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第一章 23 竜の住処へ

昨日は更新できず申し訳ありませんでした!

この埋め合わせは近々……

 それから、わたしはひたすらナオについていった。それこそ本当に死に物狂いで。なぜなら――。


「彩、遅いわよ」

「はあ、はあ……ナオが速すぎるんだっつーの。なに、前世はサルか?」

「憎まれ口叩けるならまだ元気ね。ほら、早く上ってきなさい」


 直角に切り立った断崖。そこに絡まった蔦に掴まって、わたしはその断崖をよじ上っていた。ボルタリングとかやったこともなかったのに、それをさらに上回る難易度。

 驚異的なスピードで難なく絶壁を上り切ったナオの鬼のような声が上から降ってくる。正直、ここまで上ってきて手がボロボロだ。岩肌で擦り剥け、蔦の棘が刺さり、血が出ている。


「はあ……っ。わかってるよ!」


 それでも歯を食いしばって、村でのあの楽しい時間を思い出しながら腕を伸ばした。


 それからしばらく経って、わたしはようやく崖を上り切ることができた。


「上り切ったよ……。それで、次は?」


 息を切らしながらナオを見上げると、ナオは大きく頷いた。


「もちろんあるわよ。ほら、ついてきて」


 

 ~ここからはダイジェストでお送りします~


「ここの斜面。角度が急だから、出来るなら木を利用して動けるといいけど」

「木を利用してってなんですか!」

「黙ってついてきなさい」



「じゃあ、この川を向こう岸まで泳いで渡って」

「冷たっ!? 待って、ちょ、置いてかないで!」


 

「今度はこの洞穴に潜って進んでいくわよ」

「狭いなあ、暗いなあ、って蜘蛛ぉ!」



 そうこうしながらもわたしはナオについていった。体力テスト九十人中五十二位がよく健闘したと褒めてもらいたいくらいだよ。とにかくナオの身体能力が驚異的だった。


「はあ、はあ……。それで、次は、どんな関門が?」


 満身創痍。膝に手をついて息を切らしながらもナオを見上げると、ナオは驚いたようにわたしを見ていた。


「泣き言言いながらもなんだかんだついてきたわね。すごいすごい」

「まあ、ね。わたし、愚痴ってないと、動けないタイプ、だから」


 無言で勤しむことが出来ない人間だ。ようやく息が整ってきて上体を起こすと、ナオがしゃがみ込んで地面をみつめていた。


「ナオ?」

「やる気を出してくれたところ悪いけど、近道を通って来たからもうすぐよ。確か……そこの岩をどけたら上に続く階段があったはず」


 ナオは先の尖った石を弄びながら崖の方へ目をやる。二メートルくらいはありそうな巨大な岩がそこにどしんと構えている。ナオの話だとあれをどかさないといけないらしいけど……え、これできる?


「あれどうやってどかすの? わたし非力だしナオもそんなほっそい腕で……いや、今までのナオの身体能力を考えるとそれも不可能じゃない? ホントになんなの異世界人」

「不可能よ。さっきからサルだのカバだのモグラだのゴリラだの好き勝手言って」

「サルしか心当たりないんですけど」


 被害妄想が過ぎますよナオさん……。


「それで、ナオがか弱い女の子ならどうやって岩をどかすの。言っておくけどわたしも戦力外だからね」


 岩に歩み寄ってその岩肌をゴンゴンと叩いていると、ナオが少し後ろから声をかけてきた。


「少し下がってなさい。そこにいると危ないわよ」


 強めの口調で言われたら、まあ従うしかない。後ろに下がってナオの隣に並ぶ。


「彩の能力だけ知っておいて、私だけ隠すなんてバカな話よね。今から私の能力を見せるから、彩はそこで見てて」

「ん、わかった。使えそうだったら『コピー』させてほしいんだけど」

「おすすめしないわよ」


 短く答えると、ナオは今までずっと石を握っていた右手を振り上げた。勢いをつけ、思い切り自分の手首に叩きつける。

 

「……は?」


 尖った石がナオの皮膚を切り裂き、つうっと血がナオの手首を伝い落ちた。わたしは反射的にナオの手首を掴む。


「何してんの!? ちょ、治――」

「やめて。これが私の能力の発動条件なんだから」


 ナオは少し顔を歪めながらもわたしの手を振り払った。唖然とするわたしに、ナオは「いいから見てて」と聞き分けのない子供を叱りつけるように厳しく言い放って。


 その目が岩を捉えたその瞬間だった。


 ビシッと音を立てて、岩に亀裂が走った。

 ひび割れた岩はもうそのままの姿を保つことが出来なくなり、崩壊する。岩が崩れたことによって、その背後に隠れていた穴が姿を見せた。

 

 ――これが、ナオの能力。


「自分が受けた痛みを衝撃に変換して対象に与える。実際そんな上手くはいかないし能力の使用範囲も定めにくいから、反撃専用の能力みたいなものよ」


 難なくあんな固い岩を割ったというのに、ナオは涼しい顔で説明する。

 自分が受けたダメージを相手に跳ね返す、カウンター、ってこと?


