第一章 20 みんなと仲良くなろう!
そんなわけでちょうどいい依頼を受けたわたし達は、それから毎日その村――ポンポーコ村に通うようになった。
「じゃあボクは妖精図書館に戻ってるから、いつもの時間になったら迎えに来るね」
「うん。いってきまーす」
送迎はリン。わたし達は村から離れたところから歩いて村に行っている。もちろん怪しまれないためだ。
「おはようごさいまーぐわっ!?」
村に入った瞬間食らわされるパンチ。わたしがお腹を押さえながら前を見ると、案の定、楽しそうに笑っている、タケ率いる悪ガキグループがいた。
「朝っぱらからお前ら飽きないなあ! わたしの方が体が追いつかないんですけど!?」
こんな人前じゃ『治癒』も使えないしさあ! 大声を張り上げるわたしに、悪ガキどもは顔を見合わせて。
「隙だらけの彩が悪いんだぞ」
「彩弱いからな」
「そのとーり!」
「ほんっとお前ら許さん。今日こそ返り討ちにしてやるっていだだだだだ!!」
二人がかりで腕を締め上げられわたしは即音を上げる。二人で来るのはやめろぉぉお!
「ねえナオちゃん、今日はお花のかんむり作ろう?」
「いいわよ。えーっと、それってどうやって作るんだった?」
「ナオちゃん知らないのー? いいよ、一緒に教えてあげる!」
悪ガキどもと五対一で戦うわたしとは対照的に、ナオは女の子たちに囲まれて和やかな雰囲気だ。
「なんなのこの格差! 認められないっ!」
勢い任せにタケともう一人のミトを振り払い、わたしは叫んだ。恐らくは村中に聞こえているであろう大声。初日は何事かと家から顔をのぞかせていた村人たちも、今や何の反応も示さないほどにわたしの存在は馴染んでしまっている。
「なーんでわたしだけ狙うかな! ナオに行けばいいじゃん! わたしだけって不平等だよ!」
女の子たちと花冠を作っているナオを指さして抗議する。
「えー、だってさ……」
すると、隅の方の花壇で花を編んでいたナオがふと顔を上げた。立ち上がって女の子たちに一言二言伝えた後、こっちへ静かに歩いてくる。そして。
ゴツン!
「人を指ささない」
「はいっ、ごめんなさいお母さんー!」
「誰がお母さんよ」
ナオのゲンコツを食らい、わたしは頭を押さえながら謝った。ツッコミを入れたナオは呆れたように手をぶらぶらと振っている。その様子を見ていたタケグループは「ほらな!」と歓声を上げ、
「ナオはオレ達の味方だからな! オレ達が戦うのは敵だけだ!」
「なんでわたしが敵なの」
「え、だってタケと会った時に言ってたんだろ?」
モリが両手を広げ、クックックと不気味に笑う。それは覚えのあるポーズだった。嫌な予感がするなか、モリはそのセリフを口にする。
「クックック……。わたしに勝てるかな、タケ少年? これ、ぜってー敵が言うやつじゃんか」
「やっぱりそう来たかっ」
軽々しく初対面の子に悪役ポーズを見せたのが悪かった! それに全然ウケなかったし……。
「ってかタケ、その時かわいそうなヤツは倒さないって言ってたよね!? わたしかわいそうです! だから倒さないで!」
「あんたはそれでいいわけ……?」
ナオが眉をひそめ、「じゃあね」と女の子たちの方へ戻っていってしまう。孤立無援。わたしはしばらくナオの後ろ姿を眺めていたけど、やがて「ねえ」と口を開いた。
「正直に答えてよ。ナオに攻撃しない理由ってさ……ナオが恐いからってのもあるよね」
「…………」
途端に騒がしかった子供たちが水を打ったように静かになり、しばらくしてからタケが答えた。
「だって、あいつ強そうなんだもん」
わたしは初めて心の底から同意した。
わたし達も、ずっと子供たちの相手をしているわけじゃない。子供がどこかへ行ってしまったりした時は、村の外をぶらぶらしたり村人と話したりしている。
「あー、彩ちゃん。今日も遊ばれてたねー」
ちょうど子供たちから解放され疲れた肩をぐるぐると回していた時、気さくに声をかけられた。見れば、洗濯物を取り込んでいた奥様が口に手を当てて笑っている。この穏やかな奥様があのミトのお母さんなんだから驚きだ。タケのところはお母さんとそっくりだし、親子は似る似ないがあるんだなとしみじみ思う。
「はい、まあ。ミトくんホントに元気ですねー……。あの子が一番体力あると思いますよ」
わたしの評価は、
タケ…力が強い。
ミト…体力がある。
モリ…頭がいい。
ロク…いつも笑ってる。
みたいな感じだ。ロクの存在感のなさは異常である。
「そうなのよ。家でも暴れてるから困ったものだわ。でも、彩ちゃんが相手してくれてあの子も楽しいって」
「そうですか……。でも、わたしも楽しいですよ。今まであんまり歳が離れた子と遊ぶ機会なかったから」
