽く否定する。


「わたしの能力は『コピー』。対象の物を写し取る力で、それは他の能力に対しても有効。だから、二人の能力をコピーさせてほしいんだ」


 そう伝えると、流石のアラスターでも少し戸惑ったようだった。ルダーラさんとわたしを交互に見た後、「どうして?」と聞いてくる。


「そんなに強くなりたいの? 彩の――」

「胡散臭いねえ」


 ずいと顔を近づけて唸ったのはルダーラさんだ。ぎろりとわたしを一睨みし、アラスターに聞く。


「アタシの目じゃあわからないね。どうなんだい、コイツが言ってることは?」

「……害はない。でも、この能力を彩に渡して良いのかわからないよ」


 アラスターは力なく首を振ると、もう一度わたしを見た。


「どうして彩は能力を求めるんだ? 何かそれ相応の理由があるんだろ?」

「それは――」

「――それについてはボクが説明しよう」


 わたしを遮って前に進み出たのは、リュックの中に隠れていたリンだ。ふわふわと浮いているその姿を見て、アラスターはもちろんルダーラさんも驚いた様子だ。


「妖精……やっぱりいたんだ」

「うん。君は能力でボクの存在を知ったのかな。いやー、正直驚いたよ。隠れていたのにすぐにばれてしまったからね」


 リンは困ったように頬をかき、驚いたままの二人をみつめる。


「妖精のボクがこの子たちと一緒にいる理由は、ボクの口から話すよ。手短に話すつもりだから、少し我慢してね」


 思わぬ助け舟を出してくれたリンに、ナオが「いいの?」と囁く。アラスターもルダーラさんも悪い人じゃないってのはわかってるけど、それでも少し不安だ。リンは自信ありげに微笑んで「大丈夫」と答えた。

 それからリンは、獣人界の現状をかいつまんで話した。わたしが人間だとか、クロスが絡んでいるかもしれないだとかは伏せていたけれど、それ以外は大体だ。


「そっか、そんなことがあったのか……」


 アラスターは何度も頷く。でも、まだわたしに自分の能力を貸すのかは迷っているようだ。

 強制はできないからな、と内心で諦めた時、


「それじゃ、アタシの能力を使ってみるかい?」

「……え?」


 意外にも、反応したのはルダーラさんの方だった。わたしの方へ歩み寄ってきて、不敵な笑みを浮かべる。


「どうやったら、こぴぃとやらを出来るんだい?」

「ああ……えっと、まず使い方を教えてもらえれば」

「婆ちゃん、本当に彩に教えるの?」


 アラスターは不安そうにルダーラさんに尋ねた。ナオもルダーラさんの態度に困惑しているようで、わたしの隣に一歩進み出た。


「勿論だよ。アタシは一度決めたことは曲げない主義なんだ。そんなことお前なら知ってるだろう?]

[知ってるけど……」

「それなら口を出すんじゃない」


 ぴしゃりと強い口調で言い切られ、アラスターは口をつぐんだ。どことなく気まずい空気が漂い、わたしも少し俯く。すると、


「アンタはどうなんだい。そんなウジウジした態度取ってるなら協力しないよ!」

「っ、はい。お願いします」


 喝を入れられ、わたしは顔を上げる。周りの人たちは全員口を閉じ、わたし達の成り行きを見守っている。

 ルダーラさんは大きく息をつくと、口角を上げて意地悪そうな笑みを作った。


「アタシがアンタに協力しようと思ったのはね、あの幻をちゃんとは突破できていないからだよ」


 ギリギリわたしに聞こえるような小さな声で、ルダーラさんは言う。

 あの幻。若菜ちゃんのこと。


「まだあの幻に向き合えていないアンタに、どこまで出来るかね? それを見るために協力するんだ。果たして、アンタのみたいなウジウジ娘に獣人界を救えるか……見物だよ」


 なるほど。これは、ルダーラさんからの試練なんだ。わたしが自分の能力をコピーさせるに値するのか、確かめるための試練。


「お願いします、ルダーラさん」


 わたしはそう頭を下げた。

 

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