「反射みたいな……?」

「似てるようで似てないわね。誰かに自分の能力を説明するのなんて初めてだし……あんたとリンの能力が単純なだけで、能力ってうまく言葉で言い表せないものが多いのよ」


 そういえば、初めてナオに会った時、ナオは木の枝を切り刻みながら走っていた。あの状態で結構ボロボロだったから、相当な威力が出ていたと考えると……。強い能力、とは言えるだろうけども。

 自分が攻撃を受けること前提の能力。さっき躊躇いもなく自分を傷つけたナオを思い返すと、能力がナオを歪めているようにも思える。

 リンが言ってた通り。本当に、能力って千差万別だ。


 当の本人のナオは、砕けた岩の残骸を蹴って地面を整えている。やがて満足げに口角を上げ、それから訝し気にわたしを見た。


「言いたいことあるのはわかるけど、それは道中で聞くから。とにかく早くこっち来て」

「はい、わかりました」


 わたしは呼吸一つで意識を切り替え、ナオの元へと走っていった。



 山の斜面をくりぬいたように作ってある階段を上る。わたしはなるべく足音をたてないようにナオの後に続きながら、わたしは声をひそめて聞いた。


「ここ、やけに整備されてない?」


 そもそも竜の住処に向かって階段が続いているっていうのもわけがわからない。岩でこの階段が隠してあったのも、確実に人の手と意思があってのことだろうし。

 わたしの問いに、ナオは顎に手を当てた。


「彩がどこまで知ってるかわからないけど……。クロスのことは知ってるわよね。クロスは空の守護者を滅ぼし、この世界を脅かしている存在。だけど、そんな存在を信仰するような輩もいる。まあ、その人たちが本当の竜の眷属よ。あ、ちょうどいい」


 ちょうど階段を上り切ったところ。そこに台座があり、その上に果実が供えられていた。


「こういうのとか供えに来るのよね。あんな下っ端の竜なんて何も食べなくてもいいのに。馬鹿な奴ら」


 そういうナオの横顔はどこか寂し気だ。わたしは「竜の眷属」のことを考えて呟く。


「そんな人たちがいるって話は認めるけどさ、なんで信仰しちゃうんだろうね」


 永遠に理解できないであろうその思想。わけがわからない。そういう奴等がいるから、何もしていない能力者が被害を被るんだ。捻じ曲げられたこの世界の常識に嫌気がさす。


「ま、そんなことは今どうだっていいか」


 わたしは頬を叩き、前を向いた。

 そんなくだらないこと後でだっていい。今はタケが最優先だ。


「覚悟はいい?」

「もちろん」


 今まで頼りにしてきたリンはいないけど、今はナオがいる。一人じゃない。一人でどうにかするんじゃなくて、隣の誰かの力を借りればいい。


「ナオ、行こう!」


 竜の住処へ、わたしは足を踏み入れた。



*********************


 中に入ると、竜が翼を畳んで眠っていた。赤色の鱗を持った竜だ。その巨体を睨みつつ、巣穴の様子を窺う。

 竜が眠っている今は余裕があるように見えるけど、暴れられたらひとたまりもないくらいの広さ。眠っていたことに感謝する。

 

「彩」


 声をひそめてナオがある方向を指さす。見覚えのある茶色の丸っこい尻尾。タケがそこで倒れていた。


「タケ!」


 幸運なことにタケとそう距離は離れておらず、わたしは転げるようにタケに駆け寄った。

 タケは目を閉じてはいるものの、体が一定のリズムで上下している。気絶しているだけみたいで、目立つ怪我もなさそうだ。


「っ、よかった……」


 安堵があふれてきて、わたしはタケの手を握りながら絞り出すように呟いた。

 よかった、よかった、よかった。本当によかった。これからあの村に、タケの姿がなくなるなんて信じたくなかったから。タケのいないあの村は、想像もつかなかったから。


「怪我、何もしてないみたいね」

 

 ナオがわたしの隣にかがんでタケを覗き込む。


「竜も眠ってるし、撤退するなら今よ。どうする?」

「タケを連れて帰る。決まってるよ」


 竜をこのまま放置するのもダメだとは思うけど、まずはタケの身の安全だ。こいつはとりあえず後回し。


「おーい、タケ。起きろー」


 わたしがそうタケを揺さぶったそのとき。


 ――嫌な予感がした。


 たかが勘、でも背筋に感じた寒気は紛れもなく本物で。


「逃げて!」 


 直後、火炎がわたし達のいた場所を焼き払った。灼熱に、辺りの気温がぐんと上がった気がする。息が吸いづらくなって、わたしは口を手で覆った。

 

 わたしはタケを抱え、少し横に飛びのいていた。ナオもわたしのわけわからない指示に反応し、その場から離れている。


「目、覚めちゃったかあ……」


 最悪のタイミングだ。あと少し反応が遅れていたら一瞬で灰になっていたことだろう。あの状況で反応できた自分を褒めてやりたい気分だ。

 

 竜は昼寝を邪魔されたからか、さっきよりも覇気を纏わせてうなっている。わたしは壁に出来ていたくぼみにタケを寝かせ、竜に向き直った。


「作戦変更」







 

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