「そう? それなら、ミトにもっと遊んでもらいなさいねって伝えなきゃ」
「や、それはご勘弁を……」
「ふふ、冗談よ」
頭を下げてミトママと別れ、わたしはまたぶらぶらと村を歩く。
「彩、間抜けな顔してどうしたの。まるっきり不審者よ」
「ナオ」
ナオが辛辣に声をかけてきて、わたしもそれに応じる。ナオの手には花かんむりがあった。
「それつけないの? ナオ似合うと思うんだけど。花の妖精よウフフーみたいな」
「馬鹿にしてるでしょ……。つけないわよ。そもそもフード外せないんだし」
「そっか」
ナオの放り投げるような口調に、小さく頷く。するとまた、
「あー、彩ちゃんナオちゃんこっち来な!」
元気な声が村中に響き、それだけの声量の持ち主にすぐ見当がつく。
「ウメさん」
タケ母ちゃん、本名ウメさん。日本語チックなのはわたしの異世界語翻訳ブレインのせいだろうか。
ウメさんは店の中から顔を出し、わたし達に向かって手招きしている。
わたし達が店まで行くと、ウメさんはメジャーをビヨビヨさせながらこっちへ歩み寄って来た。
「アンタたち服の大きさはどれくらい? 全っ然見当がつかなくてさ」
「サイズ……Sくらいです」
「エス? なんだいそれ」
結局採寸してもらい、わたしは首を傾げた。
「それで、どうして採寸を?」
「何ってアンタ、記録しておくために決まってるわ。もし何かの拍子にいろんな人たちがこの村になだれ込んで来たらどうするの! アタシ何もサンプルが作れないでしょ!」
なるほど。わたしはウメさんの商売根性に感心する。
ウメさんは村で唯一の仕立て屋をしている。普通の服も売ってはいるものの、こんなド田舎じゃ選べる服が少ない。だから、欲しい服を注文を受けて作るのが主な仕事だそうだ。オーダーメイドってやつだね。儲かってるみたいだ。
「じゃあ、私達はお役に立てましたか?」
「もちろん! ちゃーんとここに記録しておくよ」
ウメさんが得意げにボロボロの手帳を叩く。きっと顧客情報がぎっしりと書きこまれていることだろう。わたし達はウメさんに手を振って別れた。
二人並んで村の様子を見、何か異常がないか確認。こうして普通の生活を送っているけど、それでも不安を抱えているのは変わりない。何かあった場合すぐに知らせられるように警戒を怠ってはいけないよ、というのはリンの忠告だ。肝に銘じている。
何も異変がないことを確認していると、さらに背後から声がかかった。
「へえ、お前さんらが最近村を賑わせとる旅人じゃな?」
まだ元気そうなおじいさんだ。今度は見知らぬ人。わたしとナオは「こんにちは」と挨拶する。おじいさんの目は鋭く、なんだか背筋が伸びてしまう。
「あ、の」
「まだ随分と若いなあ。その年で依頼報酬で生活とは大変だろうが……頑張りなさい」
しかし、すぐにおじいさんはその目を細め、友好的に続けた。わたしは発しかけた言葉の代わりに「え」と呟く。
「儂が怪しんでると思ったか? いやそれは悪かった。何せ昔から目つきが鋭いと言われとってな。子供にもよく泣かれたものじゃ。ただ――」
「あ、じいちゃーん!」
そこでタケの声が聞こえた。振り向けば、タケグループが遠くからこっちに向かって手を振っている。おじいさんもそれに手を振り返しながら、「こんなふうに」と続けた。
「子供には核を見抜く目が備わっておる。その子供たちに懐かれとるお前さんらを疑う気はないよ。他の村人たちとも仲が良いようだしな。その被り物だけはなんとも言えんが」
「ああ……すいません」
「いいわいいわ。そんなことを気にする小さい男にはなりたかないでな」
ガッハッハと豪快に笑いながら、おじいさんは去っていく。その後ろ姿を黙ってみつめていたけど、やがてナオが静かに呟いた。
「私達、なんだかんだあの子たちに支えられてるのよね」
「うん、だね」
正直、わたし達がこうして村に馴染めているのはタケ家族をはじめ子供たちのおかげだ。タケ母ちゃんは村の中心人物で、話しているだけで信頼度が上がっていくように感じた。それに、さっきみたいに子供たちに懐かれているからという理由で声をかけてくれる人も多い。本当に……とんだ悪ガキだけど、感謝してるんだよ。
わたしはフードを被りなおす。人間である素顔を隠すための、カチューシャもフードも。いつか外せる時が来たらいいな、と心の底から思う。願わくばそれが早く訪れますように、とも。欺き続けるままここの人たちと関わるのは、少し心が痛みすぎる。
ナオも手の中の花冠を強く握りしめていた。
ちなみにタケ父の名前はマツです。松竹梅。
ネーミングセンスが壊滅的ですが、大目に見て頂きたく……頑張ります




